コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

PSO2外伝 絆と夢の協奏曲〈コンチェルト〉

 #3 ひと段落、のち


「戻りました」
「ああ、ご苦労だった。……彼女はどうした?」
 ダーカーたちの襲撃が止み、再び船内にひと時の平穏が訪れた後。俺は再度の呼び出しにしたがって、ベルガの待つ行政区へと立ち入っていた。
 報告書を読んで、おそらく被害件数に関してだろう、苦い顔をしていたベルガが、入室してきた俺に向けて顔を上げる。そして、俺の後ろにフィルが居ないことに気付いた。
「メディカルチェックに行ってます。ダーカーとの戦闘は初めてだったんでしょう?」
「そういうことか。なら、君もしばらくここで待っているといい」
 ベルガの言葉に従って、俺は彼のいる応接室へと踏み入る。先ほどフィルと出会った場所でもあるそこのテーブルには、ベルガに宛てられたホログラム製の報告書数点と、彼お気に入りのコーヒーらしきものが置いてあった。
「とか言いつつ、質問とかなにかするんでしょう?」
「はは、バレバレだな。といっても別に任務ではないからな、あまり身構えないで、気を楽にしてくれていいぞ」
 そんなこと言われても、俺としては何を言われるかわかったもんじゃないので心中穏やかじゃない。内心で戦々恐々としつつ着席すると、報告書に目を落としながらベルガが質問してきた。
「彼女は、どうだった?」
「……難しい質問をしますね。まあ、才能があるとは思いますよ。実戦経験を積んだら、少なくとも俺よりは強くなります」
「君にそこまで言わせるとは、彼女は中々の逸材なのだな」
 主語を省いた質問の回答を聞いて、ベルガは目だけで笑って見せる。
 自分で言うのもなんだが、俺の実力は多く見積もっても中堅が良いところだ。若年にしては実力者だと言われることはあるが、それでも数多いアークスの中に埋もれてしまう程度のものだとは理解している。
 その点、フィルは基本指南の動きをほぼ完璧に模倣して、初めての遭遇となるダーカーたち相手にも果敢に立ち向かい、最終的に俺の助けがあったが、被弾回数をゼロに抑えたのだ。こと、生存能力に関しては突撃癖のある俺よりも高いといっていいかもしれない。
「ならば、アークスとしての活動においては心配なさそうだな」
 そう言って神妙な表情とともにうなずいたベルガは、しかし二の句をつがずに口元を引き締めた。――俺に言いにくい話なんだろうと、本能的に察してしまう。
「……報告書で知ったのだがな。彼女は昔、ある存在の襲撃に遭ったらしい」
 伏せがちな壮年の男の瞳には、悔恨の光。彼の口をついて出た言葉は、嫌が応にも俺の記憶を引きずり出した。
「それで、家族も友人も、全部?」
「だ、そうだ。……一応、幼馴染だという子供はいまだ、遺体どころか死亡した痕跡すら発見されていないらしいがな。それが幸せかどうかは、判断の難しいところだ」
 ベルガの口から語られた少女の経験は、俺の記憶に生々しく焼き付いている光景と、いやに被ってしょうがない。そう考えて、鮮明に呼び起こされた記憶に――少女の体験した理不尽に、俺は思わず舌打ちした。
「……あの子、まだあんなに小さいのに」
「いいや、あれでも一応、君と同い年だ。……だが、そうだな。君が言わんとすることは、痛いほどよくわかる」
 俺の経験を知っている、と言うよりは、その悪夢のような経験から救ってくれた恩人ゆえの、苦しげな発言。やりきれない思いを無理やりに抑え込んで、俺は盛大なため息を付くにとどめた。
「まぁ、ともかくだ。一人取り残される辛さという物を、君は知っているんだ。どうか、彼女に真摯に接してやってほしい」
「それは、上司としての命令ですか?」
 彼にとって、アークスと言う存在は等しく、自らの子と同義だと語られたことがある。その時の父親のような顔のままで懇願してきたベルガに、俺は思わず冗談めかして肩をすくめる。
「いいや、私個人からの、きわめて個人的な願いさ」
が、返ってきたのは不敵に笑みつつも、優しい威厳を崩さない、父性に満ちた声音だった。


