コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

翠の瞳の異世界譚 #02

第2話 非現実的な「現実」

 


「……さて、お前さんもわかってるとは思うが、俺たちにはお前さんに聞きたいことが山ほどある」

 互いに名乗りあい、握手を交わした後、俺とディーンさんたちは、先ほどまで俺の眠っていた客室のテーブルに着いている。理由はもちろん、現状の確認と事情聴取のためだ。

「ですよね。……ただ、俺もあんまり詳しいことは分からないんです」
「というと?」
「具体的にどうして気を失ったのかとか、そのあたりの記憶が曖昧なんです。……というか正直、気を失う前のこととかもさっぱりで」

 喋りながら脳内を精査しても、それらしき原因には皆目見当がつかない。俺の感覚ではそれこそ、「自分の部屋の布団で寝て、起きたらこの家のベッドにもぐりこんでいた」ぐらいの実感しかないのである。自分でも苦しい言い草だとは思うが、実際のところそうなのだから、俺としてはどうしようもないのが実状だった。

「ふむ。まぁともかく、お前さんがいろいろと訳ありな奴だってことは何となくわかっているつもりだ。……お前さんが良ければ、お前さんのことを教えてくれないか? 何か、力になれるかもしれんぞ」

 そんな怪しい人物に対して、ディーンさんは非常にありがたい進言をしてくれる。
「ずいぶん都合のいい話もあったもんだなぁ」なんて思いもしたが、現状頼れる人と言えば目の前の二人しかいないのだ。ならばいっそ、彼らを信じて話をしてみるのも悪手ではないだろう。

 

 感謝の言葉を述べた俺は、つらつらと身の上を話し始める。

 俺、こと日下部瑛司は日本の某所で生まれ育った日本人であること。
 世間一般に見れば、概ね一般人と変わりない生活をしていたこと。
 いつも通りに眠りから目を覚ますと、この屋敷のベッドで眠っていたこと。
 気を失った理由が自分でもわからず、どうしてここに来たのかすらわからないこと。

 特に重要ではない来歴や職業――といっても、その内容は「主に近所のスーパーで働くフリーター」という至極どうでもいいものだが――なんかは除いて、話せる限りの情報を提供する。
 対面に控える二人はどちらも、余計な茶々や質問は挟まず、真摯に俺の話に聞き入ってくれた。

 

 そうして、一通りの身の上話を終えると、ディーンさんが何かを納得したように小さく唸る。

「なるほどな。――お前さん、『異世界人』ってことか」
「……は?」

 続けて彼の口から飛び出したのは、正気を疑うような一言だった。

 いせかい。伊勢界。偉世怪。井瀬回。異世界――そう異世界
 あまりの衝撃に混乱した脳が、遅れてその言葉の意味を理解する。そしてそこで俺は、ようやく驚きに仰け反ることとなった。

「…………あの。失礼を承知でお聞きしますけど、本気で言ってます?」
「おう、本気も本気さ。……っつっても、そうか。お前さんは『こっちの世界』の常識も知らないんだよな。そりゃ、そんな顔になるのも無理はないか」
「は、はぁ……?」

 何が可笑しいのか、ディーンさんがくくっと笑いをこらえる。……情報の整理が追い付かない俺の口からは、間抜けな声が漏れるばかりだった。
 その顔があまりにも間抜けだったのか、ディーンさんはちょっとだけ申し訳なさそうな表情を見せるとともに、改めて説明してくれる。そしてその内容は、いましがた聞いた一言よりも、ずっと多くの驚愕に溢れたものだった。


 ――ディーンさんの話を信じるならば、今俺たちがいるこの場所は、日本が存在する地球はおろか、それを擁する宇宙とも違う、全く別の時空に存在する、別の世界なのだそうだ。
 ディーンさんたち以下、この世界に住む人々から「エルフラム」と呼ばれているこの世界は、彼らからの説明を聞く限りでは、俺もよく知る創作物で言う「剣と魔法の世界」と形容して差し支えない文化を持つ世界らしい。魔法と呼ばれる技術体系が一般に根付き、魔物と呼ばれる超自然的な生態系が存在し、大いなる大自然の驚異と共に生きるのが、この世界の人間たちなのだそうだ。

 で、そんなエルフラムに住まうディーンさんが、何故あれほどにも早く「俺が異世界人だ」と見当を付けられたのかというと、|エルフラム《このせかい》に住む人間にとって、「異世界からの来訪者」という存在は、珍しがられる存在でこそあれ、決してありえないものではないのだそうだ。
 老若男女の区別も、時代や季節の傾向もなく、本当に唐突に、何の前触れもなくこの世界に現れるのが、そういった異世界人の大きな特徴らしい。だからこそ、いきなり村の前で倒れている俺を発見した時、うすらとその可能性には思い当たっていた――というのは、ディーンさんの弁である。

