コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

Blue Bright Blade―蒼の煌刃―

「……で、だ。出発したはいいが、どこに行くつもりだよ? オヤジさんの会社、何処にあるのか知ってるのか?」
 アレファの村を出た、その翌日。
 村から続く街道を歩くナギトが、隣で揺れる青い髪の持ち主に質問を投げかける。それを耳に入れて、デルタは小さくうなずいてから口を開いた。
「一応ね。小さいころ、ここが俺の会社の本社だー、って言って、カレストにある会社のビルを見せてもらったことがあるんだ。あの発言が間違ってないなら、今でも本社はカレストにあるはず」
 記憶が正確であり、かつ当時のオメガの発言が本当であれば、オメガが経営する会社である「アリーシア商社」の本社は、オルフェスト島の首都ともいえる大きな町――「コロニー」とも形容される大都市カレストに存在しているはず。そう言って小さく意気込むデルタに、隣を歩いていたレイが小さくうなずきかけた。
「頼るとすれば、そこしかないだろうな。……しかしそうなると、少々長旅になるな」
デルタの言うカレストは、アレファの村からは一週間ほどかかる場所に存在する。島と形容するには少々大きすぎるオルフェスト島をほぼ横断する形になるため、時間のかかるたびになることをレイは危惧していた。
「んじゃ、近くの村でいったん補給した方が良いかもしれないな。俺の知り合いが住んでる村が近くにあるから、そこに行けば色々貰えるはずだ」
 そんなレイの考えを感じ取ったのか、ナギトが指で道の先を示し、口を開く。彼曰く、その村の人間たちは皆人が良く、要求を突っぱねられるようなことは無いだろう、とのことらしい。
「できるなら、それが最善だ。まずはその村に寄ろう」
「そうだね。僕としては、ナギトの知り合いさんも見てみたいなぁ」
 得心した表情で頷くレイと、余裕のできたらしいのんびりした笑みでつぶやくデルタを、ナギトが先導して案内する。


 太陽が天を通り過ぎ、わずかに赤みを帯び始めたところで、緩やかな上り坂は途切れて、その眼下に見える小さな湖の横に、村のものと思しき簡素な防壁が見えるようになった。
「あれが、ナギトの知り合いがいる村?」
「おう。今も滞在してるかはわからねぇけど、村の連中とは何回かかかわり合ってるから、手を貸すくらいはしてくれるはずだぜ」
 村の規模を見てか、はたまた村のある場所を見てか、意外そうな顔をするデルタに、ナギトが頷きながら答える。全景がわずかに見渡せる程度の村は、遠目に見た限りでは、今のところ異常らしきものは見られなかった。
「じゃ、迷惑にならないためにもてっとり早くいかなきゃね」
「おうとも。あんまり滞在しすぎると、村の皆々様が窮屈だろうしな」
 そう言って、またゆったりと歩き始めようとした二人だったが、その歩みはレイの一声によって静止される。
「待て。……向こうの空、何か来るぞ」
「えっ?」
 デルタの口から疑問の声が漏れた直後、レイの指さした方向で見えていた、鳥のような小さな飛影が、風切り音を伴ってこちらへと飛来してきた。その特徴的な輪郭を、姿を見て、その場にいた三人が例外なく驚愕し、構えを取る。
「マシンドール……!」
「っち、オヤジさんの追っ手ってことかよ」
 空にとどまったまま、戦闘態勢を取ったデルタたちを上空から睥睨するのは、光の波動を放つ翼を持った、無機質な人型――マシンドールにほかならなかった。各々の得物を取り出しながら警戒を強める中、不意打ち気味の「声」が周囲に響き渡る。
「――――未だにわれらの主へと盾突くものが存在していたか。あの爪使いめが危惧する理由も理解できる」
「――ウソ、いま喋った?!」
 声の出所は、デルタたちが相対するマシンドール、その表情が存在しない作り物の仮面の奥からだった。そのまま、各々に驚愕を顔に表すデルタたちをあざ笑うかのように、人らしい動きを見せないまま、まるで人がしゃべっているかのように、マシンドールは言葉を紡ぎ続ける。
「何を驚く? われらが主の力をもってすれば、私のような存在を造り出すことなど造作もないこと。……その程度も推し測れぬとは、彼奴の懸念は大外れだったようだな」
 そうして嘲りを含んで語り続けていたマシンドールが、ふいに何かへと指示を出すようなそぶりを見せる。その動作とほぼ同じようなタイミングで、周囲に「ポータル」と呼ばれる、魔力を使用して物質を転送するための輝く魔方陣が、がいくつも現れた。中空で無数に放つそれを見て、レイが苦い表情を作る。
「ち、単独というわけではなかったらしいな」
 吐き捨てるような苦言に呼応するかのようにして、ポータルから無数のマシンドールたちがその姿を現した。その光景を見たデルタたちも、展開されたポータルは機械兵を送り込むためのものだと察知する。
「おうおう、こりゃまた随分御大層なお出迎えじゃないか。……そんなに俺たちを潰したいのかよ?」
 獣のような笑みを口元に湛えながら、ナギトの瞳が空に浮かぶマシンドールへと向いた。対する空のマシンドールは、特に気にするようなそぶりも見せないままで応答する。
「反乱の目は早急に摘み取る。それが、我らが主から課せられた、唯一にして絶対の目的だ」
「あぁそう、話すことは無いってか」
 だったら、とナギトが鎌を振るい、大見得を切ろうとする、その寸前。毅然とした表情を浮かべたデルタが一歩前に進み出て、よくとおる声できっぱりと宣言した。
「――なら、お前を倒す。そして、お前の主って人のこと、たっぷり聞きだす」
 言葉と共に、懐から取り出したキュアノエイデスを展開。開いた発振口から蒼天色に輝く魔力の刃を生み出し、淡い軌跡を生み出すその切っ先を突きつける。その光景を見たマシンドールが、笑うようなしぐさをデルタに見せた。
「……っふ、あくまで我らと我らが主に楯突く気か」


