コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

護星のオリヴィエ

「セルジュ?」
 はっきりと聞き取った名前を、カーティアと呼ばれた白い少女は口にする。その顔に、感情らしいものの色は見えなかった。
「ヴァナルガンド、被験体E-7を発見した。……様子から見るに、精神的に危いところらしい」
 そんなカーティアのことは気にも留めず、セルジュは上司へと無線のコールをよこす。すぐさま応答した相手は、呆れ気味の溜息を洩らした。
《ま、フォルテの連中にとっ捕まった可憐で幼気な少女だからねぇ。全く、どんな実験されたのやら》
 胸糞悪い、と今にも吐き捨てそうな上司の言葉に、セルジュは人知れず苦笑する。彼の上司は、傭兵というグレーゾーンに片足を突っ込んんだ家業をやっているにもかかわらず、こういった非人道的なことを許さない、不思議な性格の人間なのだ。
 ひょっとすると、今回の依頼はその上司が「こんなことするなんてふてぇ野郎だ」と憤った結果、自分ででっち上げたものかもしれない。ありえそうな予測に内心で苦笑を浮かべつつ、セルジュは目の前で小首をかしげるカーティアに語り掛けた。
「カーティア・シュトロハイム。いきなりだが、俺はお前をここから連れ出さなければいけない」
 セルジュの言葉に一瞬だけ顔を上げたカーティアだったが、しかしすぐに伸びきった白髪で瞳が伏せられる。セルジュからは見えなかったが、その顔はひどく陰鬱気な印象を抱かせるものだった。
「……私は出られない。もうここ以外に行く場所も、居られる場所もないから」
 ごく簡潔にまとめられた言葉に秘められたかすかな闇を――自分が抱えるものとよく似た闇を、セルジュは敏感に感じ取った。
「だったら、お前はここで永遠に操り人形になるのがお望みなのか?」
 セルジュの問いかけに、少女は力なく首を横に振る。いまだにその表情に差した影が晴れてはいないが、しかしその瞳には確たる意思が宿っていた。
「……もう、死にたくない。」
「なら、俺と一緒に来い。お前の居場所も、これからも、俺ならなんとかできる。……何より、お前をここから連れ出すのが、俺が受けた任務だからな」
 そう告げた青年の顔を、はじかれたように振り上げられたカーティアの持つ眼が――生気もわずかだったワインレッドの双眸が貫く。
 幾ばくかの後、耳にした言葉を信じられなさそうに、カーティアは好き放題に伸び、ろくに手入れもされていない新雪色の髪を揺らしながら小首をかしげた。
「出る? ここ、から?」
「ああ、そうだ。……悪いけど、お前の意思は関係ない。穏便に済ませられるならそれが一番だが……最悪、縛りあげてでもお前を連れていく」
 最後の単語に、びくりと華奢な体が竦み、わずかに後ずさる。悪手だったと悟ったセルジュは、即座に言い回しを穏やかなものへと置き換える。
「まぁ、それはお前がここに居たい、といった時の話だ。……お前に家族がいたことは知っている。もう一度、彼らに会いたくないか?」
 怯えた表情を見せていたカーティアの顔が、今度は驚きに染まる。ただ、どうも驚きのベクトルが想定とは違い、困惑の色を多分に含んでいたことをセルジュは感じ取った。
「……だ」
「ん?」
「やだ。会いたくない」
 明確な否定の言葉を聞き取り、セルジュは密かに驚く。
「帰っても、私は必要ない。……私はここに居ればいいの。私はみんなには必要ないから」
 次いで口走った理由を聞いて、彼は内心で納得した。ヴァナルガンドからよこされた情報の中には、彼女がこの施設に来るまでの簡単な経緯も在ったからであり、その情報と彼女自身の理由を照らし合せれば、十分に合点を得るに足る内容となったからである。
「……10歳の時、村の人々が見ている前で、家族にさえ何も言ってもらえないまま、ここに連れてこられたそうだな」
「っ……」
 セルジュの言葉に、カーティアが再び身をすくめる。
「そうして心身ともに、お前は拷問を受けた。新しい能力の実験のために」
「やめ、て」
「殺されそうになったんだな。何度も何度も、何十回も何百回も。いっそ死ねばいいと考えるくらいに」
「やめて……」
「誰にも人として扱ってもらえないまま、お前は今この瞬間まで、実験を受けるためのモノとして生き続けていたんだよな?」
「やめてッ!!」
 情報として知った彼女の歩みを、ただ機械のように冷徹に読み上げるセルジュ。その声は、半ば金切り声になった叫びで中断された。
