コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

ナイツロード/B

 そこは、周囲を人の手の身で破ることが叶わないほど、強靭な合金を以て生み出された、閉鎖された空間。さえぎる物も何もない、ただそこに広がっているだけの空間だ。
 巨大な円柱をそのまま一つの部屋としたような、そんな広大な空間。そのど真ん中で、彼は一言だけ、呟いた。
「――強い」
 黒曜石のように煌めく瞳が、今は疲労と畏怖の光でぬれている。口をついて出た言葉が虚空に消えるころ、彼の目の前に立つ人影が、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「さあ、あなたの力をもっと見せてください」
 長い黒髪にさえぎられ、その光を見ることさえかなわない不気味で、しかし絶対的な強者の眼光に貫かれて、彼は小さく身を震わせる。
 怯えたわけでは無い。彼と、丁寧な口調で話す黒い髪の男がやっていることは、ただの模擬戦なのだ。
 だから、彼の身を貫いたのは、絶対存在と戦えるという、ある種の武者震い。同じ場に立ち、刃を交えることができることを、彼は今光栄に感じていた。
「本気で、行きます!」
「ええ、存分に打ちかかって来てください――「デルタ・アリーシア」くん」
 徒手空拳の構えを、不敵な笑みを、穏やかな物腰を崩さず、ただ静かに自らの名前を呼んだ男。そんな絶対存在に向けて、彼――デルタは、携えた蒼い剣と共に再び打ちかかった。


 彼、デルタ・アリーシアと、彼が戦っている男――「レッドリガ」と名乗る男性。彼ら二人が模擬戦を行っているのは、訳がある。
 デルタはもともと、「アリルフェイト」という名を持つ世界において、ある目的のために戦っていた少年だった。
 仲間と共に方々を回り、襲い来る敵を打ち倒し、そうしてようやくたどり着き、相対した者の野望を、デルタは頓挫させたのである。
 そして、その裏に潜んでいた闇は、不意に異世界へとつながる時空の穴を生み出し、そこへと飛び込んでいった。その光景を見たデルタは、胸に抱いた考え――このまま闇を放置すれば、時空の先にある世界にたくさんの悲劇が降りかかるかもしれない、という考えの元、彼は仲間と肉親に別れを告げ、新たに志を共にする者たちと共に、時空の彼方へと旅立ったのである。


