コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

Blue Bright Blade―蒼の煌刃―

episode1 始まり


「――だから滅ぼすのか。この世界を、お前は!」
 どこか。「彼」の知っている場所と違う、見知らぬどこか。そこで彼は、彼と違う声音で、目の前のヒトガタへと叫んでいた。
 目の前で悠然と宙に浮かび、巨大な二対四枚の純白の翼を広げるその姿を人が見れば、それを例外なくこう形容するだろう。――「女神」と。
「貴方と話すことなどありませんよ、――――。あなたとて所詮、あの腐った人間風情と変わらない。そんな人間など、滅ぼしてしまえばいいのです」
 翼を携えた女性は笑みこそ浮かべているが、その表情はまるで面を張り付けたかのように無感情なもの。そんな顔とは裏腹に、その口ぶりには溢れんばかりの憎悪がたぎっていた。
「違う! 僕は今でもお前のことを愛してる、その気持ちはずっと、ずっと変わらない!」
「この期に及んで、まだ世迷言を口にしますか。――やはり貴方も人も、腐っている生き物はすべて、滅ぼさなければならない!」
 ばさり、と二対四枚の翼が、大きくはためいて純白の羽根を舞い散らせる。まるで新雪のようにゆらりと世界を支配するその光景の只中で、彼はきつく歯噛みしてうつむく。しかしその瞳からこぼれない輝きは、彼の表情がしかと引き締まっていることを示していた。
「――何とでも言ってくれて構わないさ」
 そのまま、彼は背負った鞘から、青く光る刀身を持った剣を音高く引き抜く。薄闇をまばゆく切り裂く輝きを携えたそれを構えながら、彼は陰っていた顔を――決意に満ちた顔を、女神と世界の元へとさらけ出した。


「けど……僕は、必ず君を救って見せる。君を支配するその心の憎しみから、ティアナ――君を!!」


***


「――ん〜……」
 窓から差し込んでくる、朝を告げる柔らかな日差し。まともに顔面を照らしたそれに反応して、「彼」は深い眠りの中から意識を浮上させた。
 どうやら、不思議な夢を見ていたらしい。頭の片隅に残る、掻き消えてしまった夢の残滓にいくらかの思いをはせつつ、寝ボケた思考で顔を照らす日差しを確認すると、彼は非常に――それこそ樹上のナマケモノの如き緩慢さで、のっそりとベッドの上で起き上がる。
 ゆるゆるとした動作で枕元の時計を確認し、いつもの起床時間だということを認識すると、彼は静かに起き上がって、力いっぱいに伸びをした。昨夜纏め忘れていた青い長髪が好き放題に背中で暴走するのも構わず、彼はそのまま身支度を整え始める。


 5分もあれば、彼は身支度を終えた。
 普段からよく着まわしている、黒地に大きく入った白のラインに、襟と袖を覆うファーが特徴的なジャケットと、汚れの少ない丸首のTシャツ。サンドイエローのカーゴパンツと鋼色のスニーカーが、いつもの彼の服装である。背中からは寝癖も直し、ヘアゴムでひとまとめにしたアイスブルーの長髪が、彼の動作に合わせてまるで尻尾のように揺れていた。
「ん、よしと」
 完全に眠気を身体の中から追い出した彼が、姿見の前で全身を確認してから、頷いて納得のそぶりを見せる。それからくるりと踵を返し、自宅のメインスペースでもある店舗部分へと顔を出した。
 時間帯もあり、特に来客も訪れていないそこを足早に通り抜けて、彼は店にもなっている家を飛び出す。
「ん、おぉデルタ、おはようさん」
「あ、おはようございます!」
 向かいの家の前で元気よく準備体操を行っていた男性が、豪胆そうな顔つきそのままの挨拶を交わすと、彼――デルタ・アリーシアは、にこやかにそれに応じた。
「もう開店かい? 毎日のことだが、ご苦労さんだよなぁ」
「自慢じゃないけど、「魔動機(まどうき)」を直せる知識を持ってても、そのための設備を持ってるのは、この村で僕だけですからね。いきなり壊れちゃって困ってる、って人もいると思いますし、早くから開けるに越したことはありませんよ」
 そうにこやかにほほ笑みつつも、デルタの意識は別の方向に向いていた。向かいの家同士と言う間柄故、彼の考えることにも聡い男性が、少し意地の悪い表情でからかってくる。
「そう言いつつ、お前さんはいつも通りに「アレ」の調整かい?」
「あ、やっぱりバレちゃいます?」
 的確に的を射た推理を突きつけられて、思わずデルタは照れ交じりの苦笑をもらした。
「そりゃ、始めて自分で作り上げる「魔動戦機(まどうせんき)」ですからね。気合だって入るってもんです」
「気持ちは分かるが、無理しすぎるなよ。お前さんが居ないと困る人間もいるって、自分で言ってるんだからな」
「善処します」
 そのまま笑いあいつつ、男性が自分の家へと戻っていくのを見て、デルタもまたくるりと身を翻し、家の扉にかけていた札を「SLEEP」から「OPEN」にひっくり返すと、すぐに家の中へと戻っていく。
 デルタが戻った店舗スペース、その奥にある簡易カウンターのさらに奥にある作業スペースに放置してあった「それ」を見て、デルタは少年らしい純真さを持つ、にへらとした笑みを浮かべた。
「――いよいよ今日、完成だ。待っててね」
 彼が話しかけたのは、剣の柄を模して造られたような、小さな機械だった。


