コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

Blue Bright Blade―蒼の煌刃―

episode3 襲撃


 人々の住処を彩るのは、煌々と燃え続ける赤。
 倒れた人々を彩るのは、粘つくようにどろりとした赤。
 揺らめきながら迫るのは、幽鬼のごとく不気味に光る赤。
 眼前に赤。地面に赤。壁に赤。人に赤。家屋に赤。赤。赤。赤。
 木こりであり、アレファの村の住人であるリアンの報告を受け、デルタたちが村に戻ってまず目にしたのは、平和だった村を襲った惨劇を象徴する、夥しい数の「赤」たちだった。
「これは……手ひどくやられたもんだな」
 村の入り口となっている門をくぐってなお、油断なく周辺を見回すナギトが、思わずと言った様子で悪態をつく。彼の、彼らの瞳に映るのは、攻撃によって発生したと思しき火災や、力なく横たわる人々、そこかしこに飛び散った赤黒い血痕。
 なにより、村のそこかしこを死霊のように徘徊する、数えるのもバカらしくなる量の、マシンドールたちの影だった。
「そんな……どうしてこんな…………!!」
 まざまざと見せつけられる、現実。眼前に広がる光景を、しかしデルタは受け止めきれない。「自分たちを襲ったマシンドールたちが、村を襲い、人々を手にかけている」現実が、まるで絵空事のように思えてならなかった。
「見たところ、それほど数は多くない。――奴らを相手取れる村の人間はそう多くない。私たちが手分けして殲滅するぞ!」
「おうともさ。…………デルタ、お前は戦えるか?」
 ありえないはずの現実を目の当たりにし、当惑するデルタに、ナギトは気づかいの言葉をかける。せめて村人を護れる程度には、と考えていたナギトだったが、わずかに俯き、再び上げられたデルタの顔には、確たる決意が宿っていた。
「……戦える、戦うよ。こんな、人を不幸にするだけの機械なんて、メカニックとして許せない!」
 威勢のいい啖呵を切って、デルタは腰のホルスターに収納していた魔動剣の柄を抜き取り、起動させる。雪のように舞い散る蒼い燐光を瞬かせて生まれた刀身は、主の激情に呼応してか、ひと際強く輝いているように見えた。
「その意気だ。……この際確認は後回しだ、まずは奴らを片付けるぞ!」
『おう!!』
 レイの言葉と共に、三人は散り散りとなって村の各所へと散っていく。目的はただ一つ、故郷たる村を破壊した、厄災の尖兵たちを討つために。


