コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

最近はネタがよく浮かぶ。(学園)

またまたどうも、コネクトにございますよっと。


今回はセツが度々口にしている「world saver」がようやく
登場します。
どういう組織かは前回に解説したので、次は大筋の目的とかですかね?
では、更新GOGO!


*********


1章第2幕
  第7話 護る者たち  by6/19


「今度の土曜、空いてるか?」
突拍子もなくそんな発言が飛び出たので、びっくりして思わず硬直してしまった。
この少年――名をセツというが、ときたまそんな奇妙な行動に出ることが多い。と思う。
そんな思考をコンマ3秒ほどで纏め上げ、声をかけられた本人、ユウが口を開く。
「は、はあ。空いてますけど……」
現在、部活にてタイマン勝負の真っ最中。
セツとユウは、リクたちの勝負をのんびり観戦していたところだった。
「ならよかった。……ちょっと、行く所があるんだ」
すこしだけ真剣な顔をして話し出すセツを、ユウが見やる。
「この前、セーバーがどうとか言ってたろ?
…そこから、召集がかかったんだ。さらに、お前たち…ユウとリクをつれて来い、って」
セーバーの事は、セツの口から何度か聞いたことがある。
けっこう機密的な組織だと解釈していたため、そんなところに
自分たちが呼ばれるというのは予想外にもほどがあった。
「原則として、セツ、ソウ両名が随伴すること。随伴が見受けられない場合、
半強制的に当局にて保護する、だとよ」
つまり、セーバーではセツたちに同伴してもらわなければつかまる、といった具合だった。
「わかりました。……えっと、集合とかはどこですか?」
「そうだなー…、じゃ、ソウエン駅の前、朝11時あたりで頼む」
「はい」
自身の頼みを引き受けてくれたことに満足したらしく、セツがうれしそうに頷いた。



―*―*―*―*―*―*―



約束の日。
やはりというか、一番にセツがやってきた。
続けてソウが合流し、ほどなくしてユウたちもやってきた。
6月の半ばあたりという中途半端な天候の時期だったので、
全員服装がまちまちである。
(具体的には、セツが紫チェックの上着に黒いハーフパンツ、
ソウが黒い半そでに濃紺のボトム、
リクが茶色い薄手のジャケットとクリーム色のズボン、
ユウが水色チェックにデニムスカートといった具合)
「じゃ、行きますかね?」
そういいつつセツが向かったのは、なぜか駅の入り口とは違う方向。
「おいセツ、そっち駅じゃねえぞ?」
そんなリクの問いかけに対する返答は、
「こっちなんだよ」
の一言のみだった。



駅から少し離れた所にある公園に入り、そのままずんずん進んでゆく。
セツが何も喋らなくなってしまったので、必然的に三人も黙り込んでしまっていた。
そうこうしてるうちに、セツが敷地内にあった古い倉庫のような場所に入っていく。
なぜこんなところに?という疑問はあったが、ソウも入っていったので
何も言わずについていった。
しかし、倉庫の中にはほとんど何もなく、セツが中央に立っているだけ。
怪訝に思いつつも、二人はセツの近くに行くべく歩み寄る。
「全員いるな?」
こちらを向いたセツに、三人が頷く。
「じゃ、ちょっと固まってくれ。ここからセーバーの本部に行くから」
またまたぶっ飛んだことを言うこの少年。
文句を言いかけたが、ソウに引っ張り寄せられたのでやめた。
「大丈夫か、ソウ」
「ああ」
短い返事にセツが頷くと、自分も近くに寄る。
「お互いつかみ合っておけ。ばらけたらいろいろまずいからな」
そういいつつ、モール以来の蒼い炎を発生させる。
「『蒼炎光波』、ユークリッド・ジャンプ!」
セツの一言で、その場にいた4人が、消えた。







「……っと。ついたぞ」
ユウたちの意識が戻ったのは、それからすぐのことだった。
(そう感じるだけなのかも知れないが)
そして目前に広がるのは、前方の視界ほとんどを埋めるかのような巨大な建物。
「おわっ……なんだここ?!」
その巨大さは、リクの驚きが物語っていた。
すこし固まっていると、セツが前に出てきた。
「…ここが、目的地だ。政府非公認だけど、一応の保障はある。
いわば俺たち異能者の前線基地ってとこだな」
その説明の中に、どこか引っかかる部分があった。
ユウが、その部分を指摘する。
「あの、政府非公認って言いましたけど、ここって日本国内なんですか?」
「ん、ああ。幸田山脈って知ってるか?そこの中腹にある」
幸田(こうだ)山脈。ユウたちのソウエン市からはそこまで距離のない、といっても軽く2県ほど
通り越さねばならない場所にある比較的低い標高の山脈である。
セツの話では、今はその山の中腹にいるらしい。
「聞いたことはあるけど、なんで公園からこんなとこまでこれるんだよ?」
まったくもってそのとおりだったが、続くセツの言葉で丸められる。
「俺の持つ異能『蒼炎光波』は、戦闘とサポート両方を兼ねた万能タイプだ。
さっきやった『ユークリッド・ジャンプ』ってのはそれの一環で、
目的地に瞬間移動できるっていう優れモンなのさ。まあその代わりに、数十分の間は
蒼炎が出せなくなるデメリット付だけどな」
そこまで説明すると、くるりときびすを返して、目の前にある馬鹿でかい建物のほうに向かう。
「あれの中でお前らを待ってる人がいる。来てくれ」
異能の一言で片付けられたことに少々不満を持ちつつも、リクたちはセツに続いた。




