コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

Blue Bright Blade―蒼の煌刃―

episode4 奪われたモノは


「くっ……!」
 躊躇こそあれど、先の連撃は紛れもなく、男を殺さんと放った一撃。それを食らって、なお男を仕留めきれなかったという事実に、レイは少なくない驚愕と、ためらいを持ってしまった自分への憤りを覚えていた。
「おいおい、終わりだと思ってんじゃねぇだろうなァ!!」
「っ――!」
 お互い、次の一手を考えるために睨みあおうとしたその直後、レイの真横をくすんだ銀髪が駆け抜ける。銀閃を煌めかせ、男めがけて襲い掛かったのは、両刃鎌を振りかぶり、男の首を取らんと肉薄するナギトだった。
「クソがッ!!」
 毒づく男が盾爪を構えた直後、その表面で両刃鎌が無数の火花を散らす。満身創痍にも等しいその様相で、なお生きながらえている男を見て、ナギトはあからさまな表情のまま、一度下がって距離を取る。
「おいレイ、二人がかりだ。気に食わねぇが、一人ずつじゃラチがあかねぇ」
「それ以外に手はないか……いいだろう!」
 得物を構え直したナギトが、隣に並び立ったレイにそう提案する。やむを得ない、といった面持ちのまま承諾したレイもまた、己の得物である剣をしかと握りしめ直した。
「っへ、怪我人に2対1は卑怯なんじゃねーの?」
『黙れ』
 痛手を負ってなお、男は二人の行動をあざ笑おうと口を回すが、二人の一言が男を黙らせる。
「貴様のような悪辣な輩に、くれてやる慈悲なぞない!」
「テメェがしでかしたこと、テメェの命で償え!」
 言葉と共に、二人が男へと肉薄する。
「クソッ、ここまでか……!?」
 対する男は、膝をついた体勢のまま、動かない。

 やがて、二人の振るった鈍色の軌跡が、男の首元を――








「なーんつってな」
 切り裂くことは、なかった。

「っが……!?」
「う、ぐっ……?!」
 次の瞬間、事態を静観していたデルタや、生き残った村の人間たちが見たのは。

 紫色の光が爆ぜ、それが生み出したと思しき衝撃波に吹き飛ばされる、レイとナギトの姿だった。
「え……?」
 デルタが驚きの声をもらすのもつかの間、二人の身体は宙で大きく弧を描き、デルタが待機していた場所の近くへと墜落する。
「げふっ……っつぅ。クソッ、いったい何が……!」
「ぬ、くっ……っち、一杯喰わされたか!」
 いち早く体勢を立て直したレイがにらみつける先には、先ほどの満身創痍と言った言動が嘘のように、こきこきと首を鳴らしながら、左手――盾爪を持たない空いた手に「紫色の光」を灯す、男の姿。その顔には、脂汗を滲ませていた先ほどまでとはまるで違う、息とし生けるものすべてを見下しているかのような、嘲笑の表情が張り付けられていた。
「あーあ、結局お前らもその辺のゴミと変わらないんだな。報いだの償いだの、ベラベラベラベラバカバカしいことばっかり……耳障りなんだよ、それ」
 心底呆れたような口ぶりのまま、男はやれやれと首を振る。まるで新しいおもちゃに飽きた子供のような態度を見せた直後、紫色の光を灯した左手をデルタたちの方に向けてから、男はひとつ、口を開いた。
「んじゃ――そろそろ纏めて消えろ」
 言葉と共に、男の左手に灯された光は、一条の閃光となって、空間を駆け抜ける。空気が焼き切られたかのような音が一泊遅れて響いた、その直後。