「面白い。ならばこの魔動兵四天王が一人「フェズ」が、貴様らの相手をしてやろうぞ」
 高らかに宣言したマシンドール、ことフェズと名乗ったそれは、言葉を切ると同時に量の手を大きく広げ、その手のひらに魔力を収束させ始める。プラズマの爆ぜる音を聞いて、レイが、ナギトが、デルタが、それぞれ回避の構えを取った直後、フェズがまるで嗤うようなそぶりを見せた。
「――散るがいい」
 フェズの言葉に呼応して、集束していた魔力の電撃が、まるで首をもたげた龍のごとく、唸りを上げて襲い掛かってくる。
 ナギトはステップを駆使して回避。レイは自らが行使できる炎を生み出して相殺。その光景を横目にとらえつつ、デルタは両腕に巻いた護身用の魔動戦機――魔力を実体化させ、盾を生み出すための魔動盾「グレンツェンシルト」を使って防御した。直後、三人めがけてフェズ傘下の機械兵が、一斉にとびかかってくる。


「その程度で!」
 襲い来る機械兵たちのもつ、殺傷を第一とした鋭利な刃の数々。それを目の前にして、しかしレイという女性は毅然とした表情を崩さないまま、腰に吊っていた鞘から、陽光を反射して輝くほどに磨き上げられた、彼女自慢の一振りの剣を、音高く抜き放った。
 レイ・セーバロックアレファの村に居つくよりも前、彼女が世界をまたに駆ける旅人だったころの通り名は「炎の女剣豪」。
 アレファの村に流れ着き、用心棒として活動するようになってから、彼女の剣技は瞬く間に村人たちの間を席巻した。ある時は人々を脅威から守るため、ある時は村の木材を集めるため、ある時は石のように硬いものを解体するため、レイの剣は大いに振るわれる。
「――シッ!!」
 そしてその剣は今、知り合った人々に悲しみを運ばないために、その切っ先から鋼色の軌跡を生み出した。一閃によって生み出された破断の刃は、寸分の狂いもなく機械兵たちの胴を捉え、そこから上を中空へと吹き飛ばす。
「まずは、3体」
 低い声で、レイがカウントを口にした。同時に、再び切っ先が閃いて、頽れた機械兵たちの背後から飛び出してきた別の群れた機械兵を、今度は二撃を以て三つに解体して見せたレイは、柔らかくも凛とした印象を抱かせる赤い双眸を、無尽蔵に湧き続ける無数の魔術方陣へと向けた。
(あれを壊さない限り、私たちに休む暇はないか)
 そう考えたレイは、呼吸のために薄く開けていた口を、真一文字に引き結ぶ。次いで、切り裂くために振るわれていた鋼の切っ先が、ゆるりと地面と平行になるように持ち上げられた。
「ならば、確実にカタを付ける」
 すっと細められた眼は、機械兵を吐き出し続ける魔術方陣へとまっすぐ向けられる。切っ先が狂いなく陣を突き刺したことを確認して、レイは小さくも鋭くつぶやいた。
「――燃え、堕ちろ!!」
 レイの言葉に反応して、火の粉が爆ぜる音と共に空気が焦げる。同時に、レイの掲げた剣の切っ先からは――まるで圧縮された赤が洪水を形成するかの如く、周囲一帯を軽く飲み込めるほどの炎が吹き荒れた。
