コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

アイラanotherstory―獅子を狩るモノ―

episode6 再起


「……あ、お帰り彰!」
「あぁ」
天照との対決から、二か月の時が経った。
その間、大それて大きな事件といえば近くでひったくりが発生したくらいで、主だって俺たちが必要とされる局面はなかった。
各地では対大型ファンタズマに対して殲滅(せんめつ)作戦を、という声も上がっているが、装機の消耗は思った以上に激しく、
それほどの大規模作戦を行うための台数が整っていない、というのが実情である。
平和な世の中だとしみじみ実感しつつも、しかし俺は無気力な毎日を送っていた。
あの日―――天照との以来、夢に見るのだ。取っ組み合う俺――イザナギと、相対するは漆黒の装機。
やがてイザナギは競り負け、なすすべなく四肢を粉砕され、コクピットを何か、巨大な武装で貫かれ、原型さえも壊されて。
思い出すだけでも身震いする。天照との敗北で、俺の心には暗い影が落とされていた。
そんな俺の心中を察してくれているのか、真理はそのあたりに関しては何も追求してくることはなかった。申し訳ないと思いつつも、
今は日常を楽しませてもらっていた。
「ねぇ、今日は何か面白いことあった?」
そうやって無邪気に聞いてくる真理が、少しうらやましく感じる。だが、ここで誰かに当たり散らしたところで
何かが解決するわけでもない。せいぜい、俺の気がすこしだけまぎれるだけだろう。
「とくには何もなかったな。高上が何もないところですっころんだくらいさ」
二言三言会話を交わし、私服に着替えてゆっくりしようとした、その時だった。


≪緊急連絡、緊急連絡!市内一帯に、特ファンタズマ警報が発令されました!ファンタズマの移動速は低速につき、市民の皆さんはなるべく
慎重に非難をお願いいたします!繰り返します……≫
突如として鳴り響いた警報が、俺のすべてをこわばらせる。
願わくば、二度とあらわれてほしくなかった。
戦いなど、もうごめんだ。
あんな怖い思いは、申したくない。
子供のように純粋な感情が、俺の胸中で吹き荒れる。
だが、いかなければならないのだ。たとえ正規の軍属である装機たちがいても、それが打ち破られるのは自明の理だ。
オルデンという切り札もなくはないが、それはあくまで被害が深刻化してからの話だ。
つまるところ、被害を最小限にとどめるためには、自由に動くことができる俺たちが動くほかないのだ。
だが、戦えるのだろうか。


