コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

アイラanotherstory―獅子を狩るモノ―

episode8 帝王


「真理、いるか……?」
「うん、ここに。おかえり」
武甕槌との戦いから、一か月が過ぎていた。
あの日を境に、俺は近辺では有名人になっていた――――否、犯罪者となっていた。
武甕槌のパイロットである繋を殺したとして、現在俺は周辺で指名手配されている。
どこからか調達された俺の顔写真もご丁寧に添えられており、捕まえた人間には報奨金も贈られるそうだ。
剥がれ落ちたのを拾ってきた手配書を一瞥して、ふぅとため息をつく。
「……彰、あんまり気を落としちゃだめだよ?」
「わかってるさ。……落ち込んでなんかいない。面倒なだけさ」
こうなることは、薄々予測していた。武甕槌との戦いを終えたあの日、遠くで真が、オルデンの社員が見ていたことは知っている。
今現在拠点にしているこの、イザナギと出会った格納庫も、いずれ見つかってしまうだろう。
捕まるわけにはいかない。そう考えてずっと隠れてはいるが、限界を感じ始めてはいる。
ADVの容姿変化を使用して巻いてはいるものの、それももはや意味を成すかわからない状態だ。
厳密には、イザナギの力を使って永遠に閉じこもることはできる。だが、それはいつ目を覚ますかわからない、ほとんど永眠に近いものだ。
それでは、こうして逃げ回っている意味がないのだ。繋から託された願いを、俺の本当の目的を、果たすことができなくなる。
―――理不尽に命を奪われた人の無念を晴らすことが。
―――黒獅子の現況「ジェネシス」を討つことが。
ため息とともに座り込むと、不意に携帯が鳴った。
「……?」
誰だろうか。今や俺に連絡をくれる人間はいなかったはずだ。
そう思って携帯を見ると―――連絡の主は、真だった。
「……どうして真さんが?」
「わからない……。どうしてこんな時に」
訝しみつつ、連絡の内容を確認する。受信したメールのタイトルは、「最後の報告」。
本文は、とてもシンプルだった。
『彰へ。
 これが最後の報告になるな。助けることができなくてすまない。
 お前が逃げ回っている間、俺がジェネシスについて調べておいた。
 さすがに大した情報は集められなかったけど、とりあえずは
 掬(すく)えたデータだけ渡す。


 ひとつ、ジェネシスファンタズマの王たる存在。
 ふたつ、ジェネシスは常に日本の近海を浮遊している。
 みっつ、ジェネシスはもうじき、世界を破壊する。
 よっつ、ジェネシスを止める方法はわからない。
 いつつ、一週間後の明朝、ジェネシスは日本に接近する。
 行動経路から、上陸経路は和歌山沿岸かららしい。


 以上。これ以上の情報は望めないが、助けになれば幸いだ。
 もう会えることはないだろうから、先に伝えておく。
 絶対に死ぬな。』


「……真理」
俺の一言に、しかし真理はすぐに答えた。
「うん、わかってる。……真さんに感謝しないと、ね」
微笑む真理に苦笑しながら、俺は空を振り仰いだ。


決戦は、一週間後。









***










一週間後、和歌山海岸線。
半年間の間世話になっているコクピットに―――イザナギの中に、俺はいた。
今、俺たちは海岸線の一角に立ち、来たるジェネシスを迎え撃たんと構えている。
状態は、いずれもベストだ。体調、機体整備状況、連携のパターン。
すべて整えてきた。あとは、すべてを出しきって、戦うのみだ。
『ねぇ、彰』
「ん?」
控えめな真理の声に、俺は静かな返事を返す。
『―――ここまでお疲れ様』
次に紡がれた声に、言葉に、俺はへらと笑った。
「ああ。……真理も、お疲れ様。あと、ありがと」
『うん』
すでに、多くを語る必要はない。俺は死力を尽くして、真理は持てる全てで、戦うのみ。


