コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

アイラanotherstory―獅子を狩るモノ―

episode7 因縁


「……よし、デバイスにつなげた。そっちは?」
≪こっちもリンク完了。それじゃ、始めるね≫
大蛇との決戦から、丸々一か月の時が経過した。
その間、俺たちは奴との最後の通信で得た「ジェネシス」というキーワードを手掛かりに、様々な場所を当たっていたが、
今のところ有力な情報どころか、ジェネシスという言葉の意味さえ分からないという状況だった。
そうこうしているうちにファンタズマが隣町に現れ、こちらは対応さえできずに住宅36棟を破壊されるという大損害を被ったのだ。
もはや手段を選んでいる時間はない。そうして考え付いたのが―――オルデンへの潜入だった。


オルデンといえば、ファンタズマが跋扈(ばっこ)するこの世界において、トップクラスの技術力と戦力を保有する大会社だ。
日夜世界で現れるファンタズマと戦っているであろうそのデータベースには、必ずファンタズマに関する情報がある。
まだジェネシスファンタズマと確定したわけではないが、それでも可能性にかける価値はある。そう考えて、俺は最も危険な手段である
潜入を選んだのだ。
潜入に際して、手ごろなオルデン社員を拘束して社員用のカードキーと制服のロングコートを頂戴してきた。むろん返すつもりだが、後で
その人になんていわれるだろうか。
カードに書いてあった顔写真との齟齬に関しては、ADVの容姿変化を使って彼に似せてある。注視されなければ、別人とはわからないだろう。


というわけでなんとかオルデンに潜入し、現在は社内の情報室。
手ごろなパソコンを見つけて端末をつなぎ、真理を解してデータの洗い出しにかかっていた。
先日、とある人間から頂いた「パイロットスーツのコスプレ」に同梱されていたおもちゃの無線機を、真理が趣味で改造して
通信ができるようにしていたのだ。しかもその通信機はイザナギのコアと直結されているため、こうして離れていても
通信や相互サポートができる、という代物だった。どうやったのかと聞いたら、イザナギを使ったと返答されたのは別の話。
そんなわけで、俺は流れるパソコンの画面に目を通していた。今のところめぼしい情報はなく、ただファンタズマの情報が流れるだけ。
その時だった。一番最後のページに行き着いたところで、突如大きな写真と名前が表示された。
「これは……?」
≪……黒獅子?でも、データの形とはどれも一致しない……≫
そこに写されていたのは、異形の装機だった。周囲を取り巻く、バーニアともランチャーとも知れないもの。
とげとげしいフォルムに包まれた、どこか生物的な畏怖を覚える顔。機械的なのに、まるで有機物のような光沢を放つ翼。
色味と形状から見れば、れっきとした黒獅子だ。だが、真理が言うにはデータベースのどの装機とも合致しない容姿だというが……。
そこまで考えたとき、突如として警報が鳴り響いた。同時に周囲が赤い光に包まれていき、警戒状態が敷かれる。
「――気づかれたか!?」
俺の毒づきを裏付けるかのように、部屋の外から駆け足の音が近づいてくる。
「くそっ」と吐き捨て、とにかくはデスクの下にあった椅子用のスペースに身を隠す。


 * * * * * * 


バタン!という音とともに、警備の社員たちがなだれ込んできた。そのまま素早く周囲を確認し―――電源のついているパソコンを発見した。
仲間を引き連れて慎重に確認しに行くが、すでに近くに人の姿はない。
念のため周囲や机の下を探すが、そこに人の姿はなかった。
「……逃げたか。ほかをあたるぞ!」
隊長と思しき男の声で、警備員は引き上げていった。


 * * * * * * 


「…………行ったか」
扉が閉められる音を確認して、俺は「隣の机の下」から体を出した。
そのまま机の下に隠れては見つかる危険性があると踏んでいたが、どうやら的中だったらしい。
ふぅと一つ息をついて、念のために周囲を確認してから立ち上がる。パソコンの電源はすでに消されており、これ以上の深入りは
断念せざるを得なかった。またここに居座っていては、後から来るであろう捜索隊に見つかる恐れもある。
「帰り道の案内を頼む」
≪オーケー!≫
快活な真理の声を聴きつつ、俺は慎重に情報室を出た。


