コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

どんな物語も、いずれは終わりを迎える。人、それを最終回と言う(ロム辞典より引用

#Last 炎〈ホムラ〉



星星の瞬く漆黒の宇宙空間を、滑る様に疾駆する深い闇色の塊。
その船が向かうは、オラクル船団「カルカーロ」。



《ハイヴ観測!アークス・シップ接触までの推定時間、およそ1時間!》
アークセンチネルの中で、コクトはオペレーターからの伝達を静かに聞く。
眼前には、今まさに通り過ぎようとする漆黒の船が見える。
「……さて」
不意に、コクトは操縦桿を握った。強く握った両の手からは、淡く光るフォトンが漏れる。
同時に船体正面の筒が上下に割れ、内部から大型の砲塔がせり出てきた。チャージされるエネルギーもまた、
淡く光り輝いている。
《それでは、これより突入をします。…アークセンチネルの砲撃と同時に、全艦一斉射撃。
外部装甲を赤熱させてもろくした後、船体を衝突させて穴を作ります。
……コクト君、お願い》
「はい」
スピーカー越しに聞こえるのは、チアキの声だ。船団から離れられないユウナにかわり、
ここからは彼女が全軍の指揮を担当する。
コクトは後を見やる。そこには、アサルトライフル「アルバレーザー」を構えるホムラと
ツインダガー「錦」を構えるゼクス、そして大振りの剣「ザンバ」を背負った神楽がいた。
先行して突入するアークセンチネルの面々をガイドすべく、今回にあたり神楽も
こちらに乗り込んでいるのだ。
全員の頷きを確認し、コクトはマイクに向かって叫ぶ。
「クォーツカノン、発射します!」
操縦桿の前に取り付けられた銃型の発射装置の引き金を絞ると同時に、眩い光が
流星となって撃ち出された。幾許もなくハイヴの表面に直撃し、赤熱化させる。
《全艦、主砲斉射!!》
続くチアキの号令と共に、後方から大型のミサイルや無数のレーザーが一気に降り注ぐ。
無数の攻撃を追い風に見立てつつ、先立ってアークセンチネルの船体が前進。
「行くぞ!!」
気合の一言と共に、船はハイヴへと激突した。



