コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

【不定期更新SS】ソードアート・オンライン 電光の仮想騎士

今回からサブタイトルを改め、「電光の仮想騎士」とさせていただきます。
新たに作成したカテゴリーもこちらに変更となるため、ご了承ください。


*********


2023年 4月16日 第35層 フィールド区



「せらああああっ!!!」
咆哮一発、少年の振りぬいた剣が、目の前に立ちはだかる二足歩行のモンスターを叩き切る。
獣は悲鳴とともに不自然な格好でぴたりと停止、ついで青いポリゴン片と化し、爆散した。
少年が、詰めていた息を細く吐き出す。右の手にもつ片手長剣、名を「シルブブレード」という代物を
軽く右に振りぬき、音高く鞘に収めた。
「…139体目、と。あと11匹でレベルアップか……」
少年は愚痴りつつ、ふとある日のことを思い出していた。


そう、それは今から一年前。


彼、「シデン」こと本名を「照井 紫」とその親友「コウヤ」こと「浅葱 高谷」の二人は、
そろってこの世界―――ナーヴギア初のVRMMORPG「ソードアート・オンライン」の世界に
「捕らわれた」。


その日、のんびりと二人で狩りを続けていたとき、突如として二人は「転移」の光に包まれた。
直後に目に映ったのは、自分たちと同じく転移させられてきたのであろうたくさんのプレイヤー達。
いぶかしみつつそこで駄弁っていると、突如として上空に「Warning」の文字、ついで
「System Announcement」と表示が現れる。
呆然とする彼らの前に現れたのは、巨大なローブ姿の人――否、中身の無いローブだった。
フェイスのないふわふわと浮かんだその人型が、そこに集まるプレイヤーたちを戦慄させる。
そして、いずこからか、声が聞こえた。




「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」



SAOの世界を「私の世界」と表現した声はその後、自分がSAOおよびナーヴギアの開発者茅場晶彦(かやばあきひこ)で
あること、シデンたちは気づかなかったがメニューからログアウトボタンが消失しており、それがこのSAO
本来の「仕様」であること、今後、この世界がクリアされるまでログアウトは不可能だということ、
外部からの救出は見込めず、さらに無理に脱出させようとすれば肉体的にも「死亡」してしまうこと、
システムアナウンス以前に、すでに213名のプレイヤーが死亡していること、今後このゲームにおいて
あらゆる蘇生手段が機能せず、HPが0になった瞬間、肉体的にも「死亡」してしまうこと、開放される手段は、
SAOの舞台である「アインクラッド」を100層まで突破し、ラスボスを撃破することだと、機械的
そこにいるプレイヤーたちに告げた。そしてその直後、さらに信じられない出来事が起こる。
なんと、シデンたち全プレイヤーのアバターが、現実世界の彼らそのものの顔立ち、体型へと変化
してしまったのだ。
シデンたちには意味がわからなかったが、茅場は最後にこう言った。
要約すると「私の目的は、この世界をつくり、鑑賞するというものだった」と。



こうして、約1万のプレイヤーは仮想空間の囚人となった。
あるものは自殺を敢行し、あるものは細々と暮らすことを決め、あるものは発狂し、そしてあるものたちは、
己の手で己を解放すべく、巨大な浮遊城を上へ上へと突き進んでいった。