思えば、この半年間は閃光のように過ぎていった。
イザナギに出会ったあの日から、すべての歯車は回り始めたのだろう。
真理と出会って。
ファンタズマとの戦いがあって。
繋と出会って。
天照に負けて。
大蛇やティターニアと戦って。
繋を殺して。
ずっと逃げ回って。


そして、最後に俺はどうなるんだろう。
この戦いが終わったとき、俺はどうなっているだろうか。
この身は、この心は、この魂は、どこに行くのだろう――――――。





『目標補足。データから見て、ジェネシスに間違いなし。距離、12㎞』
「了解、バーニア最大出力。…………洋上で叩くぞ」
俺の指示とともに、イザナギがふわと浮き上がった。各計器が、各関節がフレキシブルに動くため、わずかなうなりを上げる。


伊邪那岐・穿槍式、小絵島彰―――――出るッ!」
掛け声とともに、イザナギは水平線へと飛翔した。




(ED:Engage:http://www.youtube.com/watch?v=VBQcab4TtsQhttp://www.nicovideo.jp/watch/sm1490479


『高エネルギー体確認、識別結果はビーム砲!』
「回避ルートを頼む!」
朝日が昇る洋上。ジェネシスの姿を補足する前に、エネルギーでできた物体が飛んできた。
真理の示した回避ルートを使用して回避するが、一部はぐるりと回頭してこちらを追いすがってくる。
「AA-シェルで防ぐ!」
『了解、スラスター出力低下させ、防壁展開!』
急減速と同時にAA-シェルを張り、追いすがってきたビームにあえてぶつかり、霧散させた直後に再度飛翔、
ビームが飛来した方角へと、まっすぐに駆け抜ける。
直後、その姿がモニターに映し出された。
「あれが……」
一言で表せば、シャボン玉としか形容できない見た目だった。
反対側が透けて見える、ほのかに虹色に輝く球体。それが、ふわりふわりと浮かんでいる。
直後、そのシャボン玉―――ジェネシスから、再びビームが飛来した。
「AA-シェルで突っ切る!」
言うが先か、イザナギがAA-シェルを展開。襲いくるビームをことごとく弾くが、その度に分厚い膜であるはずのAA-シェルが
じりじりと削れていく。
『防壁の浸食を確認、20秒後に貫通!』
「近づくまで持てばいい……前方に集中して展開だ!」
指示を飛ばすと同時に、イザナギの前面に展開されていたエネルギー膜の色が少しだけ濃くなった。
削れた箇所がまとめて修復され、その上から新たなビームが浴びせられ、それを削られつつも跳ね返す。
『格闘戦準備よし、バスターランスアンロック!』
「一気に懐に潜るぞ!」
イザナギの背から青い焔が伸び、その速度をさらに上げる。効果がないことを確認したのか、ジェネシスから降り注ぐビームが途切れ、
次の瞬間にはヒモのような物体が飛来した。
『実体武器!』
「くっ!」
飛んできたヒモ―――触手をすんでのところで回避し、バレルロールの要領で軌道を変更。
一度抜けるかたちでジェネシスの横を通り過ぎ、バーニアを吹かせて180度反転。同時に飛来した触手に向けてバスターを放ち、
その先端を吹き飛ばした。
が、触手は止まらない。残った触手がイザナギの左肩を、右ふくらはぎを貫通する。
同時にスパークが悲鳴のように走り、イザナギが一瞬停止した。しかし。
「止まるかあぁぁっ!」
バスターランスの切っ先で刺さった触手を切り裂き、再度肉薄する。さすがのジェネシスも驚いたのか、触手を幾重にも巻き
分厚い防壁としてこちらに向けた。
その壁を、バスターランスの刃が真っ向から叩き切る。二度、三度、四度と切り裂かれた壁が解(ほど)け、千切れ、その本体を露出させる。
「でえぇぇぇぇい!!」
咆哮とともに、バスターランスが火を吹いた。エネルギーの奔流が本体に直撃し、その表面を黒く焦がす。