ブリッジの非常隔壁を開放し、神楽を先頭として4人が飛び出す。
地に足をつけると同時に、無数のダーカー達が湧き出てきた。
「任せろ。こいつらの弱点は、オレが一番よく知っている」
両手で「ヴィタキャリバー」を持つコクトの眼前に、錦を持ったゼクスが躍り出る。
「むん!」
ゼクスが踏ん張ると同時に、ダーカーたちの動きが抑制された。
ハウンドの能力を使い、ダーカーたちへと干渉しているのだろうか。
考えるうち、ゼクスが猛然と切りかかる。特注品らしく漆黒に塗られた二振りの小太刀は、
ダーカーたちを紙切れのごとく叩き切っていく。
「ホムラ、援護するぞ!」
「了解!」
ゼクスが捉え逃した連中は、後から突撃する神楽のザンバとコクトたちの銃撃が
残さず撃滅していく。
が、無尽蔵とも思えるほどに大量に湧くダーカーたちに、流石のゼクスも疲労を覚えてきた。
そんな状況を打開したのが、後方から駆けつけた一団だった。
「ガンナー隊、射撃開始!前衛軍はゼクス、神楽の両隣へ隙間を空けて並び、各自殲滅!!」
チアキの鋭い号令と共に、数十人のアークスたちがいっせいに展開。
銃撃の援護を受けつつ、ハンター達がそれぞれの得物を振りかぶりながら突撃する。
「コクト、ここは俺たちに任せときな」
コクトの横に並んだリクウがランチャー「アルバピサスティアン」を構えながら、
二人にしか聞こえない程度の声量でささやきかけた。
「…ああ、頼む」
自分達だけではない。仲間達がいる。
今一度その事実を認識しながら、コクトはホムラを伴い進撃を開始した。
すぐにゼクスたちの横へ並び、アキシオンを思い切り振りぬく。
ガンスラッシュと思えない重量に腕がきしむが、お構い無しに二度三度得物を振り回す。
無数のダーカーが一度に切り飛ばされ、抉られていく。
「だりゃあああああっ!!」
斜め上へと切り上げ、吹き飛ばされた相手へ追い討ちに銃撃を叩き込んだ。
ガンスラッシュのフォトンアーツ「エインラケーテン」にあわせ、同時に「エイミングショット」を用いて
通常以上のダメージを与える。
それを認めたゼクスが、自身も気合一発、空中高く跳躍する。
「とおおりゃあああああ!!!」
落下の勢いをプラスして強化された「シンフォニックドライブ」の一撃は強烈なもので、
普段着地の際は静かなはずの周囲にまで衝撃が飛んできた。
さらに、その衝撃で打ち上げられた一体を補足。再度飛び上がりながら、身動きの取れない相手へと
両の剣で二連撃をお見舞いする。
蹴り上げなしで発動した「シュートボルカ」に巻き込まれた数匹が両断され、
ゼクスの着地と同時にドサドサと地へと伏した。
「すげえ…」というどこからかの歓声に苦笑しながら、コクトは改めてゼクスの隣に並ぶ。
「よく使いこなせますね、ツインダガーなんて難しい代物を」
「それはこちらのセリフだ。ややこしいガンスラッシュをまともに使えるのが、オレにとっては
理解不能だ」
ふ、と揃ってニヒルな笑みを浮かべながら、背中合わせにダーカーたちを切り伏せる。
そんな二人を支援するのが、援護に回った神楽とホムラだ。
ホムラの放つアサルトライフルの弾丸と、神楽がアークス規定を破って使用する「アルバホーク」2丁の
弾丸が、男二人の周囲を取り囲むダーカーたちを牽制し、撃ち貫く。
絶妙のコンビネーションを発揮しながら、4人は着実にダーカーの包囲網を突破していく。
一瞬の後、ゼクスが放った2本のダガーで敵が引き寄せられ、コクトの持つアキシオンが迫る敵を
正確に切り伏せたとき、突破口が開かれた。ダーカーの包囲網に、穴が開いたのだ。
「二人とも、来い!」
コクトの号令で神楽とホムラが走りこんできて、それを感知したゼクスがさらに穴を広げるため、
体を捻って足と二本の刀で突撃を仕掛ける。
ゼクスから放たれた「ワイルドラプソディ」によって押し広げられた穴を、4人は同時に突破した。
すぐに包囲網は元に戻されたものの、コクトたちが突破したことはそこにいる皆が
察知していた。希望はあるのだ。
「総員、全火力投下!フォトンが尽きたらスイッチし、相手に休む暇を与えないで!
アタシたちも包囲網を抜けて、コクト君たちを援護します!」
「「「了解!!」」」
生気に満ち溢れたときの声が響き、熾烈な攻撃は再開された。


その盛大な声は、コクトたちの耳にも充分聞こえていた。
「…そのうち、嬢ちゃんたちも来るな」
「ええ、ルチアさんは優秀な指揮官です」
ゼクスのぼやきには、アリサが答える。昔からの知己である二人は、揃って苦笑を漏らしていた。
「まさか、こんな形でまた貴方と共闘する日が来るとは思いませんでした」
「それをいうなら、オレもだ。まったく、運命ってのは時々わからんよな」
「同感です」
過去を懐かしみつつとつとつと話している最中、不意にアリサが問いかけた。
「…ゼクス。貴方はあのキャストの招待を知っているのでは?」
問われたゼクスは、さしてあわてもせず頷く。
「お前も分かっていたのか。……もっとも、アイツは感づいていないようだがな」
ゼクスは、前を行くコクトたちを見る。コクトは既に得物をアサルトライフル「フルシリンダー」に
切り替え、ホムラのアルバレーザーと共にダーカーたちに銃弾を浴びせている。
ふと、知らせればコクトがどう思うだろうかと考えた。
しかし、それは現実の話なのだ。それに、今伝えずとも、いずれ答えは突きつけられる。
ならば、いっそ今だ。


