コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

護星のオリヴィエ

 アリルフェイト、という世界がある。
 三つの大陸と大小の島々から構成されるこの世界に、ある時、超自然の力である「魔力」を利用して作成された機械――通称「魔動機」と呼ばれるアイテム、そしてそれを生み出す技術が確立された。
 小さなものは個人所有の携帯端末から、大きなものは空を切り裂く飛行船まで、様々な分野に転用されることとなった魔動機は、アリルフェイトに住む人々の生活を豊かにしていった。
 そんな魔動機の根付くアリルフェイトには、長きにわたって異形の生命体、こと「アクリス」の脅威が存在している。魔動機が登場してからしばらくして、人々はアクリスに対抗するための力を手に入れるために、既存の刀剣や弓を発展させた、魔動機を用いた新たなる戦闘用の武装――通称「魔動戦機(まどうせんき)」を開発。アクリスたちとの、熾烈な生存競争を繰り広げていくこととなる。


 そうして、魔動機の誕生とそれに付随する様々な出来事が「魔動機革命」という史実の一つとして数えられるようになったころ。
 安寧を享受するアリルフェイトの片隅で、それは起ころうとしていた。
 

***


 軋むような音を立てて、真っ平だった壁面に、陽光を取り込んできらめく氷が生み出される。
 ミシミシと凍結していく壁面にできた氷のでっぱりを、内部に冷気を通さないように加工された手袋をはめた手が、しっかりとつかんだ。
 そのまま、つかんだ手の腕力を以て自分の体を上へ上へと引っ張り上げつつ、凍る壁面をクライミングする青年はふと、今朝の出来事を思い出す。



「被験体の、確保?」
 青年がクライミングを始めるより、さかのぼること数時間前。青年が常駐しているとある建物の一室に、青年は呼び出されていた。理由は、彼に「任務」が課されるからである。
「そうそう。なんでもフォルテ・コーポレーションの秘密実験施設に、レアな能力者が保管されているらしくってな。先を越されたくないから、それを奪い取って連中の研究を遅延させてくれ、ってのが、今回の依頼だ」
疑問符を浮かべた青年の前で、あつらえられた椅子にもたれながら「依頼」の内容を読み上げるのは、青年の上司でもある男だ。見た目は18,9ほどにもかかわらず、彼は彼が運営する傭兵団「フェンリル」を率いる団長でもある。
「中の情報はほとんどなし。けどまぁ、フォルテの連中は警備ガバ甘だからな。潜入任務の一つや二つ、お前には問題ないだろ? セルジュ」
 セルジュ、と呼ばれた青年はしかし、上司である男の問いかけに不敵な笑みを以て答えた。



 青年――セルジュ・ローハウトという傭兵の青年が昇っていた壁面は、依頼の目的地として指定された、研究施設を内包した一棟のビル。「フォルテ・コーポレーション」という企業の持ち物として指定されているそこに、今回の依頼の目的である「被験体」が居るらしい。
 セルジュに課せられた任務の内容は、そのものずばり「被験体として施設内に幽閉されている人物を奪い取れ」という物だ。殺してはいけないのか、と疑問に思いはしたが、その辺はどうやら彼の上司に考えがあるらしいと察して、セルジュは素直に従っている。
「目標の被験体は、昨今有名になっている特殊な力――「固有進化魔術(アドヴァンスドアーツ)」っつう能力を持ってるらしい。んで、その能力に目を付けたフォルテ・コーポレーションの手によって、いずこからか「持ってきた」んだとさ。おおかたどこかの村を焼いて誘拐してきたんだろう」とは、上司の弁だ。
 そんな取り留めもないことを考えているうち、セルジュの手は屋上の縁を捉える。素早く縁の上へと目線をやって周囲を確認したが、そこにあったのは移動用の小型飛行船の発着場と、出入り口になっている扉一枚だけだった。しばし警戒したのち、セルジュは身を翻して屋上へとすべり込む。
 今回の依頼を受け、目的地の情報を聞き出したセルジュが採った侵入方法は、真正面から激突しての無用な消耗を避けるため、ビルの壁面をクライミングして屋上へと回り込み、内部へと突入するという方法だった。
 むろん、常人に真っ平なビルの外壁を昇る、などと言う芸当はできない。しかしセルジュは、その「常人」とは違う力を持っていた。ゆえに、今回の作戦を思いついたのである。
「……こちらセルジュ、屋上への侵入完了。ヴァナルガンド、何か情報は?」
 身にまとった上着の裏に忍ばせておいた拳銃を取り出しつつ、無線を起動させたセルジュはその向こう側へと問いかける。帰ってきたのは、彼の上司であるヴァナルガンドと呼ばれた男の、至極のんきな回答だった。
《目立った情報は無いな。ただ、目的の被験体についてはちびっと情報ありだ》
「教えてくれ。うっかり射殺は避けたい」
《はいよー》
 無線の奥から聞こえる情報を脳内に書き込んだのち、無線を切ったセルジュは再び拳銃を構え、扉を蹴破りつつ内部へと侵入していった。