そして今に至る。
現在の最前線は38層。クリスマスにあるらしいイベントについて、にわかにうわさが流れ始めたころだった。





「転移、リムスカイ」
29層に存在する主街区の名を唱えると、数秒後には彼の視界は街の中へと移り変わった。
人々の喧騒が聞こえ始め、帰ってきたのだと少年が胸をなでおろす。
「転移」が終了し、彼――「シデン」は宿への道を歩みだす。
ムスカイの街は、あまり知られていないいわば「穴場」の街である。
迷宮区からは離れており狩りの効率は悪いものの、その町並みの美しさは第一層の主街区「始まりの街」に
ひけをとらないものだった。
29層が開放された後わずか3日で30層へ続く迷宮が突破されたために、この街は忘れられてしまう
ことになった。が、一部の人間はこの町を気に入っており、シデンもまたそんな人間の一人だった。
すたすたといつもの宿に帰る間も、明日の狩場はどこにしようだとか、装備はそろそろ新調すべきだな
だとか、いろいろと考えていた。
と、目の前に見慣れた人物の姿があった。
「おーい!」と元気そうに声をかけてきたのは、紛れも無い「コウヤ」その人だった。
もっとも、現実の顔とまったく同じ人相をしている彼を間違えるわけが無いのだが。
「よ。今日は狩場にいなかったけど、何してたんだ?」
「ああ、それな。ちーっとクエスト処分」
などと今日の活動を互いに報告しあううち、二人は普段から寝泊りしている宿「空屋」に到着した。
ちなみにここを普段のねぐらにしている理由は、単に「食べ物がおいしい」からだ。
どういった構造かは知らないが、SAOの世界でも食欲が発生する。
食わなければ空腹感は拭えないということで、プレイヤーたちは毎日ないコルを削って食事に
ありついている。
当然、金を払うのだから料理はおいしくないとやっていられない。プレイヤーの中には食通の連中が
集まり、日々どこの店が一番だとかくだらない論争を繰り広げていたりするという。
なじみの店内のなじみの席に座り、二人でメニューを一瞥する。
ちなみに、今日のおすすめは「ハーブコカトリスのステーキ」らしい。
「んー……コウヤ、何にする?」
「そうだなー。鶏肉は昨日食ったからな、今日は魚にでもするわ」
言うと、コウヤはメニューに浮かぶリストから目当てのものを見つけ出し、それを選択した。
OKボタンに触れると、カウンターの奥からNPC(ノンプレイヤーキャラクタ)の女性が皿を持ち、
コウヤの前に運んでくる。
いまだ悩むシデンの前で、コウヤがいただきまーすと言いながら食事にありつく。
「そういや、さ」
ふと、シデンがコウヤに問いかけた。コウヤも食べ進める手を止める。
「コウヤって、当面の目標とかある?」
目標という単語に眉をひそめながら、コウヤは神妙な面持ちでこたえる。
「そうだなぁ……とりあえずまずは、サブ武器の熟練かな。両手剣はいざって時にすぐ対処できないし、
スロピとか投擲槍とか育てようかなって思ってる。シデンこそ、目標なにかあるのか?」
スローイングピックを変に略して逆に問いかけてきたコウヤに向け、シデンはにやりと笑ってみせる。
感情表現の大雑把なこの世界でここまで自然に笑えるのは、半年近く笑いあった賜物だろうか、とうっすら考えた。
「俺はな……これ」
シデンはウィンドウを開き、あるページで停止。コウヤにも見られるよう、可視化モードに設定する。
覗き込んだコウヤは思わず「おおっ」と歓声をあげた。ほとんどプレイヤーのいない店内に、コウヤの声が響く。
「…へえー、『新武器発見』ねえ。クエストフラグはなんだ?」
「それなんだがな…………」
神妙な面持ちになり、シデンが続ける。
「何でか知らないが、クエストを遂行するには『両手剣』のスキル300以上を持つプレイヤーが同行しないと
いけないんだ。…コウヤ、大剣使いだよな。今いくつだ?」
シデンが問うと、コウヤが突然胸をはり、堂々と現在の数値を告げた。
「なめるなよ!…470だ」
「おー」と間の抜けたシデンの返事に続き、
「じゃあ頼む、頼まれてくれ」とコウヤにせがむ。コウヤも笑顔でそれを承諾し、今日はひとまず
眠ることとなった。