 デルタたちの眼前で、光の着弾した場所が、紫色の閃光と共に、大きく爆ぜた。
『うわああぁぁぁぁあぁッ!!?』
 稲妻が落ちたような爆発音と、空間が曲がったかのように錯覚するほどの猛烈な衝撃波が、デルタたちの五感を、身体を、滅茶苦茶に叩いて通り過ぎていく。強烈な嵐が収まった後には、一様に地へと倒れ伏した人々と、大きく抉り取られた地面だけが残されていた。
「っく……まさか、貴様も固有進化魔術持ちだとはな」
 爆発の痕に滞留した魔力が、バチバチと断続的なスパークを起こす中、いち早く立ち上がったレイは、男を睨みながら毒づく。――同じ「力」を有するものであったが故に、レイには男の放った正体不明の攻撃が「固有進化魔術によるもの」だと、察することができたのだ。
「そうさ。テメェのチンケな力とは違う、ホンモノの固有進化魔術……「裂閃極光〈ラスターエクスプロード〉」さ」
 左手に灯した紫の極光を揺らめかせながら、男は堂々とした口ぶりで言い放つ。それはとどのつまり、レイの放った一撃は自身の攻撃には到底及ばないという、宣告だった。
「チッ、まだ切り札を持ってやがったか。つくづくムカつく野郎だ」
 レイに遅れて、両刃鎌を支えにして立ち上がったナギトが、頬に着いたススを拭いながら毒づく。その忌々しげな表情を見て、男はニヤリと嗤ってみせた。
「お前らとの遊びに全力を出しても仕方ねぇからな。ま、暇つぶしにはちょうど良かったぜ」
 肩をすくめて、男は不敵に笑む。その光景を見た、デルタを含む村の面々は、内心に戦慄を隠せずにいた。レイとナギトからあれだけ激しい攻撃を受けて、なお余裕の面持ちで挑発し、今までの戦いを「遊び」と称したことが、にわかには信じられなかったのだ。
「……虚勢を張ったところで、貴様が手傷を負ったことに変わりはない」
「たかだか切り札の一枚や二枚、今更披露したって何か変わるこたぁねえよ」
 しかし、固有進化魔術の破壊力を目の当たりにしたにも関わらず、当の二人の戦意はかけらも揺るがない。それどころか、自分たちとの戦いを「遊び」と評されたことに対するあらん限りの憤りを、男めがけてぶつけてすらいた。
「あぁ? んだよ、まだやんのか? お前らの攻撃、ヌル過ぎて眠くなんだけどなぁ」
 しかし、二人の怒りを真正面から受けて、それでもなお男の態度には警戒心すら浮かばない。それどころか、二人の行動に呆れたような表情すら見せていた。
 左手でわしわしと髪を掻き、あまつさえ大きなあくびをするようなそぶりすら見せた、その瞬間。
 苛立ちを抑えようともしないまま、レイとナギトが地を蹴り、一息の間に男めがけて肉薄した。
「だから、さぁ?」
 直後、一瞬姿が掻き消えるほどの猛烈な速度で、男が斬りかかろうとする二人の懐へともぐりこむ。

