コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

アイラanotherstory―獅子を狩るモノ―

episode4 強襲




二日連続のファンタズマ襲撃から、おおよそひと月が経過した。
町の各機能は順当に回復し、現在はすでに襲撃前と何ら変わらぬ様相を見せる、町の一角。
現在、俺はそこで買い物を行っていた。


「彰、次はどこ?」
横を歩く少女、真理が俺に向かって問いかけてくる。今回はあくまで減った食料を調達しに来ただけだったが、真理が着いてきたいと
進言してきたので、ついでにふらふらと街を歩いているのだ。
特に行く当てもなく、ついでに言えば買い物はすでに済ませているので、俺はどこに行こうかとしばし悩む。
ゲームセンターに行くにはお金が足りないし、公園に行ったとしても何かやることがあるわけでもない。かといってこのまま帰るのは
すこしつまらない気がするし、などなど、いろんな考えが頭をよぎる。
あれこれと考えつつまとまらないことにやきもきしていると、不意に後ろから声をかけられた。
「すまない、少しいいか?」という切り口から話しかけてきたのは、男性だった。
黒い短髪をさっぱりと切りそろえ、同じく黒い瞳を刃物のように鋭く輝かせているそのさまは、かなり威圧感のある光景だ。
その腰に下げた刀(に似たもの)もあいまって、一昔前の武士を思い起こさせるいでたちの男が、俺たちが反応した野に合わせて口を開く。
「君たち、この女の子を見かけなかったか?」
そう言われて差し出されたスマートフォンには、不思議な様相の少女が写っていた。
女性だ、という以外には、まったくと言っていいほど特徴のつかめない顔だった。毛先の躍ったルビー色の髪。いたずらっぽく
ハイライトを輝かせる、同じ色の瞳。子供とも大人ともつかない、滑らかな輪郭。
少し注視してみても、どの程度の年齢なのかが全く分からない様相だった。幸い、来ている服や背丈で中学生程度だとは把握できるが。
確認して、真理と顔を見合わせる。アイコンタクトで確認しあうが、彼女も見かけてはいないようだ。
「……すみません、見てませんね」
「そうか……いや、ありがとう。協力に感謝する」
男は、その目つきに似合わぬやさしい笑みを見せた。次いで、俺たちに見た目不相応なお願いをしてくる。
「もしこの子……ロンダ、というんだが、見かけたら『繋(けい)という人物が探していた』と伝えてほしい。頼めるか?」
「ええ、それくらいなら是非」
快諾してみせると、男―――繋は安堵した表情を見せた。時間をとったな、と詫びを入れつつ、俺たちとは逆方向に歩いて行った。
途中「まったくあのフリーダムは……」というつぶやきが聞こえた気がしたが、聞かないで置いた。


―*―*―*―*―*―*―


数十分後、たまたま立ち寄った公園で小休憩がてらジュースを飲んでいると、不意に遠くから見覚えのある影が歩いてきた。
「あ……」と、先に気付いたのは真理だった。その声につられて俺も振り向き、少し安堵する。
歩いてきたのは、先刻の男性繋だった。その横には、ロンダと呼ばれていた赤い髪の少女が付き添っている。
見つかったのかと思ってすこし安堵していると、向こうもこちらを見つけたようだ。小さく手を挙げ、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「隣、いいか」と聞いてくる繋に向け、うなずいて肯定の意を示すと、俺の横に繋、その横にロンダという順番でベンチに腰掛けた。
そこから、少しの間をおいて繋が口を開く。
「手数をかけたな。おかげさまで見つかった」
「あ……いえ、見つかったなら何よりです。というか、俺たち何もしてないですけど」
と言った矢先、大柄な繋の体からひょこっと体をのぞかせるように、赤い髪の少女、ロンダがこちらを覗いてくる。
「そんなことないよ!ありがとね、二人とも」と発した声もまた、独特の音域だった。ますます年齢があいまいになり、
気持ちの悪い感覚がしてきたので「それほどでも」とだけ返し、そそくさと目を背ける。
そのやり取りを見ていたのかは不明だが、会話を終えると同時に繋が口を挟んだ。
「……さて、いきなりで悪いんだが、君たちにすこし付き合ってもらいたいんだ。頼めるか?」
次いで発された言葉は、妙な問いかけだった。まだであって数分しかたっていない俺たちに何を、と思ったが、人の頼みなら
付き合うのが社交辞令というものだろう。そう考えて、かくりとうなずく。





