コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

PSO2異伝 Over Border Warrior

プロローグ 約束


「――本当に、帰っちゃうんだな」
 深い白銀の景色が気配を消していき、徐々に若葉が芽吹き始める、そんな季節。
 都心にほど近い場所の街に存在する高等学校の一角で、少年は目の前の少女にそうつぶやいた。
「はい。こればっかりはどうしようもないです。それに、元々こっちへの留学は期限付きでしたから」
 少女は呟きに対して、屈託のない笑みで答える。しかしその眉尻はゆるく下がり、どこか残念そうな雰囲気を見せていた。理由はもちろん、言うまでもない。
「……思えば、もう半年くらい経つんですよね」
「だな。……色々あったよなぁ」
 少年と少女は向かい合いつつも、半年の中で決して埋まり切ることのなかった距離を縮めることなく、二人で築いた半年間の思い出を反芻し、お互いに笑いあう。たとえ関係が進展することが無かったとしても、二人は友人同士であり、同じ時間を過ごした、大切な人間であることに変わりはなかったのだ。
「ああ、本当に色々あった。……ティアに出会って、俺はこうやって幸せな時間を過ごすことができて、ホントに楽しかった」
「もう、過去形はやめてくださいよ。正直な話、私もまだこうしてケイ君と一緒に過ごしていたかったんですから」
 ティア、と呼ばれた少女の言葉に、ケイと呼ばれた少年が、意外そうな顔をしてから照れくさそうに頬を掻く。
「ずいぶんお高い評価だことで」
「当たり前ですよ。私にとっては、ケイ君は初めての友達なんですから」
 ティアがふわりと、自然な動作で花が咲いたような笑みを浮かべると、気恥ずかしくなったのかケイがふいとそっぽを向いてしまった。その反応がどこかおかしくて、ティアがまた笑う。
「だから、そんな悲しそうな顔をするのはやめてください。私だって、お別れするのが寂しいのを我慢してるんですから」
 そうして呟いた言葉に、しかし今だにケイは複雑そうな表情を作っていた。説得してなお、いつものように煮え切らない態度のケイを見て、不意にティアがはっと何かを思いつく。すぐさまポケットの中を改めて、目的のものがあったのを確認すると、小さく安堵してから再び口を開いた。
「そうだ、これを渡しておきますね」
「え?」
 ティアの言葉に視線を戻したケイは、彼女の小さく、可愛らしい手のひらの上に載っていた物を見て首をかしげる
「これは?」
フォトンドロップ、っていう鉱石です。私の故郷でしか取れなくて、インターネットにもめったに乗らないマイナーなものですけどね」
 説明と共に、一歩進めて突き出された鉱石、それを加工して作られた、緑色の結晶が美しいペンダントを、ケイがおずおずといった態度で受け取る。フォトンドロップのペンダントが彼の手にいきわたったことを確認すると、少しだけ得意げな表情を見せたティアが再び口を開く。
「それ、ケイ君に預けておきますね。それで、次に私が戻ってきた時に、それを返してもらいます」
 言葉の中に込められた意味に、ケイが気付くのと同時に、ふと柔らかな微笑みに表情を切り替えたティアが、締めの一言をケイへと託す。
「――また会おうって、約束です」
「あ――」
 言わんとするセリフを取られた故か、それとも少女の微笑みに魅せられたのか。ちいさな呟きを残して呆然としていたケイだったが、やがてその顔が力強く、毅然とした意志を持ったものに――ティアと言う少女が知る、彼女と出会って変わっていた少年の表情へと戻っていく。
「……ああ、わかった。このペンダント、大切に預かっとく」
「はい、お願いしますね。……まぁ、ぶっちゃけちゃうとそこまでの価値が在る物じゃないんですけど」
「だと思った」
 ティアの申し訳なさげな暴露に、苦笑を返すケイをみて、もう大丈夫だと少女は確信を胸に抱いた。そのまま、心配などかけさせるまいと、再び笑みを浮かべる。
「でも、私の大切な思い出です。だから、ちゃんと預かっててくださいね?」
「当たり前だよ。――だから、ちゃんと戻ってきてくれよ。あんまり長いと、なくしちゃうかもしれないから」
「善処します」
 冗談めかして笑いあうと、不意にティアが手首を一瞥し、ゆるりと踵を返した。その動きを察したケイが、どこか泣いてしまいそうな表情で、最後の挨拶を口にする。