「――――ヌルいっつってんだよ」
 そして、刹那の空白が通り過ぎた時。

 二人の身体は、纏めて近くの民家の壁へと叩き付けられていた。

「…………え?」
 一瞬。時間にして、ほんの秒すらもかからずして、村一番の腕利きである二人が、纏めて。
 瞬きも許さぬほどの勢いのまま、目の前で展開されたその光景を視界に納めて、しかしデルタの頭は、その現実を理解することができなかった。
 敗北。幾多ものアクリスと渡り合い、幾度となく村を危機から救ってきた二人が、たったの一瞬で。二人の活躍を熟知しているからこそ、一瞬のうちに起こった出来事を、にわかに信じることはできなかったのだ。
「っ、ぐ……!」
「ク、ッソがぁ……!」
 驚愕が生んだ沈黙が周囲を包み込む中で、響くのは民家の壁がひしゃげたことで生じる木材のきしむ音と、その中に身体を沈めたままの、レイとナギトのうめき声。強烈な一撃を貰ったにも拘らず、民家の壁面に中ほどまで埋もれた身体を起き上らせようとする二人を見て、しかし男は特段驚くようなそぶりも見せないまま、悠然とした足取りで二人の元へと歩み寄る。
 ――男の行動の意味を推し測ることは、容易だった。そして、その光景を見たデルタが、その先に予測できる結末を垣間見たデルタがとる行動は、一つ。
「――――させるかああぁぁぁッ!!」
 負傷によるダメージを男への怒りで打ち消して、デルタは走る。みたび魔動剣を展開し、青い軌跡をたなびかせながら肉薄してくるデルタに気付いた男は、はぁっとため息を一つ吐き出してから、デルタの方へと向き直った。
「ウザいんだよ!」
 男めがけて魔動剣の青い刃を振るうが、その攻撃の全ては事もなげに回避されてしまう。構うものかと再びデルタは魔動剣を振りかぶるが、その刃が新たな軌跡を空中に描くよりも早く、振るわれた鈍色の一撃がデルタの胸をしたたかに叩く。
「ぐっ……!」
 たたらを踏んで二、三歩後退するが、それでもデルタは体勢を立て直し、再び男めがけて攻撃に踏み切った。まさか踏みとどまるとは思わなかったのか、男が少なからず驚愕のを見せるが、次の瞬間にはすぐに苛立ちの表情に変わる。
「ウザいっつってんだろうが!!」
 更に、ダメージを負ったデルタめがけて、男が閃光――固有進化魔術による法撃を撃ち放った。
 すでに攻撃の体勢に入っていたデルタに、その閃光を避ける手段はない。直撃――は身体をひねることでかろうじて回避したが、足元直下の地面に着弾した閃光が生み出した大きな爆発に呑まれ、デルタの身体は再び宙を舞う結果となった。
「ぐああぁぁぁッ!?」
 黒煙をなびかせながら吹き飛ぶデルタは、数度地面で身体をバウンドさせてから、ゴロゴロと転がって停止する。衣服へのダメージこそ少なかったが、その中はすでに数度の攻防によって生じた、無数の大きな手傷。加えて、間近で食らったことが災いしたのか、魔力反応による紫色のスパークが、デルタの身体を拘束する結果となった。
「う……ぐっ……う、うぅぅっ……!」
 立ち上がらなければいけない。立ち上がらなければ、待っているのは最悪の結末。それを理解して、必死に立ち上がろうとするデルタの身体はしかし、その胸に宿した強き意思に反して、弛緩して地へと伏したままだった。
「チッ、雑魚がしゃしゃり出やがって」
 倒れ伏すデルタを一瞥してから、男は再びレイとナギトが身を埋める民家の方へと視線を向ける。その視線を追うようにデルタも目を向ければ、そこに居る二人はすでに、めり込んだ身体を民家の壁から引きはがし、再びその足で立ち上がっていた。
「よぉデルタ……ナイス時間稼ぎだぜぇッ!!」
 直後、ナギトが裂帛の咆哮を上げながら、男めがけて疾風のごとく襲い掛かる。遅れてレイも飛び出して、二人並び走りながら、男へと急接近した。
「この村でこれ以上、貴様の思い通りにはさせん!!」
「俺たちが守る――この村を!」
 抱いた決意を言葉に変えて、二人の戦士は互い違いに、息もつかせぬ連続攻撃を男めがけて叩き込む。デルタを相手取っていたせいで対応が遅れたらしい男は、驚愕と苛立ちが混じった表情のまま、全身に攻撃を浴びる。
「っぐ……、ダメ、逃げて……!」
 一見すれば、不意を突けたことによって、状況は優勢に傾いていた。しかしそれでも、デルタの胸のざわめきは収まることを知らない。それどころか、予想し得る限りの最悪の未来が、間近に近づいているように思えてならなかった。
 二人に逃げろと、大声で叫びたい。しかしデルタの身体は、固有進化魔術を間近で食らった影響からか、強烈な痺れに拘束され、指先の一つも動かすことができない状態だった。
 もちろん、身体が動かなくなるほどの痺れとなれば、まともに声を張り上げることもできない。どうにかしなければ――と思った、その矢先に。
「どらああぁぁぁッ!!」
 両刃鎌を投擲したナギトが、徒手空拳の構えを持って男めがけて鋭く肉薄する。そのまま両の拳による打撃を繰り出すが、その悉くが空しく宙を切るだけに終わった。
「クソが! いい加減くたばりや――がッ!?」
 最後の一撃で大きく体勢を崩したナギトめがけて、男が盾爪を振り下ろそうとしたその寸前で、がら空きになった男の背中を、弧を描いて戻ってきた両刃鎌が深々と切り裂いた。死角からの突然の攻撃で、大きな隙をさらした男めがけて、ナギトが身体ごと突っ込む。
「ちいぃぃぃッ!!」
「認めるぜ! お前は俺より、レイよりつえぇ! ――けどな!!」
 野獣の如き鋭い眼光を宿したまま、ナギトはひとつ叫ぶ。直後、拘束された男めがけて、長剣が――レイの一撃が、鋭く突きこまれる。
「クッ!」
 とっさに男は盾爪で防御を試みたが、度重なるダメージはすでに看過できないレベルに達していた。盾部表面に出来た大きな裂け目に、レイの剣が音高く突き刺さる。
「とどめだ。――今度は、外さん!!」
 ナギトの組み付きと、腕を覆うほどの得物に突き刺さった剣。二つの要因によって、軽業師のようにすべての攻撃をしのいできた男の身体は、この瞬間、しかと拘束された。
「さぁ、派手に行こうじゃねえか!!」
「我らもろとも、灰塵に帰するがいい――華炎大輪!!」
 直後、叫んだ二人の声さえもかき消す、決して狭くはない村の全てを照らし上げてしまいそうなほどの、巨大な真紅の大爆発が、巻き起こった。
「うぁ、ぐ…………っ、レイ姉!! ナギ兄ーっ!!」
 当然、その余波は相当なものであり、近場で倒れていたデルタもまた、渦巻く熱風と全身を叩く爆風にもみくちゃにされる。動けない身体のままで翻弄される中で、デルタは爆炎に姿を消した二人の名前を叫んだ。
 直後、天へと立ち上る黒へと変じた爆煙の中から、二つの影が飛び出す。
 デルタとは別方向に向けて墜落したそれは紛れもなく、デルタが名前を呼んだ二人の、ボロボロに傷ついた姿。互いの得物さえも失い、髪を焦げ付かせ、焼け落ちた服の下から覗く肌を黒く染めて、二人はうめき声の一つも上げないまま、倒れ伏していた。
「ぁ…………あ……」
 倒れているままのデルタには、二人の容体を詳しく見ることはできない。
 それでも、死力を尽くして戦った二人の現状は、痛いほどに理解することができた。