『OK、ダメージは入ってる!』
「よし、離脱する。――――ワルキューレ・システムを!」
その声とともに、イザナギが輝き始める。昇った朝日を背負い、黄金色に光り輝く。
破損した個所から粒子のようなものが漏れていることから、破損しても使えるようにリミッターを外してくれていたのだろう。
頭の隅で思案しつつ、イザナギが高速で離脱する。が、その速度に触手が追いすがってきた。
いや、ワルキューレ・システムの速度を凌駕していた。何十本もの触手が腕を、肩を、腿(もも)を、足を貫き、
そこから切り裂くように触手を動かし、イザナギを瞬時に大破まで追い込む。
「っ――――。修復を!」
『リミッター解除完了!彰、損傷は気にせずに戦って!!』
が、吹き飛ばされたそばから水晶が生え、イザナギを修復する。瞬時に再生したイザナギのバスターランスが、今度は連続で火を吹いた。
周囲に展開していた触手をものの数秒で焼き払い、ランスを納刀。今度はS.Sシューターを放ち、ジェネシスの本体に傷を刻む。
再び飛来したビームと触手を、クロスさせた腕ですべて受け止めた。腕が微塵に砕けたところから水晶が覆い、
腕を取り戻した直後にS.Sシューターを再度発射。そのうしろから迫る触手を二刀の元に引き裂き、再度ジェネシスへと
接近する。
「だあああぁぁぁっ!!」
AA-シェルを展開し、今度はジェネシスに直接激突した。衝撃でコクピットが軋み、悲鳴を上げるが、その効果は十分だった。
みし、という音を立てて、ジェネシスの表面にヒビが入ったのだ。そこから氷のような音を立てて、全体にヒビが入っていく様を、
離脱しながら見つめる。
「……まだ終わらないよな」
『ご名答。……熱源を確認、形状から見て――――装機!』
真理の言葉が終わると同時に、ジェネシスを覆っていたものが砕け散った。その中から姿を現したのは―――以前オルデンに
潜入した際、最後に見つけたあの写真の装機だった。
「これが本体か……!」
『データ内のどの装機とも形状が一致しない。……気を付けて!』
「言われずとも!」
言うが先か、イザナギが再度突撃した。対するジェネシスは周囲に浮かんでいたバーニアのような物体をこちらに向け、
そこから白と黒の砲弾を放ってくる。
『―――AA-シェルが破られるっ!?』
その威力は圧倒的だった。たった二発放たれた砲弾が、イザナギのAA-シェルをたやすく破るほどに。
相手はひるむ暇を与えてはくれなかった。その背に生えた翼からは、先ほどのビーム砲が飛来する。それも数百発。
「くそっ!!」
だが、さすがに先ほどの触手ほどの速度ではなかった。ワルキューレ・システムの速度にものを言わせ、すべて振り切る。
それを確認したジェネシスが、胸にあいたダクトと思しき穴から液体のような金属を撃ち出し、その形状を二本の槍に変えて双腕で掴む。
近接戦闘に入るつもりだろう。そう考えて、イザナギもバスターランスを右手に、アサルトナイフを左手に持ち、
真正面から突っ込む。
幾許もしないうちに、洋上を閃光が彩った。互いの武器がぶつかり合い、盛大な火花を散らしつつ、押しあいを繰り広げる。
勝ったのは、ジェネシスの槍だった。ナイフとバスターランスをまとめて叩き折り、肩口にその切っ先を突き立てられる寸前、機体を
回転させてその攻撃をいなす。
「おおおぉぉっ!!」
その勢いのまま、ジェネシスの頭部に裏拳を叩き込んだ。衝撃が双方を揺らし、イザナギの腕部の重量のおかげか
ジェネシスの頭部が少しひしゃげる。同時にバーニアを吹かせて離脱し、さらに3発のバスターを撃ち込む。
さすがにすべて回避されたが、直後に放ったS.Sシューターが着弾。ジェネシスの尖った肩装甲を削り取った。
続けざまに放った牽制のビームバルカンはすべて弾かれ、お返しと言わんばかりに放たれた白黒の砲弾が、イザナギの両腕を