 彼女の持つ「炎の女剣豪」という肩書は、彼女と言う剣士の持つ特異性を如実に表している。すなわち、炎と剣を同時に扱うということだ。
 そして、レイの持つ炎の力は、常人でも使える魔術と言う技術から生み出されたものではない。彼女の身に宿っている力は、彼女だけのものとして、自他ともに認知していた。
 固有進化魔術「華炎輪舞(イグナイトロンド)」。万物を焦がす灼熱を以て、レイをレイたらしめる、火炎の異能。そこから放たれる烈火は、到底常識の範疇で抗えるものではないのだ。
「……さすがに、あっけないな」
 レイの目の前で、魔力によって構成されていたはずのポータルが、近くにたむろしていた機械兵共々、灰となって燃え落ちる。その光景を見て、レイはわずかな嗜虐性を孕む、静かな笑みを浮かべた。


「どらあぁぁっ!!」
 ナギトの雄叫びを鋭利な鋼色に変えて、彼の得物である双刃の大鎌「デュアルサイス」は、ナギトの掌中で暴風となる。
 かつて持っていた名を捨て、今の名へと姿を変えたナギトの得意技は、自らの技と力を総動員しての突破戦法だ。双刃鎌であるデュアルサイスの分離機構を活かして、時には大鎌として、時には双鎌として振るって戦う。
 舞牙ナギトと言う人間に、策という物は必要ない。彼の持つ腕力とデュアルサイスの機能を以てすれば、この程度の敵に策など弄する必要もないのだ。
「どけどけどけぇッ!」
 変幻自在に姿を変える双刃鎌とナギトは、全てを一つに変えて人の姿を象った暴風と成る。破壊を象徴する巨大な嵐を前にして、機械兵に取れる手段など無いに等しかった。
 ただ、立ちふさがったものが、スクラップへと成り果てていく。その光景を視界の端に抑えながら、ナギトは不意に一体の機械兵を踏み台にして、高く跳躍する。
「面倒くせぇのは、嫌いなんでな」
 いつの間にか双刃形態で固定されていたデュアルサイスが、ナギトの掌中で再び嵐に変わった。琥珀色の瞳が見据えるのは、機械兵を生み出し続ける魔術方陣ただ一つ。
「一気に決めるぜ――「コメットブーメラン」!!」
 魔力を帯びて輝きの色を変えた自らの得物を、ナギトは空中で振りかぶってから勢い良く打ち放った。
 コメット。意味は彗星。夜空を駆け抜ける、光り輝く流れ星のことだ。その名の意味が示す通り、ナギトの得物たるデュアルサイスは、超高速で回転しながら魔力を孕んんで輝き始め、中空を飛翔する彗星と成る。
 阻むものが存在しない空間を切り裂いた人工の彗星は、ナギトの狙いと寸分たがわない場所を――ポータルのど真ん中を縦一文字に切り裂いた。そのまま弧を描いて軌道を変えた直後、彗星は最初の軌跡を断ち切るように、魔術方陣を再び切り裂く。
 四等分され、ポータルが力を失った直後、陣を作っていた魔力と空間中の魔力が反応を起こし、色濃い爆発を引き起こした。その光景を見て、ナギトが腕を組んで納得した表情を見せる。
「へっ、俺の技に敵なしって奴だ」
 鼻の下を指で軽くはじいた直後、飛翔を終えたデュアルサイスが、魔力の粒子を舞い散らせながら、ナギトの足元に音高く突き立った。
  