―*―*―*―*―*―*―


『彰、目標を探知!敵個体は「妖精級:ティターニア」と断定!』
数分の一人問答の挙句、結局は出撃を選択した。こんな精神状態で戦えるかどうかは怪しいが、やるしかない以上やるだけだ。
画面に投影されていたファンタズマは、予想に反してかなり小柄だった。
いや、小柄というよりは、ほとんど「人間と同じ姿をしていた」といったほうがいいだろう。
ふわふわとなびく、ウェーブのかかったプラチナブロンドの長い髪。純白の肌を優しく包み込む、きらりと光るシンプルなドレス。
民間伝承に出てくる「エルフ」のようにとがった長い耳と、その背中から生えている虫のような透明な薄羽がなければ、完全に
外国の人間と勘違いできる外見だった。妖精級とよばれる所以(ゆえん)は、おそらくその外見だろうと踏む。
そこまで推察してなお、腰が引けてしまう。見かけに似合わぬ強烈な力を持っているかもしれないし、未知の力を使ってくるかもしれない。
どうしても、事態を悪い方向に考えてしまうのだ。歯噛みしつつ、ここから迎撃ができないかと模索する。
だが、その思考は無駄に終わった。原因は、真理の言葉。
『―――っ、後方に装機……黒獅子の存在を確認っ!』
その言葉を聞いて、ぞくと背筋に寒気が走った。黒獅子、俺を「潰した」、最悪の敵。
聞こえる。黒獅子の咆哮が。
届く、黒獅子の拳が。
感じる、自分の末路を。
『―――――彰っ!!』
「っ!?」
真理の叫びが、俺を現実に引き戻した。慌てて周囲を確認するが、いまだ敵は射程圏外だ。
俺を心配して、声をかけてくれたのだろう。ありがとうと一つ感謝を述べ、改めて真理の報告に耳を傾ける。
『……えぇと、黒獅子はデータベースと外見情報を統合した結果、伍(5)型「大蛇(オロチ)」と断定!
ステルス能力付きの強敵だよ、気を付けて彰っ!』
その報告よりも先んじて、突如黒獅子―――大蛇の姿が掻き消えた。慌ててレーダーを見やるも、すでに反応は消滅している。
報告された、ステルス機能を使用したのだろう。歯噛みしたその直後、まさしく目の前で異変が起きた。
先ほど消えたはずの大蛇が、わずかな時間の間に肉薄してきていたのだ。まさに目の前で姿を現し、その右腕で
イザナギの首をわしづかみにする。その直後に、無線が起動した。
≪よお、パイロットさんよ!あんまし俺たちに関わらねぇほうがいいぜ?≫
声は、男性のものだった。青年と中年のちょうど境目のような声だが、その口調はかなりオジサンくさい。
どうやら、いましがた前方で俺を拘束している大蛇のパイロットだったようだ。天照とちがい、人の意思を持つということで
少なからず安堵する。
「……どういうことだ。それに、お前はだれだ」
≪はっ、人の名前を聞くときは先になのれって教わらなかったか?坊主≫
こちらのことを声色だけで―もしかしたら顔もわれているのかもだが―判断するあたり、洞察力は高いのだろう。
その不敵な声の挑発にあえて乗りかかり、毅然と名乗る。
「……彰。小絵島彰だ。改めて聞くぞ、お前は誰だ!」
大蛇の頭部へと視線を飛ばすと、よくできましたとでも言わんばかりに短く口笛がなった。
≪よーし、約束は約束だ。俺ぁ『安藤亥(あんどうがい)』。みたとおり、こいつのパイロットさ≫
イザナギをつかみつつ、左手の親指で自分を示す。器用な操縦だと感心しつつも、今現在の状況から抜け出す手立てを考える。
相手は天照とは違い、人間だ。ならば意表をついてやれば、程度は違えど相手も混乱するだろう。
そんな持論を展開して、ふと湧いた疑問をぶつける。
「……安藤とか言ったな。なぜあそこまでファンタズマに近い場所にいながら、あいつを倒さなかった?」
装機は基本的に、ファンタズマを討滅するために建造された存在と言って差し支えない。黒獅子も、その点については変わりないはずだ。
だが、この装機は―――大蛇のパイロットは、明らかにファンタズマのそばにいながら、それを守ろうとしているかのようだった。
