コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

マシンナリィ・ブレイバー

 


「――回路接続良し、伝導装置良し。魔動炉への接続問題なし……よしと」

 青空の元に広がる草原を貫く街道、その傍ら。
 路肩に鎮座していた大きな「機械」の中を探っていた一人の少年が、そう呟いて顔を上げる。
 機械の中に篭っていた熱で浮き出た汗を拭い、額に張り付いたアイスブルーの前髪を軽く払いのけながら、少年は満足げな表情を浮かべた。

「どうかしら。私の車は直りそう?」

 そんな少年の様子を見て、ほど近くの木陰に立っていた人影――日傘を差した老齢の女性が、不安げな顔で問いかける。
 振り返った少年は、自身の黒い瞳にその姿を収めると、しっかりと頷き返してみせた。

「はい、応急処置は終わりましたよ。ひとまず動くようにはなってるはずです」
「あら、本当? 随分早いわねぇ」
「これでも、機械いじりは得意なんです。どうぞ、試してみてください」

 少年の言葉に促されるまま、老齢の女性は機械――自動車のドアを開け、運転席へと乗り込む。
 不安と期待が半分ずつ混じった顔のまま、始動キーを捻ると――やや甲高い始動音が周囲に反響。いくばくかののち、自動車の動力炉が唸りを上げて始動しはじめた。

「まぁ、本当に動いたわ!」

 と感動の声をあげる女性に、少年は軽く補足を入れる。

「動くようにはしましたけど、非正規の部品はどんな悪影響を出すかわからないので、あまり長い間そのままにしないようにしてください。街に着いたら、どこか専門の工房で改めてメンテナンスしてもらうのがいいと思います」
「そうなの? じゃあ、そうさせてもらうわ。他ならぬ貴方のアドバイスなら、ちゃんと聞いておかないとね」

 そう言って笑う女性は、シートに背を預けながら、心底ホッとしたような表情を見せた。

「本当に、助かったわぁ。〈魔動車〉の中身なんて門外漢だから、動かなくなっちゃった時はどうしようかと思ったけど……貴方が通りがかってくれたのはとても幸運だったわ」
「いえ、ただの自己満足ですから。お気になさらず」

 老齢の女性が改まって感謝の言葉を伝えると、少年は苦笑と共に謙遜する。

「それでも、助かったわ。もう一人の子にも、感謝を伝えておいてちょうだいな。えぇと……」

 そこで、名を名乗っていなかったことを思い出した少年は、懐から樹脂製のカードを取り出し、女性に見せる。

「僕は〈デルタ・アリーシア〉で、向こうに行った女の子は〈ファルネア・オーリオール〉です。二人で|旅衛士《ドリフター》をやってます」
「あら、旅衛士さんだったのね。もしかして、お仕事の邪魔しちゃったかしら?」
「いえ、もともとこの辺が目的地だったので。それに、ファル……さっきの女の子が周りの偵察をしてくれているので、何かあったら知らせてくれると――」

 そう口走った矢先、デルタと名乗った青髪の少年の上着のポケットから、電子音声が鳴り響く。
 すぐさま懐から手のひらサイズの機械――通信用の端末を取り出したデルタは、端末を起動し、マイクへ向けて呼びかけた。

「ファル? どうしたの?」

 空中に投影された〈sound only〉の映像の向こうからは、涼やかなソプラノの少女の声が響いて来る。

《デルタ、ごめんなさい! 〈オーガ〉に気付かれて戦ってたんだけど、そっちに逃げられた!》
「オーガが? わかった、こっちは任せて。合流はできそう?」
《うん、今向かってる。でも、離れたところまで来ちゃったから、少し時間はかかると思う》
「そっか、了解。なら、オーガはこっちで対処しておくよ」
《ありがと。私もすぐに行くね》

 そんなごく短いやり取りを終えたデルタは、通信端末を懐にしまうと、周囲に視線を配る。
 数刻前までとは打って変わって、どこか剣呑な雰囲気を纏ったデルタに、車に乗った女性がおずおずと問いかけた。

「何かあったの?」
「あ、はい。さっきの子から、〈魔獣〉がこっちに向かってるって報告があったんです」
「まぁ、魔獣が?!」

 不安げな表情を見せる女性の言葉とほぼ同時に、遠くから咆哮が響き渡ってくる。
 弾かれるようにそちらを向いたデルタの視界には、大きな人型の影――目測だけでもデルタの倍ほどはあろう巨大な影が、デルタたちのいる方向を向いて突撃してくるのが映り込んだ。

「こっちに来る……お婆さん、できるだけ早めにここを離れてください」
「そ、そうするつもりだけど……貴方は、どうするの?」

 憔悴した様子の女性にそう問われて、デルタは小さく笑いかける。

「大丈夫です。もともと、僕らがここにやってきた目的は、あのオーガだったので」

 その言葉と共に、デルタはズボンの左ポケットから、先ほどの通信端末と似通った意匠を持つ、別の端末を取り出す。
 端末に備わっていた物理ボタンの一つを押下したのち、デルタは何も握っていない空の右手を真正面へ構える。同時に、端末の側面に組み込まれていたトリガーを、ガチリと引き絞ると――