「コクトさん、少しいいですか?」
低威力のアサルトライフルからランチャー「フォトンランチャー」に切り替えたコクトの横に、
アリサが並んだ。「どうしたんですか?」と聞きつつ、その両手はランチャーを駆る。
少女が指で示した先には、エル・ダガンの大群相手に奮戦するホムラ。
――正直、勇気が必要だった。真実を知り、絶望する様を脳裏に浮かべてしまう。
だが、言わねばならないのだ。この先、さらに深く絶望する前に。
「……コクトさんは、彼女が何者かご存知ですか?」
「いや…救出したときは、記憶域の一部がやられてたからな。……まさか、知ってるのか?」
珍しく大仰に驚くコクトに、アリサはしっかりと頷いた。
「私たちにも確証はありません。…ですが、復元が完了していたと思われる製造型番から、
おおよその見当はつきました」
ダーカーを吹き飛ばしながら、コクトはアリサの話に聞き入る。
そして紡がれた言葉は、コクトを驚愕させた。
「――彼女の製造型番は〈PTCH-00 Mark Fuego〉。…意訳すれば〈プロトタイプ機械化式ハウンド マークフェーゴ〉
となります。……つまり、彼女はハウンドなのです」
「…なっ、今、なんて………?」
全身の動きを止めたコクトの問いは無視しながら、アリサは淡々と説明を続ける。
「…もっとも、その存在はハウンドたちにも秘匿されていました。入船審査の際に行った型番検査で、
その型番が露呈したんです」
同じ言葉を口にしたくなかった。普段こそ冷静にエネミーを狩るアリサだが、彼女も人なのだ。
誰かが絶望してしまう様は、自分が絶望したとき以上に心を締め付ける。
「推測になりますが、彼女はハウンド生成の際にキャストのコアへとダーカー細胞を埋め込まれたのでしょう。
おそらくはそのときのショックが原因で、ホムラは記憶の一部がフリーズ。さらにその際
ロビニアクスの崩壊と共に遺棄され、あなたと出会ったのだと思われます」
そして、ここからはもう口を動かしたくなかった。しかし、ここで伝えるのをやめてしまえば、
その時が来た彼はどうなるだろうか。
「…彼女はプロトタイプ、それも実験途中で遺棄されたハウンドです。ダーカーたちの精神干渉に対して、
彼女は全く耐性を持っていません。ここにいる限り干渉は続き――――彼女は、命を落とすでしょう」
今度こそ、コクトからすべての音が消えた。
勇気を出しつつ少年のほうを見やると、彼は全身わななかせながらおぼつかない口調で
アリサへと問いかける。
「…なんで?なんであんなやさしい子が、死ななきゃならないんだよ」
驚愕のせいか微妙に焦点の合っていない目で、アリサのほうを見る。しかし、アリサは無情に言い放った。
「もはや、彼女は手遅れです。……それに、彼女はゼクスから、話を聞かされていたようなんです。
このまま戦いに赴けば、その身は死するだろう、と。
…それを知ってなお、彼女は戦っているんです。いかせてあげてください。彼女が望む道へ」
早口で締めた。これ以上コクトの顔を見ていられなかった。
「…ゼクス!」
「あぁ」
いつの間にか、前進していたゼクスが戻ってきていた。
彼の背から伸びる鋭い漆黒の羽がハイヴの壁を突き崩す。アリサはゼクスに連れられ、
崩れる壁の向こう側へと去っていく。
――ホムラは、瓦礫の向こうにいる。でも、今更何かできるのか?
コクトは一人くず折れ、うつろに空を仰いだ。



「しかし、あいつ相当ショックだったようだな」
瓦礫の向こう側。走り始めた3人が、言葉を交わし始める。
「……正直、酷く申し訳なく思っています」
「ごめんね、アリサちゃん。酷いこと言わせて…」
「なんだ、オレのせいか?」
先陣を切るゼクスの後ろに、ザンバを担いだアリサとアルバレーザーを握るホムラが続く。
ホムラの顔は、すべてを受け止めてなお毅然とした表情をしている。
(しかし、よくこんな運命を受け入れたものだ)
心中でゼクスが呟く。彼らには受け止めきれない重荷を、少女は背負っているのだ。
そこまで考えたとき、アリサが叫んだ。見ると、そこにはハイヴの中枢〈コア〉へと繋がる
扉と、それを守護する無数のブリアーダ、エル・ダガンたち。
「私が行きます。ゼクスばかりに、無茶はさせられません」
不敵な笑みを浮かべながら、アリサが二人の前へと出た。
「さて……どうかな?久しぶりだから、システムがついてこれるかどうか」
ザンバを構えると、柄の根元にあるリミッターを解除した。
ヘッドギアを介して、駆動開始を告げるシステム音が高速で鳴り響く。

System startup --
Limit release start
It is the completion of start photon coating
henceforth to an exterior part and the form for waste heat.
Internal blade opening, connection
a system -- complete.
Zhang Weil Brad, starting!