「そういえばさ、異能者ってどのくらいいるんだ?」
施設の長めな廊下を歩く最中、リクがそんなことを言い出した。
「そうさなあ……。世界規模で言っちまえば、総人口の4割にもみたねえかもな」
意外と少ないなと思うが、冷静に考えれば世界の4割近くというのはすごいものである。
「でもって、そのなかで日本人はだいたい6割を占めてる。
最初に見つかって広まったのは日本だからな。一番開花した奴が多いのさ」
日本が発端というのは初耳だ。ユウとリクはへえ、という顔になった。
「っと、無駄話してる間に着いたぞ。ここが……」
セツが言葉を切ったので、何事かと出口を見やる。
「んなっ…………!」
「おお…………!」
そして、そこに広がる光景に驚いた。
無理もない。外から見れば小さいのだろうが、広大とも呼べるほどに巨大な「町」が
広がっていたのだから。
「…ここが、異能者の前線基地兼収容所『セイバーズキャンプ』だ。
ほぼ半数の異能者は、ここで生活してるんだ」
説明しつつまた歩き始めたセツに、あわててついてゆく。
「政府非公認だけど、異能者も人間だ。まだ発現が不安定な奴とか、開花寸前の前兆で
生活に支障をきたしていた奴を保護する目的で、ここが立てられたんだ。
当然の話だけど、ココにいるのは全員が異能者さ。お前たち含め、な」
そうしながら歩いていると、突然声がかかった。
「おお、コネクトだ!久しぶり!!」
「ん?……おお!ウォーズじゃんか!久方ぶりだなあ。帰ってたのか!」
「ああ、一人前の異能者としてね!そっちはどう?」
セツがウォーズと呼んだ少年が、笑いながらセツに話しかける。
「今日はちょっとした用事だ。客人を連れてる」
セツが親指で後ろの二人を指し、ウォーズがそちらを見やる。
「へー、コネクト彼女いたんだ…あいてっ」
ウォーズの冗談に、神速のごとき勢いで突っ込みが入れられた。
バーロ、ちげえよ。高校の友達兼開花前コンビさ」
「へえ、そっか」
雑な紹介に会釈を返し、その少年が自己紹介。
「始めましてですね。俺はウォーズ・ニトロビット。
雷の異能者として暗躍さして貰ってます。で、ここのコネクトとは中学の友達です」
セツは顔が広いな、と思いつつ、自分たちも挨拶を交わす。
「そういえば、セツに対して礼儀正しいよな。なんで?」
「まあ、普通に一つ上の先輩ですし、普通じゃないすか?」
なるほど後輩だったのか。リクがすごく納得した表情を作る。
「着いてっていい?てか暇だしついてかしてよ」
「んまーええけどさあ。邪魔するなや?」
「アイサー!」
結局、ウォーズという少年もついてくることとなった。
「そういやあさ、コネクトは今何してるの?」
「俺?フッツーに高校生。そういうウォーズは?」
「バスターとしてやっていこうかなって思ってる。一応ランクは高いし、
ライセンスも発行してもらったしなー。いいやろ?」
「いやいや、俺もライセンス持ってるし?」
「ウソや?!いつとったん!」
「アホか。俺が一番最初にライセンスとったんやろが」
「そんなんもう期限切れかと思ったよ」
「ボケが。初期ライセンスは無期限やっちゅーに」
「あ?そうやったっけ」
「一期生からやり直しとけ煩悩め」
バカ話に花が咲いてしばらく。町の一角にあった「市長邸」と小さく書かれた一軒の家に着いた。
「…ここ、市長の家なんですか?ずいぶんと小さい気が……」
「なかに仕掛けがあるんだよ。普段は立ち入り禁止ってことで、市長邸ってことになってる」
ユウの質問に即答し、インターホンのようなものにセツが声をかける。
少しすると、機械的な音を立ててドアが開いた。
「入ってくれ」
セツに促され、4人が中に入る。
本人も入ると同時にドアは閉まり、中はぼんやりとした明かりだけが灯す。
「セツ、なんでこんなとこに用があるんだよ?」
「まー、もうちょっと待っとけ。すぐ終わるよ」
会話が切れると同時に、スピーカーから声が流れ出した。
《…全員の認証完了。コネクト、コルト・ソーコム、ウォーズ、客人2名確認。
総帥権限により、通行を許可します》
声が途切れると、目の前にあった入り口とは別のトビラが静かに開く。
そして、その奥にあるデスクに人が座っていた。
「お久しぶりです、総帥。こうやって面で会うのは3ヶ月ぶりですね」
急に丁寧語でその人物に挨拶すると、ユウたちに手で「前に出ろ」のサインを送る。
全員が前に出て並ぶと、目の前にいた人物が立ち上がり、こちらを向いた。
「ようこそ、セイバーズキャンプへ。客人の来訪を歓迎しよう」
年食った要望の厳つそうな男性が、渋い声で挨拶した。
「ワシはworld saver総帥『アストレア』。総帥のとおり、ここの実質的なリーダーをやっておる」
「ちなみに、この方の名前もコードネームみたいなものさ。
人の生活を維持するってことで、『正義』の意味でアストレアだ」
セツが説明を付け加えると、アストレアと名乗った男性も満足げに頷いた。
「……ええと、星川君に陸道君だったね。大体はこやつから聞いておるよ」
「あ、はい。…じゃ、改めて。私は星川 優。そこまで知ってはいませんが、
セツさんいわく異能者だって…」
「俺もです。えっと、フルネームは陸道 真二です。大体の人からは、リクって愛称で
呼ばれています」
挨拶すると、また満足げに頷いた。
「……さて、顔も見せてもらったからな。ここでよしとしようか。
コルト、ウォーズ。二人でキャンプを案内してやりなさい」
「「了解です」」
「じゃ、こっちきてくれ」
「あ、ああ……」
案内ということで、ユウとリクはキャンプの町へと連れて行かれた。
セツだけが残ってしばらく、沈黙があたりを満たした。
「さ、コネクト君」
「ええ。…彼女の異能の件ですね?」
「うむ。…いったい、どのようなものだったのだ?」
セツはあのときを思いだし、すべてを克明に喋った。
「……なるほど、『金色の炎』か…。たしかに、聞き覚えのない力だな」
「ええ。4年間ずっとここに所属していますが、そんなチカラ聞いたこともありません」
「同じくな。創設当時からずうっと、いろんな異能者を育ててきたが
そんな事例は初めてだな。みたことも聞いたことも、噂になったこともない」
二人そろって首をかしげる
ふと、そのときのことを考えていたセツが、何かを思い出した。
「そういえば、そのときにいたボスの風使いが何かを知っていたようでした」
「本当か?して、その男はどうした。逃げたのか?」
その言葉を聴いて、セツが少し苦い顔を浮かべる。
「そこなんです。……実は、その異能を発現させた彼女が、そのときは暴走に近い状態だったんです。
そのまま、奴を焼き倒してしまって」
「焼き倒しただと?その異能使いをか?」
倒したという表現に、アストレアがびっくりしたようなそぶりを見せる。
「は、はい。……?そういえば、異能はランク1からしか開花しないはず……」
セツもその話の矛盾点に気づいた。
というのも、開花したときは異能のランクは最低の状態。
威力は伴ってはいるが、人体に影響が出るレベルではないはずなのだ。
それをランク1で……しかも跡形も残さないほどの威力が出たというものだから、
今までの常識は覆される。当然、両方とも驚くわけだ。
「……ともすれば、結論は2つだな?」
「はい。…今までの常識が覆されるか、彼女が異能を隠していたのか。
…厳密に数えればもう一つ、可能性はありますね」
「…………あのようなやさしそうな娘を、こちら側に巻き込みたくはないのだがなあ」
アストレアが、しわがれた声で遠くを見た。
「同意です。…自分としても、できたばかりの友人を厄介事に巻き込みたくはないです」
セツが、悔しそうに目を伏せる。
そのまま沈黙が続き、少ししてからアストレアが話しかけた。
「とにかく、状況が状況だ。君には引き続き桜流に居てもらうことになるだろう。
まだ開花前の連中は、山ほどいるのだろう?」
「ええ。特に今、錬斗という少年が発現させたという噂がささやかれています。
そちらの調査や、発現が確認された雪原という人物への説明もしなければいけませんし、ね」
あえて無感情に喋っていると、
「あたしなら、ここにいますよ」
突然、背後から声がかかった。
「!………雪原!?」
声の主は、今説明をしていた雪原 愛その人だった。
「ふふ、びっくりした?……説明なら、もう受けたわよ」
「え……どういうことだよ!?」
「そっちについては、おれからだ」
今度は別方向の扉から声がかかる。振り向いて視界に入ったのは、特徴的な銀の髪。
「………………焔っ?!」
そう、焔 銀二。数日前からセツたちの前に現れなくなっていた、二人の友人。
「…まさか、最近学校で会わなかったのって……?」
「そうだ。単純思考のお前だろうから、お前らを避けていたと思ったんだろうが…。
おれらはあくまでも異能者だ。だから、当分はここにいる予定だ」
ため息を吐きつつ、ギンは説明した。
「……なんだ。嫌いになったわけじゃなかったのな」
あまりに唐突な再開だったため、つい口調がいつものものに戻ってしまった。
あわてて咳払いするセツを、ギンは冷めた目で、マナは笑いながら見ている。
「さて、コネクト君。ここからが、ワシからの本題じゃ」
苦笑を浮かべつつ、アストレアがこちらを向くよう指示する。
「ギン君……こちらでは『シルバー』だね。彼はともかく、そちらの新人の子は
ライセンスどころかコードネームさえないのだ。何せ急な入所だったからね。
というわけで、彼女のコードネームを考えて欲しいんだ」
「……俺が、ですか?」
そんなことを言われるとは想定外だった。セツが目を丸くしている。
「うむ。異能の名称も大半が君の案だからな。君なら、彼女にあうネームをつけてくれるだろう?」
そんなことをいわれても、とでも言いたげな顔でセツが数歩後ずさる。
しかし結局あきらめた様子で、顎に手を当ててうーむ、とうなり始めた。
やがてたっぷり二分がかかろうかというくらいの時に、ようやく口を開いた。
「…『ブリザード・アサシンエッジ』。能力のほうは大体把握してましたので、それが由来です」
その病的にも思えるネーミングセンスに、しかしアストレアがふむ、とうなった。
「よいじゃないか。……というわけで、雪原君」
「はい」
「君は今から『ブリザード』だな。改めて、よろしく頼むよ」
「ええ、精一杯尽くさせてもらいます」
今日から名が変わる少女と総帥の老人が、かたい握手をかわした。