そこら中からひっきりなしに警報が鳴る廊下を、俺は慎重に渡っていた。もしも誰かに気づかれてしまえば、その時点で逃走は困難になる。
加えて、ADVによる変装にはスタミナがいるということが発覚しているため、現在は使用していない。ゲートをくぐる時でさえひと苦労だったのに、
走るときにまで展開していてはとてもスタミナが持ちそうになかった。
おそらくは、ゲートを通る際にもまた変装を行うことになる。それを考慮して、現在は解除しているのだ。
通路の端から顔を少し覗かせて―――すぐに下げる。
(……最悪のタイミングだよ)
そこにいたのは、以前大蛇との戦いで共謀関係となっていた、チームクレイドルの隊長「鈴木真」だった。彼も俺のことを探しているのだろう。
騎士としての実力もかなりのものである彼に捕まれば、まず逃走は不可能になる。そう思い、身をひるがえそうとした―――その時。
「そんなにカリカリしなさんな。俺はお前を捕まえに来たわけじゃない」
背筋に冷たいものが走った。が、不思議と彼の言葉に安堵を覚えてしまい、立ち止まってしまう。
その隙に駆け寄ってきた真が、とたんに驚きの声色を漏らす。
「……なんだ、侵入者ってお前のことか?どうしたんだよこんなトコで」
声色からすれば、おそらく素の反応なのだろう。緊張を削がれて、思わず小さくため息をつく。
「色々あったんですよ。……どうして捕まえないなんて言うんですか?」
個人的には、その部分が一番気がかりだった。彼も騎士―――オルデンの社員である以上は、俺という侵入者を捕まえるのが
当然の行動のはずだ。それなのに、捕まえに来たわけじゃないというのはどういうことなのか―――という疑問は、彼自身の口からでた言葉で
あっけなく解消された。
「別に、捕まえろって命令が俺にきてるわけじゃないしな。たまたまほっつき歩いてたら、逃げてる気配を感じたから声かけただけさ」
あっけらかんと言い切るその姿に、激しく脱力を覚える。が、現在の事態は予断を許さぬ状況だ。
彼なら手伝ってくれるだろうか、という願望にも似た思いとともに、言葉を紡ぐ。
「……すみません、俺は脱出します。まだ独房入りってわけにはいかないんで」
「そう、か。……ふーむ」
数秒うなったのち、帰ってきたのは的外れながらも―――
「よし、捜索隊の説得は任せとけ。この前のコスプレの借りを返さないと、な」
期待にたがわぬ、返答だった。


―*―*―*―*―*―*―


「……よし、こっちは出られた!」
数分して、俺はようやく日の光が当たる場所へと出てきた。その規模から察するに、おそらくは以前繋と戦った演習場に出たのだろう。
遠くに、右腕をランスに換装した大鷲が立っていることから、彼も出撃しているに違いない。
そう考えていると、不意にその大鷲がこちらを向いた。捕捉されたか。
そのまま硬質な音を鳴らしつつこちらへと近づいてきて、外部スピーカーから声が紡がれる。
≪おとなしく投降しろ。無為にお前を傷つけたくはない≫
その声色と口調からして、こちらの正体に関してはすでに知っていたらしい。ランスを向けられそうな気配だったが、そこまで
乱暴な相手でないのは幸いか。
だが、いくら繋の命令であろうとも、独房入りは避けなければならない。世界の、人々の敵をとるためには、
俺たちが動かなければならないのだ。
「……行かせてください。まだ捕まるわけにはいかないんです」
毅然とした声で、そう返す。俺が何をするのか、大体察したらしい繋から返事が飛ぶ。
≪行かせるわけにはいかない。……オルデン社法第3条、社長、並びに重役に無断で侵入したものを発見した場合、これを強制連行にて
身柄を拘束することを許可する。……できれば手荒な真似はしたくない。投降しろ!≫
その言葉には、どこか必死なものが含まれていた気がした。だが―――。
「……お断り、します」
その言葉と同時に、大鷲の背後から突如、紫色の装機が奇襲をかけた。衝撃で大鷲がのけぞったすきに、紫色の装機がその腕で
俺をひっつかんでコクピットに投げ入れる。