ドシュウウウウウウウウウ!!
形状を変え、クリムゾンレッドのフォトン刃をせり出させたザンバから、大量の蒸気が吹き出る。
常時排熱しなければならないという欠点を抱えているものの、その威力は
アリサがかつて使用していた「クレイモア・ゴッド」のそれを上回る。
「はあああああああああああっ!!!」
2倍ほどになった刀身で一薙ぎすると、フォトン刃に絡めとられたダーカーたちが
紙切れのごとく吹っ飛んだ。続けざまに二度、三度と振るたび、薄い紙が引きちぎられるかのごとく
ダーカーの群れは叩き切られていく。
「さすが、衰えを知らないなアリサ!」
漆黒の風となり、ゼクスも両の手に握る錦を踊るように振り回す。正確無比な狙いに、ダーカーたちのコアは
次々とえぐられていった。
「っ!」
そして、戦闘に不慣れなホムラも今だけは奮戦する。が、そのうち息切れが激しくなってきた。
「…限界か。ホムラ、こいつを使え!」
その様子を見止めたゼクスが、ベルトに刺してある大量のフォトンブラッドのうち一本を投げてよこす。
パシッ、と音高く受け取り、迷うことなく首筋へとフォトンブラッドを流し込む。
その直後、ホムラの視界に一瞬スパークが走った。
「ぐっ……うああああっ!!」
続けざまにバチバチとスパークが走り、視界にノイズが混じりこむ。しかしそれは一瞬で、
体勢を戻したホムラの目が深紅色に光り始めた。
「ああああああっ!!」
フォトンブラッドで増幅された力を存分に発揮し、ホムラは脚部のバーニアを吹かす。
フォトンアーツ「インパクトスライダー」の挙動にあわせ「グレネードシェル」、「ディフューズシェル」、
「ホーミングエミッション」、「グローリーレイン」をあわせたかのような攻撃を開始する。
天へと撃ち上げられた弾丸が拡散し、落下の際にさらに拡散。敵を追いかける無数の雨と化して、
扉の前をさながら絨毯爆撃のように薙ぎ払ったのだ。
さすがプロトタイプ、とゼクスは心の中で賞賛しながら、がらんどうとなった扉へと足を進める。


 * * * * * * 


何故、気づけなかった
何故、止めなかった
何故、気持ちを汲んでやらなかった
何故、何故、何故、なぜ、ナゼ、ナゼ何故何故何故?


俺は考える。
もし、あの時彼女に残るよう伝えていたらどうなっていたのかを。
「必ず帰る」と約束する俺を、やさしく見守ってくれていたか?
「自分もついていく」とごねるか?
あるいは、ここで帰らぬ人となった俺を思って泣くか?
…どれも、違うだろう。


俺は考える。
もし、あの時エクスティオーで別れていたらどうなっていたかを。
微笑んで、笑顔で俺にさよならを言ったのか?
泣きじゃくりながら「また会おう」と言うか?
それとも、レーヴァティーンの時のように拉致されるか?
…どれも、違うだろう。




考えても考えても、最終的に行き着くのは、あの芯の強そうな顔だった。
自分の決意とは違う、大儀を成すためにすべてを擲つ覚悟を持った、毅然とした表情。
一転を見据え、がむしゃらに突き進む信念を持ったかのような、りりしい戦士としての表情。