何を考えていたのか、突き止めなければならない。人類の敵であるファンタズマに、なぜ肩入れするのか。
≪あぁ?……さぁな。そうしろって俺の勘が言うのさ≫
「な…………勘だけで人類を裏切るつもりか!?」
亥の妙な回答に、少し語勢を強くする。だが、相手は揺らがない。
≪まぁ、勘だけじゃないさ。……いいか?俺たち黒獅子は、ファンタズマと触れ合う運命なのさ。お前みたいに、出来損ないの装機で
しゃしゃり出てくるガキに……≫
直後、異変が起きる。
≪とやかく言われる筋合いはねぇ!≫という声とともに、衝撃が二つ迸(ほとばし)った。その威力にイザナギが弾き飛ばされ、
体勢を崩しつつ着地する。
メインモニターに映っていたのは、腕に取り付けられていた棒状の物―――正しくは、二振りの「太刀」を取り出し、それを
クロスして振りぬいた格好の大蛇だった。おそらく先ほどの衝撃は、抜刀と同時に与えられた斬撃によるもの。
相手が剣を抜いてきた以上、こちらも抗戦するほかない。即座にナイフを取り出し―――震える。
またしても、俺の心には暗い影が差すのだ。あの時イザナギを抉った、痛烈な一撃を。
一瞬の逡巡(しゅんじゅん)は、命取りになった。
≪っらぁ!≫
相手の咆哮とともに、大太刀の一振りが飛来する。反応は遅すぎ、鋭い切っ先が肩口に浅く突き刺さった。
「う、ぐっ」と苦々しいうめき声をあげながら、とにかくはイザナギを後退させる。
反応の遅さもあったが、それだけが原因とは思えない太刀筋の速さだった。すでに黒獅子にかかわるようになって長いのだろう。
経験の差を見せつけられたように感じ、ぎりと歯噛みする。が、相手はそんな反応も許してはくれなかった。
≪おらおら、とっとと反撃せいやぁ!!≫
右に左に、斬撃の嵐が飛び交う。引け腰になりつつもどうにか攻撃をさばけているのは、ひとえに真理のおかげか。
俺も操縦を行ってはいるが、どうにも望むように動かせないのだ。まるで、焼き付けられたはずの操作方法が、恐怖で塗りつぶされて
使い物にならなくなってしまったかのような。
あるいは、それは事実なのかもしれない。今の俺に、戦うための力と気力は、存在していない。
「……真理、引くぞ」
『え…………いや、まだだめ!大蛇にスキを作らないと、このままじゃ後ろから斬られる!』
その言葉に、内心で強く毒づく。逃げるためにも勇気が必要なのかと、少しばかり気が滅入(めい)る。
だが、困ったことに相手の攻撃の手は揺るがなかった。それどころか、こちらの様子に腹を立てたのか、その攻撃が苛烈(かれつ)になっている。
≪テメェ!自分から挑んできた手前、んな逃げ腰かましてんじゃねえぞ!それともアレか、自殺願望か!そいつぁご苦労だな、
だったら30秒で切り刻んでやらぁ!!≫
その声とともに、大蛇の両手に握られていた太刀から、光があふれ出た。ごうごうと唸る光の本流は、まるであの時の白黒弾のようで。
「――――んのやろうっ!!」
それが、俺の何かに火をつけた。咆哮一発、相手の太刀が振られるよりも早くリボルバスターを展開。まともに照準もつけず、
ただ相手に攻撃することだけを考えて、俺は光を放った。
光をまとった太刀と、光の激流が真っ向からぶつかり合う。
数秒ののち、競り勝ったのは―――激流だった。太刀の光をはじき、あまつさえその刃すら溶かし、大蛇を食らわんと暴れる。
ギリギリのところで、大蛇はそれをかわした。衝撃で太刀の持ち手が弾き飛ばされ、左手が空く。
「うおおおぉぉぉぉぉっ!!」
そこを突かんと、俺は叫ぶ。左手に握り替えられていたナイフを振り上げ、その頭に叩き付けんと。
だが、その時だった。
『――――彰、前!!』
「なっ!?」
突如、目の前に閃光が迸(ほとばし)った。突如飛来したそれに当然反応できるわけもなく、閃光をもろに浴びて吹っ飛ばされる。
今度は姿勢制御が間に合い、アスファルトの上を滑走しながら着地したが、その攻撃の元である存在に、驚愕した。
いや、何者が攻撃したのかはわかりきっていた。問題は、その攻撃者の行動だったのだ。