 おそらく、まだ死んではいないはず。
 だから、すぐに助けて、適切な治療を施すことができれば、きっと間に合う。





「……あーあ、残念だよ」
 そう信じるデルタの耳に、無常な声が届く。
 驚きと絶望を孕んだ目線を動かした、デルタが見たのは。


「死ぬ気で撃ってきた攻撃が、こんなショボいなんてな。もっと痛いかと思ったのに、見当違いだったぜ」
 立ち上る爆煙の中から歩み出て、心底失望したような目のままで倒れる二人を見つめる――まるで傷を負ったことを感じさせない、盾爪の男の姿だった。

 先ほどの攻撃が、二人が命を賭して放ったと言ってもいい、全身全霊の一撃だったことは、想像に難くない。にも拘らず、爆煙を背にして悠然と立つ男は、ズタボロの様相に反して、毛ほども堪えた様子も見せていなかった。
 信じられない。信じられるはずもない。デルタが知る中でもトップクラスに強い二人から、あれだけ攻撃を受けて、あれだけ深手を負って。それでもなお、男は立っている。デルタにはそれが、その事実が、何よりも信じがたかった。
「ま、せいぜいこの位が人間の限界だよな。……クソみたいな神様に勝手に定められた、クソみたいな限界だ」
 ゆったりと、狂いなき足取りのまま、男はレイとナギトが倒れている方めがけて歩いていく。

「――めろ……!」
 その行動の意味を、理解できない物はいない。

「やめろ……!」
 その行動を止められるものは、もういない。
 弱々しいデルタの叫びも、届くことはない。


 そうして、永遠よりも長い数刻が過ぎたとき。
 

「――じゃあな。最高につまらない時間をありがとよ」
 男の左手が、かすかに煌めいた。





「――やめろおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
 叫ぶデルタの声を空しくかき消す、紫色の爆発が、再び村を照らし上げて。


 世界が、轟音と閃光で塗りつぶされた。










 誰も動かない。
 動こうとしない。
 
 音も色も消えてしまったように見える世界の中で、動く物は立ち上る二つの黒煙だけ。

「……あ…………あ、ぁ……」
 その只中で、デルタは一人魂の抜けたような表情のまま、声にならない声で喘いだ。
 すでに身体を蝕んでいた紫色のスパークは霧散し、自由に動ける状態にある。しかしそれでも、デルタの頭は、身体は、動くことを拒絶するかのように、その場に縫い付けらていた。
「さて、と。邪魔者も居なくなったな」
 デルタの方に見向きすらせず、黒髪の男はごきごきと首を鳴らしてから、空を見上げる。今度は何をするのかと、つられてデルタが上を向くと。