 カッ、カッ、カッ、カッ、と、静かな廊下にブーツの底が打ち付けられる音が響き渡る。
 足音の張本人であるセルジュは、少し進んだのちに曲がり角を見つけ、そこへとすべり込んだ。壁の陰からわずかに顔を出して、進行先を確認する。
 セルジュの進行方向からは、白衣を纏ったやせぎすの研究者らしき男が、ぼんやりと煙草をくゆらせながら歩いていた。警戒の欠片もないその態度に、今だに侵入は悟られていないことを察して、セルジュは再び身をひそめる。

 少しすれば、白衣の男はセルジュが身をひそめる通路を通り過ぎようと歩いてきた。惜しげもなくさらされた隙を逃さず、セルジュは男にとびかかる
「ぐわっ!?」
 そのまま、セルジュは男の拘束を解かずに再び通路の奥へと引っ込む。壁に押し付けた男に、セルジュは上着の裏から取り出したコンバットナイフを突きつける。
「ヒッ――」
「協力するなら命は取らない。……被験体E-7(イーセブン)の場所を知っているなら、吐け」
 金色の瞳に、明確に黒い殺意が浮かび上がった。その瞳をまっすぐに向けられた男が、たちまちすくみ上る。
「ま、ま、待ってくれ! 分かった、E-7の場所だろう? E-7は5階の大部屋だ! だからっ、早く離してくれ!」
 おびえた様子でわめく男に、セルジュはしかし、再びコンバットナイフの切っ先を鋭く突きつけた。今度は先ほどよりも近く、より鮮明に刃の煌めきを見せて。
「今なら嘘を訂正させてやる。二度目は無いぞ」
「あ、ヒィィィ!? 違うっ、そう、嘘だ! E-7は5階の隔離施設だ! 場所はすぐにわかる、覗き窓付きの黒い扉だ!」
「……今度は本当だろうな?」
「当たり前だ! ぼくだって自分の命は惜しいに決まってる!! だからお願いだ、殺さないでぇ!」
「――ふん」
 イヤイヤと駄々をこねる子供の用に抵抗を続ける男に、セルジュは冷たく鼻で笑う。そのままぐい、と男を持ち上げると、背負い投げの要領で投げ飛ばし、通路の壁に叩き付けた。
「あ、がっ」
 天地反転した格好で壁にへばり付いた男がずり落ち、完全に意識を飛ばしたことを確認すると、セルジュは男の白衣、そしてIDカードと思しきものを引っぺがす。
 万一研究者に出くわした時、一目で侵入者だとばれるのは厄介だ。そう考えたセルジュは、仕事着としても使っている普段着の上から白衣を纏い、バレないようにきっちりと前を締めた後、改めて拳銃を構えて走り始める。目的地は、男から聞き出した隔離施設だ。



 いくつかのフロアを下り、5階へと到着したセルジュは、本格的に周囲の警戒を始める。
 今回セルジュが狙う被験体は、上司から得た情報曰く、フォルテ・コーポレーションの研究の中でも特に大きくウェイトを占めているという。それならば、仮に侵入者が訪れても良いように、厳重な警戒態勢が敷かれていてもおかしくないのだ。
(……イヤに静かだな)
 しかし、セルジュの予想に反して、五階の警備は寒気を覚えるほどに静寂を湛えている。あの男にだまされたのかとため息を付きそうになる自分をグッとこらえて、セルジュはひとまず探索を開始した。現状持つ情報を頼りにするならば、ここに居る可能性が一番高い。