二人が退出してすぐ、アストレアが冗談めかした声でセツに話しかけてきた。
「……しかし、コネクト君。きみはつくづく、可愛らしい女子に恵まれているなあ」
「総帥、冗談きついですよ……?リアさんといいプリズムといい、
一人で教育するには手に余りますよ」
はは、と疲れた顔で笑う。
「しかし、その割にはずいぶんとご満悦そうな目だったじゃないか?」
「…そういう総帥も、さっき雪原のスカートの裾見てにやけてたじゃないですか」
「あいや、あれは不可抗力じゃないか。ほら、男というのはそういうものだよ」
違うと思うなあ、と内心つっこみつつ、話題の転換を図る。
「そういえば、星川と陸道両名の扱いはどうするのですか?」
「おお、そうだった。うっかり忘れていたよ」
よる年波には勝てないな、と付け足しつつアストレアが話を戻した。
「結論から言えば、今後は君の元で指導してもらいたい」
「え?…お、俺…違った、自分の下で……ですか?」
突然すぎて気が動転した。あわてて取り繕いつつセツが問いかける。
「ああ。君達は、同じ学校の同じクラスだろう?だったら話は早いよ。
君にはO−ライセンスがある。できるさ」
「は、はあ…………」
反論しようとは思ったが、アストレア本人からの依頼を断るわけにもいかず、
結局承諾してしまったセツだった。