「うぉ……っとと。サンキュー真理」
『ごめん、ちょっと荒っぽくなっちゃった!』
コクピットハッチが閉まると当時に各計器、モニターに光がともり、主操縦権が俺に移る。
脱出の数分前、念のためにと真理、ひいてはイザナギを呼んでおいたのは、どうやら正解だったようだ。
イザナギを立て直すと同時に、大鷲の大槍が飛来した。向こうは、もはや手加減する気もないらしい。ギリギリのところで槍を回避し、
ナイフを展開して逆に大鷲の右腕にたたきつける。
浅い当りとともに火花が散り、それによって生まれた勢いで大鷲から距離をとりつつ、バルカンで牽制(けんせい)。
十分に距離をとって、大鷲の真正面に着地する。
≪……それが答えか、犯罪者!≫
俺の行動に、少なからず繋は失望しているのかもしれない。
それでも、俺は戦わなければならないのだ。あいつの敵を討つために。
だからこそ、立ち止まるわけには―――
「行かないんだよ!!」
咆哮とともにイザナギのスラスターが吼え、大鷲めがけて一直線に突っ込む。察知した大鷲がランスを構えるが、それよりも早く
イザナギの手からは「エネルギーの炎」が撃ち出された。
≪―――っ!≫
すんでのところで回避したが、左肩に着弾した火炎が小規模な爆発を引き起こす。
さすがに装甲をえぐるまではいかなかったが、それでも「ファイアガン」の威力は充分だった。以前、天照との戦いの際に
解禁された武装の中でも、これは隠し玉としてとっておいたつもりである。
(……まぁ、回避されたら意味ないんだけど、な)
自嘲気味に胸中でつぶやきながら、真理へと伝達を飛ばす。
「―――いっきに決めるぞ、真理」
『わかった』
短いやり取りののち、「V-System」を発動した旨がモニターに浮かび上がった。
同時にイザナギが持つ水晶体がワインレッドからエメラルドグリーンに輝き始め、システムがオーバーフローされる。
こちらの意図を察したらしい大鷲が、迎撃の体制をとる―――その前に。
「行くぞぉぉぉっ!!」
エメラルドグリーンの残像を残して、イザナギが大鷲の懐に潜り込んだ。神速から放たれた拳が大鷲の右わき腹を叩き、
装甲をめくりあげて内部の黒い何かを露出させる。
そこからブーストジャンプで離脱し、180度向きを変えて再度ブースト。背中側から再度拳を叩き込み、確実に装甲を崩していく。
前に抜けてバルカン、引き抜いたナイフを投擲、さらにバルカンを撃ち、回転しながらラリアット
空中前転で後ろに抜けて、その間にファイアガン。爆発でのけぞった大鷲に向けてリボルバスターを叩き込み、
着地からステップでとどめにタックルを叩き込む。
吹き飛んだ大鷲をよそに、イザナギは天空へと舞い上がった。


 * * * * * * 


「ちっ……さすがにあの時から時間が経過しているだけあるか!」
大鷲のコクピット内で、繋は舌打ちした。
「お、っととと。……でもま、このくらい想定してたんでしょ、繋?」
後ろに設けてあった複座に座っていたロンダが、くすと笑う。それに同調したかのように、繋も不敵な笑みを浮かべる。
「まあな。あれほどの力を持った芽を摘んでしまうのは惜しいが……」
「まぁまぁ。そんなこと言いながら、楽しそうじゃん?」
ロンダの茶化しにはあえて答えず、繋はいくばくか真剣みの増した表情で伝達を飛ばす。
「やるぞ、ロンダ」
「あいあいさー」
にこやかに敬礼を行ったロンダの頭上から、無数のコードに似た物体が降りてくる。
鼻歌交じりに笑うロンダをコードが取り巻き、やがてその姿は見えなくなる。
それを確認した繋が、一つつぶやく。
「―――その目に見せてやろう、こいつの真の姿を」