――自分とは、何もかもが違う。


仲間を傷つけまいとして、言葉で傷つけた。


仲間から信じられながら、ただ一点を目指し続けた。




人と接するのが苦手だったから、独り身になって逃げた。


自分にはない、その芯の強さ。
…少しだけ、うらやましい。
でも、その芯の強さは俺には与えられることはない。


自分は弱虫だから。
ただの、非道な人間だから。
人の皮をかぶった、ただの化け物のような何かだから。


でも―――そんな俺でも、キミを想う事ぐらいは、許して欲しい。
だって、俺は―――


 * * * * * * 


「コクト君…?」
ちらりと、後を見やる。
そこには、チアキが心配そうな表情で立っていた。後にはリクウや、他のアークスたちもいる。
だが、何とも思わなかった。感情が湧いてこない。
ふらりと立ち上がった俺に肩を貸しながら、チアキは俺に尋ねてくる。
「…これは、何があったの?」
答えるのは億劫だったが、それでも彼女達のためだ。
ゼクスさんたちが崩しました。自分達だけで破壊すると」
淡々としか答えられない。声に抑揚が出ない。
俺の異常を察知したのか、今度はリクウが問いかけてきた。
「…なあ。お前、どうしちまったんだよ?」
「どうもしてないよ。放っておいてくれ」
全身が鉛のごとく重い。チアキの肩から離れ、ふらふらとアークセンチネルへ戻ろうとする俺の肩を、
チアキが再度引っつかんだ。
そのままぐいと体の向きを変えられたかと思うと、頬に鋭い痛みが走った。
「っ…………!?」
どうやら、頬を引っ叩かれたようだった。手を横に振った体制のまま、チアキが口を開く。
「…目、覚ましなさい。貴方、何のためにここに来たの?」
言われ、ふと思い出す。



ぴりり、と頭の中にスパークが走る。
そうだ、俺の成すべきことは「誰かを守ること」。
自身の思いを、命を擲ってでもと誓ったのは、他でもない俺自身なのだ。
そこまで考えたとき、再度チアキの声が鼓膜を震わせる。
「…何があったのかは、アタシには分からない。でもね、その出来事で自分の決意まで曲げるのは、
貴方らしくないわよ」
俺らしい?
頭の中に疑問が浮かんだが、すぐにどうでもよくなった。