―*―*―*―*―*―*―


「あれ、なんですか?」
ところ変わって現在キャンプ探検中のユウ一行。
ユウが指差したのは、無機質なメタルグレーが輝く建物。
「あー、あれは学校ですよ」
答えたのはウォーズである。淡々と説明を続ける。
「ここに収容されちゃったら、当然学校に通いながら、なんてワケには行かないので
あの建物で一括して教育を行っているんですよ」
「なるほどなー。…にしても、ホントいろいろあるんだな、ここ」
リクが関心した横で、ソウが説明を開始する。
「まあ、いくら非公認といえど世界唯一の組織だしな。ここがなければ、異能者は多分
差別対象になってたと思うぜ」
それだけ重要な施設に自分達がいていいのかという疑問があったが、そもそも
今回は向こうから呼び出してきたのだ。問題はないのだろうと多少強引に納得した。
「にしても、コネクト君戻ってきいひんなあ?」
「あー。総帥と話がうんたらかんたら言ってたけど、なんなんかね?」
などのんきにソウとウォーズが話していると、目の前に人影。
「あれ、セツさん!」
それはユウの反応どおり、コネクトことセツ本人だった。
「おー、お帰りセツ!」
「お疲れー」
「カツカレー」
「コルソー、こんなとこでボケるな」
帰ってきて早々、力なくセツが突っ込む。
「ごめんごめん」
からからとソウが笑う。
「何してたんですか?」
「いやあ、さっき会ってもらったあの総帥とブリーフィング」
先ほどまでの状況を一言で説明すると、またくるりと別のほうを向く。
「用事も無くなったこった。そろそろ帰るか?」
セツの言葉にユウとリクが互いを見合い、セツに向かってうん、頷いた。
そして続くセツの言葉は、二人の予想を裏切った。
「コルソー、頼まれてくれ」
「おk。じゃ二人ともついてきてー」
最初ココに来たときのように異能を使うのかと思いきや、今度は普通に帰るという。
「えっ…ソウエン、かなり離れてますけど?」
「大丈夫よ。転送装置あるし」
さらっと凄いことを言いつつ、ソウは二人を押していった。
「じゃ、僕もこれでー」
「あー、乙ー」
ウォーズとも会釈を交わし、そこでセツは一人になった。


