コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

PSO2外伝 絆と夢の協奏曲〈コンチェルト〉

#4 二人で


「あのー、コネクトさん。私は、その、気にしてませんから……」
「ああ、うんわかってるんだよ。わかってるけどさー……心の準備だとかその辺がなー」
 マイルームを擁する大型の建物までは、アークス課が設置されている建物からそう遠くない。それこそ、俺のツアラー型バイクを飛ばせばそう時間はかからないというのは、俺の中での常識だ。
 ……常識なのだが、今日と言う日ばかりは、そのそう遠くないはずの道のりが、不思議とやたら長く感じてしまう。こうなったのはきっと、俺の気分が沈んでいるからであり、その原因である、数十分前にベルガから放たれた、衝撃の一言が最たる理由だ。そうに違いない。


「要するに、今後ひと月ほどの間は、君たち二人で一つの部屋に住むことになる。色々不備はあると思うが、上の決定だからな。そこのところ、宜しく頼むよ」
 数十分前、その旨を告げるためのベルガの発言に、俺は思わず目を点にして大口を開ける格好に――いわば呆然となってしまった。
 こういう時は、理屈なんかを絡めて色々と口走ったところで、結局空回りに終わるだけ。だからこそ俺は、魂を込めて。
「ウソやん」
 と、思わずぼやいてしまったのである。
「つまり、相部屋……ですよね?」
「そうなるな。心配せずとも、コネクト君の家には荷物置きに使っていた空き部屋があっただろう? そこを片付ければ、どうにでもなるさ」
「そう言うことじゃなくてですねぇ!」
 俺と同様、ぎょっとするフィルの言葉にも動じることは無く、ベルガはさも当たり前のように言ってのける。その態度が気に食わなくて、俺は思わず握った拳で自分の膝を叩いてしまった。
「そう言うことじゃなくて……俺とフィルは、異性ですよ?!」
「問題があるかね?」
「大ありでしょうに! 付き合ったりとか、そう言う関係にあるんならともかくとして、ただの友人関係ってだけで同棲生活ってのは、流石に論理的な問題があるんじゃないでしょうかねぇ!」
 共同生活……というか一つ屋根の下で生活するって言うのは、色々とデメリットがある。同性ならともかく、異性ならばなおのこと問題はたくさん出る。
 まして、俺とフィルは今日初めて知り合った関係だ。世間話や過去の話をできるくらいには距離を縮められてはいるが、それでも初日から同じルームで生活するのはさすがにハードルが高すぎる。これが浮ついた考えのアークスだったら……例えば知り合いにいるキャストのエロジジイとかだったら喜んで受け入れるんだろうけど、あいにくこちとらただのいち一般人であり、健全な男子アークスなんだよ!
 それに、彼女の容姿――見た目中学生も怪しい背格好じゃ、論理的にアウトもいいところだ。いくら俺と同年代と言う情報があるにせよ、白い目で見られるのは火を見るよりも明らかだろう。
「まあ、確かにそうだな。……フィルツェーン君、君はどうかね?」
 俺のツッコミをサラッとスルーしながら、ベルガの質問はフィルの方に向いた。
 常識はずれな所をたらいまわしにされていたとはいえ、さすがにフィルの方も論理はしっかりと持ち合わせているらしい。ベルガの言葉にわずかに目を伏せ、ちらちらと明後日の方向へと目を泳がせていた。
「……えと、わ、私は別に、大丈夫です、けど」
 前言撤回、論理はしっかりしてるけど感性はしっかりしてない。
「本気かよ?!」
「ふぇっ、あ、はい。私は別に、そう言うの気にしませんから」
 なんてこった、最近は肉食系が多いとかいうけど、その余波がここまで……ってそういう意味じゃないか。ともかく、俺の周りに普通な感性の人間はいないのか!
「……変なこと言いますけど、コネクトさんにそういうことを気にしてもらって、私すごくうれしいんです。昔から私、世間一般に言うまともな扱いっていうの、受けてなかったんで」
 が、続くフィルの言葉に――その言葉の中に含まれていた彼女の人生の重さに、俺は思わず口をつぐむ。
「別になにも、アクシデントを期待しているとか、そう言う不純な動機ではないさ。君に課せられている任務が、彼女の保護と観察。となれば、彼女を近いところに置いておくのは、不思議な話じゃあない」
「そりゃ、そうですけど……」
 ベルガの説く理由は、俺が彼に抱いている疑念を除けば、至極納得できるものだ。確かに、任務を優先するならばそうする方が得だろう。
「それにこれは個人的な話だが、君たちには是非とも好い関係を築いて欲しいと私は思っている。何せ、君たちの縁は長く続くような、そんな予感がするからね」
 真面目な顔のまま、ベルガはふと小さく笑む。
 目の前の人物のことを善く知っている俺から言わせてもらえば、この人が「勘」と公言するときは、往々にしてよく当たるのだ。たいがいはしょうもない方向に的中するものなのだが、ここ一番と言う時には怖いくらいに的中する。かつてはその勘を頼りにダーカーを蹴散らしたものだ、とは彼の弁だ。
 そんな人間の勘が、下手をすれば人一人か二人の命運を変えるようなところで発揮されている。ならばその勘を信用している人間の一人として、その意見を無碍にはできない。
「まあ、そう難しく考えなくともいい。本当に無理だと思うまでで構わんから、彼女と一緒に居てやってくれ」
 黙りこくった俺の返事を是ととらえたのか、ベルガが苦笑とからかいが混じる声で俺を促した。その言葉に逆らう言葉を持たず、結局なし崩し的にフィルを家に住まわせることになり――今に至る。