そうだ、自分には、なすべきことがある。
自身の恋慕を振り払ってでも、守るべきもののために。
たとえその果てに、愛すべき人を失ってでも。


全身に力を込める。あれほど重かった体に、今は力がみなぎっている。
まだだ。まだ折れるときではない。
まだだ。まだ沈むときではない。




まだ、俺の手で護るべき人がいる。


 * * * * * * 


「…ったく、いつ見ても悪趣味な連中だよ」
ゼクスがニヒルに微笑みながら、ダーカーの群れを薙ぐ。が、その巨大な漆黒の壁は
わずかに穴をうがたれたのみで、すぐに元に戻ってしまう。
「…大きすぎまね、これは。この子を使ってでも、突破できるかどうか……」
横に並ぶアリサの手には、アルバクレイモアを改良した「ヴィタクレイモア」が握られている。
マゼンタ色の刃を持つ刀が振られても、巨大な壁は身じろぎ一つしない。
ホムラもフォトンアーツ「グレネードシェル」を放つが、いくらも削れることはなかった。
「こりゃ、気合入れないといかんなぁ…」
「ええ、しかも、一転集中突破以外に突破方法はないみたいですからね」
「しかも、増援は望めず…失策でしたね、これは」
三人各々苦笑する。とうに覚悟は出来た。
「…行くぞぉぉっ!!」
ゼクスの号令と共に、アリサのヴィタクレイモアが「神殺し」の姿へと変異。
ホムラは両手にアルバレーザーを持ち、突撃を開始した。
まずゼクスの持つ刀が敵陣をえぐる。そこで出来たわずかな隙間を、アリサのクレイモア
拡張しながら、ホムラのハウンド能力による攻撃でさらに大穴を穿っていく。
三人が即興で組み立てた戦術はしかし、じわじわとゼクスたちをコアへと近づける。
が、到達は滝のようなダーカーの群れが許さなかった。
黒い壁が一割でも削られれば、別の場所から送られた増援が3人を押し返すのだ。
悪戦苦闘しつつ進む三人にとって、それは痛恨の出来事でもある。
「ちぃ……進めねぇっ!」
ゼクスフォトンアーツ「レイジングワルツ」を放つも、一割押し広げられた壁がすぐに閉じてきた。
巻き込まれればハウンドであれ大怪我必至なので、急いで離脱する。
「くっ…なら!」
ゼクスと入れ替わりに、ホムラが2丁のアルバレーザーから「ディフューズシェル」と「グレネードシェル」をあわせた
フォトンアーツを打ち込む。直りかけていた壁に再度穴をうがったものの、
それを察知したダーカーたちがさらに修復の速度を上げていく。
「はあああああっ!」
そこへ、神殺しの形態となったヴィタクレイモアを引っさげたアリサが突撃する。
普段なら青い刀身が形成されるところに、赤いフォトン刃を形成した「オーバーエンド」を
叩き込むも、やはり再生の速度には追いつけない。
「ええいくそ…大見得張った手前、引き下がるわけにもいかんというのに……っ!」
苦々しく舌打ちするゼクスの耳に、ふと何かの音が聞こえてきた。
耳を澄ましてみると、その音はバイクの音だった。かつて自分が使用していた(ある日弟に盗まれた)バイクと
似た駆動音を響かせながら、徐々にこちらに近づいてきているようだ。
刹那、ゼクスは横っ飛びに跳躍した。なんということはないただの勘だったが、功を成したようだ。
バッギャアアアアアン!!と盛大に扉を突き破り、何者かが乗ったバイクが飛び込んできたのだ。
バイクにまたがっていた人物はすばやく離脱し、主を失ったバイクはそのままダーカーの壁へと激突する。
ズザザァ、と滑りながら着地したのは、本来いるはずのない増援だった。
「―――コクト?!」
そう、チアキの叱咤で立ち直ったコクトが、アークセンチネルに積んであったバイクを利用して
ここまで突っ切ってきたのだ。後方のダーカーたちは、チアキたちクルーニクスが殲滅している。
そしてコクトは、その手に輝く銃剣を握っていた。それは、ホムラに託されたはずの光の剣。
「それ…リパルサーですか?」
不審に思ったアリサに、コクトは微苦笑しながら生気の満ち溢れる目で頷いた。
「二代目だよ。…『ヴィタリパルサー』。ルチアさんから受け取ったんだ」
輝く剣は、ここに来る最中、進軍するチアキから投げ渡されたものだった。
「ヴィタハチェット」をベースとして、元のダークリパルサーと全く同じ機構を組み込まれた得物が、
光のフォトンを受けて脈動するかのごとく明滅する。
「…俺がこいつで、突破口を開きます。3人は、コアが見えたと同時に俺の前に出て破壊を開始してください!」
「いいだろう」
「はい…」
「……了解っ」
既に、3人の覚悟は汲み取った。
――もう、自分のことで悩まない!
強く決意した後、コクトは猛然と切りかかった。
「おおおおおおおおっ!!」
一撃が加えられた後、すぐさまフォトンアーツ「レイジダンス」が飛び出す。
連続突きはダーカーの壁を瞬きの間に抉り、ゼクスたちが成しえなかった速度で一割を削り取った。
それを確認したダーカーたちが壁の修復を始めるが、光のフォトンを苦手とする彼らに
コクトの攻撃は脅威以外の何者でもなかった。
続けて撃ち出されたのは「トライインパクト」。それを2度、合計6発浴びせると、
修復に回ったダーカーたちはおろかその後の壁さえも引き裂かれている。
「まだまだぁ!」
咆哮一発、新たに習得した左右への暴風のごとき五連撃が壁を食いちぎり、とどめのフォトン弾が
穴をさらに深く抉り散らす。「スラッシュレイヴ」と呼ばれる攻撃により、穴は5割も潜り込んだ。
しかし、ここでコクトの体内に残るフォトンが底を突いてしまった。
「ちっ」と舌打ちしながらも、コクトは笑う。自分を擲つ為には、時には冷静にならなければならない。
以前のような失態は犯さない。そう心中で呟いたコクトは一時後方へ離脱。
ガンモードで光の属性を纏ったフォトン弾を打ち込みながら、再度突撃する。
「…なるほど、フォトンを溜めるためか」
コクトの目論見に気づいたらしいゼクスが、不敵に笑む。
再び進撃を開始したコクトは、瞬時に武器を持ち替える。
新たにマウントポーチから射出された「ラムダクシャネビュラ」の刃は、通常通りの山吹色。
だが、今回はお構い無しだった。先端の刃が射出され、壁の中の一体に突き刺さる。
即座に引きずり出されたダーカーを利用しながら、コクトは刃を纏う風車となって突撃した。
鍛えられた自在槍と力量から放たれた「アザーサイクロン」を放つ最中、コクトが叫ぶ。
ゼクスさん、神楽さん!次に俺が後退したら、最後の一押し頼みます!」