やがて数分歩き続け、すこし狭い路地手前のところでセツは停止した。
「……プリズム、いるんだろ?でてくりゃどうだ」
不意に、そのままの体勢でセツが声を出した。
その言葉に反応し、すぐ後ろにあった建物の陰から誰かが出てきた。
「やー、見つかっちゃいましたかー」
出てきたのは、黒く長い髪をふんわりとしたポニーテールにまとめた少女。
その目は光の具合により微妙にチラチラとひかり、まるで万華鏡のように輝いている。
身長から判断して13,4程度に見えるが、ユウよりも幼さを出すその顔のせいで
実際はもっと幼いんじゃなかろうかという錯覚さえ覚える。
「つけるくらいなら堂々顔出せっつーの」
「えへへ、ごめんなさい」
プリズムと呼ばれたその少女は、小走りでセツの元に駆け寄る。
セツは仲間内でも身長が高かったほうで、もともと普通よりちょっと低いくらいの彼女が並べば
かなり身長に差があった。
セツはプリズムのほうに向き直り、右の手をぽすっ、と彼女の頭に置く。
兄が妹にしてやるように、自然な感じに。
「そうだ、先輩聞いてください!私、ライセンス取れたんですよ!」
プリズムのほうもまた、兄に甘えるような感じでセツに話しかける。
「へえ、よかったじゃんか。あと何回も言うけど先輩って呼ぶな、この!」
先ほどまで撫でていた手をグーに変え、プリズムの頭にコツン、とぶつける。
「きゃあ、すみませーん!」
わざと痛がるようなそぶりを見せつつ、少女は数歩下がる。この様子だと、わざと先輩と言ったのだろう。
まったく、といった風な表情を作るセツ。
「その分だと、異能のほうもかなり強くなったんだな?」
「はい!セツさんに教えられたとおりにやってみたら、すぐに習得できました!」
「そっか、よかったな」
セツは、相手をほめたりするのは極端に苦手な人間。だから、何かを言うときは今のように
最低限の言葉だけ。
それでもそのニュアンスは相手に伝わっている。プリズムがうれしそうに顔を綻ばせる。
「それと、異能以外もいろいろ成長しましたよ!」
特に、と言葉を付け足して、自分の胸元を指差す。
それにすばやく反応し、セツが若干頬を上気させつつ怒鳴る。
「ばっ?!お前、そういうのは報告するなって言ったろーが!!」
勢いあまって手から蒼い炎が漏れ出す。その反応が面白かったのか、プリズムがさらに茶化す。
「…触ってみます?」
これにはさすがにカチンと来た。今まで踏み込んでいた体勢を直立に戻し、あえて冷静に言う。
「……お前がそうして欲しいっつうんならやってやるが?」
だが、彼女は以外に動じなかった。
「あはは、やっぱりセツさんも男の人なんですね〜」
「どういう意味だオイ」
また踏み込みかけたのをとりあえず抑えつつ、聞いてみる。
「だってセツさん、ほっぺ真っ赤ですよ?」
作戦が一気に狂ってしまった。まさかそんなところを突いてくるとは思いもよらなかったので、
内心セツは激しく動揺した。
「……ホントにしてやろうか?オイ」
ちょっと本音を出してしまったが、彼女を怯ませられるならむしろ好都合だ。
セツはそう思いつつ、右手を自分の胸の前に持ち上げる。
そして帰ってきた返答は、こう。
「やりたいならお好きにどうぞー」
まったく動じていなかった。それどころか、むしろしてくれ的な顔をしている。
ココまで来たらセツに逃げ場は無かった。チッ、と舌打つ。
「ったくよお……。んじゃ、お言葉に甘えて、と」
これが最後の策だった。ここで彼女が怯まなければ、本当に避け道が無い。
「…いいですよ、私はいつでも」
そして帰ってきたのは、無情の返答だった。プリズムが、目を瞑る。
内心でまた舌を打ちつつも、セツは手を伸ばした。


むぎゅっ。


「痛たたたたたたっ?!」
が、セツの手はプリズムの両頬を引っ張っていた。
「だれがんなことすっかバーローめ」
どうやら、あの返答さえもセツは読みきっていたらしい。
手をすばやく動かして頬をつねろうかと考えていたのだが、その前に目を瞑ってくれたのは
かなりありがたかった。
5秒ほどつねった後解放すると、プリズムが抗議の声を上げた。
「もー、セツさん!」
「何だよ」
いつもどおり軽めにあしらおうと思い、声から感情を抜く。
「…私は、あなたの妹ですよ?」
が、続く彼女の一言で不意を突かれた。思わず「はあっ?!」と感情を戻してしまう。
その間にも、少女は照れ気味に言葉を紡ぐ。
「…仮でも兄妹だって言ったの、セツさんですよね?
……その、兄妹だったら、スキンシップとかは、その、とっとかないと…あうぅ」
限界だったようだ。小さく縮こまって俯く。
セツは、もともとこの子の指導をしていたことがある。
長い間付き添っていただけに、二人は兄妹のような関係となっていたのだ。
そこでセツが、ある提案を持ちかけていた。
「仮だけど、俺らは今から兄妹だぞ。なんか困ったことでもあったら、兄ちゃんに言えよ?」
兄妹宣言をして以来、本当の家族同然に二人は付き合ってきた。
だが、まさかこんな踏み外した考えに至っていたとは。セツは頭を抱える。
「……俺が兄妹だっつったのは、あくまでも精神的にだ。
お前の負担を和らげようとして言ったことで、そういう意味じゃないんだよ」
そこで、落胆していたプリズムが顔をあげた。
「…最初から言っといて欲しかったです」
そのむくれた顔はすごく可愛らしくて、まるで本当の妹のようで。
「ひゃっ!?」
気が付いたら、なぜか抱きしめていた。
一瞬の思考停止が招いた。セツにとっての最悪の事態。
「うおっ、ごめんっ?!」
あわてて離れようとするが、どうしたものか全然手が動かない。
その様子を見て、プリズムが一言。
「…兄妹でなんて、セツさん強引ですねー」
「アホかっっ!!!」
セツのちょっと本気なチョップが、プリズムに直撃した。



