コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

異世界行ったら門前払い食らいました

第11話 ワケあり卒業試験


アグニとの邂逅からは特に異変や用事……厳密にいえば外出することもなく、しばらくの間護衛は必要ないこととなり、
残りの4日間はすぐに過ぎていった。
その間、俺がやったことといえば――自己嫌悪に陥ることだけ。


「……はぁ」
魔法学校へと続く道で、俺は一人ため息をつく。
あの日、アグニの暴言を止め切ることもできず、ふがいない思いをした俺に、すでに彼女を守れるという自信はなかった。
ああそうさ、豆腐メンタルと笑うがいい。挫折を味わったことがない人間にはこの気持ちはわからないのさ。
――とは言うが、乗り掛かった舟だ。依頼を引き受けた以上、手を下せないリラさんに代わって俺がカノンを守るしかない。
せめて今日一日何もありませんように。そう祈りながら、俺は魔法学校の門をくぐる。


***


「それではこれより、第22期生による合同卒業試験を行う。一次試験はカルカマス遺跡隣の野営地まで赴き、
その場にて学習した知識を試すことだ。制限時間1時間以内にこの場に戻ってこれなかったもの、もしくは野営地にて出題される
問題に規定数以上答えられなかったものは、一次試験失格となるので注意するように。……では只今より、一次試験を開催する!
各自、遺跡の野営地へとむかえ!」
「「はいっ!!」」
一般観衆――主に生徒の保護者や親友たちだが、たまに俺みたいな部外者も見かける――が見守る中、ついに卒業試験が始まった。
遺跡の野営地は、少し前にカノンのギルド登録クエストで赴いた際に場所だけ確認している。カノンも覚えているだろうし、
何より彼女の知恵ならばクリアは容易いはずだ。
問題は、試験中にアグニの邪魔が入らないかどうかだ。試験を受ける者には原則としてパートナーなどの随伴は許されていないので、
俺はカノンが学校から出るのを見計らい、群衆に紛れて彼女の後を追うことにしている。むろんカノンにも了承済みだ。