***


 マシンドールの頭部に取り付けられている、人間でいう瞳に相当するカメラアイが、不意に倒れていた一人を捉えた。傷ついてこそいるが、息も脈もある。それを確認して、人形は乱れのない歩みで倒れた人へと向かっていった。
「――くそおぉぉっ! やらせない、やらせないぞぉぉ!!」
 その時、マシンドールが見つめる人間とは違う男が立ち上がる。男は一つの家屋を背にしながら、人型に向けてとびかかった。その手には一般人の護身用として配布されている、刃渡りも短いナイフが握りしめられている。
 しかし、それを全く意に介さず、マシンドールは顔ごとそちらを見据えると、無造作にその手を振るった。振るわれた手には巨大なカギヅメが装着されており、人型が行ったその動作は、まさしく男に向けて繰り出された、致命の一撃となって。
「っげ、がぁ……!?」
男の腹を、鋼鉄のカギヅメが薙ぎ払う。まともに受けてしまったその一撃を認識した男は、その視界を埋め尽くした赤の意味を知りながら、なおも胸中で怨嗟の言葉を吐きつつ、その意識を闇に落とした。
 一人の人間が二つの物体に変わったのを確認して、マシンドールは改めて倒れている人影へと歩を進めようとする。しかしその行動は、何かに――走ってくる足音に感づいたことにより、制止された。
「だらああぁぁぁッ!!」
 刹那、裂帛の気合が込められた銀色の閃光が迸り、マシンドールの体を一閃に薙ぎ払う。
銀閃を胴体へとまともに受けたマシンドールの体は、直後に閃光の走った通りにずれ落ちて、中の機械を覗かせた。銀閃を操り、マシンドールを切り倒した鎌を握る人影――ナギトは、その内部構造を一瞥してから、蹴りの一撃をお見舞いする。爆発の危険をはらむマシンドールを、人のいない方向へと人型を吹っ飛ばすと、直後にマシンドールはスパークを起こして爆散した。
「っち、フィナスのオッサンはやられたのか。おいアンタ……オーヴィルさんだっけ。アンタも早く非難しろ」
 撃破を確認したナギトは、倒れていた傷だらけの男の体を揺さぶり、立ちあがる助けとなるように引っ張り上げる。顔を見せたオーヴィルと呼ばれた男は、苦しそうな顔をしながらも安堵の色を零していた。
「ナギト君、か。……すまない、助けられたな」
「そりゃ、俺は用心棒だからな。……自警団の連中や、レイもデルタも戦ってる。アンタはとりあえず、安全そうな場所に隠れといてくれ」
「わかった。感謝するよ……」
 肩口を抑えながらも、ゆっくりと民家の中へと踏み入っていくオーヴィルを見ながら、ナギトは複雑そうな表情を見せる。
 アレファの村を守る用心棒である彼は、村の警護に精を出しつつ、いざというときのために力をつけてきていたのだ。それがまさかこんな状況になって、こんな状況で力を振るうことになったという現実に、彼は苦い顔をみせる。
「排除」
「っ!」
 そして感傷にふけっていたナギトは、そのせいで真後ろに立ったマシンドールの気配を、察知することができなかった。振り向いた先にはすでに、振り下ろされる寸前の巨大なカギヅメ。

「はああぁぁぁぁっ!!」
 しかし、それがナギトへと振るわれることは無かった。
 真横から突っ込んできた人影によって繰り出された、雄叫びを伴う剣戟の一閃が、今まさに振り下ろされようとしていた腕を根元から斬り飛ばしたのである。
 乱入者は、青い頭髪をなびかせながら、同じく蒼天色に輝く魔力の剣――精密機械であっても容易く断ち切る魔動剣と共に、再度マシンドールに斬りかかる。二度、三度と振るわれた蒼い剣は、物体を切り裂いていることをまるで感じさせない滑らかな軌跡を描いて、機械兵の体躯をたちまち分解し、爆散させた。
 爆風が頬を叩くその只中で、ナギトは割り込んできた蒼い頭髪の少年――デルタの健在を知って、わずかばかり顔をほころばせる。
「大丈夫、ナギ兄!?」
「よぉ、デルタ。おかげさんで助かったぜ」
 軽く会釈して礼を述べるナギトの方に振り向いて、デルタは黒曜石の様な漆黒の瞳を薄く細めて、薄い苦笑を浮かべた。その口ぶりは、瞳の輝きは、普段の快活なデルタのそれとは打って変わって、覇気のない弱弱しいもの。
「どういたしまして。……こんな状況で振るために作ったんじゃ、なかったんだけどなぁ」
「起きちまったもんは仕方ねぇよ。今は、一体でも多くマシンドールたちを叩ッ斬ることを考えようぜ」
「うん」
 少しだけ気落ちした表情を見せつつも、確たる意思を秘めた瞳のままで頷くデルタを見ながら、ナギトはふと振り向き別の方――アレファの村の中心部の方角を見つめる。
「……レイはあっちか?」
「うん。生き残ってる人を集めて、できる限り守るつもりなんだってさ。確認できてない場所はここで最後だから、僕らも行こう」
「おっしゃ!」
 周囲の様子を確認してから、デルタとナギトは同時に踵を返し、村の中心部へと向かって走って行った。