(BGM:counter attack:http://www.youtube.com/watch?v=DezbAJ0DSGIhttp://www.nicovideo.jp/watch/sm16133108


「―――アナタ、ガイ、キズツケル。ワレ、ユルサナイ」
たしかに、そう聞こえた。ファンタズマが、言葉を放ったのだ。
「―――真理、どういうことだ?!」
『わ、私にもわからない……。言葉を持つファンタズマなんて、データベースには入ってない』
新種のファンタズマかと踏んだが、ファンタズマは「100体を上回ることも下回ることもない」存在だ。仮に増減しても、すぐに
どこからか新たなファンタズマが補填されてしまう。つまり、不滅の存在のはずだ。
ならば、以上進化を遂げたファンタズマなのか。様々な予測を立てるが、結局あのファンタズマのことはわからなかった。
それどころか、考えれば考えるほどその正体は、全容は霞んで行く。正しく、今目の前にいる大蛇のステルスのように。
そしてその間に、件(くだん)の大蛇を見失ってしまった。どこから攻撃が飛んでくるか一種焦燥にかられるが、
当人はただ後退しただけのようだった。
「よう、助かったぜ嬢ちゃん。怪我ねえか?」
その中の亥が、ファンタズマに話しかける。その言葉を受け取ったファンタズマもまた、たどたどしいながら
はっきりとした「回答」を述べた。
「ダイジョウブ、ガイ、ヘイキ?」
再び、信じられない光景だった。人間とファンタズマが会話をしている光景など、誰が信じるだろうか。
予想だにしない光景の数々に、俺、ひいては真理は困惑するばかりだ。
「……何がどうなってるんだ」
『わからない……けど、とにかくこの間になんとか作戦を立てよう』
真理の言うとおりだ。ここでがむしゃらに突っ込んだところで、何になるかと考えて頭を冷やす。
どうにか頭を冷やし、改めて大蛇に真っ向から向き合う姿勢になったところで、ちょうど相手二人もこちらを向いた。
≪見ての通りだ。俺はこの嬢ちゃんを守ってやんなきゃなんねぇ。だから……≫
大蛇が、腰を落として突撃の構えを作る。横で浮遊するファンタズマも、同じく交戦体制だ。
やってやる、と言うつもりで、俺もイザナギを突撃させる体制に入る。
≪とっととくたばれや!!≫
瞬間、先んじて地を蹴ったのは大蛇だった。だが、そのそばから姿が掻き消える。
「くそ、ステルスか!」
『どうにか位置を割り出してみる!彰は先にティターニアを!』
「わかった!」
相手がファンタズマに切り替わり、少しばかり気が楽になる。改めてファンタズマに向きなおり、左腕のバルカンをばらまく。
牽制のつもりで撃ったが、その数発が小さな体に着弾した。「ア、ウッ」と小さく悲鳴を上げ、ふらりと高度を下げた―――直後。
≪何してくれてんだオラァッ!!≫
激昂した声が響くと同時に、背部を十字に切り裂かれてしまった。ステルスにより、大蛇の居場所が全く分からない状態からの、
完璧な奇襲だった。たまらずイザナギが地に伏し、衝撃でコクピットが揺れる。
「ちっ……くしょお!」
苦し紛れに右腕を振り上げ、でたらめにバルカンを撃つ。全弾外してしまい、逆に今度はファンタズマから砲撃を受けてしまう。
再度、衝撃にコクピットが悲鳴を上げた。どこからか漏れた電流がスパークとなって室内を走り、そのたびに世界が明滅する。
ダウンしたスキを見計らい、大蛇が突撃をかけてきた。その勢いを利用してカウンターのナイフを叩き込み、跳躍して後退しようとしたが、
そのスキを利用したらしいファンタズマから砲撃が飛来する。たまらず回避行動に入るが、それがまずかった。
≪がら空きじゃねえか!!≫
「なっ……!?」
再度の衝撃。見れば、イザナギの背中に二振りの太刀が叩き込まれていた。コクピットに走るスパークに顔をしかめながら、
何とか続く攻撃を回避しなければと操縦する。
だが、続けて飛来したのは太刀の斬撃ではなく、遠方から飛び込んできた一条のレーザーだった。真理の手による緊急回避で
直撃は避けたが、そこから新たに大蛇の攻撃が叩き込まれる。
飛来したのは、不可視のワイヤーだった。瞬時に右足をからめとられ、それまで何とか足で立っていたイザナギが地に伏す。
さらにワイヤーが巻かれるに従い、イザナギが振り上げられた。そこにファンタズマの砲撃が叩き込まれ、イザナギが宙を舞う。
着地のために操縦を行ったその隙に、大蛇が新たに手に持ったライフルから、連続で弾丸がばらまかれる。
ランダムにばらまかれたはずの弾丸は、しかし確実な追尾性を見せてイザナギに飛来した。弾速の遅さを逆手にとって
バルカン砲で撃墜するが、その隙に大蛇の接近を許してしまった。ゼロ距離から連続で弾丸を叩き込まれ、
再度イザナギが衝撃にのけぞる。
≪往生せいやぁっ!≫
大蛇が振り抜いた一太刀が、決定打になった。
イザナギの両腕が、肩からバッサリと切り落とされたのだ。接続部が、信号から発生する電流で小爆発を起こし、たまらずイザナギ
すぐ後ろのビルにもたれかかる。
「う、ぐぅ……っ」
こみ上げた嗚咽(おえつ)をこらえ、最後の抵抗と言わんばかりに大蛇をにらむ。だが、それよりも鋭く、妖しく光る大蛇の眼光に、
たまらず萎縮(いしゅく)してしまう。
ここまできて、なおも俺の心は恐怖に震えていた。なすすべなく連続攻撃を受けたのも、それが原因だろう
≪おいおいおい、舐めくさってんじゃねぇぞ!そんなクソみてぇな技量で、戦おうなんてクサレかましてんじゃねぇ!!≫
腹に据えかねたらしい亥が、激昂した。その攻撃的な口調が、また俺の恐怖を加速させる。
すでに、逃げるという選択肢は残されていないのだろう。ここまで来て逃げてしまえば、間違いなく大蛇の攻撃で殺されるだろう。
どうにもならない。諦めに似たため息が出た、その時だった。
突如、大蛇の頭部に回転する何かが激突した。衝撃で大蛇がのけぞり、旋風がイザナギをたたく。
≪……っと、っとと。誰だっ!≫
大蛇の頭部が向いた方向に、こちらもカメラを向ける。