街中では彼女に教えた危険を知らせるサインは使われることもなく、特に問題なく町を出ることができた。
ここから先は草原が広がっている以上、あまり近くで姿をあらわにしていると試験官のほうに怪しまれるやもしれない。
なので俺はあえて冒険者風を装い、「同じケープを羽織っている人間を見回す」という、効果があるかは怪しい手段に出ることにした。
周囲のケープを羽織った人間を見回しておけば、少なくとも今何が開催されているのかはわからなさそうな雰囲気は出せる。
幸いにもその策は成功したようで、遺跡が見えてきても誰かに怪しまれることはなかった。まぁ、折り返してきた学生に
何度か横目でにらまれたりはしたが。
ともかく、野営地まで護衛すればあとは安全だ。問題は、先ほどから感じる、周辺で誰かがうかがっているような、ねっとりとした
不快感を伴った視線。
確かに、この気にあてられたら怯えてしまうのは当然だろう。今の俺だって、奮い立たせたなけなしの勇気が音もなくしぼむような
いやな感覚を味わっている。このまま数分でもじっとしていたら、恐怖で足がすくんでしまう自信がある。
メンタルは人並み以上に強いほうなのだが、それにしては相手の――おそらくはアグニの気迫が異常だ。
護衛する人間がいるのなら、もう少し警戒したような空気になるはず。だが、今この世界を支配している感覚はまるで、
俺そのものに襲い掛かろうとしているかのような――――。
「よぉ」
その時、すぐ後ろから、それは現れた。
短い冒険者生活の中で培った反射神経にものを言わせ、俺は人生最大の速度でその場から飛びのく。同時に、いましがた俺が
立っていた場所に、巨大な火柱が立ちのぼった。
渦を巻くように天空へと伸びる火柱が途切れたころ、そこからそいつは現れる。
「…………アグニ・ゼルヴァインっ」
一番あらわれてほしくなかった人間が、一番会いたくなかった人間が、目の前にいた。手にはガタイに似合わない長杖(スタッフ)
を持ち、その瞳はまるで、向かい合う俺をあざ笑うかのような光を宿す。
「久しぶりだなクソガキ。わざわざこんなとこまで来て、なんか用事でもあるのかよ?」
声色こそ友人に話しかけるようなものだったが、その問いかけに意味がないことは知っている。現にアグニの瞳は
戦いを求めるかのように爛々と輝き、抑えられない興奮の色を惜しげもなくにじませていた。
――ターゲットを変えてきたのか?だが、リラさんに精神的なダメージを負わせるにはカノンへの攻撃のほうが
効率がいいはずだ。なにより、かかわりがあるかどうかもわからない俺に攻撃を仕掛けるメリットはあるのか……。
「まぁいいや。……いい話貰ったんだよ。最近この辺で人を尾行している奴がいるって聞いてなぁ。依頼主さんが
そのストーカーをとっちめる代わりに、俺を学校に戻してくれるんだとさ。願ってもねぇ話だろ?」
人を尾行する?確かに俺は今現在カノンの護衛として見えない位置から彼女の動向を探ってはいるが、それは今日だけの話であり、
そもそも俺はそんなことをしたことも――――とまで考えて、はたと思う。
まさか、俺をそのストーカーにでっちあげて依頼主に突き出そうとでも言うのか?
となると、状況は少しまずいことになる。仮にアグニに勝利、もしくは敗北で分かれた形になった時、そのどちらに転んでも
アグニはその依頼主のもとに帰り、依頼主に俺のことを報告するだろう。むろん、ストーカーの犯人として。
そうなればレブルク一帯で悪評が立つだけならまだしも、下手をすればギルドを経由して別の町にもそのうわさが広がりかねない。
――――そんなことはさせない!
「……おぉ、いいぜ。やる気じゃねえか犯罪者さんよ!」
「黙りな!……アンタの魂胆は見え透いてる。その減らず口、舌ごと縫い合わせてやるよ!」
互いに互いを挑発したところで、俺は剣を抜いた。あくまでも傷を負わせる気はない。技量で相手を打ち負かし、
その口を止めることが、この戦いの根本の目的。
「後悔しな。ファセロ・バトク=パルマス、『強き火焔の砲(ハイパワー・ヒートバスター)』!」
矢継ぎ早に組み立てられた詠唱が形を成し、威力強化の印を組み込まれた射撃魔法(バスター)が迫る。だが――。
「……お前だけだと思うなよ」
何も握っていない左手を虚空にかざし、俺は声高く「詠唱」する。
「ブルセイ・ワズル=メイハドマス――『強固なる白光の波動(メガハード・ブライトエミッション)』!!」
瞬間、俺の左手から白い波動魔法(エミッション)が迸った。保持強化――形を維持できる強さ、つまり硬さのことだ――の印を
組み込んだ光の波動が、アグニの放った火砲に正面からぶつかり合い、互いが相殺しあって周囲に赤と白の粒子を散らす。
うまくいってくれた。カノンから「威力に対抗するには保持をかけるといい」と教わった通りにやっただけだが、それでも
成功するのはどうにも心地いい。
いくばくか、アグニもその光景に驚いてくれたようだ。ついさっきまで剣士の格好をした風来坊の冒険者が、よもや
魔法を撃ってくるなどとは思うまい。まぁカノンのおかげなんだけど。
「っち、魔法剣士か。……かじっただけの魔法でいい気になるなよ!ファセロ・ワズル=メイワルクー、
『迅速なる火焔の波動(メガファスト・ファイアエミッション)』!!」
が、さすがに元魔法学校の生徒、それも主席なだけはあり、続けて発された真紅の衝撃波が、速度を伴って連続で飛来した。
いくら頑丈にしたといえど、しょせんは素人の魔法。熟達して洗練された魔法が連続で襲ってくるのにはさすがに耐え切れず、
ガラスが割れるような儚い破砕音とともに魔法は砕けた。
だが、俺の本当の得物は剣。右の手に握った刃を一閃させ、高速で飛来する波動を切り伏せる。そのまま続けて衝撃波を
繰り出したかったが、あいにくとまだあの技は完成していない。内心で歯噛みしながら、左手の剣を引き抜き
アグニに突進する。
「おおおぉぉっ!!」
咆哮一発、右手に持った剣の切っ先を繰り出した。さすがにあたるまではいかなかったが、それでもアグニはその速度
――この数日間、大木相手に鬱憤晴らしを兼ね、刺突攻撃の練習を繰り返していた――に反応を鈍らせた。
苦い顔をしながら迫る刃をかわし、お返しと言わんばかりに火砲が撃ち込まれる。振り向きざまに左手の剣を一閃させ、
それを弾き飛ばすと同時に詠唱。同じく光の射撃魔法(バスター)――形は属性によって変わり、光属性の場合は
レーザーに変わる――を放ち、アグニの足元に着弾させる。シンプルな魔法である分、その威力はお墨付きだ。
熟達した人間が行えば、その威力は岩を貫通するほどとも教わった。カノンに。
「……ちっ、まぁいいか」
直後、妙なつぶやきとともにアグニが大きく飛び退った。とっさに左手の剣をしまって詠唱の準備に入るが、アグニは
スタッフを構え直して不敵に笑む。
「しかしよぉ、お見事に自己中だなクソガキ。……俺にかまけてていいのかぁ?」
その言葉で、正しく俺は我に返った。
――カノンの姿がすでに見えない。いや、正しくははるか遠方に見えてはいるのだが、今から走って近くに行っても
すぐに町の雑踏に紛れ込んでしまう。
まさか、アグニの目的は俺の身柄ではなく、最初から俺をカノンから引き離すのが目的――――。
「……くそぉっ!」
悔しさに一つ咆哮し、俺は踵を返して走り始める。だがそれを見逃す相手でもなく、直後に俺の足元に火球が着弾し、
思わずたたらを踏んでしまった。
カノンのもとに行くには、アグニを倒さねばならない。うかつさと実力不足を恨みながら、俺は一気に決めるために
魔法の詠唱を――俺が持つ中で、最大の威力を持つ技――いわゆる奥義の起動を行う。
「ブルセイ・ボシタ=メイワルクー……『広域なる白光の炸裂(メガワイド・ブライトイクスプロード)』!!」
レベル4の証明である、広範囲を吹き飛ばす爆発魔法(イクスプロード)。範囲強化の印も組み込まれたこの魔法は、
文字通り周囲を薙ぎ払った。その中にはもちろんアグニも含まれているのだが、さすがにこれだけで倒せるわけもなく、
熟達された堅固な防御魔法(シールド)に防がれている。それを見越して、爆発が始まった直後から、俺はその爆発の只中へと
突っ込んでいた。
カノンの時と同じように「魔法を発動させた本人にはダメージが及ばない」という魔法の特性を生かし、アグニが立っていた場所
――アグニが回避などを試みて跳躍しなかった場合に限るのだが――に向け、疾駆する。
そしていくばくかの後、光の爆煙が晴れた中心にいた、アグニを見つけた。まだ防御魔法(シールド)は発動されているが、
その壁も大きな質量の前には無力だと教わっている。
「だりゃあぁぁぁぁっ!!」
咆哮一発、俺は両手に握りなおした剣を振りかぶり、二つの刃を横一文字に振りぬいた。バ、バァン!という炸裂音が響き、
アグニの張っていたシールドが音を立ててひび割れる。
両手を振りぬいた体制のままで着地し、明らかな憔悴の色を浮かべるアグニの眼前で、二本の剣を天空高く掲げる。
「――――剣聖ッ」
一度だけでいい、成功してくれ。
奇跡でも何でもいい。カノンを助けられるなら――!
「『蒼空剣(ソウクウケ)』えぇぇぇぇぇん!!」
感じ取った魔力素子の流れを叩き付けるように、一縷の願いを込めて振り下ろした剣からは。
青い粒子が三日月の形に変わり、放たれた。
アグニの鼻っ柱で炸裂した粒子が、「あがっ」といううめき声とともにその巨体を吹き飛ばし、背後にあった岩に
頭をぶつけさせた。


