コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

Blue Bright Blade―蒼の煌刃―

「はあぁぁぁッ!!」
 快晴の元。
 魔動機の残骸が転がり、露出していたはずの草地の大部分が埋められた草原の一角で、デルタは一人戦っていた。
 旅路を共にしているレイとナギトは今、傍にいない。数えることが億劫になるほどの大量の機械兵が投入された結果、気づかないうちに分断されたのだ。
「ぐッ……邪魔だぁっ!」
 咆哮を切っ先に乗せて、デルタが握るキュアノエイデスが中空に蒼い軌跡を描く。鉄の塊であろうと難なく切り裂くその切れ味は、衝撃に弱い機械兵にも十二分に通用した。塊となってとびかかってきた機械兵たちが、一瞬にして真っ二つの屑鉄に変わる。
「はあ、はあ、これで、何体目だ……っ?」
 全身に張り詰める緊張の糸を緩めることなく、デルタはキュアノエイデスを構え直した。その周囲に展開しているのは、どれもこれもが無個性で、無味乾燥な灰色の肌を持った、隊列を乱すことを知らない機械兵の軍団。
額の汗を袖で拭い取り、再び掌中で煌めくキュアノエイデスの切っ先を振るう。息つく間もなく襲い来る機械兵たちは、蹴散らすことこそ容易いものだったが、底のしれないその物量は、精神を摩耗させるのに十分すぎた。
「ぐっ!」
 集中の糸が切れたデルタの身体を、機械兵の腕から発振された魔力の刃が浅く傷つける。冷や汗を頬に一筋浮かべながら、慌てて後退したデルタへと、逃げるエサを逃すまいとする獣の如く、無数の機械兵が群がってきた。
「この――ッ!!」
 そうして中空に躍り出た機械の体躯が見せた隙に、デルタは迷いなくキュアノエイデスを叩き込む。刃はしなやかに蒼い軌跡を描いた直後、無数の機械兵を一太刀の元に両断。そのすべてを魔力反応の爆発へと変じさせた。
 そしてその爆発に乗じて、デルタは後方へと素早く離脱する。倒せど倒せど無尽蔵に湧き出てくる機械の軍勢は、一介の少年を疲労させてなお有り余る物量だったのだ。
 このまま戦い続けるだけでは、勝機を見出すことはできない。ゆえにデルタは体制の立て直しを図るため、戦略的撤退を図ることにしたのだった。


***


「よ、っとぉ……コイツで全部か!」
「そのようだ。もう展開用の魔術方陣も、周囲には見えない」
 同じころ。絶え間ない機械兵たちの濁流に押され、付近にあった雑木林付近まで後退を余儀なくされたレイとナギトは、しかし攻勢を緩めた機械兵たちをすぐさま薙ぎ倒し、ものの十数分ほどでそのすべてをただの鉄くずへと変じさせていた。
 分離させた鎌をホルスターに仕舞い直してから、ナギトはしかし乱雑に後頭部を掻く。
「クソ、やべぇとは思ったけど、まさかデルタが単独で引きはがされちまうとはな……」
「オメガの子息であるデルタを先んじて捕らえるか、はたまた何らかの障害になるとして排除にかかっているか。……いずれにしても、喜ばしい事態というわけじゃないな」
 周囲を見回して、やはり仲間の一人である蒼い髪の少年が見つからないことに嘆息する二人。その顔にはいくらかの憂いも浮かんではいたが、次の瞬間には毅然とした意志を宿したものへと移り変わる。
「ともかく、引きはがされた方に逆戻りしよう。デルタも機械の雑兵程度に後れを取りはしないさ」
「まぁな。んじゃあそうと決まれば――」
 そこまで言葉にしかけて、しかし口をつぐんだナギト。怪訝に思ったレイが彼の方を見やると、何やら警戒した表情でナギトが周囲を見回していた。
「……嫌に粘っこい殺気が飛んで来やがる。どこかにデルタのオヤジさんの刺客が来てるっぽいぜ、レイ」
 レイとナギト。一見相反する性格故に相性も悪そうな二人だったが、実のところ二人がパートナーを組む時は、決まって良い戦績を叩き出していた。その最たる理由は、二人がお互いに無いものを持ち得ているからである。
 レイが有しているのは冷静な観察眼と、過去の旅で培った経験からなる、戦局の把握。対するナギトが有するのは、天賦の才とも言える圧倒的な本人の戦闘センスと、それを十全に補うための野性的な感覚――つまるところの「発達した第六感」だ。
 逆にレイが持っていないのは、努力ではカバーしきれない才能の差と、理を重んじる故に強くは発揮されないい直感。そしてナギトが持っていないのは、如何なるときであろうと波立てることを良しとしない心と、技を磨くためであったが故に培われなかった観察眼。
 それぞれに持ちえないものを、それぞれが持ち得る技能によってカバーし合うことで、二人はただの兵士が束になってかかろうとも易々打ち倒せるほどの、強靭なコンビネーションを発揮することができるのだ。
 本来ならばここにデルタを加え、三方からの攻撃に対処できるようにして初めて完成と言える陣形ではあったが、なまじ二人の実力が飛びぬけている分、即席であろうとコンビネーションは抜群だった。その連携が、再び到来した殺気へと視線を送る。
「……ち、やっぱし雑兵じゃあアンタらは倒せないか」
 そこに立っていたのは、明らかに今までの機械兵とは姿かたちを異にする、生身の人間だった。