(BGM:真珠の落涙:http://www.youtube.com/watch?v=fWbrctAlObEhttp://www.nicovideo.jp/watch/sm14236832


「そこの民間機ー、生きてっかー?」
「初撃命中!令先輩やるぅ!」
「棒立ちの相手だ、あたって当然だろう」
「そもそもこの距離で当たるのもどうかと思いますが……」
そこにいたのは、四人の男女だった。慌てて解像度を上げてみると、彼らの胸には民間企業オルデンのロゴが刻まれている。
回転して飛び退っていく何かを、令と呼ばれた男がキャッチした。どうやら、回転していたのは身の丈ほどもある巨大な斧だったらしい。
≪……っち、騎士部隊か。何しにきやがった!≫
彼らのことを「騎士」と呼んだ亥が、再度吼えた。が、4人組の中で一番先頭に立つロングコートの男は臆するそぶりも見せずに
口を開く。
「何を、ねぇー。……まあ、言わなくてもわかんだろ。頭イカレてんじゃね?」
それどころか、亥を挑発さえしている。案の定頭に来たらしい亥が、大蛇の持つ刀を振る。
≪てめぇ、舐めてんのか!≫
「舐めてんだよ!こちとらわざわざ休日返上で仕事しに来てやってんだよ、おかげでイベント行き損ねて限定フィギュアが
パーなんだっつの!ちゃっちゃと叩きのめしてやるから覚悟しやがれ!」
ガミガミとひとしきりわけのわからないことを口走りながら、男は後ろの三人に指示を出す。
「お前たち!最優先目標はあのチビファンタズマだ!黒獅子はそっちの民間機に任せて、俺たちは仕事だけやってさっさと帰るぞ!」
どうやら、彼らの目的はあくまでファンタズマだけのようだ。しかしそれでも、相手が減るのはありがたい。
だが、できるのだろうか。
ただでさえ、今の俺は天照にうえつけられたトラウマで腰が引けている状態だ。加えて、現在交戦している大蛇、ひいては亥の技量も、
ともすれば天照に匹敵するものだろう。こんな状態では、とても恵一の敵は取れないだろう。