「違うっ、私はモノじゃない! 私は生きてる!」
 そのまま、まるで野獣が吼えるかのごとき剣幕で声を荒げたかと思うと、カーティアはふらつきながらも立ち上がり、セルジュめがけて突進してくる。
 どしん、と弱弱しい衝撃を受けたセルジュにしがみつきながら、カーティアは怒りとも怯えとも、悲しみともつかない光を宿した瞳で、頭一つ高いセルジュの顔をにらみつけた。
「私だって、やだ! ――もう、二度と死にたくない!!」
 怒りを表していた顔は、次の瞬間にはくしゃりとゆがめられ、次々に大粒の涙を流し始める。
「……やだ……ここから出たい…………もう、死にたくないよぉ……」
 嗚咽をこらえながらも振り絞った言葉は確かに、彼女が抱える素直な感情の一片だった。それを確認して、セルジュは小さく顔をしかめた後、やや遠慮気味に少女の頭に手を置く。
 ぼさぼさの髪は枝毛も目立ち、女性の身だしなみという物には無縁のセルジュにも、相当髪質が傷んでいることは理解できた。
「――なら、俺とこい」
 そのまま、ぶっきらぼうにわしわしと頭を撫でつつ、静かな諭すような声音で声音でセルジュがつぶやく。
「家族に会う、って言うのは、あくまで将来の一つだ。……お前が望むのなら、持てる物すべてを駆使できるのなら、お前にはもっとたくさんの路がある。……そうだろう、べリル?」
 言いつつ、セルジュは耳に取り付けていた小型無線の出力口を周囲全体に向けて設定した。直後、タイミングを見計らったかのように、べリル――先ほどまでヴァナルガンドと呼ばれていた、青年の声が響き渡る。
《働き口を探してやるのは俺かよ、ったく。……まーそういうことさ、不死身のお姫サマ。それに、そこのセルジュお兄さんは君を誘拐しにやってきたんだ。どのみち君に、そこから出る以外の道は無いってこった》
「人聞きの悪い言い回しを言うな、顔面犯罪者」
《誰がロリコンだぉオン!?》
「誰も言ってない」
 そのあとも喚くべリルの声が聞こえないように無線をいつもの設定へと戻した後、頭を掻きながらセルジュが口を開いた。
「……言い回しはあれだが、あながち間違ってはいない。さっきも言ったように、俺は君をここから連れ出しに来た。強硬手段は、あくまでも君が外に出たがらない場合だけど……」
 探るような声音でつぶやかれた言葉に、カーティアは一瞬だけ躊躇の表情を見せる。しかし次の瞬間には、ぐっと唇を真一文字に引き結んだ、幼くも凛々しさを見せる顔つきに代わっていた。
「……セルジュに、付いていく。もう、利用されるだけの人生は嫌」
「そう来ないとな」
 そのまま、肯定の言葉と共にセルジュにしがみついたカーティアを見て、任務の成功を確認したセルジュが不敵な笑みを見せる。すぐさま静かにカーティアを引き離し、通路外の様子を伺いながら、口元は無線のマイクへと声をかける。
「こちらセルジュ、ターゲットの確保完了。これより帰投する」
《りょーかい。迎えの小型艇はポイントG-66、外れの飛行場に降ろすから、あとは適当に頼むわ》
「了解。オーバー
 通信網から場所の逆探知などをされないよう、無線の電源を切った後、振り返ったセルジュはカーティアに向けて手を伸ばす。


「来い、カーティア!」
「――うんっ」
 差し出された青年の手を、少女の生白く、折れそうなほどにか弱い手が、自由への渇望を体現するかのように、しっかりと握りしめた。


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というわけでお久しぶりですー、たった一話更新するだけに半年も費やす体たらくをやらかすことに定評のあるコネクトですー。
っていうかそもそも、最近のコネクトさんが創作しなさすぎなのが原因ではあるんですけどね……。


今回のオリヴィエは、カーティアを連れ出すまでの一連のお話です。最近は小説を描いてないせいか少々腕がなまっておりまして、たった三千文字強の本話を書くのにもドエライ苦労しました。
どうも昔の記憶を頼りにして書いているせいか、ところどころの人物の動きが色あせてしまっておりまして、それが結果的に亀以下の更新速度を招いてしまったのですが……。


次回はセルジュ、カーティアの脱出劇と、今後オリヴィエを通しての宿敵となるキャラクターが初お目見えとなります。
また機会があったらラムダみたいにイラスト描かないとな……もう5年近く描いてないからな……w
と言うわけで今回はここまで。
また会いませう― ノシ