 * * * * * * 


「うおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
とどめとばかりにタックルを打ち込もうとした、その瞬間だった。
『下がって!』
「えっ……?」
真理の指示を耳に入れて、一瞬硬直したその時。
突如飛来したなにかから発されたエネルギーの弾が、イザナギの右肩に直撃。小爆発を起こして、イザナギを吹き飛ばす。
「ぐあぁぁっ!?」
呻きながら操縦を行い、イザナギをどうにか着地させて、大鷲を見て―――驚愕した。
「―――なんだ、あれ」
そこにいたのは、大鷲の皮をかぶった「なにか」だった。
俺の攻撃によってところどころの装甲が剥げ、そこからは新たに「真っ黒い装甲」がのぞく。
がらがらと音を立てて、がれきとなった大鷲が崩れた後には―――黒獅子がいた。
その背中に、いつか見たビット状の羽が―――先ほどビームを撃ってきた羽が接続し、そのすぐ下から4つのじゃばら状のアームが
じゃらと垂れ下がる。
装甲を吹き飛ばして、左腕の装置が展開。エネルギーの膜―――俗にいう「ビームシールド」を作り上げて、
最後にその、虫のような形の瞳をひとつ、瞬かせた。
『―――まさか、あれ、「武甕槌(タケミカヅチ)」!?ど……どうして、ここに?』
武甕槌という名前は、以前に真理から聞いていた。近接戦闘に特化した、黒獅子の4号機。
まさか、こんなところで遭遇してしまうとは思いもよらなかった。しかも、以前一度戦ったことのある装機の真の姿だったということにも、
一層驚愕してしまう。
真理でさえ、その本性を見極めることができなかったところを見ると、よほど巧妙に隠蔽(いんぺい)されていたのだろう。
≪……どうした、その程度でひるんでもらっては困るぞ≫
「わ……かってるよ。真理、V-Systemはあとどのくらい持つ?」
『あと一分持つかどうか。……でも、ヒート・スマッシュを打ち込めれば、黒獅子でも勝機はある!』
「よし!」
真理の言葉を立ち向かうための勇気に変えて、俺は再度イザナギを駆る。
その両手からエメラルドグリーンの火炎を連続で撃ち出して武甕槌の逃げ場をなくしつつ、持てる限りの速度で武甕槌に肉薄する。
「食らえよおぉぉぉぉっ!!!」
動かない武甕槌に向けて、火炎を巻き付けた右腕を突き出す。それが、決定打となった。
≪―――遅い≫
突き出された右腕めがけて、武甕槌の右腕―――つまるところの大槍が、真っ向からぶつかってきたのだ。
正面からぶつかったことで、強烈な突風と火花が周囲を吹き荒れる。数秒ののち、めきりという音を立てて、大槍の先端がわずかにひしゃげる。
だが、次の瞬間には拳が押し返されていた。驚愕に声を漏らす暇もなく、大槍が拳を貫き、その切っ先が肘から抜ける。
「なっ―――!?」
≪遅いと言ったろう!!≫
直後、突き刺さったままの槍を振り、武甕槌が動く。身動きがとれないイザナギを振り回す形で、槍が前に突き出された。
衝撃でイザナギの腕が槍から抜け、そのまま吹っ飛ばされると同時に、V-Systemが強制解除された旨がモニターに映し出される。
「ぐおっ!……っく、そぉ」
ただ投げ飛ばされ、地面に叩き付けられただけで、乾いた咳が出るほどの衝撃。せき込みつつもどうにかイザナギを立て直し、
迫る攻撃に備えようとしたその前に武甕槌の槍が飛来する。どうにか右腕で防ぎ切り、腕を振って槍をはじくと同時に、
限界を迎えた右腕のひじから先が千切れ飛んだ。
「真理、修復を急いでくれ!」
『わかった!……武甕槌は近距離戦がもっとも得意。できるだけ距離をとって!』
「ああ!」
改めて近接特化だということを思い出し、イザナギを数歩後退させたのち、一気にブースト。反応の遅れた武甕槌に再度タックルを叩き込み、
そのまま後ろへと抜けつつバルカンを撃ち込む。空中で姿勢制御をおこなったのち、ファイアガンを放とうとして―――。
≪しのいだつもりか!≫
振り向いたそこには、すでに武甕槌がいた。先ほどから動きに合わせて揺れるだけだった4本の蛇腹状アームがぐいと動き、
その先端についていた鎌と剣が飛来する。微妙な操作を行って3本をしのいだが、残る一本の鎌が左足を吹き飛ばした。
パーツをそがれてバランスを失ったイザナギに向け、今度は羽型ビットが飛来する。
「くそぉっ……!」
毒づきつつ後退し、今度こそファイアガンを放つものの、地上に降りてホバーによる高速移動を開始した武甕槌には
その一切が当たらなかった。それどころか、爆風を利用してさらに速度を上げている。
上からはビット、下からは本体。どちらをよけるか、その一瞬の逡巡が―――命とりだった。
≪ガラ空きだ!!≫
先に飛来したのは、武甕槌の槍だった。鋭い切っ先が左肩に突き刺さり、スパークが走ると同時に振り抜き、
離脱と同時にビットの射撃が迫り、回避に入っていたイザナギの、残っていた右足を吹き飛ばした。
完璧に、俺と真理の虚を突いていた。バリバリとスパークが走るコクピットの中で、俺は愕然とする。
もはや、手足をもがれた以上勝ち目はなかった。―――いや、そもそも彼に、繋に挑んだ時点から、すでに勝敗は決していたのだろう。
数瞬の後、盛大な音を立ててイザナギの残された部位―――つまるところ胴体が落下する。
―――あの時と同じだ。天照に負けたあの時から頻繁に夢に見ていた、敗北の光景……。