***

「レイ姉ーっ!」
 自分の名を呼ばれて、レイは声の聞こえた方へと顔を向ける。視界に納めたのは、こちらへと向けて駆けてくる二つの人影だった。
「デルタ、そっちはどうだった?」
「……生きていた人たちは、安全な場所に避難して貰ったよ。残ってる人たちは、ここに居る人たちだけだと思う」
 そうか、と会釈し、悔恨とわずかな安堵の入り混じる表情を見せたレイだったが、直後に別方向から聞こえた音を知覚して振り返る。レイにつられるまま、デルタとナギトもそちらを見てみれば、そこに集まっていた村人たちの目の前で、自警団の人間と新たに出現したマシンドールが、互いの得物を打ち合っていた。
「助けるぞ!」
「僕が行く!」
 レイとナギトが一歩を踏み出すよりも早く、決意を秘めた表情と共に駆けだすデルタ。その手には、襲い掛かってきたマシンドールたちのことごとくを切り裂いた、蒼き魔動剣が握りしめられていた。
「やあぁぁっ!!」
 わずかな距離を疾駆しつつ、デルタは気合を込めた掛け声とともに、袈裟懸けに試作魔動剣を振り抜いた。その一撃はマシンドールの喉笛に相当する部分へと吸い込まれるように撃ちこまれ、その首をやすやす叩き落としてみせる。
 首を、ひいては全身の制御を統括する頭脳を失ったマシンドールは。全身を一度びくりと振るわせた直後、糸が切れた操り人形のようにその場へと頽れた。沈黙を確認したデルタは、すぐさま打ち合っていた青年の元へと駆け寄る。
「大丈夫ですか?!」
「ああ。さすがは姐さんの弟子だ」
 姐さん、と形容されたレイが、少々心外そうに眉を顰めるのを横目に見つつ、デルタは苦笑に肩をすくめた。そしてすぐさま、ぐるりと振り向いて周辺の状況を確認する。
「……襲撃はいったん打ち止め、か」
「なら、僕は避難した人たちをここに集めてくる。怪我してる人も居たから、治療しないと」
「警備は任せとけ。連中全員薙ぎ倒してやるよ」
 どん、と親指で胸を叩くナギトに礼を述べつつ、デルタは自警団の人間たちと協力して、村の方々に避難していた人間たちを呼ぶため、駆けていった。


「……どうして、マシンドールが人を襲うんだろう」
 怪我をした村人たちの治療を続ける傍らで、デルタは気落ちした表情でそんなことを呟く。
 現在に至るまで、彼らや村人たちを襲ったのは、ただの一体の例外もなく、そのすべてがマシンドールであった。
 魔動機工学に明るいデルタが解体分析を試みたが、結果は「既存技術で作られたものを改造した、ただの既製品だった」という、事実上の失敗に終わっている。それはつまるところ、切り伏せてきた無数の機械の侵略者たちの正体、ひいてはその侵略者の目的が、全くの不明であるという事実の証左に他ならなかった。
「考えられる理由としては、ガードマシンとして作られたこいつらが暴走した、ってとこか? ……でも、そいつらがわざわざこんな辺境の村までやってくるってのも考えづらいよなぁ」
「ああ。そもそもの話、こんなものがこの村を襲ってくるということ自体が解せない。単なる農村であるこのアレファに侵攻する理由なんて、それこそただの酔狂でしかないはずなんだが……」
 レイとナギトもあれこれと推測を語っては見るが、所詮それは推測。決定的に手がかりの足りない現状において、彼らの論議は想像の域を超えることはできなかった。
「……情報が足り無さすぎるな。せめて何を目的にしているのかがわかれば、いくらか手の施しようはあるんだが――」
 そこまで口にしてから、レイはふと剣呑に目を細める。いきなり言葉を途切れさせた彼女のことを、どうしたのかと見つめる二人の前で、レイは身を翻し、細めた赤い瞳を、一点へと向けた。