―*―*―*―*―*―*―



「……おいプリズム、おきろ」
その後、セツはセイバー内の自室(といっても家具などはほとんど今の自宅に持っていってしまい、
あるのはテレビとベッドだけだが)でテレビを観ていた。
先ほどの本気チョップは見事に腹あたりに命中し、運悪くプリズムが気絶してしまったのだ。
そのまま放っておくと厄介だったため、プリズムは自室に運び込んでおいた。
そして今に至る、というわけだった。
何度か呼びかけてみたが、プリズムに起きる気配は無い。
「……帰るか」
そうつぶやくと、セツは立ち上がる。
女の子を一人でおいて帰るのは少々癪だったが、先ほどまでの状況がある。
セツ自身、さっさとこの子から離れたいと思っていた。
数歩歩いて部屋を出るためのドアに手をかける。
ノブに触れてまわそうと思った途端、異変が生じた。
するり、とノブから手がすり抜けたのだ。
「あれっ?」
少し驚きつつ、もう一度手をかけてみる。
だが今度はすり抜けるばかりか、ノブ自体が陽炎のように揺らいで消えてしまったのだ。
「…どうなってんだ?」
セツは不審そうにドアを見つめる。
そして今度は、扉自体が横にスライド。自動扉のように開いた先には、なんとコンクリートの壁。
思わず硬直した。自分は先ほどまで、出口の戸をあけようとしていたはず。
「…………!そうか、そういうことか…」
突然、セツが何かに気づいたそぶりを見せる。
そのまま振り返り、先ほどいた居間へ続く短い廊下をずんずんと進む。
そして目に入ったのは、あろうことか異世界のようなものだった。が、セツは動じない。
すぐさま元の部屋の家具の配置を呼び出し、規定どおりの場所に歩く。
停止した場所には一見何も無かったが、かまわずセツは手を伸ばす。
そして、何も無いはずの場所に、人の衣服の感触。
「みつけたっ!」
ギン!と目を見開きつつ、そこに向かって軽く拳骨。
「あいたっ?!」
不意に、そこから声がした。それと同時に、周囲の風景がゆがむ。
ぐにゃり、と視界が一瞬ゆがんだかと思ったら、そこは先ほどまでと変わらないセツの部屋だった。
そしてセツの拳骨の先にいたのは、ちょうど腹部にパンチを食らった格好のプリズムだった。
「……ったく、異能を悪用するな」
「はぁい…」
セツの駄目押しで、プリズムはしゅんとなりつつ頷いた。





「…いよっ!と。さ、着いたぞ」
そんなことがあったなど知るはずも無い三人は、転送装置を使いソウエン市に帰ってきていた。
「……すげえ。こんなことできるのかよ」
リクたちが使ったものは一方通行限定だったらしいが、ソウいわく「専用のシステムアシストを使えば
行き来は可能」なのだそうだ。
「なあ、ソウ」
「ん?」
「…常盤事変って、あながちウソの歴史じゃないと思うぜ?」
数日前に教えてもらった異能の歴史の中にあった「常盤事変」。
オーバーテクノロジーが使用されたという嘘は、実は本当のことなんじゃないだろうかとリクは思う。
「そうだなあ。言われてみれば、そうかもしれねえな……っと、メールだ」
ソウが納得していると、彼の携帯から軽快な電子音が響く。
「誰からですか?」
ユウが覗き込むと同時に、ソウが答える。
「コネク…セツからだな」
先ほどまで行動をともにしていたセツからのメールだった。
「なんて書いてあるんだ?」
「ちょいまち、読み込み中……っし、出た。…えーと?
『今ユウと一緒にいると思うんだが、明日那公園(あすなこうえん)で待ってるように言っといてくれ。
すぐにそっちに戻る』だってよ?」
どうやら、ユウに用件があるらしい。ユウとリクが顔をあわせる。
「多分、お前個人に用件があるんだろうな。メールにも『リクとソウはついてくるな』って書いてあるし」
セツがそんなことを言うのは以外だった。ユウがきょとんとする。
「っつーわけだ。俺らは先に帰っとくよ」
「あ、はい。わかりました」
それだけ言うと、さっさと二人でどこかに行ってしまった。





