コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

異世界行ったら門前払い食らいました

第27話 知識の都アルネイト


「諸君、ご苦労だった。道中にて想定外のトラブルはあったが、ワシらは無事にこのアルネイトへとたどり着くことができた!
君たちの働きに感謝し、謝礼を渡すとしよう。各パーティの代表者はこちらに来てくれ」
謎の襲撃者、カダーヴェルとの戦闘から丸一日。エンボロス率いるキャラバンは、その後も数度魔物との戦闘にこそなれど、最終的に
誰一人と掛けることなくアルネイトにたどり着くことができた。現在、城下に通じる門の前でエンボロスが報酬を渡している。
戦闘こそカダーヴェルたちとの戦いで苦労はしたものの、あいつらの後だとどれも味気なく感じてしまったことを思い出し、不意に苦笑が漏れた。
それに目ざとく気づいたアイザックが、内容を察したらしく笑う。
「あいつらとはもう戦いたくねえな」
「本当に。……にしても」
カダーヴェル。あれから仲間たちや隊商の人間にも聞いてみたが、それに関する情報はひとつとして得ることはできなかった。
どうしてあんな大群で押し寄せてくる連中の情報を、誰も持っていなかったのか。今の俺は、それがどうしてもきがかりだった。いっそ、あの
不思議な二人組に「異世界からの侵略者」とか言われたらそちらのほうがおさまりが良かったかもしれない。
なんにせよ、あいつらがまた現れないとも限らない。幸い、この町は仲間から「知識の都」と呼ばれ、さまざまな情報が集まる場所として有名だと
聞いている。大地の神殿へと向かう前に、まずはここでいろいろな情報を仕入れるのが得策かもしれない。そうこう考えていると、いつの間にか
俺の番になっていた。
「ご苦労だったな、若造。お前たちはよくやってくれた」
「いえ、依頼を引き受けた身ですから」
短くそう答えて、エンボロスから報酬の入った小袋を受け取る。意外と重かったので、相当の量が入っているのだろうと推測するが、これは少し
多すぎるんじゃないだろうか。まぁ、返却したらそれはそれで失礼だし、おとなしくもらっておく。後で山分けしておかないと。
「さて、ワシらはこの先に行くから、ここで解散となる。重ねて言うが、ご苦労だった!」
その言葉で、周囲の人間は三々五々に解散していった。アイザックたちアリスも、こちらに手を振りながら街へと歩いていく。またいつか会おう
という無言の約束を取り付けながら、俺もまた背伸びをしつつカノンたちのところに戻っていった。