「へぇ、弱っちい雑魚ばっかりかと思ったが、中々骨のある奴が居るじゃねえか。命令とはいえ、こんなクソど田舎まで来た甲斐はあったな」
 レイの瞳がにらみつけるその先で。
 踏み砕かれた屋根瓦を足場にする形で、一人の青年と思しき人影が、悠然とそこに立っていた。
 太陽からの逆光を浴びつつも、まるで光をすべて吸い込み、闇へと変えてしまうかのような、真っ黒い頭髪。その下で、暗がりでぽっかりと浮かび上がるかのように輝くのは、レイの持つそれとは同じ色であり、しかして全く違う印象を想起させる、鮮血のように赤黒い光を湛える双眸。
 そして、その身に纏う衣服と、頭髪とよく似た闇色のマントの切れ端は、瞳の光とはまた違う黒ずんだ赤で、べったりと濡れそぼっていた。
「何者だ!」
 ドスを効かせた声音で、レイがその正体を問うと、赤い瞳の影はゆらりと身体を揺らし、屋根の上で一歩進み出る。
「別に誰だっていいだろ? 今から死ぬ奴らに、ベラベラご高説垂れたって仕方ねぇさ」
 肩をすくめて嘲笑するそぶりを見せる青年は、にやりと口角を釣り上げたかと思うと、魔術を用いた転送術らしきものを使い、右腕に何かを現出させた。
 一言で表すならば、巨大な爪の付いた盾。カイトシールドと呼ばれる三角形の盾を細長くして、逆さに取り付けたようなその基部の先端からは、猛獣やアクリスなどのそれを想起させる、凶悪なきらめきを放つ鋭利な爪が三本、伸びていた。
「まぁ、辺鄙な田舎にも飽き飽きしてたところだ。――――付き合えよ、暇つぶしにな!」
 言い終わるよりも早く、男は身体をたわめて、デルタたちの居る場所めがけて飛び込んでくる。黒い弾丸の如きそれが、その場にいる人間を狙っての行動だということは、その場にいる人間全員に理解ができた。
「ッ――!!」
 何かを話すより、何かを考えるよりも早く、レイの身体が翻る。目にもとまらぬ速さで引き抜かれたロングソードの切っ先が、数刻の後に甲高い炸裂音と鮮やかな火花をまき散らし、突き出された爪を防いでいた。
「貴様――ッ」
「へッ、マシンドール相手に余裕かますだけはあるんだな」
 間違いなく、この街を襲った厄災の元凶。それを理解して、激しく憤るレイとは裏腹に、男の顔は至極挑戦的で、面白いものを見つけた子供のような、そんな不気味なほどに無邪気な表情を映し出していた。
「野郎ッ!!」
「おっと」
 すかさずナギトが横合いから両刃鎌を叩き込もうとするが、刃が振るわれると同時に男が身を翻し、爪を防いでいた長剣を蹴り飛ばして離脱する。むなしく空を切った鎌は、ツバメ返しの要領で再び男に襲い掛かるが、男はまるで軽業師のごとく空中で身をひねり、回避して見せた。
「っへへ、いいねぇ。そこに居るゴミの大群を切り刻むだけよりも、よっぽどやりがいのある仕事だぜ!」
 大車輪のように身体をひねりながら着地した青年が、好戦的な色を宿した瞳のまま、じろりとレイやデルタたちがかばい立てている村人たちをにらみつける。自分たちが標的であることを理解したらしい人々が震えていた光景はしかし、レイとナギトの脇から躍り出てきたデルタによってさえぎられた。
「おおぉぉぉッ!!」
「ッ――!」
 蒼天色の軌跡を描いて、幾度もデルタの魔動剣が振るわれる。当たればただでは済まないことを理解しているらしく、男は再び軽快な動作を以て、自らへと降り注ぐ凶刃の全てをさばき切って見せた。
「チッ、雑魚が――鬱陶しィンだよ!!」
 しかして、デルタの攻撃を回避するのにも限界があったのか、男は戦爪を盾のように構える。構うものかと魔動剣を振るったデルタだったが、戦爪の盾部分へと刃が達下と同時に、盾部の表面で煌めいた燐光によって、魔動剣の切っ先はしかと受け止められた。
 ――物によっては、頑強な物体さえも易々と貫く威力を誇る魔動戦機だが、当然それに弱点は存在する。同じ魔動戦機が発した防御のための魔力力場や、魔力をはじく特殊なコーティングを施された物の前では、鉄剣が盾に阻まれるように、その攻撃をさえぎられてしまうのだ。デルタと相対する男がとった手段もまた、回避できないがための苦し紛れの選択ではなく、魔動戦機を無力化するための、適切な行動だったらしい。