―――待て。
俺は、何を目的に戦っている?
そもそもの戦いの理由は、なんだった?
あの日を思い出す。忘れもしない、イザナギと出会った日。
不死身になった日。
―――恵一を、失った日。


そうだ。
この程度の恐怖。
恵一が、ファンタズマに殺された人々が感じた恐怖に比べれば、なんてことはない。
こんなところで、逃げるわけにはいかないのだ。
俺には、果たすべき目的がある。
何も果たせずに散った、あいつのためにも。



「……ああ、そうさ」
震える心が、体が、ふと暖かくなる。
恐怖に冷えて、曇っていたすべてが、鮮やかに色を取り戻す。
―――目的は、ただ一つ。
「お前に負けるわけにはいかない。お前みたいに人の痛みをわからないやつに……」



「負けるわけには、行かないんだよ!!」
一つ、吼える。同時に真理の手でイザナギの両腕が再構築され、水晶がはじけ飛ぶ。
同時にビルから身を起こし、今まさにファンタズマを守らんとダッシュしようとした大蛇の背中に、勢いの乗ったタックルを叩き込む。
≪ぐおっ……!?≫
衝撃に負けて、大蛇が地に伏した。その上を飛び越えて、イザナギがスライディングで着地する。
その光景を見た真理が、俺に声をかけてくれた。
『―――彰、もう大丈夫なの?』
「ああ、大丈夫だ。……心配かけてごめんな」
一つ謝辞の言葉をかけ、改めて大蛇をにらむ。今度は、臆することもなく。
こちらのただならぬ気迫を受けて、亥もこの胸中を察したようだ。無線越しに、低く薄笑いする。
≪……いいじゃねえか。だったらその信念、たたき折ってやるよ!≫
いうが先か、再び大蛇の姿が消えた。同時に各種レーダーを展開し、周囲を瞬時に捜索するが、どれにも引っかからない。
「くそっ……!」
毒づきつつ、イザナギの頭部を旋回させて、どこからか飛来するであろう攻撃に備える。
だが、相手は背中から襲ってきた。
≪ちょいさぁ!!≫
「このぉっ!!」
間一髪のところで反応し、振り下ろされる太刀の刀身に鉄拳をたたきつける。衝撃でマニュピレーターの外殻が少し凹むが、
気にすることなくその太刀を押し返す。
「だあああぁぁっ!!」
続けざまに右のこぶしで、大蛇の腹部に相当する部分へと攻撃を加える。衝撃で大蛇がほんの少し浮き上がり、その隙に
イザナギを脱出させる。
≪おんどれぇっ!≫
だが、それに合わせて大蛇がライフルから弾丸を撃ち出す。腕部の厚い装甲で防ごうとするが、着弾した弾丸が小規模な爆発を引き起こし、
滞空していたイザナギが地上に叩き落された。
そこを狙い、再度抜刀された大太刀が迫る。
「やらせるかぁぁっ!!」
今度はナイフを抜き、太刀の一撃に真っ向から叩き付けた。衝撃で火花が盛大に飛び散り、しばし二機が硬直する。
一瞬の後、競り勝ったのは大蛇の太刀だった。ナイフを真ん中からたたき折り、その切っ先はコクピット真横に深く突き刺さる。
「ぐああぁっ……!?」
強烈な振動とスパークに、コクピットが再度悲鳴を上げた。だが、まだ操縦系統は生きている。
すぐさま修復を頼み、ゼロ距離でリボルバスターを展開。相手の反応よりも早く、砲身からは閃光が吹き荒れる。
≪うおおぉぉぉっ?!≫
相手の悲鳴から見るに、どこかしらに被弾したらしい。閃光から飛び出た大蛇は、頭部左半分を損失していた。
同時に、修復完了の旨が真理から伝えられる。仕掛けるならば、今!
「――――『V-System』っ!!」
その掛け声とともに、イザナギのバイザーの奥に宿る瞳が、一つ光り輝いた。それに誘発されたように、各部に点在するワインレッドの水晶が
エメラルドグリーンに輝き始める。
その光景を目にしてなお、大蛇のすさまじい気迫は揺るがなかった。最大限の敬意と、戦いの意味を思い出させてくれた感謝とともに、
俺は―――イザナギは地を蹴った。
それと同時に、残像が迸(ほとばし)る。軽減されたにせよ、Gはすさまじいものだ。
だが、だからこそのこの武装なのだ。限界まで力を出してなお超越できない相手を、限界を超えて超越するために!
高速旋回と高速巡航、加えてブーストジャンプを活用し、目にもとまらぬ超高速機動で大蛇を追い詰める。さしもの大蛇も、
目に負えないほどの攻撃には対応できなかったようだ。
だが、相手はなおも追いすがらんとその姿を掻き消す。ステルス状態になられてしまうと、こちらから仕掛けるのはほぼ不可能だ。
加えて、このV-Systemは機体の限界を超えて使うため、被弾や損傷は許されない。どこかが壊れてしまえば、リミッターがかかって
システムは強制解除されてしまう―――とは真理の弁だ。
かといって、こちらからむやみに仕掛けるのは避けたい。蓄積したADVエネルギーの大部分を消費してしまう行動だとわかっているので、
無駄に動けばそれだけ稼働時間が短くなってしまうのだ。
手詰まりの状況。しかし、どんな状況にも穴はあるはずだ。
何か使えないか。そう思って様々な機能を探る。
そして、光明はもたらされた。展開されていた様々なレーダーのうち、一つだけが反応を示していた。
「――――そうか!」
『音を使えば!』
同時に、真理もその真意を悟った。音波センサーを全開にして、微弱な音を探知するために、耳を研ぎ澄ます。