***


さて、突然だが画面の前のあなた。「テンプレ」という言葉をご存じだろうか。
テンプレ……本来をテンプレートという言葉であり、英単語のtemplateには「ひな形」という意味があるそうだ。だが、今現在俺が言っているのは
インターネット上などでよく使われている――ネットがないので今も実在しているかは不明だが――ほうのテンプレだ。
大体は「決まりきった文章のこと」や「アニメなどのキャラクターにおける定番のキャラ付けやイベント」のことを指し、今回俺が話したいのは
後者のほうである。
ネットやサブカルチャーに通ずる人間ならここまで言えばわかるかもしれないが、知らない方はなんだそりゃと思うので説明しておきたい。
俺は現在、一般人の身ながら別の世界に飛ばされ、その世界で冒険するという、いわゆる「異世界トリップ」の状況にある。異世界トリップといえば
大体はファンタジーであり、その中で起きるイベント……たとえば「王様、ないしは神様やそれに近い存在から勇者であることを告げられる」とか
「旅の仲間と出会う」、「自分の出生に秘密があることを知らされる」「強力無比な武器を手に入れる」などなどは、基本的にある程度
テンプレ化されている。俺の現在の状況がそうであるように。
で、そんな中でも採用率が高く、主人公とその他大勢のモブキャラの格差をはっきりさせるイベントが――
「ガキンチョ、ここはお前みてぇなボンボンが来る場所じゃねえんだ。ケガしたくなけりゃあとっとと失せな!」
冒険者ギルドや酒場における、なんかすごく強そうだけどその実主人公にあっさり負けるモブとの対面、および対決である。それはもう忠実に
テンプレに乗っかっており、逆三角形のマッチョ体系と、いかにも強そうな証である眼帯に背負った鉄槌(ハンマー)。にやにやといかにも
面倒くさい絡み屋っぽい笑みを浮かべる目が、俺を一直線に見つめている。ボンボン、というのは、ひとえに俺が色白なのを暗喩しているのだろう。
冷静に分析しながら、どうすれば騒動を収められるかを思案する。現状俺たちを取り巻く冒険者たちはおらず、店内にいた客はそろって
かかわりたくないでござると言わんばかりに壁際で縮こまっていた。あの反応から見るに、この大男は常習犯なのだろう。なまじ実力があるから
だれも大きく出られない、といったところか。
できれば面倒事を起こしたくなかったが、このまま目の前に居座られると非常にうっとおしい。何よりさっきからカノンとサラをチラ見しては
ニヘラと笑っているのが、一番頭にきた。俺にケンカ売っといてよそ見するなよ、と言いながら殴り飛ばしてやりたかったが我慢しつつ、俺は
どうにかできないかを探る。
「俺がどこに何しにこようが勝手だろ。第一、俺だってランクは低いけど立派に冒険者やってるよ」
「そうか、そいつぁ失敬。Cランク未満は入場禁止なんだよ。ほら帰った帰った」
「俺はCランクだし、こっちのゴーシュはA。カノンとサラはDだけど、あの子ら追い返すの?」
半分目を閉じてにらみつけると、男は反論に詰まったらしくぐっ、と声をくぐもらせていた。こういうやつは大体考えが及んでいないのが
関の山なので、言論で言い負かしてやれば暴力に応じることになる。そうすれば周りに証人がいるので――反応からして絶対こいつに好意的では
ないはずだ――、こちらも自己防衛として心置きなく叩き潰すことができる、という算段だ。
「――ともかく、そこのオッサンはいい。けどテメェは出ていけ」
「理由がないし、そんなことをいち冒険者であるお前にいわれる筋合いはない。Cランク未満なんだから、Cランクである俺は通れるはずだぞ」
「っ……ギルドの方針だよ!テメェみたいな腑抜けた奴がこられちゃ仕事に支障が出るんだ!」
「どんなギルドでも、冒険者であればそれがボンクラだろうがベテランだろうが受け入れている。それをここだけダメ、ってのは道理じゃないな」
「うっとおしい奴だなァ!ここをまとめてる俺が言ってるんだからダメなんだよ!!この『鉄槌のケイン』様を知らないとは言わせねぇぞ!」
「知らないし、知る気もない。まとめてるからって、ギルド本部の方針にたてつくのは身分的にマズいんじゃないのか」
という具合に、相手ばっかり一方的にヒートアップしていく。後ろではゴーシュがひそかに「おっさ……」とショックを受けていたが無視して、
相手が物理交渉に転じたところを――たたく!
「――ガキが、生意気にイィィ!!」
「なあっ!?」
わざとらしく後ろにすっころび、相手の初撃を回避する。これで、傍目からは間一髪で攻撃を回避したと認識できるだろう。むろん、後ろにいた
カノンたち三人は俺がわざと足を滑らせたのを見ているので心配されることはない。尻餅をつく体制になりつつ、俺は男――ケインに抗議する。
「……あんた、ここでケンカすんのかよ!」
「あたりめぇだ!そうしねぇとお前みてえな不届き者が中に入っちまうだろうがよ!」
とことん頭が固い。いや、自分で言った手前引き下がれなくなってしまったのかもしれないが、どちらにしろ相手はやる気だ。
本当に、できれば有名になりたくはなかったんだけどなぁ。