***

 アリルフェイト。この世界に住み、この世界に生き、この世界に存在する人々は、己が足が踏みしめる世界のことを、そう呼んでいる。
 三つの大陸と大小さまざまな島、そして広大な海洋で構成されるこの世界には、万能物質としても認知される超自然エネルギー――通称「魔力」が存在している。
 人々は魔力を操り、時に人の身を超える力を発揮し、時に自然現象を誘発させ、そして時に魔力をエネルギーとして、自らの文明を少しづつ、力強く、発展させてきた。
 

 ある日、世界は一つの大転換期を迎える。
 超自然エネルギーである「魔力」を動力源として駆動する、新機軸の機械技術――通称「魔動機」と、それを作成するための「魔動機工学」の登場によって、世界でゆっくりと普及し始めていた科学技術は、爆発的な普及を見せたのだ。
 それまでの内燃機関よりもはるかに高い効率を持ち、なおかつ燃料も世界中に溢れる魔力で賄える、という長所を以て、魔動機は既存の科学技術を瞬く間に世界から駆逐。わずか一年余りで魔動機は世界の科学技術の主役となり、それまでとそれからを明確に分かつ、決定的な大革新を引き起こすこととなった――。


 そうして、魔動機の登場とそれに付随する一連の出来事が、「魔動機革命」という歴史上の出来事の一つとして数えられるようになったころ。
 凶暴な進化生命体「アクリス」との生存競争を繰り広げる傍ら、長きにわたる平穏を享受していたアリルフェイトに、静かな闇が襲い掛かろうとしていた……。