「また会おうな。――また、二人で一緒に居よう」
「はい。――約束です」


***


「……夢か」
 懐かしい――つい二か月ほど前の、彼にとって最も印象深かった別れの思い出を夢に見て、少年――ケイは、小さくため息を付いた。
 そのままグッと身を起こすと、自分が眠っていたのは自室のデスクの上であり、つけっぱなしの部屋付パソコンが煌々と輝く暗闇の中だったことに気が付く。
 のんきにも昼間から寝こけてしまい、夜になってしまったらしい。長い昼寝もあったもんだな、と、ケイは一人苦笑した。
「――ティア」
 次いでその口から漏れたのは、今は離れ離れになってしまった、大切な友人の愛称。たった二か月ほどしか経過していないのに、ケイにとってはまるで何年も前の出来事のようで、しかしつい昨日の出来事だったかのように思い出せる、不思議な思い出だった。
「やっぱり、君が居ないと寂しいや」
 それはさかのぼること、半年以上も前の話になる。夏休みに入る一月ほど前の学校に、彼女はやってきたのだ。
 星のきらめきをそのまま金糸にしたような、セミロングに切りそろえられた美しい金髪と、潤んだ虹彩を輝かせる翡翠色の瞳。美人と言うよりも愛らしい顔立ちと、幼げな顔が浮かべる人懐っこく愛らしい笑みは、クラスの男子たちを一瞬で虜にしていた。そう、ケイは記憶している。
 正直な話、あれほどの美少女は日本中を探そうとお目にかかれないだろう。そんな少女の儚げながらも気丈げな立ち振る舞いと、誰にでも分け隔てなく接する丁寧な態度を見ながら、ケイは彼女と友人に慣れたらどれほど楽しいかと、漠然と考えていたのだ。


 果たして、その願いは意外な形で叶うこととなる。
 本当ならば隣同士の席、ということ以外の接点もないまま、ただの知り合い程度の認識で終わっていたはずの繋がりが、何の因果かケイを気に入ったティアによって、再び強固につなぎ直されたのだ。
 それ以来、二人は様々な場面で行動を共にする、名実どもに友人の関係に収まることとなる。ケイにとってもティアにとっても、その境遇からまともに友人と呼べる人間が居なかったこともあり、意気投合した二人が互いを親友と認識するのは、そう遅いことではなかった。
 一時期は恋人同士と間違われ、二人で必死に否定したりもしていた――実際のところ、ケイとしてはまんざらでもなかったのだが――のも、今では良い思い出の一つである。
 しかし、そんな少女は二か月ほど前に、家族の都合で故郷の地へと帰って行ってしまった。
 別れ際、彼女が少しだけ涙ぐんでいたのを、ケイはしっかりと覚えている。だからこそ、再開の約束を互いに結び合い、二人の友情を固く確かめ合い、涙を見せずに別れていったのだ。
 ――思い出は美化されていくものだと、そう言ったのは誰だろう。益体もないことを考えながら、ケイは立ち上がって一つ伸びをすると、夢に見た過去の残滓を振り払うように身を震わせてから、自室として使っている学生寮の部屋を出た。


 懐から、学校支給の機能限定版スマホを出して確認すると、時間的にはすでに学食の時間は終わってしまっている。幸いにも購買に関しては営業している時間だったので、ケイは軽食を買って晩を済ませることにした。
 正直なところ、午睡と夢のせいか意識してもほとんど空腹を感じなかったので、あまり学食でがっつり、という気分にもならなかったのが、ケイの本音だ。
(……なんか、食べるものあるかなぁ)
 敷地内に敷かれた、街灯輝く石畳の道を歩くすがら、ふとケイは不安を脳裏によぎらせる。遅くまで開いている購買は、それだけ学生たちの利用も多い。ピーク時こそ沢山のものが置いてあるが、その時間を過ぎた現在、果たしてケイのお眼鏡にかなう商品があるのか、と言うのが、ケイの不安だった。
「ま、なんなりとあるだろ」
 ひとしきり不安の種を思い浮かべてから、ケイは大雑把にそれらを頭の中から追い出す。うじうじ悩んでもしょうがないし、何より不安が杞憂であることも往々にしてよくあるのだ。なんとでもなる――と考えたところで、ケイはふと目の前から歩いてくる「なにか」に気が付いた。
「……ん?」
 それは、まるでそれ以外の形容の仕方を必要としないと言わんが如き姿を――「影そのもの」の様な、そんな異形の姿。日ごろから見慣れている、真っ黒い影がそのまま立体物となって、人の形をしたまま移動していたかのような、そんな漠然とした不気味さと異常さを、はっきりと周囲へと放っていた。
 当然、そんなものを見たケイの歩みは、たたらを踏んだように停止する。その影の正体が何かを探ろうと目を凝らすよりも前に、ケイの背筋を冷たいものが駆け抜けていったのだ。
 悪寒のせいか、ケイの足がゆるりと後ろにずり下がる。その行動を読んでいたかの如く、黒い影は滑るように前へと――ケイの方へと歩を進めた。
(――――ヤ、バい)
 ひきつる表情筋が、こわばる身体が、けたたましく警鐘を鳴らす第六感が――全身あらゆる全てが、かかわるべき現象ではないと全力で訴えかける。そのままぎこちない動きで後ずさると、再び影はケイめがけてゆるりと動いた。
 よく見ると、人型の影はこちらを向いており、その顔に当たる部分には、目と思しき二つの光点がぼんやりと浮かんでいる。――まるで、光に照らし上げられた血の様な、粘っこく暗い深紅の色をした二つの光点。それは紛れもなく、ケイのことを見据えていた。
 本能的に、足がすくんでしまう。同じところがけたたましく警鐘を鳴らしているのに、別の部分がまるで凍り付いてしまったかのように、身体への指示を妨げていた。
 どきり、どきりという心臓の鼓動が、痛いほどに耳へと響く中で、しかし体の末端から闇が這い上がってくるかの如く、感覚が遠のいていく。得体のしれない恐怖を前にして、ケイは行動するという概念を奪われたかの如く、動くことができなくなっていた。
 逃げないと。
 逃げないと。
 逃げろ。
 逃げるんだ。
 