***


「あ、アレですか?」
「ん、ああ。外はあんなだけど、住み心地はなかなかだぞ」
 俺たちの目の前に立っていたのは、複数の流線型を組み合わせたような意匠をもつ、一見するとその辺のどこにでもある、味気も個性もない建物群。それら数棟をまとめて、俺たちアークスが居住するための総合施設――通称「マイルーム」として運営されている。
 基本的な生活用のルームのほか、大規模な食堂に大浴場など、生活に必要最低限のものならば、一々アークスシップの居住区に出向く必要が無いように配慮されているという、外見に反して非常に便利な施設だ。
 ただ、俺は食堂はあまり利用せず、大抵は内部の売店で買ってきた出来合いのもので済ませているし、浴場に関してはそもそもルーム内にシャワーボックスを設置しているので、わざわざ出向く必要もないのが現状である。――お察しの通り、仕事以外はだいたい自室に引きこもってる半ニートである。
「コネクトさんの部屋って、どういうのなんですか?」
「どういうの、って言われてもなぁ……んー、なんて説明したもんか」
 フィルにせがまれるが、俺の部屋なんて特段説明することなんて何にもないのが現状だ。強いて言うならば、使ってなかった部屋を含めて三部屋という広さがささやかな自慢である。
「正直なんもないけど。ま、入ってからのお楽しみにしといてくれ。……っとそうだ」
 ルームグッズのありきたりさを思い浮かべてため息を付きそうになっていた時、俺はふとあることに気付いた。何事かと後ろで小首をかしげるフィルに、背中越しに声をかける。
「フィル、なんか揃えてほしいルームグッズってあるか? 多少なら経費で落ちるだろうから、揃えてやることもできると思うけど」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、俺の部屋は本当に何もないからなぁ。あの部屋をそのまま使わせるのも、ちょっと気が引けるし」
 フィルに使ってもらうのは、半分倉庫として使っていた何もない一室なのだ。何かと物入りになる女の子に一部屋宛がって終わり、と言うほど人間関係に疎い男じゃない。
 それに、一緒の部屋に住むことになる以上、彼女と俺の関係は常に対等。なら、それ相応にこちらが心配りをするのが得策だ。
「……ありがとうございます。でも私、ベッドとかテーブルとか、本当に最低限のもので構いませんよ」
 なんていう慣れない気づかいを見透かされたのか、苦笑交じりの声色でフィルがそう告げてくる。
「ほかに、要る物あるんじゃないのか?」
「いえ、本当にお構いなく。あまり物を求めても、使わないなら不要なものと変わりませんからね。それに私、あんまりごちゃごちゃした自室って好きじゃないんです」
 彼女も女の子である以上、ある程度はオシャレさやかわいらしさなんかに気を遣うのだろうと勝手に考えていたが、どうやら俺の感性はずれているようだ。まあ、本人がそう言ってるんだから、それでいいか。
「んじゃ、とりあえずは入用なもの一式でいいか。他にもあるんなら、また俺に言ってくれ」
「ありがとうございます。……こんなに良くされるのって初めてですから、なんだか気恥ずかしくなりますね」
 フィルの言葉で、はたと気が付く。
 そういえば、彼女は長いこと研究施設に入れられていた。だから、ほとんど物のないような環境で育ったのだろう。それこそ、読み物のような娯楽も、情報収集の手段も、周囲の人間とのかかわり合いもない、ひたすら自分と研究しかないような環境で。
 士官学校なんかに通っているような年の人間には例外なく、自分の心境や他社とのかかわり合いに大小なりと疑問を覚えたりして、理想と現実のギャップに悩むような精神状態に陥ることがよくあるらしい。学者曰く、自己の形成を促すための期間らしいが、この場合、フィルにおいてはその期間を、ほとんど研究以外のものと付き合ってこなかった。
 だからこそ、フィルには彼女が本来持ち得ていたのであろう「一般人らしさ」がない。初対面の俺と会う時に必要以上におびえたときしかり、先ほどの問答しかり。
 ……もしかすると、俺との同棲生活は、そういう一般人らしさを身に着けてもらうためのものなのかもしれないな、という邪推を脳裏に浮かべていると、不意にポケットに入れている携帯端末がコールを鳴らした。着信メロディは、通話が届いている旨を知らせている。