「――んじゃ、再開と行くかね。どうせ暇な任務だ、パーッと派手にやっちまうとするか」
 全長にしておおよそ数百メートルはくだらないかと言うほどの、巨大な影が空に浮いていた。
 よくよく目を凝らしてみれば、それは一般的な物とは毛色が違うものの、「船」として解釈するには充分な形をしており、その姿や存在を知る者であれば、一目で「飛行船」と呼ばれる物体であることは理解できた。
 かつて人々が空を飛ぶ鳥に憧れていた頃、賢人たちと技術者たちのたゆまぬ研鑽によって生み出された、空を切り裂く鋼鉄の船。それが一隻、空を覆い隠すようにして、地上へと真っ黒な影を落としていた。
 直後、デルタの目が、空に浮かぶ影の中で、何かがうごめいたのを見止める。よく目を凝らしてみてみれば、それがいくつもの筒だと――魔力の砲弾を撃ち出すための「大砲」だということを、すぐに理解した。そして同時に、男の目的もまた、すぐに理解できた。
 まさか、とデルタが思ったその矢先、デルタや村人が見つめるはるか上空が、ちかりと煌めく。


 そしてその煌めきは、数拍の間を置いて、デルタの背後で轟音と共に巨大な閃光を生み出した。
「うわあああぁぁぁッ!?」
 直後に身を叩いた強烈な熱と風に、デルタは抵抗する暇もなく再び地へと転がされる。ひんやりと冷たい土に叩き付けられて、ようやく飛行船から砲撃が行われたことを理解することができた。
 同時に彼の背中に、熱風に晒されている最中にもかかわらず、ぞわりとした悪寒が走る。ようやく止んだ爆風に顔をしかめつつ、振り向いたデルタの視界に映り込んだのは。



「――――ぁ――」

 天へと立ち上る、黒々とした三つ目の黒煙。
 強烈な爆風によって吹き飛んだ窓ガラスと、熱風に晒されてか焦げ付いた家屋たち。
 そして、めくれ上がった石畳や地面の向こう、黒煙の上がる場所――人々が避難し、固まっていた場所から濃密に立ち込める、肉の焦げるような臭い。

 そこに広がっていたのは、先ほどまで確かに灯っていた命の灯火が掻き消えた、凄惨な村の姿だった。

「――ックハハハハハ! いいねぇ、派手な花火じゃねえか! どうせ何もないんだ、もっとバンバン行こうぜぇ!!」
 抑えきれない、と言った様子のまま、男が愉快げに腕を広げて見せると、空の飛行船から再び閃光が迸る。轟音と振動をまき散らす爆発が村の各地で起こるのを、男は楽しげに見つめていた。
 なおも爆発音の響き渡る村が、立ち上がりかけたデルタの膝を挫く。やがて力なく頽れたデルタの頬を、一粒のしずくが伝い落ちた。

「ハハハ……はぁ、良い傑作だったぜ。――――さて、そろそろ終わりにするか」
 背後から響いた男の声に振り向けば、そこに立っていた男の、鮮血のような瞳が、デルタを射抜く。
「あ、ぁ……!」
 石畳を踏み鳴らし、近づいてくる男の持つ鋭利な戦爪が、露わな殺意を受けてぎらりと光り輝いて。



「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁッ!!!」


そこで、デルタの意識はぷつりと途切れた。


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というわけでこんにちはー、前回よりは早めに更新できたコネクトですー。
本当はもうちょっと期間を開けて更新しようかと思ったのですが、次回である第5話が早く完成してしまったので、ならばとついでに公開を前倒した次第です。


さて、今回はアレファの村編に決着をつけると同時に、ついに起こってしまったメインキャラの退場を描かせていただきました。おそらく、私の作品群や私の創作における姿勢などを知っている方には、予想できない結末だったのではないでしょうか。
もちろん、コネクト自身もこの結末には思うところがあります。ストーリーの為でこそあれど、創作を始めた頃からの付き合いであるキャラクターたちを退場させてしまうのは、非常に心苦しく感じています。長い付き合いであるが故、その気持ちもひとしおです。
物語を盛り上げ、なおかつ後に控える正規メンバー達とのバトンタッチを行うための処置でこそありましたが、決して悪意を持って彼らを退場させたわけでは無いことをご理解願えればと思います。


今回でプロローグとなるアレファの村編は終了し、次回からは新たな正規メンバーであるキャラクターたちとの合流を描き、そして本格的に物語が動き始めることとなる第二部が始動します。
第5話では新たに、今回出てきた爪男の正体と、彼と同じく棒バト時代からの長い付き合いとなるキャラクターの一人が登場となります。彼女はキャラ主であるコネクトのお気に入りキャラの一人でもあるため、BBBのリメイク前から早く登場させたいなとよく思っていたのは内緒です……w


というわけで今回はここまで。
また会いませう― ノシ