「お前がッ! お前がっ、アレファのみんなを、殺したのかッ!!」
 しかし、そうとわかってなお、デルタは魔動剣を振るい、男へと猛攻を繰り出し続ける。攻撃と共に口をついて出た言葉には、目の前に立つ災厄の元凶である男への、故郷たる村と親しかった人々を殺した男への、確たる怒りと憎悪が籠っていた。
「だからなんだ? そうだって言ったら――どうすんだよォッ!!」
 対する男の表情は、不敵に口角を釣り上げた、笑み。
 デルタの身体ごと弾き飛ばさんと振るわれた戦爪の勢いに負け、大きく後方へと吹き飛ばされたデルタだったが、空中で体勢を立て直し、危なげなく着地。直後、再び地を蹴って男めがけて肉薄する。
「許さない! お前はッ、お前だけはあぁぁッ!!」
 デルタの浮かべる表情は、男の不敵な笑みとは対照的な、これ以上ないほど明確な怒り。男の携える盾爪に、魔動剣の刃が届かないことを理解してなお、デルタは斬りかかろうとすることをやめなかった。
「鬱陶しいって――」
 振るわれた蒼き魔動剣の軌跡を受け止めきって、男は忌々しげな表情を浮かべる。幾度目かの剣戟が迸ったのち、男が防御の構えを解いた。攻撃の体勢に入った男の盾爪には、淡く魔力の燐光が灯る。
「言ってんだろうが!!」
刹那、デルタの携える魔動剣が放つ魔力光とは異なる、真紅の魔力光を纏った鉤爪が、一条の閃光となってデルタを襲った。
 振りかぶったことを察知して、とっさに距離を取るデルタだったが、振るわれた鉤爪の軌跡が赤い魔力の塊となって凝固し、そのまま軌跡を象った三日月の魔力刃として飛来する。反射的に後ろへ下がったことにより、体勢を大きく崩す結果となったデルタに、それを防ぐすべはなく。
「――――うわあぁぁぁッ!?」
 着弾と同時に引き起こされた紅蓮の爆発に呑まれ、デルタは成すすべなく吹き飛ばされてしまった。
 黒煙を引きながら、デルタの身体は何度も地面を跳ねてから停止する。その光景を、男は鼻で笑いながら見つめていた。
「はっ、所詮は魔動戦機の性能におぼれただけの雑魚か。わざわざ相手にして損したぜ」
「――貴様ッ!」
 そのままけだるげに首を鳴らしていた男めがけて、今度は倒れたデルタをかばうように、レイが斬りかかる。
「レイ、姉っ!?」
 その様を視界に納め、デルタはわずかに身を起こして彼女の名を呼ぶ。男めがけて肉薄するレイの姿に、何処か嫌な予感を抱く。
「デルタ、無理すんな! ――心配すんな、あのクソ野郎は、俺たちがブッ飛ばすからよ!!」
 遠ざかるレイの背に向け、再び口を開こうとしたデルタだったが、それよりも早くナギトがデルタの眼前に立つ。その顔に強気な笑みを浮かべつつも、ナギトは奥底に秘めた憎悪を、怒りを、隠すことは無かった。
 その様相に、彼の人となりをよく知るデルタも、一瞬怯む。直後、沈黙を是と受け取ったらしいナギトもまた、レイの背を負って遠ざかっていった。
「待っ……っげほ、ごほっ!」
 待って、と叫ぼうとしたデルタだったが、魔力爆発によって受けたダメージが、その意思を遮る。
 ――彼の脳裏にちらつくのは、とてつもなく不吉な「何か」。その正体を推し測ることは全くできないが、少なくともこれから起きることは、とても、とても大きな不幸として結実してしまう。そんな予感が、デルタの頭の中にあった。
「デルタ君、大丈夫か! 待ってろ、すぐに治療する!」
 叫ばなければいけない。いけないのに、自分の体は動かない。
 伝えなければならない。ならないのに、自分の心はナギトの浮かべた表情で、彼の、彼らの戦いを邪魔したくないと考えてしまう。
 不吉な予感と、動かない自分の身体と、二人を応援したいと感じる心。綯い交ぜにした、ままならない感情を胸に抱くデルタにできるのは、二人の戦いを見守ることだけだった。