「悪い、電話だから停めるぞ」
 路肩にバイクを寄せて停車させ、シートを降りて体制を楽にしてから、改めて俺は端末の画面を覗く。そこに映っていた名前は、付き合いの長い友人のものだった。
「ベルガさんからですか?」
「いや、アークス仲間。……このタイミングってことは、任務のお誘いかな。悪いけど、ちょっと静かにしといてくれ」
 フィルに断りを入れた後、通話開始を選択して通信をつなぐ。と同時に聞こえてきたのは、ある意味ベルガと同じくらい世話になっている先輩アークスの、快活な声だった。
《よう、コネクト。今時間あるか?》
「はい、あんまり長くは取れませんけど、大丈夫ですよ。……どうしたんですか?」
 電話の奥から響いてくる相変わらずな女性の声に、小さく苦笑をもらしながら俺は応対する。
《いや、明日から入ってる任務に関して、ちっと話したいことがあってな。お前さんも来るんだろ?》
「一応参加はするつもりです。……もしかして、誰か欠員でも出たんですか?」
《そうなんだよ。いやぁ、お前さんと話してると察しが早くて助かるよ》
 どうやら、電話の向こうの彼女が俺と話したいのは、明日の予定に組み込まれている任務の人員に関してらしい。
 話を聞いてみると、先刻のダーカー襲撃によって、本来ならば明日の任務にパーティを組むアークスが怪我を負ってしまい、離脱を余儀なくされてしまったのが原因だという。そのせいで人手が足りなくなったため、急きょ俺にお呼び出しがかかった、という次第だそうだ。
《そっちが良ければ、私の方に付き合ってほしいんだが……構わないか?》
 電話の向こうから聞こえる疑問の声に、俺はしばし思案する。
 実のところ、明日一日は「今日の襲撃の件もあるし、フィルツェーン君のこともある」というベルガの主張から、半ば強制的に休暇を取らされていたため、仕事も入ってなければ何か予定もなく、完全にフリーなのが現状だった。
 が、ベルガからは休暇と言う題目を取らされただけで、別にアークスの業務をやってはいけない、とは言われていない。ならば、向こうの任務に助太刀するのもやぶさかじゃないだろう。
 それに、俺の隣でバイクにちょこんと腰掛けつつ、会話の内容を興味深げに聞いているフィルは、アークスとなることを自分で望んでいる以上、彼女を連れていくのは決してマイナスにはならないだろう。そう考えて、端末のマイクをミュートにした後、俺はフィルの方を向いた。
「フィル、アークスの任務が入ったんだけど……よければ、お前も来るか?」
 会話の内容から、自分のことは省かれると思っていたらしい。まさか話を振られるなんて、という表情で、フィルが驚きの声を上げた。
「え、そんな。……私は嬉しいんですけど、いいんですか?」
「向こうは人手が必要だし、二人の方が喜ばれるからな。フィルは実力もあるし、多分歓迎される。……それに、一人前のアークスになりたいんだろ? だったら、何よりも先立つのはまず経験だからな」
 アークスの実力と言うのはつまり、どれだけの場数を潜り抜けてきたかと言う経験に基づくものが大きい。
 むろん、レベルが低くとも本人の資質が高かったり、レベルが高くとも本人の資質が低かったりなど、例外もあるにはある。だが、基本的には経験を積めば積むほど、その個人の実力は高くなるものだ。
 その点で言えば、経験が少なくとも資質を持つフィルは、経験を積めば大化けする可能性が高い。そんな人材を放っておくのは、しょうしょう忍びないような、そんな気がした――と言うのも、彼女を誘った理由だったりするのだが。
 それに、遅かれ早かれ電話向こうの人間をはじめとした、俺のフレンド達には彼女との関係も明言することになる。だったら、不要なわだかまりは極力省いた方が良い、という打算的な考えもあった。
「……じゃあ、向こうのアークスさんが良いなら、私も行きたいです」
「よし、決まりだな」
 前向きな返答に笑みとともにうなずきを返して、再びマイクを立ち上げる。
「あー、ぜひ乗らせてもらいます。……あと、もう一人人手が見つかったんで、先に紹介しときたいんですけど、いいですか?」
《お、もう一人来るのか、ありがたい。……んじゃそうだな、今から食堂で待ち合わせと行こうか》
「わかりました。5分くらいで行きますから」
 了承の旨を聞いてから端末を切り、再びシートにまたがると、フィルが捕まったのを確認してから、すぐに相棒を発進させた。

