コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

アイラanotherstory―獅子を狩るモノ―


episode3 交戦


「おぉ、生きてたか小絵島!!」
「お前、どこ行ってたんだよ!心配したんだぜ俺らー」
友人たちの手厚い歓迎を受けながら、俺は教室へと滑り込んだ。
すでに恵介がなくなっていたことは知らされていたようで、教室に少しばかり沈痛な雰囲気が漂っているのが感じられる。
軽く挨拶を返すと、すぐに質問攻めにあってしまった。
「なぁ、小絵島は恵介と一緒にいたんだろ?」
「あいつ、なんで死んだんだよ?」
「お前が殺したんじゃないよな?な?」
「―――ひとつずつ話すから、とりあえず座らせてくれないか……」



結局、昨日の出来事は子細もらさず話すことになったが、そのほうが恵介も浮かばれるだろうと考えていた。
なにせ、俺という人間の命を救った、恩人なのだ。ただ死んだだけというのは、あまりに寝覚めが悪い。
「……あいつが死んだのは、俺のせいだ。ごめん」
ほぼ自動で、頭を下げる。悔しさから来た衝動的な行動だったが、それに驚いた仲間は必死に俺を励ます。
「……お前が気に病むことじゃないさ。あいつがあいつなりに動いた結果だ」
「そうそう。ケースケはヒーローなんだ、そのヒーローに助けられたんだから、胸張れよ!」
仲間たちの激励が、胸を刺す。励まされるほどに、俺の罪悪感はひしひしと増してくる。
仲間に励まされるほど、俺は善良な人間じゃないのに。
そんな状況を破ったのは、一つの声だった。
「……小絵島彰、だね?」
名前を呼ばれ、反射的にその方向を向く。
そこには、小柄な少年がいた。灰色がかった白い髪、服装自由のこの学校でも似つかわしくない、丈の大きなパーカーとズボン。
何より目を引くのは、妖しくきらめくアメジスト色の瞳だった。
こんな奴いたっけなと考えながら、「そうだけど」と言葉を返す。すると、またも予想外の言葉。
「彰に、話したいことがある。昼休み、屋上で待ってるね」
それだけを伝えると、少年はそのまま教室から出て行ってしまった。
「……だれ、あいつ?」という仲間の答えには、
「さ……さぁ」としか答えられなかった。