瞬間、狭い路地裏に鳴り響いたのは銃声だった。
突如閃いた繋の手から躍り出た弾丸が、真理の左胸を穿ち、その部分を真っ赤に染める。
あっけにとられる俺の前で、糸の切れた人形のように、真理の体が崩れ落ちる。
「―――真理!?」
反射的に、俺は駆け出していた。胸から血を流し、倒れ掛かった真理のか細い体を抱き留める。
誰が見ても致命傷と分るほどの、深い傷だった。ジクジクと赤い液が染み出してきて、そのたび真理が苦しそうにうめく。
「……耐久力は並か」と呟く繋に向け、俺は憤怒の視線を向けた。
「何てことしやがる!お前……わかってんのかよ!?」
人殺しだ、と糾弾することはできなかった。自分でその言葉を口にするのが、怖かった。
だが、繋はあくまでも冷静に俺を、真理を見つめる。まるで、俺たちだけしか知らないあの秘密を、知っているかのように。
「……ロンダ、本当にこいつで合っているんだな?間違えたりすれば、ただでは済まんぞ」
冷たい声で、繋はロンダに聞く。対するロンダは、目の前で血を見ることになったのに、大したショックも起こしていないようだ。
「もちろんだよ、ボクの目に狂いはないさ」
そう豪語するロンダに、言いようもない恐怖を覚えた。その口ぶりから見て、おそらくは真理の、イザナギのことを―――。
そこまで考えたとき、ふいに繋が口をはさむ。
「その少女が死なないのは知っている。手荒な真似ですまないが、頼みを聞いてほしい」
「…………いやだ、と言ったら?」
無言で俺を見つめる―――いや、俺の腕の中にいる真理を見つめている。そいつのようになる、とでも言いたいのだろうか。
抵抗する余地はなさそうだと踏み、一つの溜息を挟んで立ちあがった。真理は、念のためそばに寝かせておく。
「何をすればいい」と、至極簡潔に問いかける。あまり口を利きたくない、というのが率直な感想だ。
対する繋は、こちらも至極簡潔に口を利く。
「君の装機……『ライオハンター』との決闘を申し込む。『オルデン』のいち社員として、独断で行動する装機は見過ごせない」
つまるところ、単独行動に値するかを調べようということだろうか。少し考えたが、今はすこしでも協力的な人間がいるに
越したことはないだろう。そう考えて、一つうなずいた。


―*―*―*―*―*―*―


「真理、傷は大丈夫か?」
数十分後、オルデンの敷地内に移されたイザナギの中で、俺は一人真理の容態を心配していた。
いくら不死身の存在だといえど、傷を受ければ相応の痛みがあることは知っている。それゆえの心配だったが、本人は無事なようだ。
『平気だよ。まだ弾の間隔はあるけど、操縦に問題はないね』
内心で少しばかり安堵し、改めて俺は目の前に屹立する装機をにらんだ。
相手は高機動強襲型「大鷲(オオワシ)」の改修機のようで、右の腕が大型のランスに換装されている以外は目立った点はない。
ファンタズマ戦を見越した装備だろうと踏み、同時にあのランスの危険性を少しだけ分析する。
曲がりなりにも相手はオルデンの社員なのだ。わざわざ大物を持ってきたのには、何か理由があるはずだ。そう考えるうち、
繋の大鷲が足の位置を変える。
≪くれぐれも全力で頼むぞ。周囲には何もないから、損害は気にするな≫
という繋の言葉を合図に、大鷲が地をけった。


(BGM:Burning Red http://www.youtube.com/watch?v=JWlvcyKF__ghttp://www.nicovideo.jp/watch/nm3856819