***


「……っはぁ、はぁ、はぁ……撒いた、かな」
 ほど近いところにあった、獣道を舗装して作られた街道。その一角に建てられた看板に背中を預けて、デルタはひたすらに荒い息を吐く。
 すぐ近くには村の門と思しきものがあったが、流石に大量の機械兵に追われる身でそこへと踏み入るのは良心が痛んだ。ゆえにデルタは、人気の少ない獣道に座り込んで、そのまま周囲を警戒していたのである。
 ほどなくして、周囲には機械兵の影が見えなくなっていたことに気付く。どうやら向こうも追撃を諦めたのだろうとあたりを付けたデルタは、今度こそ全身を弛緩させようとして、すぐに気を持ち直した。
「いけない、レイ姉たちに合流しないと……」
 しかし、それはすぐには実現できない。何しろデルタが居るのは、近場であれど村の全景をうすらと見渡せるほど、見通しの良い草原。にもかかわらず、レイもナギトも遠景に見とめることさえできない状況なのだ。
「……どうしよう」
 手だてを見失い、思わずデルタは呆然とする。ちらりと脳内に万事休す、の文字が浮かぶが、しかしすぐさま頭を振って強引に思考を切り替える。
「いや、決めつけるより前に行動だ!」
「……何をしてるんだ、お前?」
 自分自身に言い聞かせつつ、走り出そうとしたその矢先に、背後から呼び止めるような声音を受けて、たたらを踏むようにデルタの足が止まる。振り向いてみると、そこにはくすんだ金髪の男性が居た。
「あっ、ご、ごめんなさい。……僕、このあたりで仲間とはぐれちゃったんです。方角は分かってるんで、向こうまで合流に行こうと思ってたんですけど」
 突然の邂逅に、多少慌てた様子のデルタが様子を説明する。怪しい者と思われないための一通りの弁明を口にすると、疑念はあるものの男性は納得してくれたらしい。
「ああ、旅の人間か。よくもまぁ、こんな物騒な島に来たものだ」
「来た、っていうよりは、この島の住人なんですけどね。訳あって、カレストを目指してるんです」
 仮にここで自分がオメガの息子だと公言でもすれば、心無い人間によってここから先への道を閉ざされてしまうかもしれない。そう直感で判断したデルタは、あえて旅の理由をぼかすことにした。
「そうか。まぁ、気を付けることだな。どこにオメガの兵士や腹心が居るとも限らん」
 結果として、要らぬ誤解を生むことは避けられたらしい。内心で安堵していると、男性が改まって自己紹介をする。
「俺はニュー。ニュー・ベルシャングだ。そこのエーディンの村付き用心棒をしている」
「あ、デルタです。……用心棒ってことは、このあたりには?」
「ああ、周辺の警戒にな。ここのところは沈静化しているが、警戒するに越したことは無い」
 なるほどとデルタは思う反面、それが自分の身内のせいだと考えると、どうしても申し訳ない気持ちになってしまうのが本音だ。自分が父親に代わって謝罪したい、という気持ちを押し殺して、デルタは小さく笑いかける。
「こんなバカなこと、早く終わればいいんですけどね」
「全くだ。……ところでお前、人を探しているんだったな?」
「え? あ、はい。厳密には、ついさっきはぐれた仲間ともう一度合流するためなんですけど」
 言外に「早く解放してほしい」という意味を含ませた言い回しをしてみるが、ニューという男性は突如、妙案を思いついたような顔をデルタに向けた。何故か、次の一言がデルタにも予想ができる様な気がして。
「ならば、その場所まで俺もついていこう。不測の事態が予想されるんだ、戦力は多いに越したことは無いだろう」
 その通りの言葉を受けて、デルタは思わず苦笑をもらした。