 そうしてたどり着いたのが、今デルタが踏みしめている大地を擁する世界――「ユースティア」という名を冠する、未知なる広大な世界。
 紆余曲折あり、転移後に仲間とはぐれてしまった後、とある傭兵企業に保護されたデルタは、顔を合わせた傭兵企業「ナイツロード」の団長であるレッドリガと、どういうわけか模擬戦を行うこととなったのである。
 なぜそのような展開になったのか、デルタには今だ理解ができていない。しかし、恩のある相手ゆえに無碍にするのは忍びないと、デルタは了承の返事を口にしたのだ。
(その結果が、こんなものすごい体験になるなんて……!)
 そして、状況は冒頭へと立ち戻る。
 レッドリガに連れられてやってきた、ナイツロードの拠点内に誂えられた、巨大な訓練場。その中に誂えられたバトルフィールドの一角を使って、デルタとレッドリガは模擬戦を行っていた。
 現在の戦局は、平たく言えば「ようやく五分と五分」と言った状況にある。と言っても、その状況で居続けられる原因は、レッドリガが相当の手加減をしているからであり、それにデルタが全力を以て立ち向かっているからにほかならないのだが。
 レッドリガの持つ力は、デルタにとってはとてもではないが、計り知れるようなものではなかった。そもそもデルタの目が、彼の能力が発動した光景を見たことが無いので、ある意味当然といえるかもしれない。
(たぶん持ってるだろう能力を縛って、武器も何も持たないで、使えるのは自分の手足だけ。なのに、なんて強さだ!)
 対するデルタは、自らが経験した戦乱を共に駆け抜けた相棒である、彼の為の特別な剣「キュアノエイデス」をはじめとした、彼の持つすべての道具、技、魔法、能力を行使できる状況であり、それをフルに使っている状態だ。
 にもかかわらず、レッドリガは小動もせず、そのすべてを受け止めて、受け流して、捌ききっている。その圧倒的な力量を目の当たりにして、デルタは戦慄を隠すことができなかった。
「世の中って、本当に広いなぁ――ッ!」
 ひょっとしたら、自分が追っていた闇は、この人物にとっては歯牙にかけることさえ不要な存在なのかもしれない。そう考えて、デルタは感嘆の言葉を漏らしていた。
「そうですね、このユースティアは本当に広い。数多の世界が結合し、幾千幾億もの世界から、日々新たなるものがこの世界に流れ着く。それはデルタくん、貴方も同じです」
 デルタのつぶやきを耳ざとく聞き取ったレッドリガが、先ほどまでとの不敵な笑みとは違う、万感の思いを込めた、柔らかさを孕む微笑を浮かべる。彼の発した言葉を耳にして、デルタもまた柔く微笑んだ。
「私はあなたに、貴方の追っている存在に、貴方の持つ不可思議な糸に、非常に興味を持っています。……このまま、ナイツロードの正式な団員として迎え入れたいぐらいですね」
「もし、断ったら、どうなります?」
 キュアノエイデスを振るい、蒼い残光を中空に描いて握り直してから、脳裏に浮かんだ素朴な疑問をデルタが口にする。
「どうもなりませんよ。あなたが、私たちの敵にならない限りは、ですけど」
 敵。それはとどのつまり、レッドリガの率いるナイツロードと、戦わなければならないということに他ならない。
 正直御免だと、デルタは胸中で目を回した。レッドリガでさえ、自分など足元にも及ばない強さなのだ。そんな彼のもとに集まる人間がどれほどの精鋭揃いなのかくらい、嫌でもわかってしまう。
「それじゃあ、承諾したら?」
 続く疑問も、脳裏に浮かんだ素朴で、打算など無いものだった。
「その時は、大々的に歓迎しますよ。何せあなたは、私の興味の人ですからね」
 言葉の応酬を心から楽しんでいるようなそぶりを見せるレッドリガ。そんな彼の態度に、デルタは改めて畏敬の念を抱いた。
 このレッドリガと言う男は、何処までも人間臭い人間なのだろう。身内に甘く、敵に容赦なく。自らの中に息づく信念に――「正義」などという、ありきたりな枠しか定義できないような、そんなちっぽけで画一的な言葉では語りつくせない、複雑でまっすぐに貫かれた意思に従う、そんな人間。
「――ありがとうございますッ!!」
「ッ――!」
 そんな人間が、自分に興味を持ってくれている。自分を仲間に入れたいと、そう言ってくれている。
 絶対強者の言葉とは、ずいぶんと強く響くものなんだなと、デルタは初めてそう感じた。
 それゆえに繰り出した、必殺の一撃。かつて自らが存在した世界で、自らの体に芽吹いた、「個の為の進化せし魔法」と形容される力。
 蒼い光が実体化したユニットと、そこから発振された蒼い刃。キュアノエイデスを握る手とは逆の拳、その先に形成された、不思議な形状の蒼い刃は、レッドリガの胸ぐら付近へと一直線に吸い込まれ――視界を染めるほどに眩い極光に、阻まれた。
 そらされた蒼い刃と、明滅する極光が周囲を照らす最中で、不意にレッドリガが微苦笑を浮かべる。心なしか、視えない眉尻が下がっているような印象も見受けられた。
「おっと、失礼しました。中々鋭い攻撃でしたから、思わず能力を使ってしまいました」
 やはり、レッドリガの掌中に生み出された極光は、彼が持つ固有の力。そして、彼が意図的に自分の力を封じていたことが、デルタの中で確信となった。
「……お話、受けさせてもらっても良いですか?」
 こんな人間の庇護の元で働けるということは、おそらく幸運なことなのだろう。そう訴えてきた直感に従って、デルタは思いのたけを口にした。
「貴方の下で、働きたいです。……お願い、します」
 蒼い刃を納め、キュアノエイデスの稼働を停止させて、デルタは小さく頭を下げる。その様子を見たレッドリガが、殊勝な笑みを口元で浮かべたのち、吊り上がった口角のまま口を開いた。
「もちろん、歓迎しますよ」


「――傭兵団ナイツロードへようこそ、デルタ・アリーシアくん」
 そうして、未来を切り拓く少年は、渡り移った異界に、腰を落ち着けることとなった。


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久方ぶりにナイツロードでこんちはー、コネクトにございますよー。
前々から念願でもあった「ユースティア版ナイツロードの小説」を執筆できたことに、ちょっとした感慨みたいなものを感じておりますw


というわけで今回は、上でも申し上げた通り、昔書いた旧設定版ナイツロードとは設定を異にし、複合世界「ユースティア」を舞台とした新たなるナイツロード、その小説を執筆させていただきました。とはいっても短編であるため、このまま連載に持ち込むかどうかは全くの不明ですw
個人的に今のナイツロードの設定はすごく好みのものだったので、前々からデルタを新規に入団させてやりたいなぁ、と考えておりました。なんだかんだで叶えられたので、その辺は割と満足しています。


一応キャラ設定には詳細なものが載っていますが、いつか個別の記事でデルタ君のKR用設定を記載したいです。いつかちゃんとした設定用のメモを書いて、うごメモの方にも投下したいのですが、それはちょっと時間がかかりそうなので、今は見送らせてくださいw
というわけで、今回はここまで。
またあいませうー ノシ