 逃げろ!!
 頭の中で響く、もう一人の自分が発した叫び声で我に返ると。


「              」
 ケイの視界はすでに、底のしれない深い黒と、両目を覆わんと言うかの如き至近距離まで迫った、赤黒い二つの光点で埋め尽くされていた。
「ぁ」
 何か、何か行動を起こさなければ。うるさいぐらいに訴えてくる本能の声が、うすらと消えていく。同時に、視界の端でいまだに見えていたはずの夜の風景も、いつの間にか消えていた。
 意識が、視界が、自我が遠のいていく。今から自分の身に起こることがなんなのか、ケイには知る由もない。しかし、恐怖でおかしくなってしまったらしい自意識の部分は、どこか諦観したような姿勢を見せていた。
(あー……俺、死ぬのかぁ)
(人って、死んだらどうなるんだろ)
(死ぬのはまっぴらだったんだけどなー……)
 だからかもしれない。途絶えかけの意識の端で、なんとものんきな心境でそんな間延びしたことを考えることができたのは。


《――見つけたぞ》
 だからかもしれない。薄れて消えていく自我の中で、まるでもう一人の自分が語り掛けてきたかのような、自分とよく似た声を聴きとれたのは。



「――――ケイ君っ!!」
 だからかも、しれない。
 途切れてしまいそうな全身の感覚が、浴びせられた懐かしい声を――居るはずのない声を、あるはずのない可能性を手繰り寄せたことを、知覚することができたのは。


 まだ、彼は知る由もない。
 自らに宿った力を。
 己が背負い続ける因果を。
 世界が繰り返している輪廻を。
 紡がれ続けた一つの物語を。
 その主役が、自分であることを。


 今まさに、彼の中にある、動くはずのなかったさび付いた運命の歯車は、軋みを上げて動き始めたのだ。
 それがやがて、世界と世界が繰り返す輪廻を、大きく変えることになることになるとは、誰も知らないままに。



 Phantasy Star On-Line 2 The Another History
  Over Border Warrior


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と言うわけでこんにちはー。久しぶりにPSO2小説を描こうと思ったら、殊の外詰まりまくって投稿が遅れてしまったコネクトにございますー。
設定ばっかり先行すると、少々書きづらくなるのはいつものことですね……こうならないよう精進しないと。


と言うわけで、今回より堂々と、新小説「PSO2異伝 Over Border Warrior」の始動を宣言いたします!
本来は完全オリジナルのストーリーを展開する予定だったのですが、コネクトとサブキャラのシューティアにあてがっていた設定が全面的に削進されたので、それに合わせて小説の方も新たに作成し直し、新たな物語として再始動を行うことになりました。それがこのOBWです。


本小説のコンセプトは、ズバリ「原点回帰」。
かつてコネクトが作成した、PSO2小説の原点となる二次創作小説「カルカーロの戦士たち」で、軌道変更される以前に予定していた「メインストーリーを独自解釈と一緒に追う」ということを念頭に置いて作成することとなります。
リメイク以前の小説にて、意味ありげに登場したシオン(文章)とかは、まさしくストーリー追走の為に出したものです。その当時はストーリークエストなんてロクにやっておらず、シオンとマタボしか記憶に無かったので、あんな形になりはしましたがねw
で、本作はそんなリメイク以前の最古のカルカーロをオマージュしつつ、コネクト独自解釈の元でガンガンとストーリークエストを攻略?していく方針です。カルカーロと同様、コネクトをはじめとしたたくさんのプレイヤーも登場する予定ですので、もしコネクトと懇意にしているフレンドさんは、登場を楽しみにしてくださいませ。……え、出すなって? そこはコネクトさんの気分ですのであしからず。


ちなみに、サブタイトルであるOver Border Warrior(オーバー・ボーダー・ウォーリア―)は、意訳すると「境界を超える戦士」。
今回のコネクトの境遇と重ね合わせたサブタイであり、同時に今のところ予定しているEP4の小説にもかかるタイトルになっております。考えるのに一週間ぐらいかかりましたw


と言うわけで、今回はここまで。
次回は再会、そして本当のプロローグの始まりとなる、ナベリウスの修了試験へとつながることとなります。もしかするとそこまではいかないかもしれませんが、その時は悪しからず、と言うことで。
それではまた次回会いませうー ノシ