衝撃に体を揺さぶられ、ようやく俺は何かから目を覚ました。それと同時に、真理の声が響く。
『彰、なんとか時間稼ぎを出来ない?』
「……何をするんだ?もうイザナギは戦えないぞ」
繋の方に聞こえない程度の小声で問い返す。たとえ修復を最短で行っても、現行の状態ではとてもではないが勝つ見込みはない。
そんな俺の心のつぶやきを汲んだのか、真理はやけに確信を持った言葉を紡ぐ。
『ADVの特性と今までの戦闘で蓄積した戦術データを使えば、アップデートができるって私の開発者は言ってた。
……だから、一か八か試してみたいんだ』
アップデートというのは、いったい何を指して言っているのだろうか。聞き返したかったが、モニターに映った武甕槌がそれを許さない。
「―――わかった、やってみるか」
後から思えば、その時は何故真理を信用する気になったのだろうと問い詰めたくなる。
ともかく、大槍を向けて制止する武甕槌の搭乗者に向けて、俺は口を引き結んだ。
≪最後の警告だ、投降しろ。さもなくば、武甕槌の「白虎」がお前を串刺しにするぞ!≫
どこか必死な感情をこめて、繋はそう言った。白虎というのは、おそらく今イザナギに向けている大槍のことだろうか。
「……断固拒否します。俺には、捕まれない理由があるんです!」
≪理由を言い訳に、無断侵入を正当化する気か?頭の悪い考え方だ≫
トゲのある物言いに、少しばかり憤慨する。
たしかに俺が行っているのは、頭の悪い考えに基づいた行動だ。だが、今となってはこれ以外に取る方法はない。
たとえどこかで違う道を選べたのだとしても、それはすでに過去の話なのだから。
一度通った過去は変えようがない。それは、当たり前のこと。
「正当化じゃありません、許しを請うつもりもありません。……ただ、行かせてほしいんです」
だからこそ、それをわかっているからこそ、本心からその言葉を紡いだ。だが相手は、無情にも真っ向から切り捨てる。
≪願い下げだ。お前には、服役に従う義務がある!≫
不機嫌さを隠そうともしない声色は、直後にどこか悲痛な色に変わった。
≪……いいか。お前には「適正」がある。ここでお前が私に従えば、少なくとも無駄に命を散らすことはないんだ。
だから、頼む。……投降しろ≫
その言葉が、何を意味しているのかはわからなかった。
しかし、俺は毅然と反論する。
「無駄じゃありません。……俺は、誰のためでもない、自分のために闘っているんです。
友人を理不尽に奪われて、その原因を作った俺が、あいつの無念を晴らす。そうして初めて、俺は―――」
戦う意味を見出せる。
その言葉を口に出す必要は、なかった。向こうもこちらの事情を察したのだろうか、沈痛な沈黙が流れる。
静寂を破ったのは、繋だった。
≪―――復讐のために戦うのか≫
「……はい」
≪ならば、お前の志は私が継ぐ。それで、降りてはくれないか≫
驚くほどに静かな、弱々しい提案に、俺は少なからず驚いた。繋という人物は、任務のためにならばここまでできる人間なのだろうか?
そのやさしさは、確かに伝わる。その痛みは、確かにわかる。だが―――
「それじゃ、意味がないんです。……この戦いは、誰かを巻き込めるものじゃない。だからこそ、こうしてずっと戦ってきた」
正確には、真理という人間を―――一つの装機を巻き込んではいるが。我ながら矛盾した答えだと内心で苦笑しながら、続きを口にする。
「こんなところで降りてしまったら、あいつに……恵介に――――」
そこまで言ったとき。
『彰』と、静かに、確かに俺を呼ぶ声。同時に、己を律するように叫ぶ。


「申し訳が立たないんだよ!!」
その一言が、きっかけとなった。


(BGM:緋色のカケラ:http://www.youtube.com/watch?v=AfCxTd8i8i4http://www.nicovideo.jp/watch/nm8029870