―*―*―*―*―*―*―


昼休みのチャイムが鳴ると同時に、俺は件の屋上へと向かった。どうにも、彼―――先ほどの少年の言葉が、耳に残っているのだ。
何か意図がある。そう感じた俺は、その意図を直接聞きだすため、屋上へと直行している。
校舎は三階構造で、俺たちが授業を受ける教室は三階の階段近くだ。ゆえに、授業終了と同時に屋上に行けば、先回りができるという
なんとも子供じみた考えからくる行動だった。だが。
「や、はやいね?」
そこには、手すりに腰かけてこちらに会釈する、件の少年がいた。
「―――まず、名乗ってもらおうか」
そっと息をのみながら、俺はそう告げた。用件を聞くときは相手の名前を聞いてから、という言葉を思い出す。
「名乗る必要はないよ。すぐに、彰はわかる」
何を言っているんだと口走りかけたその時――突如、少年の顔が歪んだ。
溶け崩れるように形をなくした顔は、すぐに別の形に再構成されていく。その様を、ただ茫然と見つめる俺。
はたから見たらかなりシュールな光景だが、実際問題反応に困るからどうしようもない。
それと同時に、くすんだ色の髪からも色素が抜け落ち、さらさらとなびく雪のような髪に変化していく。
最後に顔が元に戻り、アメジスト色の瞳が光を取り戻したところで、ようやく俺は口を動かせた。
「――――ま、り?」
目の前に現れたのは、まさしく真理本人だった。真っ白な髪を手ですかし、ふうと一息つく。
「うん。4時間ぶり、彰」
紫色に輝く瞳が、柔らかなハイライトを瞬かせる。その笑顔が、とてもまぶしい。同時に、そういえばと思い出す。
今日の早朝、寝ぼけ眼をこする真理に衣服として貸し出したのが、現在彼女が来ている灰色のパーカーとズボンだったのだ。
その時点で気づけよと自分に突っ込みつつ、真理に向かって口を開く。
「……今のが、伝えたかったことか?」
反射的に、そう問いかける。昨日と同じように、真理はこくとうなずいた。
「そうだよ。ADVを体に持つ人は、ほんの少しだけだけど、姿を変えることができるんだ。死ねないから、退屈しのぎなんだって」
「どういうしのぎ方だよ……」
呆れ半分関心半分で、ライオハンターの製作者に向けて愚痴ってやる。いまごろどこかでくしゃみでもしているだろうと
ちょっとした愉悦に浸っているとき、それは起きた。
町一帯に、けたたましい警報が鳴り響く。同時に、遠くから届く、地響き。
「「―――っ!」」
二人で反射的に、空を仰ぐ。ほぼ同じタイミングで、警報は声に代わる。
≪緊急連絡、緊急連絡!市内一帯に、特ファンタズマ警報が発令されました!ファンタズマの移動速は中速!市民の皆さんは、なるべく
迅速な非難をお願いいたします!繰り返します……≫
まさか、という声が、頭の中で響く。昨日の今日で、ファンタズマはすでに二体目だ。だが、こうも短い間隔で同じ場所にファンタズマ
現れるというのは、今までになかったことだ。
何か目的があるのだろうか。考えるが、それよりも早く、答えは導きされる。
「……イザナギを狙ってるみたいだね」
「な……どういうことだ、真理?」
答えを出したのは、やはり真理だった。悔しげな表情で、彼女はとつとつと話し始める。
「私たちライオハンターは、知ってのとおり対黒獅子のための装機。黒獅子はとても強いから、ファンタズマが破壊しようとすることは
めったにないの。でも、私たちにならできる可能性が高い」
つまり言えば、自分たちの尖兵をみすみす破壊されるわけにはいかない、ということか。
「…………だから、破壊しに来たってことか」
沈黙の肯定が返ってくる。一瞬だけ迷ったが、俺の判断は早かった。
「―――イザナギで出よう。あいつらの狙いが俺たちなら、その俺たちであいつを倒すんだ」
その言葉で、真理が目に見えて狼狽する。当り前だろう。隠さなければいけないはずの装機で、ファンタズマを倒そうなどとのたまうのだから。
むろん、俺にもできることかどうかは分かったことではない。最悪、やられて撤収が落ちだろうか。
それでも、俺にはやるべき理由がある。
「……真理、わかるだろ?俺の記憶を持ってるなら、俺の気持ちが」
「…………わかる、よ。―――でも、今イザナギで出たら、何が起こるか!」
「それでもだ!……それでも」
少しだけ強い調子で、俺は一気に言い切る。自身の奥底にある遺恨を、振り切るように。
「―――あいつにばっかり、いい格好させておくわけにはいかないからな」
その一言で、真理は俺が言いたいことを察してくれたらしい。数秒うつむいてから振り上げられた顔は、はかなく微笑んでいた。
「……わかった。じゃあ、行こう!」
「ああ!……といったまではいいんだが、まずはイザナギを頼まないとな」