「……ここだな」
その後、ユウはセツとの待ち合わせ場所である明日那公園に来ていた。
中に入ってしばらく歩くと、ほとんど人がいない中に一人だけ突っ立っている少年がいた。
「セツさん!」
「…お、ユウか。悪いな、急に呼び出したりして」
突っ立っていた少年セツが、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「いえ、大丈夫です。…ボクに何か用ですか?」
それだけしか言っていないのに、急にセツが黙りこくった。少し不安になる。
「……セツさん?」
訝しげに問いかけると、セツの口がゆっくり動いた。
「…………今から、重要なことを言う。きちんと聞いてくれ」
「…?はい……」
その後セツは言うかどうか迷うようなそぶりを見せていたが、やがて決心したように顔を上げた。
「……さっき、俺がお前のこと『まだ開花してない異能者だ』って言ったろ?」
こくり、とユウが頷く。
「隠してたようで悪いんだが、お前、もう開花してるんだよ」
さすがに唐突な一言だった。一瞬、思考停止に陥る。
「……え、え?な、ええと、何言ってるんですか?私、この前言われた前兆に当てはまるようなこと、
ありませんでしたよ?」
「そりゃそうだろうな。……星川、よく聞いてくれ」
その真剣な面持ちに、恐縮しつつユウが頷く。
「お前の異能は、以前言ったどの異能にも当てはまらない、いわばイレギュラーな異能だったんだよ」
イレギュラー。本来存在しないはずのものを指すための単語が、自分に向けられる。
「…どういうことですか?」
「星川の異能が発現したのは、つい最近だ。…アヤセのデパートでおきた事件、覚えてるか?」
「はい。そりゃ、覚えてないほうがおかしいですよ」
訝しげな返答に、だろうなという顔でセツが苦笑を返す。
「あのとき、お前の異能がタイミングよく発現したんだよ。本人は覚えてなかったようなんで、
俺らもあえて言わなかったんだがな」
ユウ自身、その発言にはかなり驚いた。自分が?すでに異能者になっていた?
いろいろな考えが、頭の中を駆け巡る。
「…どんな異能か、知りたいか?」
まだ整理し切れていない頭で、ユウは頷いた。
「うっしゃ。……まずは、手を前に」
指示されたとおりに、手を前に突き出す。
「そのまま、まずは普通の炎をイメージするんだ」
ユウの脳内に、赤い炎が浮かび上がる。
「次、その色を変えるんだ。色は…………金色」
「へっ?」
変える色があまりにイメージと離れていたので、思わず思案を中断してしまった。
「おうおう、考えを停止させるな。ほい、も一度最初から」
促されるまま、ユウは思案を再開する。今度は、最初から金色の炎を思い浮かべて。
「イメージできたか?んじゃ、それを手から出すことをイメージ!」
目を瞑り、金色の炎がにじみ出る様を思い描く。すると、
「OK!今出てるぞー」
セツのうれしそうな声が上がり、ユウが目を開けたその先に。
「…うわぁ!」
自身の手の上で、金色に光り輝く炎が揺らめいていた。
「すごい!…これが、私の?」
「そう。今まで誰も見ることのなかった『金の炎』さ」
改めてセツに言われ、今度はなぜか喜びが沸いてくる。
「やっ……たぁーーーっ!!」
不思議な感情だった。前々からこういうのに憧れてはいたが、
いざ現実になるとこうも面白いとは思ってもみなかった。
「……さて、と。星川の異能発動はこれでとりあえずOKだな。…後は、名前だ」
名前?と思いつつ、セツのほうに向き直る。
「異能にはな、類似するものを除いて、それぞれに固有の名前があるんだ。
たとえば、俺の異能だったら『蒼炎光波』。コルソー…ソウのだったら『紅炎魔弾』って具合にな」
そういえば、以前の戦闘の最中にも異能の名前を叫んでいた気がする。
「他人の能力と明確な区別をつけるために、名前をつけることが義務付けられてるんだ」
「へー……。ボクのは、まだ決まってないんですか?」
「ああ。……もっとも、名前は決めてあるんだが、な」
決めていたのか、とユウが面食らう。
「聞きたいか?」
もったいぶるセツに向かって、大きく頷く。
「文句言うなよ?……『金色舞火女(こんじきまいひめ)』だ」
当て字が過ぎるんじゃないかとは思ったが、もともとユウはそんな感じのネーミングが好きだった。ので、
「それ、いいですね!」と素直に返答した。
が今度は、セツがびっくりしたような顔になる。理由は、本人からの返答で大体わかった。
「……今まで俺の病的なネーミングに、率直に良いっつった奴なんていなかったぞ?
お前、センスずれてるなー」
自分で病的と言ってしまっていいのかという疑問符が浮かんだが、そっちはとりあえず言わないでおいた。
かわりに、別の反論を返す。
「そんな事いったら、セツさんのセンスもずれてることになりますよ?ネーミングはセツさんなんですし」
うっ、と返事につまるセツをみて、ユウが思わず吹き出してしまった。
「るせー。俺は元っからこういうセンスだけなんだし、良いだろ別によぉ……」
最後が尻すぼみになっていたあたり、けっこう効いたらしい。
また吹き出しそうになるのを何とかこらえると、セツが先に口を開いた。
「っと、そうだ。大体わかると思うけど、人前では絶対に発動するなよ?ゴタゴタがおきると面倒だしな」
「ええ、わかってます」
短く了承の意を示すと、今度はこっちにこい、というジェスチャーが飛んできた。
セツがさっさと歩き出すのを、あわててユウが追いかける。
「どこ行くんですか?」
「ちょっと、な。…さっき会った総帥に、お前の異能の資料を送って欲しいって言われてるんだよ。
数枚写真撮るけど、いいか?」
最近よく頷くなあ、と思いつつ、ユウがコクリと頷く。
「サンキュ。…ポーズとかは適当でいいし、その辺に突っ立って金炎(こんえん)出しといてくれ」
「わかりました」