破壊されたイザナギの両手から、両足から、ワインレッドに輝く水晶体が一気にあふれ出た。押し出されて砕けた水晶は空気に散り、
まるで同色の粒子を無数に放出しているかのような、幻想的な光景を映し出す。
その粒子の本流にのまれたのか、はたまた何かしらの危険を感じたのか、武甕槌が数歩後退する。
わずかにできたその間を縫うかのように、イザナギが「形を変え始めた」。
額からは装甲を貫き、一本の角が。
肩からは小さな水晶と、新たな装甲版が。
再生した腕の肘は装甲によって鋭角的になり、手甲の上には一際輝きを増した水晶が。
太ももに、膝に新たな装甲が造り上げられる。
しまい込まれたままのリボルバスターさえも水晶に包まれ、長く伸びていく。
すべてを構築したことがモニターに記されたと同時に―――繭のようにイザナギを取り巻いていた水晶が、一気にはじけ飛んだ。
その中から現れたのは、新たな「力」を得た、進化した相棒。
『行くよ……「伊邪那岐・穿槍式(イザナギ・センソウシキ)」!』
伊邪那岐・穿槍式。それが、新しいイザナギの名前。
「―――ついて来いよ!!」
テンキーとスロットルを操作し、生まれ変わったイザナギを駆る。
アップデートされていたのは、外面だけではなかったようだ。操縦した時の微妙なタイムラグから、各関節の動きの精緻さなど、
すべてにおいて俺が操縦しやすいように変わっている。
少し操縦しただけで、その変わりようは実感できた。その感覚を強く感じながら、イザナギが武甕槌へと肉薄する。
「くらええぇぇっ!」
咆哮とともに、新たに腕に増設されていた武器――バルカン砲が進化した「ビームバルカン」のトリガーを引き、エネルギー製になった
弾丸をばら撒きつつ接近する。
そのままイザナギが武甕槌を右、左の順で殴り、横に一回転した勢いを乗せて右腕で裏拳を叩き込む。
『S.S(エスツー)シューター!』
直後、真理が命令を発したと同時に、腕の水晶がちかりと輝き、そこからエネルギーでできた円盤のような物体が撃ち出された。
円盤は輝く刃となって高速で回転し、武甕槌の右肩を浅くえぐりながら遠くへと飛んでいく。
S.Sシューターというのは、エネルギー製の刃を撃ち出して攻撃する中距離武器のようだ。ファイアガンの派生と解釈しつつ、
バーニアを吹かせてイザナギを離脱させた、その直後。
『彰、AA-シェルを!』
「な……これか!」
真理の指令を受けつつ、ホログラムで表示されていたスロットルを回転。新たに追加されていたAA-シェルの項目を選択すると同時に、
イザナギの全身の水晶体が発光を始める。水晶からエネルギーでできた膜のようなものが形成され、直後に真上から飛来した
エネルギーの弾丸が膜―――AA-シェルに着弾、爆発を引き起こす。
衝撃に軽く驚きつつも、AA-シェルが防御用の兵器だと理解した。上空に展開していた武甕槌のビットが元の場所へと戻っていく様を
見ながら、真理から飛んでくる指令に従う。
『彰、バスターランスを使って!』
「わかった!」
返事をすると同時に、リボルバスターがあった場所に生み出されていた新たな武装が展開。柄が持ちやすいように持ち上がり、
右の手でつかみ取る。展開された剣のような武器―――バスターランスの刀身が真ん中から割れて開き、刀身に埋もれていた
砲身のような細い筒の口が露出、「バスターモード」に変貌する。
柄にあった引き金を引くと同時に、その砲身から一条の光が伸びた。以前までの巨大なビームの奔流とまではいかなかったが、
それでも十分に大きなエネルギーの渦が武甕槌へと接近する。
≪―――たかが新武装など!≫
展開されたビームシールドに防がれたが、目くらましには成功した。念のために回転したシリンダーからもう一撃を放ち、
照射を終了すると同時にバスターランスの刀身を再度閉め、「ランスモード」へと移行。ひときわ強くバーニアを吹かせ、
巻き上げられた砂埃で目くらましされた武甕槌に向けて突撃する。
「いけぇぇぇっ!」
瞬時に詰め寄ったイザナギが振りぬいたランスが、武甕槌の腹を浅く抉(えぐ)った。一瞬青白いスパークが走るも、やはり
ダメージにしては少ない。
≪詰めが甘い!≫
直後、武甕槌の蛇腹アームが襲い掛かる。AA-シェルは対ビーム用ということなので展開はせず、硬度を増した両腕で
剣と鎌をガード。絡みついてきたアームを強引に振りほどき、再度距離をとる。
ヒットアンドアウェイ。イザナギに乗った時からの俺の戦法が、機動力という形で実現していた。
とはいえ、その感覚に長くは浸っていられれない。目の前の武甕槌と交戦している状態である以上、気を抜くわけにはいかないのだ。
ともすれば、相手は本気でこちらをつぶしに来るはず。たとえADVで不死身になっているとしても、天照のときのように
恐怖に責め立てられるのはもうごめんだ。
「―――俺だって、無駄に戦っているわけじゃないんだ」
≪そうだろうな。誰しも理由のない戦いなどしない。……少しはきつい処分をしようと思ったが、気が変わった≫
そこからすぐ、繋の声色が変わった。
≪……決闘だ。君が勝てばこのまま見逃す。私が勝てば君を公務執行妨害にて拘束させてもらおう≫
何を考えているのかは、わからない。
「……乗った」
だが、不思議と悪い気はしなかった。肯定の意を送り、イザナギを構えさせる。
≪……私とて、好きで君を拘束するわけではない。だが、譲れない理由はこちらにもある≫
まるで自分に言い聞かせるかのように、繋は無線越しに言葉を紡ぐ。