つまり、コアはもうすぐそこだった。勝利に近づいたことを確信する二人が、突撃の準備をする。
ゼクスは錦を背に吊って懐の大太刀「禍ツ姫」を、アリサは片手にヴィタクレイモア
もう片手にザンバを構える。
そうこうしているうちに、コクトは二つ目のフォトンアーツを放つべく武装を切り替えた。
ラムダクシャネビュラをしまいこんで新たに手に持ったのは「ロンゴミニアド」。
独特な収納形態から展開された三つ又の穂先が、空気を鳴らして振りぬかれる。
そこを始点として、鋭いカマイタチが飛び出た。ダーカーの壁に叩きつけられ、さらに奥へと貫通する。
五つのカマイタチを撃ち出す「スピードレイン」が、大きく大きく穴をこじ開けた。
コクトは充分と悟り、離脱前にとどめの一押しを発動する。
二度の攻撃から後方へと離脱しながら攻撃を繰り出す「バンタースナッチ」を発動した、その時―――
不意に、コクトの至近距離で爆発が発生した。発動直前のフォトンアーツはキャンセルされ、
コクト自身は後へと吹っ飛ばされる。
「コクト!」
「コクトさん!!」
ゼクスたちが駆け寄ると同時に、ダーカーの壁が猛烈な勢いで再生を始めてしまった。
「げほ………っ、誰だ…?」
咳き込みながら立ち上がると、そこにはアサルトライフルを構えた少女が立っている。
その目は赤黒くにごり、うつろな視線をコクトに向けている。
「……しまった、この可能性を忘れていた…」
先立ってコア破壊に行ったアリサとは対照的に、ゼクスは苦いものをはき捨てる。
「…バッドニュースだコクト。ホムラ嬢は……」
「ダーカーに侵食されている、でしょ?」
しかし、ゼクスが言い切るよりも先に、コクトがその先を紡いだ。驚きつつも、ゼクスはコクトを見やる。
その顔は、悲痛な気持ちをたたえていた。
「……だからなんですか。この先に進むなら、これは避けて通れない運命…っ!」
ヴィタリパルサーを強く握るその手は、かすかに震えている。
「…この子は、望んでこの結末を受け入れたんだ。だったら、その望みどおりにしてやるのが一番でしょう」
震えながら笑うコクトに向かい、侵食された少女は得物を向ける。
それは、コクトが護身用として渡したはずの「ダークリパルサー」だった。
すぅ、とホムラは静かに振りかぶる。
ふぅ、とコクトは静かにため息を吐く。
「………世の中って、上手くいきませんよね」
悔しげな一言を切り裂くかのように、少女の一閃がきらめいた。
「ッソがあああああああああああああっ!!」
閃く刀身にあわせ、コクトは咆哮と共に自身の剣を打ち込む。
ガィン、ガギン、キィンと立て続けに衝突音が鳴り響き、周囲を鮮やかな火花が照らす。
コクトは獣のような顔で、少女は害虫でも見るような顔で、互いの剣を打ち付けあった。
ゼクスさん、早くコアを!」
「…まだだ、まだできない」
コクトは叫ぶが、ゼクスは拒んだ。しかしそれにかまう暇など、目の前の少女が許さない。
「―――」
声なき声を出しながら、少女は剣を後方に引いた。
(っ……くる!)
思案した直後、少女からは無数の牙突が飛来する。ダーカーに侵食された身で、フォトンアーツを
放ってきたのだ。
驚愕する暇はない。予備動作を省き、コクトもまた牙突を繰り出した。
双方から放たれた「レイジダンス」がすべて二人の間で衝突し、再度周囲を火花で照らす。
「――っ」
「っ……!」
ギャガリィィィン!という衝撃音と共に、二人の体は停止した。
銃撃形態に変形した互いのリパルサーが、その刃の間にお互いの刀身をうずめている。
このまま引き金を引けば、跳弾で互いの機構を破壊するだろう。
そこまで考えた矢先、不意にゼクスが少女の横から突撃してきた。その手には、小さな注射器。
「とあああああああっ!!」
ドカッ、と鈍い音がしたと同時に、少女の首に注射器がつきたてられる。
「頼む、ホムラっ!」
コクトの願いと共に、圧縮空気の抜ける音が響いた。
「――っうぁぁぁ!!」
甲高い悲鳴と共に、少女が膝を折る。
「…どうだ?」
「なんともいえません………………いや、ダメみたいですね」
一言と共に歯を食いしばる。立ち上がった少女の目は、濁りこそ消えたものの
今度こそ明確な敵意を持って睨みつけてきていた。
そのすぐ後、少女の手が閃く。
「ぐほあぁっ!?」
「なっ、ゼクスさんっ!」
すぐそばで経過を見守っていたゼクスが、一撃で吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。
気絶はしなかったらしい。ずり落ちると同時に膝立ちになり、コクトにサムズアップを向ける。
安堵するのもつかの間、さらに少女の攻撃が飛来した。
「ぐぅっ!」
ギリギリのところで反応が間に合い、飛んできた切り上げ攻撃を間一髪でいなす。
しかし、一回転してきた少女の手が握る剣は銃撃形態へと変形していた。
(!?しまっ――――)
回避よりも数瞬早く、少女の剣からは銃弾が撃ち出される。
「ごあっ!?」
首元を正確に捉えていた銃弾は、しかしすんでのところでコクトが引き寄せた剣に弾かれた。
しかし反動で本体を首に打ち付けてしまい、よろよろと数歩後ずさる。
(っつぅ………まさか、こんな状況でエインラケーテンとは)
教えたことが生きてるな、と今更ながらに苦笑した。皮肉以外の何者でもない。
こんなところで引くわけにはいかない。せめて、この苦しみから解放する!
「ううおおおおおおおおおっ!!」
雄叫びを上げ、コクトはリパルサーを銃撃形態に変形。フォトンアーツの小細工はなしで、
立て続けの五連射を打ち込んだ。
「――」
襲い来る凶弾を、しかし少女は臆することなく剣で弾き返した。
「まだまだぁぁっ!!」
「!」
その直後、振りかぶった体勢のままコクトが突進してくる。こうなった以上は、
両腕を切り落としでもしなければ停止しないと考え、がむしゃらに突っ込んできたのだ。
今回は策などない。相手の反応に合わせ、剣を打ち込むだけだ。
左から襲いくる刃を少女がいなし、逆に上から打ち込む。
感知した矢先に銃撃形態へと変形、刀身の間に敵の剣を通らせ、直後に捻ってかわす。
再び攻勢に入ったコクトが襲撃をくらわせようとすると、少女は大きく剣を振って遠ざかる。
「うおおおおおっ!」
そこへ追いすがろうとしたコクトの腕を、少女が引っつかんだ。
そのまま腕力に任せて床に叩きつける。
「っぐぁ……!」
「コクト!!」
焦りすぎた。おとなしく引いていれば、おそらくは勝てた…。
一瞬の思考に目を閉じた後、少女の手と共に剣が閃いた。






