コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

異世界行ったら門前払い食らいました

第12話 魔導師少女はかく語りき


昔から、私の敵は多かった。
生まれてすぐに捨てられた――と思う両親、私を拾ってすぐのころの師匠、私を妬んだ教師陣、切磋琢磨する学友たち、アグニ。
私をのけ者にする理由は、罵倒する理由は、いつも「天才だから」「逸材だから」の一言。
――捨てられた自分が、そんな存在であるはずがない。幼いころの私は、自分にそう言い聞かせて、その言葉から、
そのプレッシャーから、逃れてきた。


間が経つにつれて、次第に私を天才、逸材という言葉で罵倒する人間はいなくなっていった。
代わりにつけられたあだ名は、「魔法学校の主席」という、これ以上ない名誉な、しかし私には不名誉なあだ名。
今度は、学校の名を背負うという責任を負った。不似合な称号を与えられ、不釣り合いな期待を背負わされ、それでも私は
頑張って、人々の――学校全体の期待に応えていた。
彼女なら、絶対に世界に名を連ねる人間になれる。そんな声が学校の中で聞こえるたび、頭痛がする。


そんなときだった。私が及び知らないところで、一人の学生が問題になっていると聞いたのは。
学生の名は「アグニ・ゼルヴァイン」。素行の悪い男で、実力を持っているくせに何度も学校内外で問題を起こしては、注意や処分を受けて
そのたび懲りずにまた問題を起こす。
自分の頭では想像のつかない行為だと思うとともに、そんな自由奔放な生活に少し憧れた私は、その男を真人間へと更生させるために
あえて彼の前に立ちはだかった。
ねめつけるような視線に鳥肌が立ったことを、鮮明に覚えている。あの時の私は、与えられていた称号にうぬぼれていたのだろう。
それでもなけなしの勇気を出して、私は彼に注意をした。実力があるなら人のために使え、世界のために役立てろ、と。
道徳の教本で読んだことをそのまま口に出しただけで、アグニは屈するような男ではなかった。それどころか威張る私の肩をつかみ、
自分のために自分の力を使って何が悪い、と瞳孔を開いてこちらを睨みつけてきたりした。正直、足がすくんだ。


それ以来、出しゃばった真似は控えて慎ましく日々を過ごしていた。けど、その日を境に私はその足を動かすようになる。
問題行動を起こして退学になったアグニが、私の後をつけるようになったのだ。その行動は時に私への物理的な接触にまで
発展し、そのたび恐怖で動けなくなっていたのを覚えている。
なぜこんなことをするのかと問いかけると、返ってくる答えはいつも「あの教師に一泡吹かせるんだ」の一言。
悔しく、恐ろしく思いつつも、その言葉で自分が特別な存在じゃないと思えたのは、皮肉な話だ。


状況が変わったのは、そんなストーカー被害を受け続けてほぼひと月たった、卒業試験を間近に控えたあの日。
リラ(母さん)にストーカー被害を報告し、どう対策したものかと首を捻っていたところに、レブルクの街をたった一人で
さっそうと歩く人間を見つけた。身なりは冒険者だったが、それにしてはどうも小奇麗だった。
男性にしては筋肉の少ない、ともすれば女性よりもひ弱そうなすらっとした体躯。腰のベルトに吊り下げた、
珍しい二刀流の証である二本の剣。この辺一帯の地域ではかなり珍しい、絵の具で染めたように真っ黒い髪。
何より目立ったその立ち振る舞いは、彼が冒険者だということを雄弁に物語っていた。それも、遠い異国からやってきた
強者だと、素人の私でもわかった。
この人にならば、頼れるかもしれない。そう思った私は、かぶっていたフードをとるのも忘れて、その男性のもとへと赴いた。


男性――少年はタクトと名乗り、報酬を出すといった私に向けて「見返りはいらない」と言ってのけた。
最初にその言葉を聞いた時こそ懐疑的に思ってしまったが、今ではそれも彼らしいと思っている。
同じように懐疑的な目を向けていた母さんも最終的には笑顔で了承してくれ、タクトに護衛を行ってもらう短い日々が始まった。
魔法を知らない彼に魔法のイロハを教えることが、とても楽しかったことを覚えている。あれこれと質問してくる彼に
覚えた限りの知識を披露し、彼が放った摩訶不思議な技を見て、不覚にも目を輝かせてやり方を教えてほしいと懇願したり。
うっかり吐露してしまった小さなころからの悩みを――重責に押しつぶされそうな心を、あっさりと解消してもらったり。
タクトと過ごす日々が、今までの何より楽しかったことを覚えている。


ギルドに登録するクエストを手伝ってもらったとき、奮戦する彼を見て私の心も奮い立ったことが記憶に新しい。
彼に促されるまま使った魔法が魔物を打ち倒したとき、内心で勝利の快感に心酔し、彼への返事を返し損ねかけたこともいい思い出だ。
――そしてアグニが目の前に立ちはだかったとき、無言で彼に剣を向けるタクトを見て、不意に心が痛んだ。
自分のために怒ってくれている。恐怖に打ちひしがれる自分のために、その手を差し伸べてくれる。
殴られたことに対して反撃もせず、ただ私に謝ってくるその姿に、また心が痛んだ。


強くならなけらばいけないと思ったのは、その時からだ。
護衛してもらう以上は、護衛される人間が強くなければいけないという、妙な責任感を持ち、それからは
魔法の勉強に熱心に取り組んだ。その甲斐あってか、覚えていなかった魔法に関する雑多な知識も覚えていき、結果的にそれが
卒業試験の一次試験を、全問正解で突破するという快挙を成し遂げさせた。
タクトの護衛を、無駄にしないために。
タクトと、もっと一緒にいたいという自分の願いのために。
それが恋だ、と叫ぶ自分の中の声は、否定しない。彼と話をしたい、一緒に冒険したい。たった五日間の中で感じた感情は、
不思議と今の自分への毒にはならなかった。
頑張るんだと自らを応援しながら、急ぎ足で街へ、学校へ帰る。