そして、聞こえた。
正しく、イザナギの真後ろから。
「――――おおぉぉぉぉぉぉっ!!」
抜群のタイミングで、イザナギが振り向く。
目の前には、ステルスを解除しながら突っ込んでくる大蛇。その手には、閃光を纏った大太刀。
イザナギの右腕から、エメラルドに輝く烈火が吹き上がる。あの時敗れた、あの技。
―――今ならば、決まるはずだ。
「ヒートォ……スマアァァァァァァッシュ!!!」
まばゆい爆炎を纏った拳は、大蛇が振り下ろさんとしていた二つの大太刀を真っ向から叩き折り、その本体に突き刺さった。
間一髪でかわしたらしく、大蛇がその頭と腕を崩壊させながらイザナギの右に抜ける。


≪っちぃ……!カーミラ、嬢ちゃんはどうだ?≫
≪もう無理ね。人外チームにつぶされた≫
≪……だったら、ここには用無しだ。引くぞ。ジェネシスに報告せにゃならん!≫
去り際、大蛇からはそれだけが聞こえた。


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ってことでちわーす、コネクトにございますー。
いやはや、今回はなかなかに時間がかかりましたが、どうにか1週間ちょいで投稿できましたw
できればこのまま年内に完結させたいですねぇー、残り2話だし。


今回は二機目の黒獅子戦ということで、5号機の大蛇とバトルしました。無事に彰くんがトラウマを払しょくできたので何よりですw
ただ個人的に気になっているんですが、立ち直り方があっさり過ぎる気がしますw
いや、実はこれでもけっこう練ったほうなんです。ただまぁここまで読んでくださった方はわかる通り、彰くんは基本的に
ファンタズマに殺された人々のために復讐をしたい」という信念のもとに動いております。
そんな彼が恐怖から立ち直るためには……ほかにもあったんでしょうが、コネクトには残念ながらこれが限界でした(血涙


そして今回、ぽっと出かつチョイ役でしたが、アハト氏執筆の外伝小説「オルデン」の主人公勢が登場となりました。
一応これだけで終わらせる予定はなく、隊長である鈴木真の兄貴(実は本編で名前出してなかった)にはこの後も少しばかり
活躍してもらう予定です。


というわけで今回はここまで!
残り2話、がんばるぞーっ!!