翌日。
朝食を終え、二人は連れたって宿を出る。
「そういや、どこの町だった?」
と、横を歩くコウヤが聞いてきた。
「26層の主街区だとさ。…なんでこんなタイミングで発見されたんだか」
シデンが愚痴りつつ、曲がり角を右に曲がろうとしたそのとき。
「わぁっ!?」
「うおっ?!」
シデンたちの左方向の通路から走り出てきた人物とシデンが、運悪く正面衝突してしまった。
「おわっ……大丈夫か、シデン?」
「いったたた…ああ、なんとか」
ちなみに、ぶつかったからといって街の中ではダメージを受けることはない。
それでもぶつかったときに発する「衝撃」は受けてしまうので、シデンとぶつかった人物は
互いに衝撃を相殺した結果吹っ飛ばされてしまった。
「あいたたた……あ、すいません!怪我ないですか?」
と、ぶつかってきた人物がすばやく立ち上がり、こちらに謝罪してきた。シデンが応対する。
「ええ、こっちは大丈夫です。そちらは?」
「私も大丈夫です……本当、すいません」
丁寧に腰を折ったその人物は、紛うことなき女性だった。
茶色いセミロングにヘアピンを付け、輝く赤銅色のアーマーを着込んだ
華奢な体躯の少女である。腰に吊るのはシデンと同じ片手剣「シルブブレード」。
うっすら金色の混じるその目は、拍子抜けしたように見開かれていた。
「……あ、女性の方…じゃないんですか?」
シデンの中性的な容姿が災いしたらしい。数泊おき、シデンが説明する。
「えぇ、すいません。…なんか、ほんとに」
「あっ、いえいえ、こちらこそ!…それじゃ、私クエストがあるんで、失礼します」
「あ、ちょいまった!」
踵を返して立ち去ろうとする少女を、後方から静観していたコウヤが呼び止めた。
いぶかしげな表情で張本人のほうを向く少女に、コウヤが問いかける。
「もしかしてキミ、26層主街区の新クエストにいくのか?」
「ええ、そうですけど……。あ、もしかしてあなた達もなんですか?」
少女の問いかけにシデンがこくりと頷き、次いでクエストフラグを説明に入る。
「君、両手剣って熟練してないでしょ?アレを遂行するには、どういうわけか両手剣を熟練した
人が同行してないといけないんだよなぁ…。だれか、連れの人っているの?」
「……いえ、いませんね。というか、それ本当ですか?」
「ああ、新聞から拾ったからいまいち信憑性には欠けるけど、念のためだ。俺たちと
一緒に行かないか?」
動向の申し出をすると、少女はしばし黙考する。やがて数十秒ほど経った後、
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします。私は、A,r,t,e,m,i,sで『アルテミス』っていいます」
「えーと、俺はシデン。s,i,d,e,nでシデンだ」
「俺はコウヤ。よろしくな、アルテミスちゃん!」
握手を求めるコウヤをシデンがしばき倒しつつ、3人は転移門へと向かう。



エスト内容はいたってシンプルなものだった。
26層主街区「バーレシア」を北東に進んだ場所にある小さな洞穴に生息する小型竜「ラバドラゴ」なる
モンスターを討伐し、武器生成用のクエストアイテム「龍の骨髄」というアイテムを入手しろという
至極単純なものだった。なぜ両手剣使いを必要とするのか、結局クエストを聞いただけではわからなかったが。
各々回復ポーションを携帯して出発する。道中のモンスターたちは現在最前線である38層から意外と離れていたため、
大それて強力でもなかった。コウヤの攻撃力とシデン、アルテミスの正確無比な攻撃により順調に進み、
目的地である穴倉に到着したのは出発から2時間後の午後1時だった。
が、重大なことを忘れていたのは痛恨のミスであった。
「……やーっべ、腹減った」
コウヤが愚痴る。そう、こんなときに限って空腹感が襲ってきたのだ。
現実と同じように、満腹感は時間経過と共に減少していく。
そこまではいいのだが、この世界では一度覚えた空腹感はデータの食べ物を詰め込まない限り
消えることはないという厄介な仕様なのだ。
ムスカイからそのまま同行してきたアルテミスも、空腹でおなかをさすっている。
と、そんな二人にむかってぽいと包みがとんできた。両者あわててキャッチする。
投げ渡したのはシデンだった。口にはパンのようなものをくわえている。
「ったく、急ぐのはいいがちゃんと用意くらいしとけよなぁ」
包みを開けてみると、それは紛うことなきハンバーガーだった。質を見る限りは
どこかのNPCショップで購入してきたのだろう。
はぐ、と一口かじると、現実世界のファストフードとは違う、それでも普段食べている
素朴なパンやらスープやらとはまた違う美味しさが口の中に広がる。
「むぐ…悔しいが美味いなこれ。どこのだ?」
感動気味に頬張るアルテミスはほうっておいて、コウヤは聞いてみた。
「それな、知り合いの出店が近くにあったからもらってきたんだ。あとこれ、餞別だってさ」
シデンが受け取っていた回復結晶3つを全員に分配し、各自回復を済ませる。
「っし、こっちはOKだ」
「私もオッケー。いつでも大丈夫」
シデンは横の二人に目配せで合図すると抜剣し、洞穴外からもPOPが確認できた一匹に向けて
片手剣単発突進技「レイジスパイク」を放った。