「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと、伝聞なんかの情報を集められるところを教えてもらいたいです。……あと、簡単な依頼があったら紹介してもらえれば」
数分後、俺たちはギルドの受付と話をしていた。傍らには、周囲からざまぁされているケインが気絶してほったらかされてる。
聞く話によると、周囲の人たちが手を出せなかったのは「腕っぷしが強いから」ではなく「この街有数の貴族である彼の一家からの圧力」が
理由だったらしい。そこを行きずりの俺と悶着を起こしてくれたおかげで叩きのめすことができて、すっきりした連中もいるとかいないとか。
たしかに、もめ事を起こしてこの町にいづらくなったら、町付きの冒険者としてはたまったものではないだろう。その点、俺たち旅人組は
そういったものに縛られずに動けるのがありがたい。
なんてことを考えていたら、やけにニコニコした受付の人が戻ってきた。職員の人たちもあいつに辟易していたようなので、たぶんそれが原因だろう。
そう考えながら、俺たちは提出された依頼の一覧に目を通す。
「……タクト君、これいいんじゃないかな?」
カノンが指差したのは、Dランクの依頼だった。内容は、この国の南にある「アルネイト平野」に出没する「騎乗ゴブリン」の殲滅依頼だ。
騎乗ゴブリンというのは、名が指す通り動物に騎乗したゴブリンのことだ。高度な知能を持ったゴブリンがすばやく移動する手段を身に着けて
いることから、面倒くさがって依頼を受けないことが多い――とは、のちにゴーシュから聞いた話。ゴブリンそのものの戦闘力はそこまででは
ないので、移動手段さえどうにかすれば楽に終われるだろう。そう考えて、依頼を受諾する。
「じゃ、これをお願いします」
「承りました。それと、こちらが依頼の物件までの地図です」
受け取った地図は、町の簡略図がわかりやすく書かれていた。赤い印をつけられている場所が現在地で、青い印が目的地だ。さいわい、そう遠くは
ないらしい。
日没にはまだ時間があるが、多く情報を得るに越したことはない。そう考えて、俺は足早にギルドを出る。


***


「こんなもんかな、っと」
目的地は、簡単に言えば図書館のような場所だった。入り口にはご丁寧に「館内ではお静かに」と看板が立てられていたので、ますますそれっぽい。
ここに来た理由は一つ、「カダーヴェルに関する情報の収集」だ。キャラバンの人間は誰も情報を知らず、かといって町に入っても
そんな連中が現れたなんて噂を一つも聞かなかった。そうなると、奴らの正体は必然的に二つに絞られることとなるのだ。すなわち、「過去の遺物」
か「未知の外敵」か。
後者ならば手詰まりに近いのだが、前者であれば書物なんかに載っているかもしれない。そう考えて、俺はこの図書館へとやってきていたのだ。
適当にそれっぽいものをあつめ――半分趣味だが――、席に座って一つ一つに目を通していく。魔物大全、魔術のすべて、カイ・ドレクスの歴史、
六精霊と神の物語、エトセトラ。
目が疲れながらも手を休めず、やがて積んであった最後の二冊のうち一冊を手に取った時、おやと俺は首を傾げた。
「勇者カインの手記」というタイトルの本だったが、俺はこんなものをとった覚えはない。無意識にとったのかな、などと疑問に思っていると、
ちょうど隣の席に着いたゴーシュが小さく歓声を上げた。
「お、カインの手記か。ちっちゃいころは俺もよく読んだもんだなぁ。懐かしいぜ」
「へぇ、そうなのか。……やっぱ、こういうのってメジャーなんだよな?」
「そうだなぁ。カルマやらメルティの記事はあるが、カダーヴェルについちゃ見たことない」
そっか、と相槌を打って、視線を戻し――――今なんつった?
カルマ。その言葉が、頭に引っかかる。何だったっけと首をひねり――思い出した。たしか、俺の祖先!
「ゴーシュ、カルマって言ったよな?」
「え?あ、おう。たしかじいさ……じゃない、カインの幼馴染みの大剣使いで、烈風のカルマとかいうあだ名がついてたな。そいつがどうかしたか?」
間違いない。そのカルマという人物は、俺の祖先であるカルマ・コーナーシュラインその人のとだろう。大剣使いというのも、魔障霧の中でウィンが
話していた内容と一致する。
たまたまとった本だが、興味が湧いてきた。祖先のことは前から気になっていたので、良い機会だと思いながら、俺はカインの手記を読み始める。