「この辺りか?」
「うん、この辺りなんだけど……」
 ニューの質問に肯定を返して、しかし周囲を見回すデルタは疑問を浮かべる。
 確かに、周辺には所狭しと打ち捨てられた機械兵の残骸がたむろしていた。しかし、そこにいたはずであろう二人の姿は、すでになかったのである。
「もう、僕のことを探してどこかに行ったのかな」
「やられた、と言うわけでは無いだろうな。この量を相手取れるなら、そうそう遅れは取らないはずだ」
 もっともな意見を受けながら、再度注意深く周囲を見回す。すると、機械兵の残骸は点々と、一方に向けて転がっていた。
「あっちは……」
「森林の方だな。追い立てられて向こうに行った、と考えるべきか」
 再び、ニューの意見に賛同するデルタが、強い意志を秘めた瞳で森林の方角を見つめる。
「僕はこのまま追いかけていく。ニューは、どうする?」
 元々ニューは警戒がてらに同伴してくれているだけで、本来ならば巻き込むべき人間ではない。それを考慮しての問いだったが、しかしそれに返ってきたのは言葉の返事ではなく、空間を薙いだ風切り音だった。
「えっ?」
「後ろを見ろ、デルタ。何かが来るぞ」
 音の正体は、ニューがどこからか生み出した、斬打突すべてをまかなえるポールアーム――俗に言う「ハルバート」に分類される、黒い大槍。その切っ先が突きつけられた方向を見ると、すぐさまデルタは懐からキュアノエイデスを取り出し、蒼い刀身を生み出した。
 その行動の答えは単純明快――「機械兵を生み出す魔術方陣」が、青い空の一角でまがまがしく輝いているからにほかならない。ニューに関しては、そのそぶりから機械兵関連のものとは認識していないようだったが、デルタとしては忌まわしき負の遺産の象徴。ゆえにその出現に際して、彼はひと際闘志をみなぎらせていた。
 やがて、出現した魔術方陣からは、まるで操られる屍のごとく、大量の機械兵が生産されては草原を埋め尽くしていく。ひとしきりの量を吐き出し終えた後、最後に二つの影を吐き、その姿を消滅させた。
「こんなところにもか……!」
「多分、僕らみたいな反抗勢力を潰しに来てるんだ。……今なら間に合う、ニューは村の警護に」
「断る」
「へっ?」
 立ち上がり始めた大量の機械兵を目前にして、デルタの注意勧告を受けたニューはしかし、その言葉を一蹴する。直後に見せた表情は、研ぎ澄まされた鋭利な刃物の如き、冷たく鋭い戦闘の顔だった。
「――へーぇ、オレらを見て逃げねぇバカがまだ居やがったか」
「愚かしき矮小な生き物めが。蛮勇だけは一流ということだ」
 そして、最後に立ち上がった影――周辺に群れる機械兵とは明らかに違う風貌を持つ、二体の機械の剣士が、以前デルタを襲った翼の機械兵のように、流暢な言葉で二人に語り掛ける。二体の機械剣士の様を見て、本腰を入れてきたのだろう、とデルタは直感で察していた。
「……対話型とはな。ずいぶんとまあ、無駄な機能を付けるものだ」
「は、減らず口をほざくんじゃねえよクソゴミ。ごちゃごちゃ言ってるとなます切りにしてやんぞ?」
 対するニューは、機械剣士の脅迫じみた一言を、鼻で笑って一蹴に伏して見せる。
「ほざけ。束になろうが強化されようが、所詮は機械の雑兵にすぎんからな」
「……あー、そうかいそうかい。お前はそう思っちゃってるわけね」
 カウンターの皮肉を受けると、機械剣士が明らかにいらだったような声音をもらした。そのまま剣を振りかぶると、勢いよく中空を薙ぎ、威勢よく一歩を踏み出した。


「上等だコラァ! 人間風情と俺らマシンドール様の格の違いってのを、このラオ様たちが見せてやんぜェ!!」
「侮辱されて良い気分にはならない。愚かな大馬鹿者に、このレオたちが鉄槌を下そう」
 そのまま並び立ち、堂々と名乗りを上げた機械剣士――ラオとレオが、伴った機械兵たち共々、一斉にデルタとニューへとびかかってきた。


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と言うわけでお久しぶりにございます、オリヴィエに続いて半年間も更新をサボってた腐れノロマのコネクトですー。
本当ならばもっと早くお届けするつもりだったのですが、色々とリアルの事情があったり、展開を思いつかなかったりで、本日のこの時まで公開が遅れに遅れてしまいました。
BBBはコネクトの代表作になる作品、といっても過言ではないので、どうしてもきっちりした形でお届けしたいのですが……いかんせん上手くいかない物です。


さて、今回はデルタとレイ、ナギトが分断されてしまい、そこから一時共闘する新たな仲間の登場と相成りました。
本当ならばこの回だけでニューとの共闘は終了になるはずだったのですが、思った以上に文章量が多くなってしまったため、結果的に前後編のような形に変更となりました。長くなって嬉しいやら、悲鳴を上げたくなるやら……w
そして今回登場となった機械兵ラオ、レオのコンビですが、こちらも前身作である剣物語に登場したキャラクターとなっております。
当時もパーティ三人のうち二人が離脱状態で、ナギト(ヤイバ)が共闘する仲となるキャラと共に立ち向かう、と言うストーリーでした。大まかな筋が変わらないのは、実のところ全く想定していなかった事態である故、不思議な繋がりに困惑していますw


次回はデルタ、ニュー対ラオ、レオの戦闘です。
まるまる戦闘の回になる予定なため、個人的には楽しみな反面、若干悲鳴を上げたくなるのを我慢しつつ、執筆に励もうと思いますー。


……え、いつ公開になるのかって?


それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