30分と経たないうちに目標数の60匹を討伐し終え、三人は一旦洞穴の外で休息をとっていた。
「…クエストアイテムはたしか『龍の骨髄』だったっけ?そんなもん来ないぞ〜……」
スクロールを二転三転させつつうんうん唸るアルテミスと同様に、シデンも自身のストレージに
アイテムが入っていないことを確認していた。
「…っていうかなんか思ったんだけどさ、あいつら妙に手ごたえなかったか?」
ふと呟いたコウヤの一言に、シデンが指を止めて顔を上げる。
「手ごたえ?……いや、普段と同じくらいだったと思うけど」
ちらとアルテミスにも目配せしてみるが、シデンと同じ意見であることを首の動きで伝える。
「っかしーなー」と首をかしげ、剣を抜き放ったとき――――――
シデンの目が、コウヤの大剣にとまった。
「……コウヤ」
「ん?」
「その刃についてる赤いの…なに?」
えっ、と素っ頓狂な声を上げつつ、コウヤは自身の愛剣に付着した謎の赤い物体を確認する。
血―――の類は、この仮想世界では再現されない。もっとも、それに酷似した赤黒いライトエフェクトが
出るには出るが。
まじまじとそれを見つめて唸るコウヤのもとまでいき、慎重な手つきでそれをクリックすると、
出現したのは小さなホロウィンドウだった。そこに書かれていたのは



「龍の骨髄」の四文字だった。



―*―*―*―*―*―*―



和気藹々とバーレシアの門を通り過ぎたときには、時刻は午後4時を指していた。
エスト依頼主であるNPCにそれを持っていくと、朗らかな老人NPCは高らかに笑い、
こっちへこい、という手招きを見せた。いぶかしみつつもそれに習い、3人がつれてこられたのは
小さな納屋のようだった。
「…こんなとこ、あったんだなぁ」
「ああ、普段街とかって夜に見てるから、ほんとこういうのには気づかないよな…」
感想を述べつつ、3人はその中に入る。
と、その目の前においてあったのは、巨大な鍛冶設備だった。
がこん、がこん、と音を立てて回転砥石が駆動し、炉は赤々と燃え滾っている。
しばし呆然としていた3人に老人から差し出されたのは、全員の身の丈ほどはあろうかという
大振りな斧槍〈ハルバード〉だった。そのまま、老人が話し始める。
「いやぁ〜、そいつを作るってのがワシの長年の夢じゃったんじゃよ。
あそこに住んどる竜が、ちっこいくせにえらい強いもんでなぁ……」
たしかに、あそこの龍たちは並々ならぬ強さだった。ひょっとすると、現在最前線である38層のフィールドモンスター並みかも
しれない…とまで考え、シデンはかぶりをふる。
「じゃがな、その強靭な刃を作るためにはどーしてもそいつらの骨髄でこーてぃんぐする必要があったんじゃ。
…じゃが、安心せい。ワシが今まで手がけてきた武器の中でも、それはおそらく至高の出来じゃ。遠慮せずに使ってくれ!」
そこまで言い終えると、老人はわっはっはと笑いながら、もといた場所辺りへと帰っていく。
同時にクエストログが更新され、達成の報酬として先ほどの斧槍がストレージに収納されたことが告げられた。