***


「よう、生きてるか?」
暗い部屋に、燃えるような赤い髪は一際目立っていた。
軽い口調で笑いかけた赤い髪の女の目の前には、玉座にもにた豪奢な椅子に腰掛け、苦悶の表情を浮かべる黒い人影がいた。女の声を聞き、
わずかに首をもたげると、人影は安堵したような絶望したような、暗い笑みを浮かべる。
「……レヴァンテ、か。わざわざ、すまないな」
「気にするな。……そうそう、お目当てのやつ、見つけたぜ」
女――レヴァンテの言葉に、男はその双眸に希望の光を灯した。ついで、昔を懐かしむかのように目を細める。
「そうか……私も報われそうだ」
「気ぃ抜いてんじゃ無いよ。あいつが熟すまで耐えとけって」
二人の表情は深刻げだったが、その瞳は感慨に細められていた。やがて何かを懐かしんでいた人影――黒騎士は、レヴァンテに向けて口を開く。
「ノルンにロキ、オーディンはどうした?」
「お前がぶっ倒れてる間に『魔神』さまに命令されたらしくってな。皆してすっとんでいきやがった」
何が嬉しいのかね、とつぶやきながら、レヴァンテが肩をすくめる。そのさまが黒騎士には懐かしかったのか、ふ、と小さく笑った。が、
直後に浮かんだ深刻な表情に、レヴァンテもまた毅然とした顔を作る。
「……こうなると、頼みの綱はお前だけだな」
「わかってるよ、こうなりゃ意地さ。……ノルンはあいつに任せるとして、ロキはもう水底。だったら、アタシはアホーディンを止めに行くよ」
そのまま踵を返して歩いて行こうとするレヴァンテを、黒騎士がとめる。振り向いた先にいた黒騎士は、まるで別人のようなオーラをまとっていた。
「……聞かせてもらったぞ、レヴァンテ。貴様は、アベルに踊らされているのだな」
「そうだな。そういうことにしておいてくれ」
それじゃあな、とだけ言い残して、レヴァンテはそそくさとその場を立ち退いた。残された黒騎士は、兜の奥で不気味に笑む。
「せいぜいあがけ。……カルマ亡き今、誰にも我を止めることはできぬさ」
低い笑みが、暗い部屋に反響した。


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短くするつもりが予想以上に長くなっちゃってなっちゃってこんちわーっす、コネクトにございますー。
ネタを思いつくといろいろ付け足しちゃうのは悪い癖ですねー。それで読者の人が「これ面白いな」と言ってくださると複雑ですがw


今回は一度やってみたかったメタ発言に挑戦してみました。タクトくんだって現代人であり、まして異世界召喚なんてものを知っているので
こういった知識もあるだろう、と思いやってみました。結果はご覧の有様だよ!
それと今回、次に相対する敵の情報を入れようと思っていたのですが、二話連続で長くしてしまうと読者方もダレてしまうと思ったので
次回に回すことにしました。そこ、まだ短いだろとか言わない。泣きますよ俺。
そして黒騎士と接触するレヴァンテ。主人公が知らないところで、なにやら起こっていますが……それはのちほどということでw


次回はさきほど説明した相対する敵の情報、そして接触
本格的なバトルは次々回になりそうな気もしますが、頑張っていろいろ詰め込むことにいたしますー。
それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