≪俺が負けるわけにはいかないんだ!!≫
瞬間、武甕槌の背からビットが飛び出した。
イザナギが負けるわけにはいかない。そう考えつつビームバルカンにエネルギーを装填し、こちらは弾幕で対抗する。
対するビットは縦横無尽に避け、そこかしこからエネルギー弾を放ってきた。ギリギリ回避してランダムに弾丸をばらまくと、
たまたま数発がビットのエンジン部と思しき部分に被弾。煙を吹くと同時に放たれた弾ともう一基のビットが放った弾が、
イザナギのビームバルカン部に着弾。小爆発を引き起こし、バルカンが使用不能になった。
「ぐっ……まだまだ!」
叫ぶと同時にS.Sシューターを発動、撃ち出された光輪が、墜落していなかったビットに直撃、爆散させる。
≪勝ったと思うなよ!≫
直後、武甕槌がビームシールドを展開して突撃してきた。その速度から武装を使用しての迎撃が間に合わないと判断した真理が
AA-シェルを展開、互いのエネルギーの膜が真っ向からぶつかり合い、色鮮やかな火花を散らす。
≪―――願いをかなえるための力というのはイヤというほどわかる……だが、それを終えた後のお前はどうなる!≫
だが、なおも諦めきれないのか、繋が必至の声色で説得にかかってきた。
「俺は、平和を願って散った人たちの無念を晴らすために―――あいつの敵をまとめて取るために、俺は戦う……
行かなきゃならないんだ!!」
叫びつつアサルトナイフを展開し、AA-シェルの出力を増幅。衝撃で武甕槌を押し飛ばし、その勢いで飛んできた
蛇腹アームを一つ、叩き切って破壊する。
続けざまに二つ、三つと破壊したところで、さすがにナイフの刀身にひびが入った。そこに残っていた鎌アームが飛び込んできて、
刃がかち合うと同時にナイフが折れる。
「くっ!」
毒づきつつS.Sシューターで最後に残ったアームを吹き飛ばすと同時に、体勢を立て直した武甕槌が突っ込んでくる。
≪世界はじきに終わる!……無となったこの世界で、それでもお前は戦うつもりか!?≫
その左手で動くマニュピレーターがイザナギの右腕をガッチリと掴み、その馬力にものを言わせてビームバルカンの砲口を握りつぶした。
脱出しようともがいたところで武甕槌が手を離したかと思うと、続けざまに右腕の大槍が左腕のビームバルカンを穿ち、吹き飛ばす。
「誰が終わるって決めつけた!!―――絶望だけになっても、何もかもなくなっても、ファンタズマは消えるのか?!」
≪逆だ、ファンタズマが世界を奪う!討つべき仇を失って、親しいものを奪われて―――すべてをなくしても、お前は
傀儡(くぐつ)のように戦う気か!≫
大槍に対抗するために、こちらもバスターランスを取り出し、その刀身に刃をたたきつける。衝撃で、火花が散った。
「終わらない、終わらせはしない!」
振りぬいたバスターランスを展開し、バスターモードへと変形。隙を埋めるようにビームを放ち、武甕槌の進行を防ぐ。
そこへ再度変形したバスターランスを突き立て、防御のために展開されていたシールドの中央―――発振機を潰した。
振りかぶられた大槍に、バスターランスの切っ先を向けて―――二つの槍が、真っ向からぶつかり合う。
それは幾許(いくばく)も持つことはなかった。互いの衝撃が相殺され、相手に流れ込み、一気に圧壊(あっかい)させる。
互いの持つ大槍が、中ほどまで崩壊した。
「あんた達だって……終わらせないために戦っているんだろう!!」
俺が放った一言が、武甕槌の動きを、ほんの一瞬だけ止めた。同時に折れたバスターランスを投げ捨て、握りしめたマニュピレーターで
武甕槌を殴る。同様に武装を失った武甕槌も右腕の槍をパージ、内部に隠されていた拳を露出(ろしゅつ)させ、
その腕を唸らせてイザナギの頭部を殴りつけた。
≪―――戦いは時期に無意味になる。その時こそ、俺たちは存在意義を持てるんだ!≫
「その時まで待たなきゃいけない存在意義なんて要らない!戦う力を持っているんなら、抗(あらが)って見せろよ!!」
互いに武装は破壊しつくされ、残る武器はその機体のみとなっていた。双方ともその双腕を唸らせ、その足で大地を踏みしめ、
命を摩耗(まもう)させながら、ただ殴り合う。
「俺は、抗う道を選んだ。……だからこそ、あんたらの思い通りには動かない、動いてたまるかあぁぁぁぁっ!!」
その言葉とともに、突如システムが唸りを上げる。V-systemが昇華した姿が―――「ワルキューレ・システム」が、
イザナギをエメラルドグリーンに光り輝かせる。
≪――――来い≫
繋の言葉だけが、やけに澄んだ音を持っていた。
バーニング……』
「ブラスタアアァァァァァッ!!!」
突き出された右腕から、輝く水晶から、イザナギの核〈コア〉から、火炎の奔流がほとばしる。
渦巻くエメラルドグリーンの烈火が、真正面に構えた武甕槌を飲み込み、吹き飛ばす。
業火の中で、武甕槌が崩れていく。