現在、件のイザナギは士郎の部隊が保管していると聞く。彼らに話せば持ち出してきてくれるだろうが、それまでの間
黙ってみているわけにもいかない―――と思っていたら。
「大丈夫。私の体なら、もうこっちに向かってる」という言葉が、真理の口から洩れた。
「……なんだって?」
「そのままの意味だよ。イザナギはいま、こっちに向かってる」
はて、どういうことだろうか。乗り込んで動かす――昨日のように、まだ内部に真理がいるのならば話は分かる。だが、現在のイザナギ
完全に無人だったはずだ。まして、軍の基地はここから遠く離れている。遠隔操縦といえど、その距離で操縦を行うのは
無理があるのでは、という様々な疑問は、突如かかってきた電話に中断させられた。
軽く驚いてから、電話の相手を確認すると。
「……おい、マジかよ?」
相手は、士郎その人だった。急ぎ電話をつなぎ、開口一番に「イザナギのことですか?」と切り出す。
向こうも驚いていたが、こちらが情報をつかんでいることを察してくれたようだった。念のため説明を加えてから、改めて
持ち出しの許可を得たまさにその瞬間。
けたたましいブースターの音を轟かせながら、俺の装機にして真理の真の姿である「イザナギ」は、屋上に胸を接触させる形で着陸した。
「……ほんとに向かってたな」
「うん。イザナギは私の体だから、どこにいても理論上は動かせるよ。さぁ、行こう!」
にこやかにほほ笑む真理の手を取り、俺たちはつれ立ってコクピットの前に立つ。手を触れると同時にハッチが開き、座席がせり出てきた。
そこで、ふと俺は疑問を感じた。そういえば、二人が乗り込めるスペースというものが存在しないのだ。
「……なあ真理。お前はどこに乗るんだ?」
イザナギのことならなんでも知っている真理に聞くのが手っ取り早いと思い、彼女に向けて質問する。が、真理はそれを無視してコクピットへと
入り込む。シートの奥、大型の制御装置以外に何もない場所で、「ここだよ」と指をさすのは――やはり、制御装置。
どこに乗るんだ、と突っ込みを入れかけたその時。不意にその制御装置に、縦一筋に青いラインが走った。そこから黒い壁が半分に割れて、
青い輝きに満ちた空間が露出する。
「これが、私たち生体端末の依代(よりしろ)『ADVリアクター』。ここから、彰をサポートするね」
そういうと、真理の体は青い光の中に溶け込む。その不思議な様を確認して、俺もシートへと滑り込んだ。同時に座席が後ろに引き、
格納されると同時にハッチが完全に閉じる。暗闇が一瞬世界を支配するが、直後にモニター、計器類に光が灯り、機械だらけの
狭い空間を彩った。操縦方法は、強制的に覚えさせられたせいか一つたりとも忘れている項目はなかった。イメージで動かすが、
どれを触ればどう動くかが、まるで脳に焼き付けられたように覚えている。気味が悪いが、そうとしか形容できない感覚だ。
あるいは、脳に操縦系統専用の記憶域が増設されたかのような。
不思議な感覚にくすと苦笑しながら、改めて各部の点検を始める。念のため、よくアニメで見る復唱を行ってみた。
「ADV循環、問題なし。メインカメラおよびサブカメラ、双方に異常なし。各関節部に不具合なし、チェッククリア!」
どこがどういう状況なのかも、焼き付けられた知識ですぐに判明する。あきれるほどすらすら進むその光景に、また苦笑する。
『彰、こっちもオーケーだよ。いつでも出られる』
その声は、まるで脳に直接響くかのような感覚を伴っていた。一瞬びくりとするが、それが真理の声だということはすぐに理解できた。
「今、そっちはどういう状況だ?」
ふと、彼女の状況が少し気になってしまう。自分が立ち入れない未知の領域である以上、気になってしまうのはしょうがないなと
言い訳しつつ、彼女の返事を待つ。
『うんとね……生体端末はあくまで端末だから、今の私は体を一時的に消失させて、イザナギと直接一体化してる、って感じかな。
あと、パイロットの彰とも感覚を共有することができるけど、それは緊急措置をとるときだけだね』
なるほど、と相槌を打っていると、不意にモニターに移っていたカーソルが、何かを指した。即座に真理が反応する。
『来たよ!……識別コードはトリケラ級。速度は時速30キロ、ってところだね。今から行けば、十分迎撃できるよ』
「オーケイ、それで十分だ」
気持ち強く返事を返し、ふと目を閉じる。
この力を使って、人の未来を切り開く。
力を持てなかった誰かに代わって、俺がファンタズマに楔(くさび)を打ち込む。
そして、散った人の無念を晴らす。
強く決意した瞳を見開き、力強くコールを唱える。
「――――伊邪那岐、出撃するぞ!!」
とたん、衝撃が走る。ブースターが持てる力をすべて出して吼え、イザナギを、俺を推し進める。



