コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

アイラAnotherStory―獅子を狩るモノ―

episode8.5 決戦前夜


「よし、と。これくらいでいいだろ」
『ん、わかった。シミュレートモードを切るね』
機械の駆動音が途切れるとともに、俺はリアクター内から出てきた真理を伴い、格納庫の床へと降り立った。後ろを向いて見上げると、
そこには半年間の間をともに戦い抜いてきた俺の相棒、伊邪那岐イザナギ)が立膝の状態で待機している。
今日は、真からもらったメールに記されていた決戦の日、その前日だ。すでに時間は夜の9時を回っており、今から就寝をして
明日の明朝に備えるつもりでいる。
先ほどまで俺と真理は、伊邪那岐に搭載されていた戦闘シミュレートモードを使って実戦に向けての特訓を行っていた。特訓といえども
今回相手にするのは、人類最大最後の敵である「ジェネシス」。操縦桿を握っていた腕は、疲れと緊張によってすっかり汗でぬれている。
この手に人類の、世界の運命がかかっているのだ。自然と、その特訓にも熱が入ってしまう。だがその効果ははっきり出ており、
俺と真理のコンビネーション制度は一週間前の繋との戦いから、比べ物にならないほどに上昇していた。
まだまだ足りないかもしれないと言う俺がいる反面、これ以上の伸びしろは存在しないぞ、体を壊す前にやめておけと心の中で警鈴を鳴らす俺もいる。
すでに残された時間はあらかた使い終わった。残るは、この訓練の成果が実戦でどこまで発揮できるかという懸念だけ。