 ……説明を受けながら、「ずいぶん都合のいい世界もあったもんだな」とつい思ってしまったが、今のところ俺には情報の真偽を判別するための手段がない。それに、仮にその情報が――ここが異世界であるという情報が本当だったとすれば、ここを出奔して単独行動を起こすのも愚策だろう。
 なので俺は、ひとまずその情報が真実だと仮定して話を進めようと考えていた。何をするにせよ、まずはある程度行動指針を固めなければ話にならないだろう。


「ひとまず、教えられる基礎的な情報はこんなところか。……どうだ、理解は追いついてるか?」
「な、なんとか。……正直なところ、荒唐無稽な話すぎて、いまいち実感がわかないのが本音ですけどね」

 衝撃的な情報の数々をどうにか飲み込もうと躍起になっている俺を見て、ディーンさんがもう一度口元に苦笑を浮かべる。

「まぁ、そりゃそうだろうな。……別に、今すぐすべてを理解しろなんてことは言わないさ。今はとりあえず、この話を信じるだけで構わんぞ」

 ディーンさんの気遣いをありがたく思いつつ、こんがらがった頭のまま、俺は小さく首肯する。それで満足したのか、ディーンさんはニカッと、顔つきに似合わない愛嬌のある笑みを浮かべた。

「よし。……にしても、こうして異世界人なんてもんに会うのは初めてだったが、存外普通の奴なんだな、お前さん。もっとこう、色々とかけ離れた存在みたいに思ってたよ」
「そりゃあ、そうですよ。俺だって一応、向こうの世界では一般人で通ってたんですから」

 続くディーンさんの中々心外な言葉に、俺は思わず眉尻をしかめてしまう。
 元の暮らしが本当に一般人らしいものだったかはさておき、俺を育ててくれた亡き祖父母の名に誓って、少なくとも人道にもとるような生き方をしていたつもりはない。そんなことをすれば、俺を祖父母の顔に泥を塗るようなものだ。

「そりゃそうか、すまんすまん。……まぁとりあえず、俺たちとしては、お前さんに危害を加えたりするつもりは毛頭ない。それだけは覚えておいてくれると助かるな」

 一切の邪念を感じない、豪快さと爽やかさが混じり合った笑みを浮かべるディーンさんに、俺は小さく同意の首肯を送った。

 

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 というわけで皆さまこんにちはー、コネクトと申します。

 近頃は秋をすっ飛ばしたレベルで涼しい(というか肌寒いレベルの)日々が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。

 さて、本日の更新はなんと、さかのぼること一年前に掲載された新作連載小説「翠の瞳の異世界譚」の続きを投下させていただきました。

 

 元々、本作こと翠瞳は、一年前の更新の際に書き記した通り、第3話までの内容が完成しておりました。

 しかし、そこまで書いたところでコネクトの中に、「このまま元作品をなぞるだけではまた面倒臭くなってエタるんじゃないのか?」という考えが発露。どうにか軌道修正を測ろうと試行錯誤しているうちに更新の機会をすっかり逃してしまい、「ここまで来たならいっそ白竜姫終わらせてからで良いかも」なんてことを考えるに至ってしまいました。

 

 それがなぜこんな時期になって再び日の目を見たのかと言いますと、端的に言えば「ある程度のプロットの目途が立ったから」となります。

 そもそもこの一年間、えっちらおっちらと白竜姫のリファインを進めてはおりましたが、コネクト自身、先の見えない執筆活動に嫌気がさしてしまい、しばし小説とは距離を置いておりました。

 その間にコネクトの中でいろいろなものを充電した結果、どうにか半端ながらプロットの制作も進行。ならばと思い切って、本作の更新も再開させよう……となった次第です。

 

 第2話となる今回は、エイジを保護したディーンを通じて、物語の舞台となるエルフラムの大まかな概要を解説しました。物語的な動きはありませんが、エイジが異世界に来たという認識を深める回となっています。

 異端者であるエイジがさらっと受け入れられた理由については、コネクト自身「そこまで深く考えなくても物語には支障ないだろう」と考えたことで、かなり適当に構築しましたw

 

 今回はこちらの更新を進めましたが、本筋である魔剣の騎士と白竜姫も、現在鋭意制作中です。

 第4章に差し掛かった向こうは、本格的にリファイン前とは違う路線に舵を切り始めました。本作と合わせて、あちらも応援していただければ幸いです。

 

 それでは、今回はこの辺で。