納屋を出て拠点であるリムスカイへ帰り、打ち上げという名目のプチ品評会が催された。
「えー、まずは新武器入手おめでとう!」
「「おめでとーう!」」
かちん!とグラスをぶつけ合い、くいと中身(何の変哲もないサイダー)を少し煽る。
その後、各々のストレージから入手した武器をオブジェクト化。全員で確認し、数値に違いはないか
確認したが、システムもそこまで非情ではないらしい。
ほぅと一息つき、シデンは武器名を確認してみた。
「ブラック・フェーゴ」という武器名だった。不可効果はなんだろうとおまけ程度に確認し、
そこに示されているものにシデンは心底驚いた。
「んなっ……火属性400?!」
それを聞いたコウヤとアルテミスもいっせいに顔を跳ね上げてくる。
当たり前だ。現在最前線38層のこのアインクラッドで、いまだ属性値が300を超えた武器はなかった。
それがいきなり、しかもあんな低層で見つかったものだから、これは騒ぎになるだろう。
ふたりも事実確認したらしい。信じられないという表情で、3人は互い違いに顔を見合わせる。
「……これ、売ったらけっこうな額になるよな?」
「う、うん。属性値300超えなんて、超がつくレア物だよ……」
ポップアップを閉じ、シデンはしばし迷った。
そろそろシデンの持つシルブブレードだけでは、前線での狩りが危うくなってきたところだ。
だが今から長槍〈スピア〉スキルを育てたとしても、すぐに前線で再開することは不可能に近い。
ここはいっそ売りたかったのだが、それではなんだか作ってくれたあの老人に申し訳が立たない気がした。
「……俺、これは売らない」
「え…なんで?そろそろ武具新調時だろ。資金の足しにしなきゃ、多分次足りないぞ」
「…………うん、まあ。それでも、な」
歯切れの悪い返事をしてしまったせいか、微妙に空気が変わってしまった。
ここでこの空気を打開しうる武器を持っていない――あるいは使えないのかも知れない――シデンは、
明日に備えて就寝するべくチェックインを受けにかかる。
「あ、ちょっと待って!」
が、数歩歩いたところで突如アルテミスに呼び止められた。振り向くと、屈託なさげな笑みでシデンのほうを見ている。
「せっかくだから、フレンド登録いいかな?」
数秒迷ったが、すぐにこくりと頷いた。理由は単純、ギルドのメンバーに自慢できるからだ。
シデン、コウヤ両名の所属するギルドは、名を「サクラフブキ傭兵団」という。
一癖ある男が纏め上げているチームで、主義は自由奔放らしい。
実際本当に自由奔放で、今ぐらいの時間になると盛んにチャットが飛び交っている。
そんなギルドのメンバーの一人が「女プレイヤーとフレンドになった」となれば
しばらく話のネタが尽きないだろう――というのが、なんともノーリターンな考えの下だった。
「あ、じゃあ俺もっ!」
勢いよく詰め寄るコウヤに一撃加えてから、シデンはしばしの別れの挨拶を告げる。
「じゃあまあ、またあったらよろしくな」
「うん、こちらこそ。今日は二人とも、ありがとね」
微笑むその顔を見ることができず、シデンはひらと手を振って個室へと戻っていった。





その日の夜、シデンは今日の戦闘で獲得していたアイテムの整理に追われていた。
ストレージがしっちゃかめっちゃかな状態になってしまったので、これでは明日以降に支障が出かねないのだ。
アイテム整理を終え、ふぅと一息つく。今回の戦闘で、ありがたいことに防具もいただいてしまった。
が、疲労が襲ってきて確認する気が起きない。メニューを全消去しようとして、ふと思い起こす。
上昇したスキル値を確認していなかったのだ。
手馴れた手つきでスキルウィンドウを展開し、最上段に挿入されている「片手直剣」スキルの現在値を確認する。
現在値は327。こんなものか、とシデンは苦笑し、さらに思い出して一覧をスクロールさせる。
ある一点で、その指がぴたりととまった。そこにあったのは、49まで熟練された「長槍」スキルだった。
シデンも一度、長物使いを目指して鍛錬していた時期がある。
が、あまりのとりまわしの悪さゆえに、派生を見ることなくお納めとなったという経緯があった。
今度はそれに苦笑し、何の気なしにその下を見てみた。


そこには見慣れぬスキル「棒術」の名が記されていた。



*********


ぷはー、終了っ!
なぜサブタイトルを改めたのか、カンのいい方はお気づきでしょう。
前回サブタイである「紫電の剣士」のままでは、主人公が一貫してキリト君と同じ「片手剣使い」だけで
終わってしまう可能性が大いにありました。
ですが正直それは私として不本意だったので、こうして武器を改めると同時に
サブタイトルも改めさせていただいた次第にございます。
え?変えなくても良かった?すいません、そこは主のへんなプライドですw


次回は多分、新たに組み込まれるスキル〈斧槍〉の熟練風景ですかねー。
ではではこの辺で ノシ