***


「……よし、オッケーです。また壊れちゃったら、持ってきてくださいね」
 ちょうど昼に差し掛かろうかという、陽も昇りきった時間帯。
 部品を固定するためのボルトを締め直し、完全に元の形に戻した照明――棚や机の上に置く、ランタンの様なタイプのものを、デルタはやって来ていた男性に手渡す。手中の照明は修繕跡こそ残っているが、失っていた本来の機能をしっかりと取り戻している。それを見て、男性は関心と感謝を含んだ笑みを浮かべた。
「やー、悪いなデルタ。ウチのガキがやんちゃなもんだから、しょっちゅう照明がすっ転げ落ちるんだよ。お前さんが居ないと、幾らふいにするかわかったもんじゃあねぇ」
「仕方ないですよ、子供って元気なものですから。一応壊れにくい素材で修理はしたんで、まだ長持ちはすると思いますけど……くれぐれも落とさないように注意してくださいね」
 受付を兼ねるカウンターに腕をつき、そこに体重を預けながらにこやかに笑って見せると、客であった男性もまた笑いを見せて、笑顔のままで帰って行く。それを見届けてから、デルタは一息ついて作業スペースへと向かった。
「よし、最終調整は済んだし、いよいよだ」
 気合を入れて機材などをいじり始めたデルタの耳に、今度はノックと共に聞きなれた声が二つ届く。
「デルタ、入るぞ」
「うーっす、デルタはいるかー」
「あ、レイ姉にナギ兄。今ちょっと用事中だから、奥まで来てくれないかなー?」
 聞こえてきた声は、若い女性と成人男性のもの。声の主を知っているデルタは、特に何か特別なそぶりは見せないまま、声だけで入室を促した。少しすれば、よどみのない動作で押し入ってきた二人が、作業スペースに姿を現す。
「邪魔するぞ、デルタ」
 先に入ってきたのは、デルタと同じような一本結びの黒い髪と、燃え盛る炎を閉じ込めたような真紅の瞳がひときわ目を引く女性だった。纏っている外套――「魔術」と呼ばれる特殊な技法による攻撃を防ぐための特殊加工を施した、防塵用の黒マントをはためかせ、腰に吊り下げる形で剣を携えるそのいでたちは、凛とした顔つきも相まって、風来坊の女剣士、といった風情を見せている。
 彼女の名は「レイ・セーバロック」。デルタの姉貴分といった立場の女性であり、また彼が独学で学ぶ剣術の師でもあった。
「おぃーす、相変わらず機械オタクやってるなぁ」
 女性に続いて入ってきたのは、雑に手入れされた白に近い硬質な銀髪と、好奇心と燻る闘志を抱く、琥珀色の瞳を持つ男性。ノースリーブのパーカーに組み合わせたTシャツと、垂らしたサスペンダーの様な布紐の装飾が、彼の活動的なスタイルを象徴していた。
 彼は「舞牙(まいが)ナギト」。レイが姉で師の立場なら、ナギトはデルタの兄貴分であり、年こそ少し離れてこそいるが、その関係は親友と呼んでも差支えない物だった。
「まぁ、それが僕だからね。……ところで、わざわざ訪ねてきたってことは、何か用事でもあるの?」
 ナギトからのイジリ攻撃を軽くスルーして、デルタは二人に問いかける。察しのいいデルタの様子を見て、レイは単刀直入に、ここに来た本題を切り出すことにした。
「デルタ、昼からは空いているか?」
「え? うん、空いてるけど……もしかしてアクリスが?」
 アクリスと言うのは、この世界――こと、アリルフェイトの各地で出没する、凶暴な生命体のことである。
 この世界に存在している超自然的エネルギーである「魔力」の力を過剰に浴びた結果、通常の野生動物が突然変異を起こすことで誕生する――と言うのが、ここ最近のアクリス専門学者たちの通説らしい。
 ほぼすべてのアクリスに通ずる共通点として、同じ魔力をその身に宿す生き物を餌と認識し、特に多量の魔力を有している生物である人間を積極的に襲う、という習性がある。それゆえアクリスは人間の敵として認識され、人間たちはアクリスから身を守るため、日々戦いと研鑽を続けているのだ。
「目撃したって人間がいたんだとさ。多分、見つかるまではパトロールが中心になると思うが……どうだ、お前も来るか?」
 レイとナギトは、そんなアクリスを討伐し、デルタたちの住む山奥の農村「アレファの村」をアクリスから守るために雇われている、いわば用心棒を生業としている。そこに本来ならば誘われるはずのないデルタが誘われているのは、彼がレイという師の元、戦うための力を身に着けているからだ。
 もともと、デルタは機械工学を専門とするエンジニア――彼の実父と同じ職に就くことを志していた。しかし、レイやナギトと親しくなり、幾度かのアクリスとの戦いを経てからは、自分も同じように戦い、人を助ける戦士になりたい、とも考えるようになったのである。
「うん、ぜひとも行かせてもらうよ。……その前に、コイツをちゃちゃっと完成させないと」
「お、もう出来るのか」
 再びのぞき込んできたナギトに会釈をしてから、デルタは手に取った試作の魔動機――戦闘の際に扱う武器として設計された戦闘用魔動機、通称「魔動戦機(まどうせんき)」を手に持ち、隣に設置してあった大型の機械から伸びたコードをいくつかつなぎ合わせる。
「それは、やはり剣なのか?」
「うん、これは剣型の魔動戦機。形式としては魔力で形作った刀身を持つタイプ……「アーツブレイド」ってのに近いんだけど、あっちとは違ってこれは充電要らずなんだ。だから充電用の鞘も要らなくて、コンパクトだけど継戦能力が抜群なんだよ」
 わがことのように自慢げな解説を口にしながら、デルタは機械を起動させた。しばらく騒音を立てていた機械が停止すると、デルタは得心した表情で一つ、満足げに頷く。
「これで――完成っと!」
 同時に、デルタが何もない空間めがけて試作の魔動戦機を振るうと、先端部分が二つに分かれる形で開き、その中から魔力の塊が放出。一瞬で両刃の刀身を形成し、瞬きの間に蒼い魔力の刀身を持つ片手長剣へと変貌した。
「おぉ」と重なった二人の声を得意げに受け止めつつ、デルタは意気揚々、といった風情で説明を始める。
「この剣……便宜上〈新型魔動剣〉って呼ぶけど、コレは〈高純度魔晶石〉っていう新型の動力をを試験的に搭載した、僕謹製の最新型魔動剣なんだ。これまでの魔動剣は、高出力のものでもせいぜいが大岩に傷をつけられるくらいだったけど、この子は違う」
「岩を切れる時点でも大したものだと思うがなー」
「まあ、それが魔動剣の強みだからね。……でも、この子は総合的な出力が飛躍的に上昇したおかげで、これまでの魔動剣とは一味違う性能を発揮できるようになったんだ」
 ふふん、と得意げに胸を張るデルタだったが、直後にがっくりと肩を落としてしょぼくれた表情になる。
「……完成まで二年もかかっちゃったのは、流石に誤算だったけどねー。何本か量産して自警団の人たちに持ってもらおうと思ってるんだけど、もっと安価で性能のいい魔動戦機が出回ってるんじゃないかって思うと、ちょっと不安だな」
「だが、その剣はデルタが自分で一から理論を考え、設計図を書いて、お前の手で組み上げて完成させたものだろう? なら、それを誇るべきだ」
「そう言ってくれると助かるよ、レイ姉」
 困り顔で笑うデルタが感謝の意を告げるその傍らで、ナギトが顎をさすりながら、わざとらしく浮かべた挑発的な笑みと共に試すような目を向けていた。
「しっかし、いくらメカオタのデルタが自分で作ったっつっても、所詮は素人の作品だろー? 本当に仕様通りの性能が出せるのかねぇー?」
「む、言ったね? 長きにわたる僕の研鑽は伊達じゃないよ! 本気を出せば、カタログスペックなんてどーんと飛び越えちゃうんだから!」
 対するデルタもまた、挑戦的な強気の笑みを浮かべつつ、腰に手を当てて堂々と宣言する。直後、レイの方に顔を向けて再び強い笑みを見せた。
「ねぇレイ姉、アクリスはどのあたりに出たの? さっそくこの子でやっつけて、この子の高性能っぷりを見せてあげるよ!」
「早とちりは失敗の元だぞ、デルタ。……まぁ、時間もいい頃合いだ。ナギト、そろそろ行くぞ」
「おうともさ。デルタ、40秒で支度しろ!」
「りょーかい!」
 すちゃっと敬礼のポーズを決め、準備のために奥へと引っ込んだデルタが、自室である家の奥から飛び出してきたのは、それからきっかり40秒が経った頃だった。