 デルタめがけてフェズ傘下の機械兵が複数、とびかかってくる。それを見て、しかしデルタはひるまずに、腹の底から声を上げた。
 「負けないッ!」
 レイとナギトもまた、別の機械兵たちに襲われて足止めを食っているらしい。だが、自分とてアレファの村を守る自警団の端くれだった。切り抜ける自信はあると、全身に気合を漲らせる。
 蒼い軌跡を生み出すその刀身は、魔力で形成された実体の刃ゆえに、刃こぼれして切れ味が鈍ることは無い。持ち主たるデルタの意思に従って、立ちふさがるものを叩き切っていく。それが、デルタの携える魔動戦機「キュアノエイデス」の特性だ。
 それは、デルタの眼前に現れた機械兵たちも例外ではない。曇りなき一太刀を受けた機械兵たちは、みな平等にその体躯を真っ二つに分けられ、反応を起こした魔力によって爆散していった。
「はあぁぁぁぁっ!」
 再び襲い掛かってきた別の機械兵に肉薄しつつ、デルタは雄たけびをあげながらキュアノエイデスを振りかぶる。抵抗しなければ破壊されることを察知してか、機械兵たちが魔術を行使し、対物理用の障壁を張ろうとしたが、その行動は一歩遅かった。横一文字に振るわれたキュアノエイデスの軌跡が、機械兵たちの胴体を纏めて捉え、一瞬で切断したのである。
 連鎖する魔力爆発の嵐に全身をあおられながら、しかしデルタは未だ剣呑な目つきをやめないでいた。身を翻してにらみつけた先には、司令塔たるフェズ。
「こんな、人の悲しむ魔動機が、父さんの魔動機なわけが――父さんの好きな魔動機なわけないッ!」
 オメガ・アリーシアと言う人間は、魔動機に目のない男だ。それは、本人の血を引いているデルタ自身が、一番よく知っている。
 元々、オメガが会社を設立したのは、自分の生み出した魔動機を使って、人々の生活をより豊かにしたい、という、趣味を公示させた結果生まれた理由が大きい。
 つまり、オメガとは仕事の前に、趣味に生きる人間でもある。むろん家族は何より大事にする良き父親だったため、デルタは悪い感情を抱くことは無かった。
 そんなオメガが手掛けていた商品は、いずれも例外なく人の生活を豊かにするという観点を第一にして開発された、人間のサポートに特化したもの。デルタの持つキュアノエイデスをはじめとして、危険から身を守る魔動戦機も開発しているが、いずれも例外なく、人を悲しませる物ではなかった。
 むろん、使用する人間によって、魔動機や魔動戦機は表情を変える。それを防ごうと尽力しているのも、デルタは知っているのだ。
 世間一般で言う親バカの部類に入り、デルタもまた好いていた良き父親。だからこそ、オルフェスト島に住まう人々の命を奪ったという行為を、デルタは信じられないのだ。
 何か、裏がある。その裏を突き止めるためには、まずこの状況を切り抜ける必要があった。一泊の自問自答を挟んだ後、デルタは再び表情を引き締める。
「だから、聞かせてもらう――お前の持ち主のこと!!」
「む――」
 助走をつけてからの、大上段へ向けた跳躍。わずかに低空へと降りていたフェズにとって、それは明確な不意打ちとなった。
 瞬間、上空で火花が爆ぜる。フェズの振るった腕が魔力の障壁を展開して、キュアノエイデスの刃を危いところで受け止めていたのだ。
「くっ……!」
「フフフ、見事よ。私相手にここまで刃を寄せるか」
 そのまま、魔動機ゆえの際限ない腕力を以て、デルタとキュアノエイデスがふり払われる。
「ぐ、ぅっ」
「しかし、何者が来ようと我が前では所詮烏合の衆。その高出力な魔動戦機とて、我が前には――」
 フェズの背中から生えていた機械の翼。その先端に、魔力が高速で集まって、一つの灯となった。
「ただのガラクタに過ぎぬ!!」
 瞬間、キュゴッ! という圧縮された何かが解き放たれるような音を立てて、両翼に集まっていた魔力の燐光が、無数のレーザーとなってデルタへと殺到する。
 一発一発が、直撃すれば痛いなどでは済まされない威力を持っていることが、デルタの目にもわかった。それを無数に受けてしまえば、まず命はない。そのことをよく理解して、しかしデルタは表情を凍り付かせたまま、動かなかった。
「っ、デルタ!」
 機械兵たちと剣を打ち合わせていたレイが、その光景を見とめて思わず名を叫ぶ。しかし、何度も聞いてきたその声を耳にしてなお、デルタは動かない。
 やがて、飛来した無数のレーザーは、そのすべてがデルタの左胸を捉えて――



