コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

異世界行ったら門前払い食らいました

第28話 猛将推参


結論から言うと、カダーヴェルに関する情報は全くと言っていいほど得られなかった。わずかに「世界を飲み込むもの」と記述されていただけ
収穫はあったのかもしれない――書物に載っているということは、つまり昔にも存在したか、あるいは予言されていたことになる――が、
どちらにせよ奴らに関する特徴、出所、目的などは一切不明のまま、情報収集は終了した。
だが、図書館から宿への帰り道で、俺たちは不審な情報を手に入れることとなる。


「……おい、聞いたか?平野のバケモノの噂」
「あぁ、知ってる知ってる。騎乗ゴブリン共を引き連れて、大地の神殿に近づく連中をつぶして回ってるんだってな」
「なんか馬に乗った騎士だったらしいぜ。こえぇよなー」
という短い会話だったが、それは確かに、一戦を交える予感を起こさせるものだった。


***


「……騎士のバケモノ、ねぇ」
宿の個室――男2女2なので普段は二人部屋を二つ借りているが、現在は会議のため4人全員が男部屋に集まっている状況だ――で明日のための
作戦会議をしながら、俺はベッドの上にどさっと倒れこんだ。会議の内容は、件の騎士のバケモノについてである。
俺たちが目的地としているアルネイト平野に出没するという噂がある以上、対策を立てておくに越したことはないとこの会議を提案したのだが――。
正直、正体がつかめない。大地の神殿、という単語から、少なくともレヴァンテと同じ目的を持っている、ないしは勢力をともにしている
ことはわかるのだが、それだけでは戦闘の際、どうしようもないのだ。相手の戦力を見極めるのは戦闘中にでも可能だが、それだと
どうしても後手に回ってしまう。持久力に乏しいこちらに大火力の攻撃をたたきつけられた際、後手に回っていた時にはそれが
致命的な傷になりかねないのだ。
だからこそ打開策がないかと会議をしていたのだが、カノンもサラも未知の敵に対してはお手上げ状態である。だからこそ、やりきれなくなって
俺はベッドに倒れこんでいた。
どうすればいいっていうんだろうか。ため息をつきながら同じところをぐるぐると回るだけの思考を繰り返していると、不意にゴーシュが
こちらに歩いてくる。その目が、どことなく子供を放っておけない父親のような目になっているのは気のせいだろうか。
「詰まってるみたいだな、タクト」
「ん……まーな。正直、情報が少なすぎるんだよ。……いや、確かに対策したいって言ったのは俺だけど」
正直無策すぎたな。早とちりな自分に軽く反省していると、ゴーシュが苦笑しながら再度口を開く。
「よし、いい機会だから教えてやるよ。……タクトは今、情報が少なすぎるって言ったな?」
「ああ、言ったけど……もしかして、他にも何かあったのか?」
反動をつけて起き上がりながらゴーシュに問いかける。当の本人はニヤニヤと、実に子供っぽい顔だ。この辺がどうにも大人げないと感じる反面、
こういった挙動の一つで親しみやすくも感じるから不思議なものだ。もっとも、本人としては意図したものではないのだろうけど。
「たとえば、だ。お前は騎士って聞いて、何を思い浮かべる?イメージしたものいくつか言ってみろ」
「言うって言ったって……んー、ランスとか甲冑、あとは――馬とか軍勢かな」
「それだ、馬。馬って聞いたら何を考える?」
「えーと……乗馬とか、移動手段かな。あと可愛い」
「あー、うん。この際最後のはおいておこうか。……騎士、馬、移動手段。これらの予想と、相手のいる場所――今回は平野だということを
照らし合わせると、だ。相手は、馬に乗って戦闘、ないしは移動をしている可能性が高いんだ。覚えておけ、地形と相手の手段というものは
だいたいがセットになっているんだ。狭い場所ならコンパクトな攻撃方法、広い場所なら範囲攻撃や高速移動の手段、屋内ならトラップ、って
具合にな」
まぁ例外もたまにいるけどな、と締めくくったゴーシュの言葉に、俺はひそかに驚愕していた。
いや、もともと彼はこういう人間なんだろう。残念なほうが目立ってしまうだけで、その本質はほかにいる冒険者に比肩、もしくはそれを凌駕する
洞察力の持ち主なのだ。セルビスや砂漠で見せた戦闘能力といい、もはやベテランと言っても差し支えはないだろう。そんな人間が
どうして俺の旅についてきているのかはなはだ疑問に思うが、そもそも進言したのは向こうだ。あやからせてもらうことにして、ともかくは
ずれた話――俺が自分で勝手にずらしているのだが――を軌道修正する。
「……ってことは、必然的にこっちにも移動手段が必要になる、ってことだな」
最初の問題はそこだ。俺たちのパーティには高速移動を可能にするメンツが存在しないのだ。ルゥという手段もあるが、さすがに一匹だけに