(BGM「Linebarrel(UX版)」http://www.youtube.com/watch?v=I7CoMqIF9oAhttp://www.nicovideo.jp/watch/nm20391707?ref=search_key_video



最大出力のブースターを落ち着かせると、すぐ目の前にはファンタズマ:トリケラ級がいた。名前の通り、古代の絶対王者である
恐竜の一種「トリケラトプス」を模したその角が、生物とは程遠い金属質の輝きを放つ。
さらに言えば、大きな顔全体が金属光沢を放っていた。どういうことかと確認しようとする前に、分析を行っていたらしい真理が
答えを開示してくれる。
『トリケラ級の顔はかなり頑丈になってるみたいだね。……うん、横をナイフで攻めるのが手っ取り早いよ!』
「わかった!」
短く返事をすると同時に、ホロウィンドウに表示されていた三つの兵装から「アサルトナイフ」を選択する。
瞬間、背中に取り付けられていた武装用のバインダー、その左肩側が展開。脇下を通るように軸で一回転し、右の手で取り出せる位置にまで
グリップが露出した。すかさずナイフを抜き取り、鋭利な刃を閃かせながら、俺は突撃する。
「うおおぉぉぉぉぉっ!!」
相手側も、こちらを獲物として認識したようだ。突進の速度を上げて、イザナギを、俺をその角で貫かんと接近してくる。
怖気づいている場合ではないのだが、どうしても串刺しにされたら、という恐怖がこみ上げる。ギリギリのところで抑えながら、
なんとか予定通りの場所で急減速、からの方向転換、次いで急発進。
強烈なGを引き連れつつ発動した横ステップの挙動には、ファンタズマも反応できなかったらしい。きょろきょろと俺を探しながら、
次第に減速してく。狙うならば、完全に挙動が停止して、もっとも法則の働かなくなる一瞬。
はたして、それは起こった。完全に動きを止め、周囲を見回して状況を確認している。仕掛けるならば、今!
「くらえぇぇぇっ!」
咆哮一発、俺はイザナギを駆って空中を駆け抜ける。いくばくかの間ののち、イザナギのナイフはファンタズマの肉を裂いた。
そのまま振りぬいて前方――つまりファンタズマの真正面に抜ける。むろん相手はこちらに反応するが、先んじて手を打ったおかげで
敵は「足を封じられた」。そのまま右の前足を欠損したファンタズマに向けて、再度突撃をかける。
『上から一突きで!』
「了解!!」
真理から飛んできた指示を受けながら、俺は再度ブーストステップで相手の上へと跳躍する。またしても急制動で敵を見失った
ファンタズマの背中に、イザナギのナイフが深く突き立てられた。
衝撃に耐えかねたか悲鳴を漏らすファンタズマから、素早く距離をとる。あまり無理をしすぎると、下手をすれば機体の損傷につながる。
ナイフをしまうまでずっと悶えていたファンタズマだったが、ほどなく俺をその視界に収める。転じて、先ほどよりも素早くなった動きで
こちらに迫りくる。
『あいつは飛べない、上だよ彰!』
こんどは返事を送らず、行動で了承を示す。一気に出力を上げられたブースターがひと吼えし、イザナギは上空へと逃げ延びる。
だが、直後に予想外の事態は発生した。スライディングの要領で停止したファンタズマの額に生えた、二本の雄々しき角。
その先端どうしの間に、赤黒いエネルギーが生成されていた。まずいと思ったのもつかの間、次の瞬間には計器類が悲鳴を上げる。
恐竜の姿を持っていると思って油断していた。相手は想像を食う存在ゆえ、こういった意表を突いた攻撃を持っていることも