「……ち、厄介な」
 直後、フェズの視界を司るパーツの中に映り込んだのは、身じろぎのひとつもしないまま、眼前に出現した謎の蒼い障壁と、腕輪から放出された魔力の燐光で生成された白銀色の障壁。二重の障壁によって、レーザーの全てをあらぬ方向へと逸らし、無傷のままでたたずむデルタだった。
「――やっぱり、いいや」
「む?」
 そうして、完全に晴れた爆煙の向こう、二重の障壁でレーザーを防ぎ切ったデルタが、目元を陰らせつつ小さくつぶやく。一語一句を逃さず聞き取ったフェズの口に相当する部分が、訝しむ声を上げる。
「もう、お前に何かを聞く必要はない。そう、わかった」
 デルタの手が、キュアノエイデスを強く握りしめたかと思うと――次の瞬間には、敢然とした表情を揺るがせないまま、フェズへ向けて高く跳躍した。
「ぬぅっ……!?」
 今度は、フェズの反応が遅れる。放たれた矢の如く、鋭く低く飛び出したデルタの一閃を受け止めそこない、フェズの右腕が浅く切り裂かれた。
「この際だから、はっきり言っとく」
「ぐぉっ!?」
 続いて、袈裟懸けに振り下ろされた蒼い軌跡が、今度はフェズの片翼を根元から叩き切る。浮力を司っていたらしきフェズの羽が損傷を受けたことにより、一気に空中での安定を欠いたフェズが、きりもみ回転しながら降下。最終的に、硬質な音を立ててフェズは地面に激突した。
「ぬ、ぐぅッ、貴様――!」
 そこで、フェズは絶句する。
 彼――機械兵たるフェズの記憶を司る領域には、人は魔動機の支援なしでは飛べないものと記憶されている。そのアドバンテージを最大限生かすため、フェズの背中には攻撃用の武装であり、飛行を成すための浮力発生器である、一対の翼が備わっていたのだ。
 しかし、今この瞬間、フェズの中にある記憶、それを前提として構築されていた戦術は、全て覆される。理由は、単純。


「僕は、お前の設計者の――オメガ・アリーシアの息子だ!」
 烈火の如き怒気を孕む瞳で、フェズを睨む蒼い髪の少年。その、ともすれば男にしては小さめな体躯が、重力のしがらみなど無いかの如く、静止したまま中空に浮いていたのだ。
「何故だ……何故、人間が!」
 記憶領域に記されていない現象とはつまり、フェズの考えの、常識の及ばない現象。それを自らの目に焼き付けたフェズが、思考することを許された自らの知能を以て疑問を浮かび上がらせる。しかし、その疑問に答えという光がもたらされることは無かった。代わりに降り注いだのは、急降下で突っ込んできたデルタの、キュアノエイデスの、容赦ない鋭利な刺突。
「ぐ、が――」
「そしてこの武器は、オメガが、父さんが造った!」
 機関部を穿つ、蒼い刃の一撃。それを情報として知覚したフェズは、自らの体に小さな爆発が起き始めている理由に納得して、目の前にあった蒼い髪の少年を見上げる。
「父さんの技術の結晶を――ガラクタ扱いするな」
 フェズという人工の人格が霧散するとき。視界に映った瞳は、渦巻く怒りを体現していた。