***


「あ、コネクトさん」
 やりきれない感情はひとまず押しとどめて、俺は連絡のあったメディカルセンターへと足を運ぶ。数人ほどの人間が思い思いに時間を潰している中で、目当ての人影、ことフィルツェーンは、何かを考えているように虚空へと視線を投げ、ゆったりと背もたれに身体を預けていた。
 そんな視線が、ふいに俺の方へと向いたかと思うと、感情を抜き取っていた顔に小さく笑みが宿る。少女の口をついて出たのは、俺の名前。
「よ、フィル。身体の方は大丈夫だったのか?」
「はい、なんともありません。コネクトさんのおかげで、ダーカーからの攻撃も受けませんでしたから」
 にこにこと笑う彼女の様子に、特段異常は見られない。異常が出るようなことをしたわけでもないので当然と言えば当然なため、取り合えず俺は彼女の体調を気にすることはやめておいた。代わりに、途中の自販機で買ってきたジュースの缶を差し出す。
「ほら。戦った後で、喉乾いてるだろ」
「あ、ありがとうございます。頂きますね」
 プルタブを開ける音を聞きながら、俺もフィルの横に腰を下ろして自分の飲み物を口にする。そのまま二人でジュースを飲んでいると、不意にフィルがぽつりと言葉をこぼした。
「……あの、さっきはすみませんでした」
「ん?」
「初めて会った時、応接室で。人のことも知らないで、勝手な言いがかりをつけてしまって」
 そこまで言及されて、ようやく何のことかと思い当たる。応接室で顔合わせをしたとき、彼女に「自分はこの人に襲われないか」という旨のことを聞いていた。彼女が謝罪しているのは、そのことだろう。
「あぁ、いや、気にしないでくれ。もともと変な顔で誤解させた俺が悪いんだしな」
 苦笑気味に否定して見せたが、しかしフィルは小さく首を振った。そして彼女の口から漏れたのは、暗い経験。
「……コネクトさんは、もしかしたらもう聞いたのかもしれませんけど。私、昔大切な人をなくしたんです」
「あぁ……大勢、亡くなったんだってな」
 先ほどベルガに聞かされた、彼女の過去の一端。あんなものを聞かされては、嫌でも覚えてしまうものだ。
「そのあと、色んな所を回りました。……たくさん、嫌な思いをしました」
 そしてベルガの話には、続きがある。フィルは故郷を失った後、何処からかやってきた人間たちに保護され、様々な場所へと流されていったらしい。
 その先は、想像に難くないだろう。ベルガから聞かされた内容の一部を知っている俺は、若干暗い瞳のまま口を開こうとしたフィルを制止する。
「思い出さなくていい。……その気持ち、分からないでもないからな」
「どういうことですか?」
 沈痛な面持ちから一転、意外そうな表情でフィルが疑問を口にした。
 こんなことを話したところで、彼女の背負う闇が晴れるわけでもない。しかしそれでも、俺としては彼女の苦しみを理解して、共有してやりたいんだ。
「俺も昔、大切な人をなくした。君ほどじゃないにしろ、つらいことも、沢山あった」
 苦い笑みを交えながら、俺は自らの経験した体験談をフィルに語って聞かせる。少しでも彼女の背負う重責に共感して、同情して、その重荷を引き受けるために。
「けど、俺はこうして生きてる。……つらい経験を思い出して、泣くのは良い。だけど、いつまでも過去を引きずるな」
 これから俺が話そうとしているのは、かつて俺の恩師であるベルガから説かれた、ある種の心構えのようなものだ。辛い過去を思い出し、後ろを向いてしまった時の為の、自分に対する発破の様なもの。
「過去を振り返りながらでもいい。きちんと前を見て、居なくなった大切な人たちの分も、精一杯生きていくんだ。もっと遠い未来に着いた時、過去の過ちと一緒に後悔しないように、な」
 過去を忘れるのと、過去にけじめをつけるのとは、大きな違いがある。だからこそ、味わった悲しさを二度と経験しないように、誰かに味わわせないために、前を向く義務があるんだ。
 俺も、ベルガにこの言葉を解かれて以来、むやみやたらと過去を振り返って、陰鬱な気分に浸るのをやめることができた。いつまでも過去にとらわれていては、いずれ自分の身も滅ぼしてしまう。それを言外から教わったからこそ、今の俺がいるんだ。
 もう数年も前になる、懐かしくも思い出したくない過去を思い出していると、不意に視線を感じ取る。何事かとそちらに顔を向けると――案の定と言うかなんというか、非常に熱っぽいまなざしで俺を見るフィルの姿があった。
「……ま、ベルガからの受け売りだけどな。正直な話、俺はそんなご高説を垂れてやれるほど、できた人間じゃないさ」
 肩をすくめて、自嘲気味に苦笑をこぼす。
 今だって俺は、ある意味では過去ばかりを見ている。かつて俺の故郷を焼き、顔見知りを皆殺しにし、悠然と飛び去ったあの黒い存在。俺は、あいつをこの手で叩き潰したくて、アークスになったんだ。
「そんなこと、ないですよ。……ベルガさんから受け継がれたコネクトさんの言葉、しっかりと覚えておきます」
 にもかかわらず、俺の横に座っている小柄な女の子は、キラキラと輝くまなざしをやめることもしないで、そう言ってのける。……ベルガから受け継いだ言葉、か。案外、間違っちゃいないんだろうな。
 なんてことを考え、今度はわずかな照れを隠すために微苦笑を浮かべる。と同時に、俺の携帯端末が振動を始めた。取り出してみると、そこに書いてあったのは――