「……?」
しかし、コクトには傷がついていなかった。恐る恐る、ホムラのほうを見やる。
「まさか…食い止めてると言うのか?!ダーカーの侵食を!!」
ゼクスが驚愕するのも無理はないだろう。
――なにせ、リパルサーを持つ右手がぴたりと停止しているのだから。
だが、静止しているのはそこだけだった。他の部分は、動かない右手を動かそうと憎々しげに全身を揺すっている。
その光景を見て、コクトは不意に閃く。
「……光のフォトンの力だ」
「何?」
「…俺のリパルサーは、フォトン流入以外にももう一つ『周囲から光のフォトンを集めてそれを増幅する』
機能を取り付けてあったんです。多分、増幅された光フォトンが、ダーカーの浸食を拒んでるのかと」
まだフォトンが上手く扱えなかったときに後付で追加した機能。
それがよもや、こんな局面で役に立とうとは。
―世の中は、自分が思う通りにはいかない。しかしそれは、相手にも同じことがいえる。
そしてこのとき、コクトの脳裏にある確証が浮かんでいた。
いまなら、それを実行できる。ホムラが全精力を振り絞って耐えている、今こそ。
「…今」
ヴィタリパルサーを、大上段に構える。
「今、助けるからな。ホムラ」
その刀身から光の刃が、上へ上へと無限に伸びてゆく。



「……大好きだ」
心からの一言と共に振り下ろされた眩い刃はホムラを貫き、ダーカーの壁を貫き――


中核であるコアさえも、一刀のもとに切り伏せた。




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ホムラ暴走からリパルサー効果発動までに戦闘を加筆しましたー。