四人を乗せるのはつらい。いくら大量の荷物を背負って移動するのが得意とはいっても、長時間走りっぱなしというのもつらいはずだ。
そうなると、必然的にルゥに騎乗できるのは一人か二人ということになる。そこはいいとして、次の問題は騎乗するメンバーだ。
これは、馬の上という状況からみて遠距離に秀でた女性陣を乗せたほうが効率がいいはずだ。ただ、馬上ではろくに近接攻撃を繰り出すことが
できないものの、万一接近されて攻撃を繰り出された際にはそれをいなすメンバーが必要になるだろう。となると、ルゥに乗るのは
近接攻撃の男性一名、遠距離攻撃の女性一名という組み合わせになる――というところまで考えたとき、おそらく俺と同じことを考えていた
ゴーシュが進言してきた。
「タクト、ルゥを移動に使うんなら、騎手はお前が務めたほうがいい」
「え……なんでだ?確かに接近をかわす近接攻撃担当は必要だろうけど、ゴーシュは馬に慣れてるはずだろ。なら、わざわざ俺が乗る必要も
ないと思うんだけど」
という俺の言葉を、ゴーシュは首を振って否定する。
「確かに俺は馬の扱いに慣れてるが、それはあくまでもギルドで貸し出される人そのものに懐いた馬を使った時の話だ。ルゥはお前が飼ってるし、
砂漠を横断する中で一番隣にいた時間が多かったのもお前。なら、信頼関係を築いたやつに乗ってもらうほうが、馬としても気が楽ってもんだ」
なるほど、一理ある。たしかにルゥはメンバーと積極的にかかわろうとはしていなかったし、移動の時は基本俺にべったりだった。
かまってくれる飼い主がいて嬉しいのかと思っていたが、先のゴーシュの言葉から推察するに、ルゥは俺に信頼を寄せているらしい。
「……わかった、俺が乗る。……けど、もう一人遠距離の攻撃手が必要だ。接近するまで待ってちゃ、いくらルゥでも持ちそうにない」
「ふむ、それは確かにそうだな……よし、サラ。タクトの背中はお前が守ってやれ」
ゴーシュの言葉に、泡を食ったような顔になったサラが次いで「私?」とでも言いたそうな顔で自分を指さす。
「どうして私なの?確かに弓は遠距離武器だけど、遠くに攻撃するならカノンの魔法でも……最悪、タクトくんの衝撃波でも事足りるわ」
サラに指摘されて初めて思い出した衝撃波のことは置いといて、俺もまっさきにサラを指名した理由がわからなかった。何か理由があるのかと
問いかける前に、ゴーシュがその意見を口にする。
「タクトはルゥの制御や接近戦をこなさなきゃならないから却下。カノンは魔法の速度や相殺方法があるからな。必然的に、物理攻撃を持つ
お前の矢が頼りになるんだよ」
「――え、ちょっとまった。魔法って相殺できるもんなのか?」
まったくもって初耳だ。今までは基本的に回避でダメージを抑えてきたが、それが最小限の動きだけで打ち消せるとなるとありがたすぎる。
というか、どうして俺が知らないことを知ってて今まで黙ってきたんだろうか。獅子の子落としなんてことわざもあるが、それにしては
ハイリスクすぎないか……という疑問は、次に続いたゴーシュの言葉であえなく霧散した。
「あー……言わんかったっけ?」
「うぉおい!」
思わず大声で突っ込んでしまった。推測した俺がバカだった、むしろ大バカだったよこのオッサン。ボケてるからオッサン言われるんだよ!
という文句がコンマ数秒で頭の中を通過していったが、なんとか口に出さずに収めることができた。言っちゃったらヘコんで教えてくれなさそうな
気がしたので、とりあえず今はお預けである。聞き出したらたっぷり言ってやるぞと頭の中で算段をつけながら、俺はゴーシュの話に耳を傾ける。
「えーっとな、やり方は案外簡単だ。タクトなら特にな」
「俺なら……ってことは、魔力素子か何かを使うのか?」
「その通り、魔力素子だ。衝撃波を出す直前の状態を、不可視の状態で保っておく……っていえばわかるか?」
だいたい理解はできるとうなずく。が、不可視の状態というのは一体どういうことだろうか?答えは、問いかける前に帰ってきた。
「不可視の状態っていうのは、メッキを想像してくれればいい。あんな感じで、得物にうすーく魔力素子をコーティングするんだよ」
「ああ、そういうことか。……でも、それじゃ素子の光が見えちゃうんじゃないか?」という俺の問いかけは、得意げな顔のゴーシュに否定される。
「もともと魔力素子は空気中に不可視の状態であふれてるんだ。そこらへんは問題ないさ」
なるほど、と一つうなずいた俺は、勢いよくベッドから跳ね起きた。そのまま壁に立てかけてあった剣の片方を引き抜き、衝撃波を繰り出す
時のように剣に魔力素子を集中させていく。
数度試してみるが、いずれも衝撃波発動直前の光輝いた状態になるのでなかなかうまくいかない。どうしたものかとさらに重ねていると――。
ゴバッ!
「「「「あ」」」」
壁に大穴を開けてしまった。やりすぎはよくないな。