「焼き尽くせ――「華炎輪舞〈プロミネンスロンド〉」!!」
 ナギトに先んじて飛び出し、猛烈な勢いで男へと肉薄するレイが、袈裟切りの体勢を取りながら叫ぶ。すると、先ほど男が撃ち放ったそれとは違う、強く、赤く輝く燐光が、レイの携える剣へと収束し始めた。直後、赤い光は瞬きの間に炎のごとく揺らめき、たちどころに渦巻く烈火へとその姿を変える。
「せぇッ!」
 苛烈な熱気を纏わせたまま、レイのロングソードが神速の剣戟を生み出した。回避を試みる男だったが、軌跡から生まれる炎の勢いが、男の行く先を悉く遮る。
「もう、逃げられんぞ!!」
 逃げ場を無くした男めがけて、炎を纏ったロングソードが叩き込まれた。直後、先ほど男がデルタに撃ちこんだそれとは比較にならない大きさの、真紅の爆炎が吹き上がる。
「チイィィッ――!」
 渦巻く火柱の中から、防御のために構えたと思しき盾爪から、黒煙を噴き上げる男が飛び出てきた。
「まだ――終わんねえぞぉッ!!」
そのまま先の交戦でも見せた軽業で、いったんレイから距離を取ろうとするが、火柱の陰から飛び出してきた一条の光――魔力光を帯びた両刃鎌が飛来してきたことによって、中断を余儀なくされる。
「うぉっ!?」
「おいおい、避けんじゃねぇよ。お前を掻っ捌けねぇだろーが……よッ!!」
 弧を描いて飛翔する両刃鎌のブーメランを、しかし男は危ういところで盾爪を駆使して捌いてしのぐ。しかし、打ち返されたその両刃鎌を追って突っ込んできたナギトが、軽やかな跳躍であらぬ方向へと飛んでいきかけた両刃鎌を空中でキャッチ。重力に轢かれるまま、その勢いを利用して、男めがけて斬りかかる。
「らああぁぁッ!!」
「クソがッ!!」
 片や雄たけびを、片や怨嗟の声を上げながら、二人の得物が火花を散らしてぶつかり合った。そのまま猛攻を繰り出すナギトに対して、男も負けじと盾爪を自在に振るい、互いの攻撃を打ち落としていく。
「テメェの目的は何だ! 何のためにこの村を襲うんだ!!」
 攻防一体の男の連撃に押され、それでも自らを奮い立たせようと咆哮するナギトの顔もまた、デルタと同じく怒りに歪んでいた。しかし直後、男が繰り出した体重を乗せたシールドバッシュに吹き飛ばされ、大きく後退を余儀なくされる。
「そういう命令だよ! 俺たちの目的のためには、お前らを――お前らが受け継いでる「力」を、滅ぼさなきゃいけないんでね!!」
 踏み出した足で地面を鳴らしつつ、男は見下した態度のまま、悪びれることもなくそう告げた。そのまま続けて何事かを口走ろうとした男だったが、男めがけて飛来する炎の塊によって、それは中断される。
「貴様らの目的など、関係ない! 貴様は多くの命を奪った大罪人、なればこそ、私は貴様を許さない!」
 片手に剣を携え、空いた手から火炎の弾丸をばらまきながら、男めがけてレイが肉薄する。
「罪なき命を奪った報い――その身に受けろ!!」
 剣の間合いに入るよりも前に、レイは両手で長剣を振りかぶる。その切っ先には、先ほど撃ち放たれていたそれよりも、さらに密度を増した炎が、赤々と煌めきながら渦巻いていた。
「――操炎刃!!」
 何らかの手段を講じたことを直感的に察した男が、再び盾爪を構え、防御の姿勢を取る。
 男には到底切っ先の届かない距離であるにもかかわらず、振るわれたレイの剣からは、燃え盛る炎の刃が伸びあがった。そのまま、鞭のようにしなる炎の刃が、まるで大蛇のごとく男へとしなだれかかる。
「グ、ッソ……!?」
 幾度かの剣戟を防いだ男だったが、不意に炎の刃が軌道を変え、ぎゅるりと男を取り囲んだ。そのまま螺旋を描き、巨大な壁となった渦巻く炎めがけて、レイは刺突の体勢を作る。
「吹き飛べぇッ!!」
 直後、燃えたぎる炎を纏った剣を、レイが炎の中へとまっすぐ突き出すと、渦巻く炎が一瞬で中心部へと収束。一泊遅れて、熱風と光を孕んだ巨大な爆発へと姿を変えた。
 レイが男めがけて行使した、華炎輪舞の力は、相当に力を抑えなければ人でさえも瞬きの間に灰塵に帰してしまう。それ故、本来ならば人々の安全を脅かす危険な「魔獣〈アクリス〉」に対して振るわれるものだ。幾ら街の人々の命を奪ってきた存在であったとはいえ、全てを焦がす獄炎を人に向けるのは、さしものレイであっても、ためらいを隠すことはできなかった。