予期できたはずだったが、どうやら認識が甘かったらしい。
電撃のような光線を受けて、機体が一瞬だけフリーズする。それが、致命的な間になった。
吼えるファンタズマが、その短い脚を使って跳躍してきたのだ。まさか!?と思った時にはすでに遅く、その鋭利な角は片方が
右腕のひじを、もう片方が腹部―――つまりコクピットの真下を貫通していた。
スパークを上げる右腕が千切れ落ち、腹部からもまた盛大にスパークが漏れ出る。
「や、ばいっ!?」
『大丈夫、落ち着いて!リアクターをやられなければ、まだまだ勝てるよ!』
焦りでとっさに行動を起こそうとした俺の頭を、真理の言葉が冷やす。とにかく冷静にはなれたが、劣勢なのは変わりなかった。
脱出こそできたが、イザナギは右腕を損失してしまった。二度目の出撃で早くも被害をこうむることになった自分の腕のなさをくやみながら、
ともかくはファンタズマとにらみ合う。
「……真理、左手だけで使える武器はあるか?」
焦りか気まぐれか、俺は真理に問いかける。いつものように律儀に応答してくれるのが、すこしありがたい気がする。
『一応、あるにはあるよ。……でも、できればもうちょっと待ってくれるかな?』
「?……あぁ」
帰ってきた答えに少々不安を覚えつつも、俺は再度ファンタズマと対峙する。現状、使用可能な武器は二つ存在するが、いずれも
ファンタズマ相手に効果は薄いだろう。使うとすれば、本来の用途である黒獅子との戦いで使うべき武装だ。
残る一つの武装は右手で保持する必要がある以上、現状では使用不能だ。サラリーマンのロボットアニメよろしく換装ができれば別の話だが、
あいにく同型機が存在することはない。なにせ、イザナギは特別な装機なのだから。
内心で歯噛みしていると、不意に無線が鳴り響いた。
≪おーい、そこの民間機!きこえっかー?≫という、聞いた感じから軽い性格だと予感できる声は、男のものだ。
だが、士郎のそれとは違う。何者がやってきたのかは、直後に判明した。
≪各機、フォース1を中心にフォーメーションアローヘッド!「オルデン」精鋭部隊の実力、しかと見せつけてやるぜ!≫
その声と同時に、イザナギのメインカメラが機影をとらえた。
中央に位置する体調のものと思しき機体は、量産型の高機動戦闘型「大鷲(オオワシ)」だとモニターには表示されている。そしてその左肩には、
今や世界各国で見るようになった民間企業「オルデン」のロゴがペイントされていた。つまり、オルデン所属の部隊。
ましてオルデンといえば、高い錬度と技術を持つ人間の集まりだと聞いた。そんな人間たちが出向してきたとなると、事態は相当重く
見られているようだ。
そんなことを考えている間に、随伴していた万能量産型「村正(ムラマサ)」4機が、ファンタズマを取り囲むように
展開していく。個々の動きはバラバラなのだが、それが逆に連携を強化してるとさえ思える手際の良さだった。
総勢5機に取り囲まれたファンタズマは、なおも俺を狙おうと突進を仕掛ける。が、その行動は横っ腹に撃ち込まれたグレネードランチャー
阻害された。続けてほかの方向からも次々にグレネードランチャーが飛来し、けたたましい爆発音と熱風を巻き起こす。
だが、やはりというかファンタズマは無事だった。爆炎の中でもがいてこそいるが、目立った外傷は見受けられない。
ち、と舌打ちする声が無線から響く。それに続いて、一機の村正が突撃をかけた。
≪尚樹、無茶するんじゃねえ!≫という声が聞こえるが、村正はお構いなしだ。長刀を引き抜き、ファンタズマを切り裂かんと肉薄する。