脚部に搭載されているのであろうスピナーを使用して、高速で大地を滑走する。その動作と同時に左手を動かし、背の担架から
「44式突撃小銃」を出す。その銃口イザナギをロックする直前、こちらも同じように地を蹴った。
「バルカンで牽制(けんせい)する!」
『了解!』
そのまま真理に指示を飛ばし、腕部に搭載したバルカン砲のセーフティロックをはずす。続けざまにバーニアを吹かし、
相手のダッシュについていくように低空で飛行。同時にターゲットカーソルがロックオンを知らせるとともに、操縦桿(そうじゅうかん)の
スイッチを深く押し込む。
ガガガガガガガガガガガガ!!と重厚な銃声が鳴り響き、逆にカーソルを外された大鷲に弾丸が食らいついた。
貫通、とまではいかなかったが、それでもいくらかの傷をつけることには成功したのを確認し、イザナギを急停止。
そのまま左手でナイフを、右手でリボルバスターを展開して、勢いを強めて前のめりに突っ込む。
だが、相手もそうそうバカではない。突撃小銃を構えつつローラーを唸らせ、同じくダッシュで突っ込んできた。
おそらくは、ランスを使って接近戦に持ち込むつもりだろう。こちらの武器では射程的に不利な以上、不意をついて回避しなければならない。
そんなことを考えていると、不意に衝撃が走った。何事かとモニターを見て―――あっけにとられた。
大鷲が、自らの持つ突撃小銃を「投げつけてきた」のだ。てっきりそのまま弾丸をばらまいてくるかと思っていたところに
こんなものを食らった以上、当然不意を突かれるわけで―――。
≪脇が甘い!!≫
「――っ!?」
瞬間の、とっさの判断は、まさに僥倖(ぎょうこう)だっただろう。寸前で体勢を変えたことにより、間一髪でその後ろから飛んできた
大槍の直撃を免れることができた。が、ランスの先端は肩口をかすめ、肩を守っていたアーマーの一部を食いちぎる。
その威力に、少なからず戦慄した。直撃をコクピットにくらえば、おそらく体を破裂させられるだけでは済まないだろう。そう考え、また震える。
武者震いなどという言葉で形容できるほど、その震えは生易しいものではない。何物でもない、純粋な恐怖。
どく、どく、と、無意識のうちに鼓動を早められる。一つきつく食いしばり、全速で距離をとる。
「真理、損傷は!?」
『左肩部アーマーに損害。戦闘続行、並びに左腕操縦に不全なし!』
冷静に状況を分析してくれる真理の言葉で少しだけ心を落ち着けて、今度は引きながらリボルバスターを構える。
だが、そのまま撃ってもかすり傷がせいぜいだろう。確実に当てるためには、何か目くらまし、ないしは先ほどの大鷲のように
不意をつく戦法が必要だ。
そう考えるうち、またも大鷲が接近してきた。「くそっ!」と毒づきながら、今度は右の手でナイフを展開。
バーニアから蒼炎を吹かし、一直線に突撃する。
「―――遠距離がダメなら、接近戦だぁぁっ!!」
直後、甲高い音と盛大な火花を挙げて、ナイフの切っ先とランスの刀身が激突した。
総重量では大鷲が勝り、総推力ではこちらが上。どちらに転んでもおかしくない勝負で、しかし異変は起きる。
突如ドガァン!という爆砕音が響き、イザナギが吹っ飛ばされたのだ。いきなりの事態に動揺しつつも、とにかくは体制を整えて
反撃、ないしは退避を行わねばならない。だが。
≪よそ見をするな!!≫という繋の声。次いで、うなりをあげて迫るのはランス。
「まずっ―――」と声を上げたのもつかの間、ランスの切っ先はとっさに構えていた左手に突き刺さった。マニュピレーターがひしゃげる音と、
次いで鳴り響く警報。
『左手にダメージ発生、マニュピレーター損壊を確認!左腕全体の駆動、並びにバルカンの使用に問題はなし!』
そこまで告げられた直後、俺の体は半ば自動で動いた。操縦桿を握るや否やスイッチをたたき、突き刺さったままの左腕から
バルカン砲を放つ。
さしもの大鷲も、これには対応できなかったらしい。ドカドカと重い音を立てて、上半身全体に弾丸がたたきつけられた。
その隙にランスを抜き取り、全速力で後退する。どうにか脱出には成功したが、ここからどうするか―――。


 * * * * * * 


大鷲のコクピット内で、繋は小さく怨嗟(えんさ)の声を漏らしていた。
「思ったより錬度(れんど)があるな……。仮に操縦方法を知っていたとしても、あれだけの高速制御はできないはずだが」
目の前に相対する異形の装機「イザナギ」の力試しが今回の任務であり、すでに目的は達成せしめられていた。
だが、と、その続きをいう前に、繋の後ろに設けられていたサブシートで制御をおこなっているロンダがいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「……ふふ、繋ったら昂(たか)ぶってるねぇ。やっぱり、ああいうのを見るとドキドキするんだ?」
「無論だ。……もう少しリミッターをかけようと思っていたが、目測が外れたな」
そう呟きながら、繋はシートの周囲に所狭しと並べられたテンキーを素早く操作する。
とたん、大鷲の背中を覆っていた装甲がはじけ飛んだ。そこからさらに別の何かが展開され、ふわと翼のように浮き上がり―――。
「―――少しだけ本気を出してやろう」