***


「デルタ、怪我はねぇか?!」
 フェズが破壊され、魔力反応によって引き起こされた爆発。それに気づいたナギトがデルタへと駆け寄ると、蒼い髪の少年はただ静かにたたずんでいるだけだった。
 ナギトの声に気が付いたデルタは、駆け寄ってくる彼の方に顔を向ける。その表情は、一言で言い表すことができない複雑な色を見せていた。
「……どうした?」
 同様に、自らの相手取っていた機械兵をほぼ全滅させて戻ってきたレイが、その複雑な顔に気付いて疑問を浮かべる。
「ううん、何でも。……ただ」
「ただ?」
「こんな、かわいそうな魔動機たちが造られる前に、父さんを止めなきゃって思っただけ」
 デルタもまた、父親であるオメガに似て、魔動機関連の技術には明るい。それゆえ、魔動機などの機械に対しては、大小の差はあれど一定の愛着を持っていた。
 ゆえに、デルタは複雑な表情を崩さない。無為無暗に作られ、人に憎まれるだけに作られた機械たちに、わずかながら情を抱いているのだ。
「そのためには、ちゃんと進まなければな」
「わかってるよ。……可哀想な役目だと思うけど、だからってそれを見過ごしていいなんてことは絶対にない」
 レイの言葉に、デルタは複雑な面持ちから破顔し、少し照れたように微笑む。そして再び、使命感と義務感に燃える瞳で、空の向こうを見つめた。
「んじゃ、次の奴らが来ないうちにさっさと行こうぜ。疲れを取って、ネガティブな考えもブッ飛ばそうぜ」
「うん」
「ああ」
 ナギトの屈託ない笑みに賛同して、デルタたちはスクラップの残る街道を再び歩き始めた。


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と言うわけでどうもこんにちはー、コネクトにございまっす。
最近デルタの設定を改訂しまくったせいか創作意欲(対象:BBBのみ)が掻き立てられてしまい、久しぶりに手を付けた結果何とか完成と相成った次第にございます。


さて、今回のBBB二話は、前回目立った活躍のなかったレイを中心に、三人それぞれの戦闘をちょっぴり濃くして描いてみました。と言っても実は手抜き満載なんで、ちょっと物足りないという意見が多いかもしれませんね。だったら最初から手を抜くなと言う話ですけどw
今回のお話で出てきた敵キャラクター「フェズ」には元ネタが存在しておりまして、さかのぼることうごメモ時代の剣物語の棒バトメモで、敵キャラクターとして出演していた白黒の棒人間がキャラクターの元になっております。昔と同じイメージで作成したので、当時の棒バトを知っている方ならもしかしたらニヤリとできるかもしれませんねw
で、今回剣物語をBBBとしてリメイクする際、敵勢力の設定も剣物語時代と同じく機械の兵隊で固まっていたので、せっかくなので使ってやろうと考えて、今回の採用と相成りました。激おこデルタ君にボコられましたが。


今回で初めて本格的な戦闘を行ったレイ、ナギトですが、二人の戦闘に関する設定も大まかには変わってません。レイはブレイド時代と同じく剣と炎、ナギトはヤイバ時代と同じく双刃鎌での格闘戦をしてもらいました。
個人的にですが、二人はストーリーメモのレギュラーを張ってもらっていただけあって、コネクトにとっても非常に印象に残ったキャラクターとなっています。棒バトにも参戦してもらっていた故、その時の自分のイメージをそのまま文章に反映しました。
もっとも、棒バトと小説だと戦闘の描写の仕方にかなり違いがあります故、その辺に関してはだいぶアレンジしていますw


さて、次回はゲストキャラクターとして、昔作ってずっと放置されてた不遇キャラクター、こと「ニュー・ベルシャング」が登場します。
大所帯になると書きにくくなるためレギュラーには入りませんが、活躍してもらうつもりです。出来なかったら…まぁその時はその時で(殴


それでは今回はこのあたりで。
またあいませうー ノシ