直後、それを察知したらしいファンタズマから黒雷(こくらい)がほとばしった。ギリギリ当たるか当たらないかの、まさに紙一重のところで
光線を避けた村正が、その顔面に長刀を打ち込む―――が、硬質な金属音を反響させて、長刀が中ほどから真っ二つに折れる。
≪げっ、折れた!?≫
≪だから無茶するなといったんだ!各機、フォーメーションバックストームで一時後退、陣形を直して再突撃をかけるぞ!≫
その声で、村正と大鷲が飛びのき、後退していく。それを見届けると同時に、真理の声が響く。
『彰、リボルバスターを使って!』
「っつっても、もう右腕は落とされたんだぞ?!」
『大丈夫、今から復元する!』
復元?という小さな疑問は、しかし俺に充分な衝撃を与えてくれた。
破壊された右腕のひじのあたりから、ワインレッドに輝く結晶体が、氷の張る音に似た音を引き連れて無数に伸びてきたのだ。
そこを起点に無数の結晶が生えて、見る間に大きな水晶の塊となる。その形は、粗削りながら落とされた右腕に酷似していて―――。
瞬間、破砕音とともに水晶が砕けた。そこから現れたのは、まさしく先刻破壊された右腕。その光景を見ると同時にモニターにも
「右腕再接続」の文字が表示される。よく見ると、先ほどダメージを受けていたはずの腹部分もすでに修復されていた。
『よし、再生完了!バスターを展開するよ!』
状況についていけなかったが、ともかく形勢が逆転したことは言うまでもなかった。リボルバスターを展開した直後、
後方から村正たちが再突撃をかけてきた。
≪民間機!そんなでかい砲台使うんなら、上からにしてくれよ!無駄に被害をでかくされちゃあ、たまったもんじゃねぇ!≫
口ではそう咎めながらも、どこか楽しげな口調の男に向けて、一つ返事を返す。
「真理、照準を頼む!」
『了解!』
同時にブースターを吹かし、昨夜のファンタズマの時と同じように上空へと舞い上がる。少し高度を低めにして停止し、改めて角度を変更。
バスターの砲口がちょうどファンタズマの顔面に当たるように向けると同時に、真理の手によって照準が絞られていく。
その数秒が、とてもじれったい。早く、早くと心の中で念じながら、静かにトリガーに指をかける。
『ターゲット・ロック!』と真理が伝えた、まさにその時。
「いけえぇぇぇっ!!」
力の限りトリガーを引き絞る。展開された砲口から、爆発的な光の奔流があふれ出る。
周囲に展開していた村正たちに気を取られていたファンタズマは、巨大なエネルギーの波を察知し損ねたらしい。
飛びのいた村正に追い縋ろうとした直後、上から降ってきたレーザーに、顔面を焼かれる。
数秒間の照射を続け、シリンダーが回転すると同時に砲から手を放す。
「やったか!」
『まだ生きてる!……けど、もう大丈夫かな』
真理の言う通り、ファンタズマは額付近と角を喪失していたものの、動けることに変わりはなかった。だが、直後に肉薄するのは、4機の村正。
≪フォーメーション・サバイバルソード!!≫
男の声とともに、村正全機が長刀を引き抜く。日本刀に似た鋭利な刃は、次々とファンタズマに突き立てられていく。
『彰、私たちも!』
「ああ!」
合わせて、イザナギもナイフを引き抜く。狙うは、致命傷たり得る首筋。再度展開されたナイフを右手で強く握りしめ、
ファンタズマに向けて勢いよく突撃する。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
いくばくかののち、イザナギが握るナイフは、狙いたがわずファンタズマの首を穿った