その後、セツが資料として(別の目的も否定できないが)使用する写真をとり終えたころには、
もう日は傾きかけていた。
近くに立つ周囲と比べると比較的大きめな木の葉が、わずかばかり赤く輝く。
「サンキュな、付き合ってくれてよ」
その辺の自販機で買ってきた適当なジュースを渡しつつ、セツが例を述べた。
「いえ、こちらこそ。……なんだか、現実のことなのに、実感がわきませんね」
会釈してそれを受け取り、プルタブをあけつつユウがつぶやく。中の飲み物を飲む間、セツが喋っていた。
「だと思うぜ。俺も、最初はそんなんだったからな。
…自分に超能力まがいの力がある?それを使える?笑わすな、っつー感じだったさ」
最近セツのお決まりになっている肩をすくめた体制になると同時に、くすっとユウが笑う。
「やっぱりベテランさんでも、そんな時期があったんですね」
「そりゃ、ないと別ベクトルで困るさ」
多少ぼかした――セツはこの独特の言い回しが常だ――表現に、またユウが笑った。
「んまあ、そのうち慣れるさ。……慣れたら、後戻りはできないと思うがな」
軽快な口調の裏に、ユウは何かの陰りを感じた。
「……戻れないって、どうしてですか?」
不意に、真横の少年がピクリと震えたような気がしたが、それは杞憂に終わった。
「こう見えて、結構便利だからな、異能って。一度その便利さを痛感すりゃ、多分わかるよ」
アハハとごまかすように笑ったセツが、ふと携帯を取り出す。
「…………もう4時あたりかー。星川って、この後なんか予定ある?」
セツに言われ、自分が脳内で記憶しているスケジュールを呼び出す。
別に優先する事項があるわけでもなかったが、これ以上セツに厄介になるのも少し気が引ける。
「すいません、朝インストールしてたゲームがやってみたいんで、今日はもう帰りますね」
そんな理由を述べたら大体の人は怒るのは目に見えている。
もっとぼかすべきだった、と思う前に、ユウの中の焦りは一気に吹っ飛んだ。
「そっかー。……なんのゲームだ?」
その言葉を真に受けてなお、セツは飄々としている。この人物がゲーム好きでよかったと感じたのは、
もしかしたらこれが初めてかもしれない。
「…えーと、ブレイヴハート・オンラインって知ってますか?」
自身も覚えきってない単語の羅列に、セツが数秒黙り込む。
「……聞いたことあるな。たしか、つい最近正式サービスが開始されたばっかの奴だろ?」
ブレイヴハート・オンライン。
つい数日前までは名前も知らなかったそのゲームに興味を持ったのは、昨日のことだった。
なんともなしにネットを巡回し、ふと思いついた適当な単語を打ち込んだとき、その文字列が
変換予測の欄に表示されたのだ。
興味本位で開いてみると、なんだか面白みのありそうなゲームだった。
生産スキルやら生活スキルやらは従来のMMORPGなどと大して変わらない仕様だったが、
ユウが惹かれたのはスキルなどシステム面のものではなかった。
理由は簡単。「世界観」に惹かれたのだ。
「ボクも詳しくは見てないんですけど、確か科学世界に突然魔法技術が確立されて……っていう、
面白そうな内容だったんで、つい」
「科学と魔法の融合、ねえ……。俺、そういうMMO好きなんだけど、世界観だけでだまされるなよ?」
いつもファンタジーまがいのことをしてるセツからそんな言葉が出たものだから、ユウは驚いた。
MMORPGっつーのは、個人の問題にもよるけど『ゲームのグラフィック』がだいじなんだよな」
「ぐらふぃっく?」
オウム返しにつぶやいたユウに向け、説明を続ける。
「一まとめにグラフィックって言っても、種類は多岐にわたるもんなんだよ。
たとえば、俺らの部でやってるFPS。あれは端的に言えば『3Dポップ調』だ」
「3D……立体画像ってことですね。でも、後ろのポップって言うのはいったい?」
そこだ、という風な顔でユウを見やると、また説明を再開する。長くなりそうだなあ、とユウが内心でつぶやいた。
「大体のゲームは3Dなんだけど、その中でも大きく二種類に大別されてるんだよ。
さっき言ったアニメっぽい作画のポップ調ともう一つ、現実世界みたいな絵のリアル調のふたつ」
「具体的には、どう違うんですか?」
「さっき言ったとおりだ。簡単に説明すれば、絵柄が違うってワケだ。
……たとえば、Xってゲームはポップ調のゲームだ。その中で出てきたドラゴンみたいなモンスターが、
可愛らしくデフォルメされたアニメっぽい絵…って、想像つくか?」
言われたとおりの構図を思い浮かべる。目の前には、ぬいぐるみみたいな外見をした小竜。
頷いて返事すると、セツが続ける。
「で、Yってゲームはリアル調だ。その中に出てくる竜は、鱗の一枚一枚が精密に描かれて…って、想像つく?」
さっきまでののんびりした世界を打ち消し、別の世界を思い描く。
次いで目の前に現れたのは、力強い四肢を持つ飛竜。
ゴオオ!と巨大な咆哮が耳をつんざき、その目を爛々と輝かす、恐怖さえかもし出す雄姿。
「イメージと違うときもたまにあるけど、そこらはスルーだな。…星川なら、どっち系がいい?」
うーん、と唸り、やがて結論が出た。
「……両方合わさったのが良いですね。キャラの等身とかはリアルで、顔とかはアニメチックで……」
自分の理想を2割と言い終わらないうちに、セツがそれを制止した。
「なら、そのブレイヴハートってのはお勧めだな。俺も始めようと思ってたんだけど、いかんせん
仲間内にMMO好きな奴いなかったからなー」
ゲーム内のキャラクターのように目を細め、顔文字のような顔を作る。
ちょっと滑稽な表情だったので、思わずユウがぷっ、と笑いをもらしてしまう。
笑うユウを少し眺めてから、セツが切り出した。
「今日の9時から、空いてるか?できれば、ゲーム内で合流しようぜ!」
「はい、いいですよ!」
今度は二人そろって微笑を浮かべ、手をパシッ!と打ち合わせた。





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終わりです〜w
前半はセイバー関連の話でしたが、後半はもう趣味全快になっちゃいました(ω`;
次の話ももう考えてありはしますし、あとは気力の壁が問題(ry
ではでは ノシ