粉々に吹き飛ばした―――直後に水晶が生え、再生する。が、ここで真理が叫んだ。
『ADVがもう底をつく、これ以上再生はできない!』
これで、継戦は望めなくなった。最後は、すべてを出し切る。
「だりゃああぁぁぁぁぁっ!!」
咆哮一発、両の腕からバーニング・ブラスターが放たれた。同時にワルキューレ・システムが解除されたことも知らされ、
イザナギが元の色へと戻っていく。
だが、放たれたブラスターは無駄ではなかった。その烈火がジェネシスの右腕を焼き切り、左の足を吹き飛ばしたのだ。
チャンスは今しかない。その考えのもと、イザナギが天空を駆けた。
なおも飛来する白黒弾を、切り裂き、受け止め、弾き、食らい、それでもなお突き進む。
懐に入り込んだところで、先んじて放たれていたらしいビーム砲が降り注いだ。AA-シェルを最大出力で展開したが、
すでにこちらに余力はない。膜を引き裂かれ、数十発がイザナギを傷つける。
だが、まだ動く。半壊した左腕でジェネシスの腹を殴ると同時に、左腕が砕けた。
直後に、ジェネシスの左腕が振り回した槍の柄が右足の付け根を直撃、駆動系に誘爆を引き起こし、右足が外れる。
『―――まだっ!!』
それを確認したらしい真理が、左足を動かした。殴った腹に向けて、尖った装甲を利用して膝蹴りを撃ち込む。
同時に展開されたバーニア型砲台が白の砲弾を放ち、左のふくらはぎを吹き飛ばした。
さらに残されていたらしいビーム砲が天空から降り、再度イザナギを傷つける。AA-シェルを失ったイザナギに防ぐすべはなく、
全身にエネルギーの雨を浴びた結果、頭部の右半分が誘爆によって吹き飛び、アイカメラがむき出しになった。
もはや、すでに満身創痍(まんしんそうい)といっても過言ではないだろう。だが俺は、真理は、この機体が動く限り戦う。
残された右腕が持ち上がり、握りしめていたバスターランスをジェネシスの胸に叩き付けた。
その切っ先がジェネシスに沈み込み、刀身が中ほどまでめり込む。
しかし、同時にジェネシスの持った槍がイザナギの胸に突き刺さった。コクピットからは逸れたらしいが、真横のコクピットでは
紫電が這いずり回る。
さらに、想定外の事態が続いた。エネルギーが危険域というアラートが、コクピットに鳴り響いたのだ。
ここで負けるわけにはいかないのに。その思いは、最後の余力を与えてくれた。
イザナギのマニュピレーターが動き、バスターランスの刀身を展開させたのだ。だが突き刺さった状態で正常に展開するわけもなく、
無茶な行動を行ったせいで上の刀身がバキン!と折れる。
だが―――最後に残されたわずかなエネルギーが、引き金を引かせた。
バスターモードとなったランスの根元にあるシリンダーが、高速で回転を始める。
砲身に、砲口に、光が収束する―――。
「―――――終わりだあああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!」
俺の咆哮に呼応して、イザナギの瞳が光った直後。
砲口から、自身さえも飲み込まんとするほどの巨大な光が、ほとばしった。
ゼロ距離からその光を受けたジェネシスが、光の中に消えていく。
吹き飛んだ刀身が焼け落ち、イザナギジェネシスから離れる。つまり、浮力を失う。
エネルギーもすでに底をつき、飛ぶことはかなわない。


―――でも、敵は討った。




恵介、お前の敵はとったぞ。
これで、お前は浮かばれるのかな。人々は、報われるのかな?
―――もう、お前のところに行くことはできないけど。
いつかまた、恵介なりの答えを聞かせてくれ。


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エピローグに続きます。