「ねぇ、彰」
「ん?」
イザナギの傍ら、学校の宿直室からかっぱらってきた――出しっぱなしにしてあった布団ではなく、押し入れに詰め込まれていたものだ――布団に
座ってぼーっとしていると、不意に真理が俺に話しかけてきた。その声色がどことなく真剣だったので、こちらも自然と真剣みを増した
声色で応対してしまう。
真理が続けて俺に投げかけてきた言葉は、戦いに明け暮れていたこの半年間の俺に対して、問いかけるようなものだった。
「彰は、さ。この戦いが終わったら、何をするの?」
ジェネシスとの戦いの、あと?と思わずハッとして、少し考え込んでしまう。
よくよく考えてみれば、俺は明日の決戦ののち、どうなるかを全く想像していなかった。勝つという可能性もあれば、負ける可能性、引き分ける可能性、
相手やこちらが逃亡する可能性など、戦いには常に不測の事態というものがついて回る。
そういえば、万一にも勝ち残り、こちら側へと帰還した場合、俺はどうするつもりなのだろうか。しばらく考えて、やがて俺は口を開いた。
「……まずは、この状況をどうにかしたいな。たとえ帰ってきたところで、犯罪者のままだったらやりきれないし」
かっこよく凱旋した直後に牢屋入りというのもかっこ悪い。そんな自分を想像すると、不意に苦笑が漏れてしまった。それにつられたのか、真理も
小さく笑う。
「状況がどうにかなったら、また普通の生活に戻りたいな。普通に学校に通って、どこかに就職して。……戦争ってのは、性に合わないしな」
繋を殺してしまった時の、恵介を死なせてしまった時の、あの喪失感が足先から這い上がってくる。こんな感覚を味わうのは、もう嫌なのだ。
ファンタズマが世界からいなくなれば、人は再び戦争を起こすだろう。かつて自分たちの身を守るために使っていた兵器を、装機を、人殺しの
道具として使うために。人が人の居場所を、命を、生きた証を奪うために。
――もしかしたら、このままファンタズマが存在しているほうがいいのかもしれない。そんなことを考えて、おもわずかぶりを振る。
そんなこと、あってはならないのだ。ファンタズマは人に仇なす、不倶戴天(ふぐたいてん)の敵。今ここですべてを終わらせなければ、遠からず
人類はこの地上から姿を消すことになるだろう。それこそ、あってはならないことだ。
だけど、それは本当にこの世界のためになるのだろうか?本当に、人々のためになるのだろうか?
今まで頭から締め出していた思考が、今になって濁流のように頭の中に流れ込んでくる。俺は、真理は、イザナギは、装機は、ファンタズマは、
それによって成り立っていた企業は、この世界は、これからどう動いて、どこに向かっていくのか――――。
答えが見つかるはずもない問いかけを延々続けていた俺の意識を引きもどしたのは、真理のやさしい声音だった。
「私はね。――これからもずっと、彰と一緒にいられたらいいなって思ってる」
「……俺、と?」
「うん。……私は、彰とたくさんの時間を一緒に過ごした。彰から離れなかったから、あなた以外の人間を知らなかった、知ろうともしなかった。
でもはっきり言えるんだ。私は、彰のことが好き。……人間でいう『恋』や『恋愛』と同じ感情なのかはわからないけど。でも、あなたのことが
大好きだっていうことだけは、その気持ちだけは変わらない」
それは、俺にしても意外なことだった。この半年間を戦うことだけに費やしてきたせいか彼女に気を向けることが少なかったせいもあったのだろうが、
まさか真理が俺に好意を持ってくれているなどということは、正しく予想外だった。
いや、本当は初めから気づいていたのだろう。彼女が、俺に好意を寄せてくれていたということに。ただ、それを信じていなかっただけで。
もともと俺は、兵器に心があるなんて話を信用してはいない。そのスタンスは、今まで一度も曲げたことはなかった。それが原因で一度
恵介と盛大なケンカに発展したこともあったが、それは別の話である。
しかし、そんな考えは今や、真理という非常識な存在によって根底から覆されていると感じる。
真理自身は生体端末という、AIの延長だ。しかしその見た目やしぐさ、考えや思考ルーチンは限りなく人に近く、ときどき俺も彼女が人なのか
機械なのかあやふやになることもある。そんな経験があったからなのか、徐々に俺の中の考えも変わってきていた。
そしてこの瞬間、俺は彼女を「一つの機械」としてみることをやめていた。明確に一人に向けて好意を持つ存在が、ただの機械であるはずがない。
なんてことを考えていると、いつの間にか頬が熱くなる感覚を覚えた。慌てて「そっか」と返事をしながら、何考えてるんだ俺はと自分を叱責する。
ただの機械じゃなくても、その思考はプログラミングされたものだ。だからその好意も、自分を動かすためのファクターとしての俺に向けた
プログラムが成すものだ……と考えて、不意に馬鹿らしくなってしまう。
真理が好意を自覚していて、俺にそれが向けられている。その状況以外、何か必要とでもいうのだろうか。答えは――否だ。
正直言えば、俺は人に好かれるタイプの人間じゃない。そんな自覚が、彼女に好意を寄せられているという事実を、無意識に否定してしまっていた
のだろう。
「……ありがと、真理。俺も、お前のこと好きだ」
だから、素直な言葉で返す。語彙に乏しい俺の頭ではそんな単純なことしか言えないが、今はそれくらいがちょうどいい。
明日、この世界から俺はいなくなるかもしれない。なら、ちゃんと伝えておいたほうがいいに決まっている。
「うん、ありがと彰」
俺の言葉を受けた真理もまた、初めて笑った時と変わらない、はかなくて今にも壊れそうな、やさしい笑みを浮かべてくれた。どうにも
照れくさくなって、ぶっきらぼうに布団に入る指示を出す。


「ね、彰。ぎゅーってしていいかな?」
「へ?……な、なんだよいきなり」
「好きだからだよ。ねね、いいでしょ?」
「……ちゃんと寝てくれよな」
明日の決戦を控えて、なお俺たちの時間は穏やかに過ぎる。


*********


こんちはーっす、コネクトにございますー。
うーむ、どうしてまぁ番外編になるとこうも甘ったるいお話になっちゃうんでしょうねw


今回は久しぶりに、「アイラ02AnotherStory」の再始動準備としてアイラASの番外編を執筆させていただきました。
じつは今回の番外編、もともとは最終話を登校したのちにすぐ書き始めて投稿しようと思っていたものでした。ですがシリアスな余韻を壊さないように
自重した(のと話の内容を練り上げるのに難儀してた)結果、本編終了から四か月もたってから投稿となってしまいましたw
個人的には二人には夜のお勤めをしてもらいたかったんですが、そんなことしたら私が悶え死ぬので自重となります。読みたい人はコメントして
もらえれば、もしかしたら書くかもしれません。たぶんブログ限定の公開ですがw


ほかにもいくつか番外編の構想が残っており、公開するか悩んでいる状態です。現在ストックしているのは
・彰と真の絡み
・彰と繋のお話
・繋とロンダの裏の顔
・本編無関係なアナザーストーリー
ですね。みたい方はコメントとか評価とかをお願いしますw


それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