≪――――確かに見せてもらったぞ、その信念を≫
ノイズの混じった無線から、繋の言葉が響き渡る。
≪強いね、彰君は。その力なら、もしかしたら……かもね?≫
少女の―――ロンダの声が聞こえると、繋が苦笑する音が聞こえた。
≪戦いを続けるなら……頼みがある≫


すべての黒獅子の元凶を―――ジェネシスを、頼む。
その言葉を最後に、武甕槌は荘厳な爆発と、火炎の中に消えた。


*********


というわけで極長ちわーっす、コネクトにございます!
いやはや、やりたいことが多すぎたあまり「もうこれが最終回でいいよ」な出来になってしまいましたw
や、まだ続きますよ?少なくとももう一つ、ドデカい奴との決闘が待ち構えておりますから!


さて、本編についてはもう語ることがないので質問で受け付けるという形にして(オイ)、お次は新たに登場した彰くんの後継機
伊邪那岐・穿槍式」の解説に入りますw
まずは画像をドン!

誕生の背景としては、「イザナギが蓄積したデータを基に彰の戦闘スタイルをフィードバックして、より彰の操縦に合うように
再構築された」ことになっております。
さまざまな追加武装も増えて、より彰くんの戦法に合うように調整がなされた機体となっています。
まぁさっそく本編中でぼろぼろになりましたがねw
で、そんな穿槍式の中でも特徴的なのは、名前のもとになった「バスターランス」!

普段は手に持っているときのように、剣のような形の「ランスモード」で扱われますが、必要に応じて図のように刀身が展開、
リボルバスターから継承されたシリンダー型ビーム砲を露出させて砲撃を撃ち込む「バスターモード」となります。
え、ファフナーで見たことある?ききき気のせいです(焦
ほかにもいろいろと紹介したい部分はあるのですが、とりあえず今回はここまでにしておきます。
後々穿槍式の紹介ページを作るので、そちらを参照くださいなー。


それでは今回はここまで!
次回、ついにアイラanotherは最終回を迎えます……!
ではでは ノシ