「悪いな。ルーム紹介はまた後になる」
「いえ、気にしないでください。私の我侭を通すわけにもいきませんから」
 俺の軽い謝罪に、微笑みながら謙遜する。本当にできた娘だな、と思いつつ、俺は一路マイルームの食堂に向かうため、相棒を走らせた。


*********


と言うわけでお久しぶりです、コネクトにございますー。
ここのところどうにも小説書きたくない病が再発しており、作成に四苦八苦しておりましたが、何とかかんとか完成しましたので、とりあえずの投下と相成りました。下手すりゃ繋録のころより酷いんじゃないかこの更新ペース……w


さて、本日の協奏曲はコネクトとフィルの交流を描きつつ、今後の展開を軽く示唆する形で文章を構成いたしました。
裏話なのですが、実は今回のお話を執筆する前後で、協奏曲のプロットに大幅な改稿が入ったため、前後でお話が微妙につながらなくなってしまってます。旧プロットだとこの後ルームグッズの紹介なんかをすることにしていたんですが、そんなことしてたらいつまでたってもお話が進まなくなってしまうんで、とりあえず割愛、と言う形になりましたw


次回はゲストメンバーの一人を交えての、クエストなんかに関する創作設定の公開をやっていこうと思います。余裕があればクエストそのものの描写もしようかなー。
それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