帰る、はずなのに。


***


「…………う、ぅっ……」
気が付くと、私は暗い裏路地に座り込んでいた。
どうしてこんなところにいるのだろう、という思考が頭をよぎるが、覚えているのは街に入って時計塔を見たところまでだ。
首をかしげて立ち上がろうとして、そこではじめて「手足を縛られている」ことに気が付いた。
「え?なっ、コレ……」というつぶやきは、目の前に現れた人影に掻き消える。
「よぅ主席。目ぇ覚めたか?」
反射的に顔を上げたその先には、学校内の成績では次席に入る青年がいた。――――たしか、アグニとよく話していた人。
それを考えて、ぞくりと悪寒が襲ってくる。間違いない、彼はアグニと共謀しているのだ。
「……へっ、そんな怖い顔しなさんな。心配ねぇ、あと20分で一次試験も終わる」
試験終了までの残り時間を聞いて、おおよその経過時間をはじき出す。私が野営地を出たのが開始から20分後、町に帰り着いたのが
だいたい30分のあたりだったので、意識を手放していたのはおおよそ10分の間らしい。
そしてこの場にアグニ本人がいないということは、たぶん彼がタクトの足止めをしているんだろう。となると、少なくとも彼は
まだ助けに来ない。いくら手練れの冒険者でも、元首席である彼から逃れることは困難ではないはずだ。
最悪、タクトが負けているかも――というところまで思考を展開して、きつく目を瞑って思考を振り払う。
そんなはずはない。彼ならば、きっとアグニだって打ち負かしているに違いない。そう考え、少し落ち着いた直後。
「……しっかし、アグニさんはずりぃよなぁ。こんな上玉に手ぇ出さないなんて、どうかしてるよ」
青年の大きな手が、私の顎をぐいと持ち上げる。一緒に上がった視線の先には、気持ちの悪い笑みを浮かべた青年の顔。
「ッ……」
反射的にすこしのけぞると、青年は不気味な笑いをもらす。
「クハハッ、可愛い反応じゃねえか。さっすが主席、顔も返事も、育ち方も一級品だ」
顎から手を放して腕を組んだ男の目が、私の全身をじろ、じろとにらみつけてくる――――いや、品定めしている。
粘液を塗りたくられているような不快な視線に、思わず上ずった声が出てしまった。あわてて口を紡ぐが、それを聞いた男は
ゲラゲラと下品に笑う。こんな人間が魔法学校の生徒、ましてや同じクラスにいたことを思うと、寒気が止まらない。
小さく舌なめずりした男の手が、私の肩をつかんだ。今度こそ悲鳴を漏らすまいと口を紡ぐ私の顔に、青年の口が
臭い息を吹きかけてくる。
「なぁ、俺と楽しいことしようぜ?どうせアグニさんはしばらく忙しいしぃ、主席を壊すのは誰だっていいわけだ」
壊す、という言葉の意味が分からないまま硬直している私に、男はさらに笑いかけてきた。
「ま、こんなことすんのもはじめてだかんな。ちーっと気持ち悪いかもしれねぇが、我慢してくれよ」
それを皮切りに、男の手が羽織っていたケープの留金を外した。ぱさ、と小さな音を立てて裏路地の床に落ちたケープの意味を、
ようやく私は悟った。同時に、言いようもない恐怖が襲ってくる。
「さすが主席、俺が何するかわかったんだなぁー……ま、やめねぇけどな。主席みたいな上玉、俺が楽しむのにゃ十分だ」
ゆっくりと開かれた手が、かすかに荒い男の息とともに、私に迫ってきた。




「彗星イィィィィ断ッ!!!」
その瞬間。
「ぶべらあぁぁぁぁっ!?」
黒い髪の流星が。


「――カノン、大丈夫か!」
来てくれた。


*********


最後らへんが超手抜きでちわーっす、コネクトにございますー。
はい、毎度初心な私にはこれが限界でした……。下手にこの続きを書くと恥ずかしさで更新が停滞してしまいますw


今回は、さらっとカノンの過去が明かされましたね。
正直もっと明るい設定にしたかったんですが、短い期間でタクトの旅メンバーに加える必要があったので
こんなシリアス設定になっちゃいました。重責に耐え、外の世界とその生き方を知らなかったカノンは、関わることのなかった
冒険者であり、異世界の考えを持つタクトに出会って、あっさりとお悩み解決ということに……もうちょい練れよ俺!
いやまぁ、この後に合流するメンバーのひとりがとんでもなく適当な理由で合流するので、カノンの加入動機は
相当練ったほうなんですがねw
むしろ今後加入する二人の設定が設定なんで、この辺で差別化しないとカノンがただのチートキャラとなって空気になるんで…。
いえまぁ、チートキャラでも相当なもんなんですけどね。正確に一癖つけないとメンバー四人の中で霞みそうなんでw
ちなみに本編中にてカノンにヤラシイことしてた青年ですが、実は口調とか笑い方とかは私ことコネクトのものです(何
中学生時代に友人だった女子から「目つきが変」と言われたんで、悔し紛れに悪役で出演してやりました(ドヤッ
自分の小説ではよくコネクトに似た名前の主人公やキャラが活躍しますからねー、たまには気持ちよく殴り飛ばされてみますw


次回、いよいよレブルク編最終回となります!
短いようで長いレブルク編でしたが、どうにか終わることができそうです……w
しかも月曜からお仕事が再開するということなので、なるべく次のセルビス編につなげたいです!
それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