アグニを倒せたことよりも衝撃波攻撃を成功させられ、おまけにそのコツも掴めたことに感動していた俺は、そんなことを
している場合ではないと立ち直ってアグニを見やる。
頭部から血は出ていないし、鼻が少しはれている以外は目立った外傷もない。ただ気絶しているだけのアグニを見て、俺は少し安堵した。
殺人沙汰になるのは御免なのだ。ザクロの時は無我夢中で衝撃波を放ったのだが、あとから思い返して殺すことにならなくて
本当に良かったと心から安堵したものである。
念のためにスタッフを遠くに放り投げておき――衝動的な行動で特に意味はなかった――、俺は振り返って
レブルクのほうを見やった。すでに彼女の姿は見えなかったが、カノンの身に災いを振りかけさせるわけにはいかない。
――もしナニカが手遅れだとしても、せめて、守らなければならない。
決意を新たにして、俺は草原の只中を駆け出した。


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ちわーす、コネクトにございますー。11話お楽しみいただけたでしょうか?


今回はアグニ戦となりましたが、ぶっちゃけた話あんまり力入れてません(何
もちろん魔法使用の描写に関しては力を注ぎましたが、正直アグニ戦はやらなくてもよかったかもというレベルですw
というのも現在進行しているレブルク編、カノンがどうやって仲間に加入するかを描くのが主軸なので
アレグリア編序盤と同じように戦闘の描写は必要ありませんでした。
ですがまぁ物語を盛り上げる部分は必要かなぁと思い立って、前回今回と戦闘を入れてきました。
どっちも魔法を説明するための付け合わせみたいな側面がありますが、楽しんでいただけたら幸いです。


次回は戦闘なしで、一話丸々「カノン視点」として描きます。
卒業試験に臨んだ彼女はいったいどうなっているのかというものと、このレブルク編のあらましを説明できたらなぁと
思っておりますー。
それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