***


「さて、と。この先に大地の神殿があるわけだが」
翌日、俺たちは公国の真南に存在する広大な平原、アルネイト平野へとやってきていた。弁償費用で薬代の半分が飛んでしまったのは内緒である。
周囲を見渡してみるが、今のところ目的である大地の神殿以外、目立って何かが見えるというわけでもない。騎乗ゴブリンたちが走り回っているとも
聞いていたのだが、もしかしたらもう掃討されてしまったのかもしれない。そうだったとしたら気が楽だったのだが――。
「タクト君、あそこ」
カノンの指さす方向のはるか彼方、そこから無数の何かが近寄ってきていた。それも、かなりのスピードだ。数からみて、騎乗ゴブリンの群れに
違いないだろう。そう踏んでいた俺の予測は、少々――というかかなり外れることになる。
「……タクト、構えておけ。どうやら、敵の本丸が出向いてきたらしいぞ」
「言われなくても見えてる。……あいつが」
その軍団の先頭には、明らかに形の違う個体が存在していた。全身を暗緑色の甲冑で包み、同じく金属で武装した馬にまたがり、こちらへと
一直線に向かってくる。その姿は、疑いようもなく「騎士」そのものだ。
その後ろに続いているのは疑いようもない、豚やらイノシシやらにまたがった「騎乗ゴブリン」たち。ギィギィと耳障りな雄たけびをあげながら、
俺たちの周囲を騎士先導のもと取り囲んでいく。完全に退路を断たれたその直後、騎士が馬を停めてこちらを見据えた。
冒険者よ、貴様らの目的は何だ」
形だけの警告、ということか。威圧感たっぷりの声でそう分析しながら、俺は正直に答えてやる。
「この先にある大地の神殿へ行くことだ。それと、駆除依頼のあった騎乗ゴブリンたちの殲滅」
「今のこの状況でよく言えるものだな。我が手を振り下ろせば、貴様らは骸に成り果てるのだぞ」
「知ったことか。俺たちは目的があってここへ来たんだ。それを邪魔するのなら――」
実力行使だ、という言葉を放つ直前、騎士がすばやく振り下ろした手によって、魔法――不可視のカマイタチが飛来した。それを皮切りに、
周囲のゴブリンたちからは投げ斧や投げ専用の槍であるジャベリン、弓にパチンコの玉と、多種多様な飛び道具が撃ち込まれてくる。
当然、俺たち四人はその攻撃を見越して立ち位置を変えていた。俺とサラ、ゴーシュ、カノンの組み合わせでそれぞれの方向に飛びのき、そのうち
俺はルゥの手綱をつかんでルゥへと騎乗する。後ろから跳躍してきたサラの手を掴んでルゥへと下ろし、そのままルゥを発進させる。
一つ天高くいなないたルゥが、予備モーションからの跳躍でゴブリンたちの包囲網から脱出した。
ズドッ!と着地地点の土を蹄鉄でえぐりながら、俺とサラを乗せたルゥが着地する。それからいくばくもせず、ゴブリンの群れの一部が離脱、
騎士を先頭にして飛び出してきた。それを確認してから、俺はゴーシュたちの群れから離れるべくルゥを走らせる。
ゴーシュとカノン。この二人は、「近接攻撃最強」「魔法攻撃最強」の二人だ。あの二人ならば、不測の事態――たとえば騎士が俺たちを
追ってこなかったとか――が起こらない限りよっぽどのことがなければゴブリンに負けるはずもない。それに、俺は中途半端、サラは遠距離戦
特化ということで、あの中にいては二人とも足手まといになるかもしれないのだ。そう考えると、ゴーシュが発案したこの作戦は合理的である。
彼の経験からくる知識に一人感心しつつも、俺はその瞳を騎士へと向けた。あちらのほうも、俺たちに交戦の意思があることを理解したらしい。


「なれば、我は使命を果たそうぞ。このアベル四天王が一人『猛将のノルン』、いかなる手を使おうと、貴様を地に這いつくばらせる!!」
「――来いッ!!」
怒涛の戦闘劇が、幕をあげた。


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一週間かかっちゃってちわーす、コネクトにございまーす。
いやーもうほんとごめんなさい、自分で二週間に一回更新掲げておきながらその半分消費しちゃうとかなんという体たらく…たるんでますね。
仕事の残業ラッシュがひどいなんて言い訳もしておきますが、怠慢なのでおとなしく怒鳴られときます。誰に?読者様方諸氏にですよ!


今回は会話に力を入れて作ってみました。仲間との連携を組み立てるための会話っていうのは大事ですからねー。
そして新しく登場することになった魔法の相殺。タクトは無事にこれを習得できたのでしょうか?
……えーすみません、疲労と眠気によって解説する気が起きません(オイ)
気が向いたら増量しておきますが、期待はしないでくださいねー……zzZ


次回はようやくアベル四天王との二度目の交戦、そしてルゥ大活躍の回となります!
騎馬戦は執筆開始当初からやりたかった案だったんですが、それがようやく実現できるのかとひとり感銘に浸っておりますw
実はこの後にもルゥは何度か活躍してもらうことになるんですが、それは後々のお話ということで。
それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