*********


 と言うわけで、ブログでは半年ぶりにこんにちはー、コネクトにございますー。
 最近は表に出る機会もめっきり減ってしまい、自分の中だけで創作を完結させてしまうことも多々ありましたが、御覧の通り私は健在でございます。


 さて、今回は久しぶりの更新として、新たに書き上げましたBlue Bright Bladeの第一話を投下させていただきました。
 前回投下したBBB第一話との大きな相違点として、今回のお話は「旧一話に相当する物語へとつながるプロローグ」として描いております。なので、文章から起こった出来事までまるっと差し替えです。
 どうしてこんなことをしでかしたのかと言いますと、「BBB自体のリメイク」と「不十分だった物語や世界観設定の説明」を行うという、二つの目的があります。
 前者はそのまま、本作を新たに作成し直すことが目的。後者もまた文字通り、旧一話では唐突だった物語への入りを丁寧にすることで、より読者に没入感を持ってもらおう、という狙いがありました。
 旧一話の更新を停止したのち、コネクトの中で「あのままの物語でいいのか?」という葛藤が発生。色々な作品に触れてみて、改めてもう少しひねりが欲しいなぁと感じたのが、今回のリメイクの大きな理由です。


 と言うわけで、此処にBBBリメイク始動を宣言して、今回は終わりとさせていただきます。
 新たな物語が紡がれる中、主人公デルタは何を成すのか、ご期待くださいませ!
 またあいませうー ノシ