 はたして、それと思しきものはすぐに見つかった。
 恐らく内部からの抵抗に対策したのであろう、溶接されて密閉された覗き窓が取り付けられた、黒塗りの合金製扉。IDを認証してロックを解除する仕組みらしき電子錠には、カードを通すためのスリットが空いている。
(これが正解だといいんだが……)
 拭いきれない罠の可能性に軽く渋い顔を見せつつ、セルジュは奪っておいたIDカードをスリットへと落とし込む。権限レベルが足りないのではないか、という懸念はあったが、一人気ままに出歩いていた男らしく、カードのレベルは高位のものだったらしい。気の抜けた電子音を響かせて、扉の中から金属音が響いてきた。
 わずかに気後れしつつも、セルジュは勢いよく扉をあけ放ち、拳銃を構える。しばらく照準を覗き込んでいたセルジュは、ふと警戒を解いて銃口を下におろした。
「……被験体E-7、だな?」
 理由は、目標を見つけたから、である。
 セルジュの金色の瞳に映っていたのは、年端もいかない少女だった。埃やすすらしきもので汚れ、くすんでしまった白い髪を無造作に伸ばし放題にしているのは、ろくに世話をされていないからだろうとセルジュが推測する。
 身にまとっている、病人服と形容するにも心もとない薄布の衣服。そこから覗く生気のない手足は、おおよそ健常者とはいいがたい生白さと、手首足首に巻かれた大ぶりな拘束具も相まって、酷くアンバランスな細さを見せていた。
 外からの光が眩しいのだろう。わずかに伏せられた瞳の色は、年代物の赤ワインを思わせる深い紅色。光を受けて輝く瞳は、うすらと濁った希薄な正気を覗かせていた。
「……だれ?」
 ひとしきり、少女の容体を観察したセルジュの耳を、擦れたソプラノが叩く。声の出どころは、目の前で静かに座り込んでいる少女の口。
「俺は、君をここから連れ出すために来たんだ。――「カーティア・シュトロハイム」。俺は、君を奪うためにやってきた」
 被験体E-7。そう呼ばれていた少女が持っていた、かつての名前。それを口にしたとたん、少女――カーティアの瞳が、驚愕に見開かれた。
「……どうして、わたしのなまえを? あなた、誰なの?」
 餌を見つけ、首を伸ばす雛鳥を想わせるような動きで、疑問の答えをせがむカーティア。その様子を静かに眺めながら、セルジュは再び口を開く。


「俺はセルジュ・ローハウト。しがない傭兵だ」
 それが、数奇な運命の末に巡り合った、少年と少女の物語の始まりだった。


*********


というわけでこんちくわー、キャラクターの絵を最近よく書いているせいか、不思議とこういう物語の構想が浮かんでくるコネクトです。


さて突然ですが、コネクトさんは自分で完全オリジナルのキャラクターを作成するのが、趣味の一つとなっています。
しかし、キャラクターという物はイラストを描いて、設定を綴って、それだけで動くものではありません。それをふと思ったその時、コネクトの頭の中で一つの考えが浮かびました。
「動かないんなら自分で動かせばいいんじゃね?」と。
そうして、十何回と世界観のこまごまとした作新を行い、設定の改訂を行い、イラストの改良を行い、ようやく世に出ることとなったのが、この「護星(もりぼし)のオリヴィエ」でした。


本作が企画されたのは、さかのぼること丸一年半前。現在に連なるオリキャラ用世界観が、アリルフェイトに改訂される前の「レムリア」という世界に移り変わったころのお話です。
その当時の設定は、ナイツロードを大々的にパクった「たくさんの傭兵企業がしのぎを削る世界」というものであり、本作の主人公セルジュもまた、傭兵団フェンリルの一員でした。
で、その当時主人公とヒロインのお話を描きたいと思っていたコネクトが、ふと「セルジュにヒロイン宛がってやるか」と画策。そうした結果生まれたのが、本作のヒロインである囚われの少女カーティアでした。
そしてカーティアが生まれてほどなく、コネクトの脳内でものすごい勢いで物語が展開。現在に至るまで研鑽を続けた結果、冒頭の数話だけ設定が固まり、こうして世に出される作品と相成った、という経緯があります。
計画されてから物語として完成するまで、実に一年半。セルジュにもカーティアにも、本当に待たせてしまったものですw


続きまして、本作の主人公とヒロイン達の設定画をば。
せっかくなので、ストーリー計画当時と現在の絵を見比べてみましょうw

↓  ↓  ↓

まずはセルジュの設定画。といってもすでに改訂版のキャラ設定を投下しているので、知ってる方は知ってるかもしれませんね。
服装もそうですが、なんといっても一番の変更点は武器。昔ごく短い時期に担いでいた武器をリメイクし、片刃の大剣「オートクレール」として生まれ変わらせました。
これにより取り回しが不便になったので、これ以外にも多数武器が追加されています。詳しくはキャラ設定の記事へ(露骨なアクセス数稼ぎ



↓  ↓  ↓

続きましてはカーt誰だお前。……なんかBBBの時にも言った気がする。
というわけで、最新画稿になるにあたって、カーティアの容姿が大幅変化を遂げましたw
変わったのは見た目だけでなく、セルジュ同様武器も大幅変更。得体のしれないぶっとい鉈から、ハルバードとしての機能も有する魔術補助用の杖「クロスラム」へと変更。前衛から後衛へとポジションも変化して、囚われのヒロイン属性がついでに付与されました。
ちなみに、割とネットから参考画像を取ってくるコネクトには珍しく、カーティアの服はセルジュ共々完全オリジナル。密かにコネクトのお気に入りキャラ群へと昇格になりましたw


さて、ほぼほぼ自己満足である二人の紹介も終わりましたところで、ここに「護星のオリヴィエ」始動を宣言いたします!
傭兵として影の世界を静かに生きる青年と、囚われたモノとして生かされていた少女。この二人の出会いは、はたしてアリルフェイトに何をもたらすのか……ぜひ、読者の方の目で確かめてください。
それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