 * * * * * * 


目の前の大鷲が、突如として異形の「翼」をはやすその光景に、俺は驚きを隠せなかった。
それを翼と呼ぶには、少々、というかかなりいびつな形をしている。バカン!という破裂音とともに展開されたパーツが空中で固定され、
わずかな駆動音を引き連れて停止する。電磁力か何かで浮いているのだろうが、それでも不思議な光景だ。
だが、それに見とれている暇はない。すぐさまアサルトナイフを握り直し、今度は不意をつくためにその足でダッシュする。
こちらの動きを見て、大鷲はランスを構えた。迎え撃つつもりらしいが、おいそれと攻撃を食らうわけにはいかない!
『装弾完了!』という真理の言葉を受けて、ナイフを握った右腕を突き出し、そのまま弾丸をばらまいた。
ビシ、バチュン!と甲高い音を立てて、大鷲の装甲で火花が炸裂する。予期せぬ攻撃を食らってわずかに後退した大鷲に向け、
こんどこそと言わんばかりにナイフの切っ先を突き立てた―――その刹那。
またしても、イザナギを爆発が襲った。失速したイザナギが足をもつれさせ、あわやのところでバーニアを吹かす。
そのまま攻撃らしい攻撃もできずに大鷲の後ろに抜けたその時、俺の目に映ったのは―――正しく、驚愕の光景だった。
先ほど展開されていた翼が、「独立してこちらを襲ってくる」のだ。しかも、その鋭利な先端からは収束したエネルギーが飛び出し、
イザナギの装甲をふっとばさんと追いすがってくる。
『ビット兵器?!まさか、正規量産型にはそんな拡張規格は……』
「―――言ってる場合じゃない!今はよけることに集中してくれ!」
焦りながらも冷える頭をフル回転させ、持ちうる限り最高の速度で、四方八方から迫るエネルギーの槍をかわしまくる。
ようやく飛来するすべての弾丸を回避したと思い、安堵したその瞬間。
≪落ちろ!≫という冷徹な声。次いで、機体を襲う強烈な振動。鳴り響く警報とともに表示されたモニターには、「左腕欠損」の文字。
まさか、という思考の最中で見やったモニターには、こちらを見つめる大鷲が写っていた。


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「……君の実力は見せてもらった」
数十分後、墜落の衝撃で気を失っていた俺は、オルデン社内の医務室のベッドで覚醒した。
横に座っていた繋に気づくのには少し時間がかかったが、特に支障はないらしい。そんなことを考えていると、不意に繋が口を開いてきたのだ。
「結果的に君の敗北だったとはいえ、独断で動けるだけの実力は持っているらしいな」
という言葉は、一つの確信を持たせてくれる。
「……ってことは?」
「ああ。装機の個人所有を許可する……と、社長からのご命令だ。くれぐれも、無意味な使用は控えるようにな」
それだけを言い残すと、繋は部屋を出て行ってしまった。



「彰!」
オルデン本社から出るや否や、待っていたらしい真理が駆け寄ってきた。
「大丈夫?変な改造とかされなかった?」と心配してくる真理の頭を軽くなでて、大丈夫だと伝えると、彼女も安心してくれた。
しばらく帰路を無言で歩いていたが、やがて真理が遠慮がちに口を開く。
「……さっきの、繋って人が、伝えてほしいことがあるって」
「……?」
疑念に首をかしげる俺に向けて、真理は言葉を紡ぐ。


「『もし黒獅子を追うのならば、ティターニアというファンタズマに注意しろ。あいつのそばには、大蛇(だいじゃ)がいる』って」
伝えられた言葉は、一陣の風を呼ぶ。


*********


ってことで今回は短めのちわーす、コネクトでございまーす。


今回、初めてのVS装機戦になりましたね。前回のあとがき通り、ナイフさんはろくに活躍してませんw
そして今回から登場となった、本作のキーパーソンである繋。彼もまた黒獅子に関する事柄を何か知っているようですが……?
その辺のネタバレは本作の続き、もしくは本編である「アイラ」でされますのでご心配なく!(何が


次回なんですが、最後のセリフにあったティターニアとの戦闘ではなく、別の装機、しかも黒獅子との戦いになります(何
黒獅子は6機が存在しているので全部と戦わせるのは無理なんですが、今のところ「4型武甕槌(タケミカヅチ)」「5型大蛇(オロチ)」
「6型天照(アマテラス)」との戦闘を予定しています。いずれもどんでん返しにする予定なので、こうご期待!
それでは今回はここまで!
またあいませうー ノシ