コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

【新小説】マシーン・マリオネット【先行掲載】

プロローグ 理不尽な世界


「……よし、ここでいいかな」
月明かりと、商店街の喧騒から広がる明かりの中で、人影は1人眼下を見下ろしていた。人の手によって作られた光に照らされる商店街を眺め、次いでその近く――自らの足元に広がる薄闇を見据える。昔、中学生たちが学校に通うために使っていた裏路地が、そこにある。もっとも、少し前に失踪事件が起きて以来、この道は使われていないのだが。
地上3階の小さな建物の上からそこを見下ろしていた少年は、ふと顔を上げて別の方向を向く。自らの家がある方角だ。夜の闇で輪郭も見えないが、自宅の場所は正確に覚えている。それがなんとも皮肉に思えて、少年は1人苦笑した。
今頃、兄は自分の書き置きを見て何を思っているだろうか。お疲れと労っているか、それとも馬鹿野郎と罵っているか。どっちにせよ、もう二度とあの優しい声を聞けないのは悲しいな――と、少年は少しばかり感傷に浸っていた。



少年、こと谷川浩介たにかわこうすけは、この世界――もっと言えば、自らを取り巻く理不尽な環境に絶望していた。
酒に溺れ、ギャンブルに溺れ、浩介たち兄弟に見向きもしない両親。
愉悦に浸りたいがため、弱者たる浩介を徹底的に虐める同級生。
そんな状況を見て、それでも何一つとして手を施さない教師。
唯一の友達も、数年前に浩介を裏切るかのように、忽然と姿を消してしまった。
どうにもならないほど理不尽な環境で、友人以外に唯一手を差し伸べてくれたのは、他でもない浩介の兄だった。恵まれた天性の才能で道を切り開き、彼に道を示してくれた兄は、浩介の生きる希望であり、同時に心から憎い存在だった。
――もう、人に虐げられ、希望もなく生きるだけの人生なんていらない。それが、17年間を孤独に過ごし、磨り減った神経で導き出した、浩介の結論だった。


「……さて、と。そして俺は今から自殺るわけだけど」
誰に聞かせるでもない独り言を呟きながら、浩介はうろうろと屋上を歩き始めた。飛び降りる場所を探すためだったのだが、あいにくと三階建ての建物から飛び降りて、確実に死ねるという保証は無かった。周辺はベッドタウンとして有名なために高いマンションなどもなく、苦労して探し当てたのが今いる三階建ての建物だったのである。
「んー……頭から行けるかな。でも失敗したらいってぇからなぁ……もっと高いとこあればよかったのに」
こんな逃避じみた現場を見られたくない、という理由で選んだ建物の上で、浩介は何度か飛び降りる場所を確認する。数回別の場所を検討した後、結局最初に見当をつけた路地裏の上に決定した。
よし、と一言つぶやいて、ビルの縁に足をかける。ぐっと力を入れて、飛び降りる――




「やぁ、こんな時間に何をしているのだ、少年」
その直前、不意に真後ろから声がかかった。あまりにも唐突だったために硬直した浩介は、そのままぎこちない動きで声の方へと向き直る。
浩介に声をかけたのは、憎めない笑みをシワ深い顔にうずめ、ふさふさしたヒゲをたくわえる男性だった。今時珍しい、風味のある木製の杖を突きつつも、その背筋は健康そうなラインを保っていた。
こんな時間にここにくるなんて、何者だろうか。そう考えつつ、浩介は先ほど投げかけられた男性からの問いに、あくまで平静を装って答えた。
「……夜景を、眺めてたんですよ。高いところって言ったら、周囲じゃここしかありませんし」
「確かにな。……しかし君が見ているのは、夜景じゃなくてその下の路地なんじゃないのか?」
続いた男性の言葉に、浩介は言葉を詰まらせる。人目につきたくないという逃げが、よもやこんなところで裏目にでるとはと、頬を引きつらせる裏で舌打ちする。
どうにかしてこの人をまけないか。そんなことを考えていると、再び男性が口を開いた。
「まぁ、自殺したいならしてしまえばいいんじゃよ。……しかしその前に、少しワシの話を聞いてはくれまいか?」
浩介が耳にしたのは、予想とはほぼ間逆に近い言葉だった。自分を止めるために来たのではないのか?と疑問を募らせ、同時にそこに付け足された言葉に意識を向ける。自殺しようとする人間に向けて、何を話すことがあるのだろうか……と考えて、その最中で無意識に口が動いた。
「……あなたは、一体?」
その問いかけを聞いた男性が、また憎めない笑みを浮かべて、一言告げる。


「ワシは、神様じゃよ」


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お久しゅうございまーす、新年の挨拶もサボってたコネクトでーす。


さてさて、まずはこの小説がこうして掲載された経緯についてお話しましょう。
もともとこの小説は、現在コネクトが小説投稿サイト「異世界行ったら門前払い食らいました」の、後釜になる小説としてだいぶ前から構想を練っておりました。
そして設定を練り終わり(プロットができたとは言ってない)、本編のストックを作るため携帯でぽちぽちと執筆してたんです。
そしてこのプロローグそして次の記事として投稿する第二話を書き終えた後、「せっかくだから先行掲載しようかな?」と考えつき、結果こうして掲載に至った、という次第にございます。


本小説のコンセプトは「ほのぼのロボット物」、ジャンルとしては「異世界ファンタジー」を謳っております。
主人公である谷川浩介くんとともに、コネクトとしては久しぶりの挑戦となるロボット物を、今までとは全く異なる観点から描いて行きたいと思っております。
愛も変わらず拙い小説ですが、もしひとかけらでも気に入っていただければコネクトとしては幸いにございます。
先行掲載であり、まだまだ改良点は存分に残ってますが、何卒ご愛顧頂ければ嬉しいです!