「なんですか、また面倒事ですか」
 大方の予想通り、恩師ことベルガからのメールだった。このタイミングで呼び出すということは、おそらく俺たちの今後の方針についてなのだろうが、どうも前例を知っていると身構えてしまうのは、悲しき慣れと言うべきか、なんなのか。
「失礼な、今回は違うさ。まぁ二人とも、座りなさい。君たちの今後について、話がしたくてね」
 対するベルガも、考えるところは同じらしい。俺の懸念をサラッと否定してくれたあと、自分が座った反対側のソファを示して、俺たちを座らせた。
「……で、話ってなんです?」
 着席そうそう、俺は直球で疑問をぶつける。俺だって一般人、どこぞの娯楽小説みたいな嫌に察しのいい主人公とはわけが違う、かったい脳みそしか持ち合わせていない。なので、気になったことに対してはまず質問を浴びせるのだ。
「うむ、今さっきも言った通り、君たちの今後の活動方針についてだ。……まず初めに、コネクト君」
 ベルガも、俺のその辺の性格は熟知しているので、特に気にするそぶりも見せずに話を進めていく。先んじて名を呼ばれた俺は、返事を返さずに首をわずかにかしげるにとどめた。いちいち返事するよりも、こっちの方が話を聞きやすい。
「君がフィルツェーン君と一緒にいる期間は、とりあえずのところひと月ほどだ。むろん、彼女が望むならその後も指導を続けてやってほしいのだが、構わんかね?」
「大丈夫ですよ。一応、それが仕事の内容でもありますからね」
 後輩を育てるなんて経験は生まれてこの方したこともないが、何とかなるはずだ。目の前のベルガや、後日合いに行く予定の先輩方という相談の当てもある。
「ならば、これから彼女のことをよろしく頼むぞ。……と、それに際してもう一つ、君たちに伝えておくことがある」
「はい?」
 契約完了の旨を口にした後、思いついたように呟かれたベルガの言葉に、俺は思わず首をかしげて。


「フィルツェーン君には今後、コネクト君のマイルームを使ってもらうように申請しておいた。今日のところは二人で休んで、明日からまたアークスとして仕事に励んでくれ」
 続いた言葉に、俺は二の句をつぐ気力を思いっきり吐き出すかの如く、開いた口が塞がらない状況に陥ってしまった。


*********


というわけでこんちはー、EP4の為にゆっくり準備しようと思ったら夜10時までメンテが伸びると聞いて、思わずふて寝しかけたコネクトですw
ふて寝するんならその時間を有効活用しようと思い立ち、こうして協奏曲3話を投下いたしましたw


今回の協奏曲は、主にコネクト、フィルの両名がそれぞれ背負う過去と、それに対するコネクトのスタンスという物を描いてみました。
と言っても作中の通り、あんまり割り切ってないのがコネクトと言うキャラクターです。人は復讐した方がきちんと心の整理をつけられることもあると、某自衛隊アニメに出てきたモブの心理カウンセラーさんがおっしゃってました。
なお、このコネクトの仇敵キャラクターですが、割と早い段階で登場させる予定です。もともと本作もあんまり長く続ける予定は無いので、結構展開は早回しになることと思いますw
ただ、今回はカルカーロシリーズでできなかったことをいろいろやりたいなぁと画策しているので、その点の分伸びるかもしれません。と言うか確実に伸びます。
具体的には各種技術の紹介だとか、他のアークスとの交流だとか、その辺ですかねー。さすがに本編登場のNPCは出ませんけどw


次回はなぜか同棲生活になってしまったコネクトとフィルから始まり、仲間となるサブメンバーたちに登場してもらいます。
あの人も出るかも?


それではまたあいませうー ノシ