「っゲホ、ゲホッ……っち、中々効くじゃねえかよ」
 それゆえだろうか。天へと立ち上る真紅の火柱が霧散した後には、纏っていた衣服をボロボロに焼かれ、露出した肌に無数のヤケドの跡をつけ、防御のために構えていた盾を真っ黒に焦げ付かせ、それでも膝をつくだけにとどめた男の姿があった。


*********


と言うわけでこんにちはー、コネクトです。
半月ぶりの更新となりましたが、BBBの第三話を更新させていただきました。ホントはもう少し早く更新する予定だったのですが、書き上げたままで投下するのをすっかり忘れておりましたw


さて、今回はようやっと旧一話に相当する部分へと足を踏み入れることになりました。ただ、お話の大筋から根本的に変更されているため、相手取る敵は機械兵の大群に加え、今後のキーキャラにもなりうる謎の男へと変更されています。
この謎の男、私の過去の作品群を知っている方にならば、絶対に正体が速バレするであろう自信がありますw
だってコネクトの持ちキャラの中で爪使いって一人しかいないし…w


でもって、今回のお話はここでは終わらず、次回第四話との前後編になっています。本来ならば次話までを纏めて第三話として透過する予定だったのですが、書いているところで両方合わせると文字数が二万を超えてしまうことが発覚したため、やむなく分割と相成りましたw
本来切る予定は無かったので、今回も中々不自然なところで文章が途切れていますが、そう言う仕様となってしまったのでご理解とご容赦をお願いします。


次回は謎の爪男との決着、そしてアレファの村の最終回となります。
ここから先の物語はコネクト自身もプロット以外はほとんど考えていないため、どういう風に進んでいくかは全く予期しておりません。そのあたりも含めて、これからもBBBをご愛顧いただければ幸いです。


それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