―*―*―*―*―*―*―


昨日のファンタズマと同じように退散するかと思いきや、今度は霧になって消滅した。いわく、これで討伐自体は完了したものらしい。
少しばかり納得がいかなかったが、ファンタズマが消滅してくれた以上今はそれを喜ぶべきだと割り切り、改めて俺は
先刻の装機部隊――健司という男が率いる「フォース隊」の前に着地した。
イザナギから降りると同時に、健司からいくつかの質問を受ける。こちらも昨日の士郎と同じようなものだったのが幸いだったのか、
とくに何かを問題視されるようなこともなく質問は終わりとなった。
「……しっかし、お前さんはなかなかの腕前だな。ぜひともオルデンに入って、うちに配属されてほしいもんだ」
という健司の声には、苦笑いだけを返しておく。この能力は鍛錬で身に着けたものではないので、そういう評価を受けることは
筋違いだと個人的に思うゆえの行動だ。
ちなみに、話がややこしくなるため、真理にはリアクターの中で待機してもらっている。いくら生体端末が普及しているといえど、
あれ程人間臭い端末では、もしかすると黒獅子の端末かと疑われるしれないのだ。
そんな俺の思惑はいざ知らず、健司はからからと笑いかけてくる。なにが可笑しいのかと聞こうとしたが、直後に脳裏で響いた声に
それは妨げられた。
『彰、不用意に近づくのは危険だよ』
一種どこからのものか分からなかったが、すぐにイザナギの中からのメッセージだということに気がついた。
この際原理は気にせず、悟られない程度に小さな声で、真理に向かって聞き返す。
「……どういうことだ?」
『そのままの意味だよ。あの中――村正の中には』
黒獅子のパイロットがいる。
確かに、真理はそういった。ほぼ同時に天をふり仰ぎ、いまだ屹立したままの村正たちをにらみつける。
この中に、黒獅子のパイロットがいる。
ならば、今ここで葬り去ってやろうじゃないか。そう考えたが、直後に振ってきた真理の声が、俺を制止する。
『まだ駄目!……黒獅子ごと壊さないと、意味がない』
その言葉に、内心で激しく歯噛みする。さっそく見つけた黒獅子を、黒獅子のパイロットを、むざむざ殺さずに逃がすのかという
口惜しさが、心の中で暴れまわる。
どうにか焦燥を抑えたころには、健司たちはすでに帰還の準備を整えていた。軽く敬礼して、健司たちを見送る。


ファンタズマの消えた世界に、平和なチャイムが鳴り響く。
あるべき生活を取り戻そうとして、寂しく響く。


*********


ってことで終盤手抜きでちわーっす、コネクトですー。
今回は、何分会話シーンに苦労しました…。繋録とか会話メインになると会話が得意になって、これみたいな戦闘メインだと戦闘が得意になる
ってのもちょっち変な話ですよねw


ちなみに今回、アサルトナイフ最初で最後の活躍となる予定です(何
というのも、ナイフなんてただの自衛兵装は使う機会が限定されてしまうもので、大火力を使ったほうが手っ取り早いファンタズマ戦や
目まぐるしく間合いが変わる装機戦では使えないんですよねぇ。下手に使ったらそれこそ蜂の巣なんで、これから使うとしても
本当にさらっとした使い方になると思います。具体的に言えばスパロボの切り払いみたいな感じで。


そういえば、ロボ好きな友人から「スパロボ風に機体説明してくれ、そっちのがわかりやすい」と言われたので、その通りに
説明を行ってみたいと思います。個人的には私もそんな感じのが書きやすいですw
ちなみに武器の表記ですが、(P)が移動後使用可能、(M)がマップ兵器ってところで。
イザナギ
移動力:6マス移動可、空A陸A水B宇B
特殊能力:剣装備、HP回復Lv2
ボーナス:射撃武器+100、運動性+5
・(射)バルカン砲 射程1〜4(P)弾数制(10発)
・(格)アサルトナイフ 射程1(P)無消費武器。未実装の場合EN兵器(消費5)
・(射)リボルバスター(フルバースト) 射程1〜6(M)段数制(2発)
・(射)リボルバスター(連射) 射程1〜6(無)段数制(12発)
・(格)V-システム 射程1〜2(P)EN制(消費30)
みたいな感じですね。特殊能力は劇中の能力に合わせて、切り払いを使用できる剣装備、再生能力ということでHP回復Lv2を設定。
武装は射撃寄りのステータスにかみ合ったチョイスといったところで、さらにマップ武器付という…w
ただし最強武器が格闘兵装、しかも消費がそこそこ痛いので、運用法を間違えると失敗しやすいという癖の強い機体ですね。
今回のお話が再現されるまで自由使用不能、的なw


それじゃ、書くこともなくなったのでこの辺で。
次回、いよいよ本当の目的である黒獅子との対決になる予定です。こうご期待!
ではではー ノシ