 空気を震わせる独特な音と共に、真正面に構えたデルタの右手に、一振りの「剣」が出現した。

「まぁ! 今、どこからそれを?」
「〈|携帯物資倉庫《マテリアルキャリア》〉の機能の応用です。携帯物資倉庫の容量を削って武装の携帯に特化させたもので、セレクターと内蔵した武器をダイレクトに紐付けすることによって、より直感的な武装の選択と換装ができるようにしてあるんです。まだ設計は煮詰めきれてなくて、もっと小型化できる余地はあるんですけど、望んだ武装を瞬間的に取り出せるってコンセプトは、僕なりにけっこうお気に入りの……」

 どこか得意げに語って聞かせるデルタだったが、ややあって今はそんなことをしている場合ではないと思い直し、出現した剣を構え直す。

「ともかく、あの魔獣は任せてください。こう見えて、僕も――〈旅衛士〉の一員ですから!」

 力強く宣言すると共に、デルタは地を蹴り、弾丸の如く飛び出していった。

 

 

〈アリルフェイト〉。そこは、〈|魔力《まりょく》〉と呼ばれる超自然的エネルギーを軸にした機械技術により、文明が急激な発達を遂げた世界。
 魔力を動力とする機械〈|魔動機《まどうき》〉はアリルフェイトにおける人々の暮らしに深く根付き、魔力と魔動機は今や生活に欠かせない存在となっていた。

 その一方で、急激な文明の発展の裏には、価値観の相違に端をなす人同士の争いや、〈|魔獣《まじゅう》〉と呼ばれる新たな自然の脅威など、光明を見ない問題も数多く存在していた。
 世界の法を統治する機関にも対処しきれない数多くの問題を解決すべく、各権力者は知恵を出し合い、「地域を超えて助け合える民間の治安維持機構」を設立するに至る。
 市井の人々と、各地の治安を守るため、世界をまたにかける、旅する|衛《まも》り手たち。彼らはいつしか、人々から〈|旅衛士《ドリフター》〉と呼ばれるようになっていった。


 この物語は、とある旅衛士が、己が大切なものを守るために、世界を脅かす「鋼の巨悪」と戦った軌跡を綴った――

〈|機械仕掛けの英雄《マシンナリィ・ブレイバー》〉の物語である。

 

 

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 というわけでこんにちはー、コネクトにございます。

 

 さて、開口一発目ではございますが、前回の記事で「もう完成してるよ!」とか宣いながら、投稿まで三週間弱というクソ長い期間が開いてしまったことをお詫びさせていただきます。

 実際のところ、完成していた、という言葉に偽りはなかったのですが、持ち前の面倒臭がりが災いして細かい誤字脱字の推敲を終わらせるのが遅れに遅れてしまった、というのが実態です。お待ちいただいた皆様には、改めて謝罪させていただきます。

 

 何はともあれ、今回の記事から我が看板キャラクターの片割れであるデルタ君を主役とする小説作品マシンナリィ・ブレイバー」が始動と相成りました!!

 初回となる今回は、主役であるデルタがどういう人物なのかを描くとともに、彼が生きる〈アリルフェイト〉という世界に関する大雑把な説明回として執筆しました。世界観に関するより詳しい設定は保管庫の項目に譲りますが、「剣と魔法と機械と魔獣のある世界」と把握してもらえればだいたいあってます。

 

 また、かつて執筆したBlue Bright Bladeでは主人公であるデルタの故郷から物語がスタートしましたが、本作では来歴設定の改訂に伴い、デルタ(とパートナーのファルネア)はすでに旅の身の上としてスタートしております。

 彼らに宛がわれた来歴にはちょくちょくストーリーとして綴り始めるのに最適なポイントがあるため、「どのキャラとどういう絡め方をしてお話を進めようかな」と色々考えたのですが、今回はプロローグに相当するお話なので、シンプルに主役であるデルタにフォーカスして、ヒロインであるファルネアにもちょい役出演に留めてもらいました。今回出てこなかった主要キャラクターには、おいおいスポットを当てていく予定にございます。各キャラの来歴にまで触れるかは不明です。

 

 ……なお、今回は勇み足で更新しましたが、次話更新の予定は未定です

 大雑把なプロットは用意してあるため、なるべく早い目に書こうとは思っておりますが、今のところ別で執筆している新作小説に注力しておりますので、合間合間に書き進める都合上(中の人の気分によりますが)しばらく間は開く予定です。あらかじめご了承くださいませ。

 

 というわけで、色々と余計な但し書きはつきましたが、ここにオリジナル小説「マシンナリィ・ブレイバー」の始動を宣言させていただきます!

 前作の打ち切りから数えて6年越しの再始動……キャラ設定的にもストーリー的にも今度こそ決定版にしようと思っておりますので、何卒応援いただければ嬉しいです!

 

 それでは、今回はこの辺で。