コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

異世界行ったら門前払い食らいました

第18話 切り伏せる者と射抜く者


「よーし着いたぞ、ここら辺がベースインプの出没地だそうだ」
銀髪オールバックのダンディズムあふれる中年、ゴーシュと緑髪のポニーテール少女、サラを仲間に加えた俺たちは、この辺一帯の地理に詳しい
ゴーシュの先導により、クエストの目的地であるセルビス郊外へとやってきていた。
セルビス周辺は、潮風が心地いい平原地帯である。魔物らしい魔物も出没せず、ここ一帯に住む人間たちがよく観光に来る場所らしい。
確かに、いましがた俺の周囲を吹き抜けた少しばかり塩辛い風は、何とも言えない爽やかさを味わわせてくれる。カノンも同じ感想らしく、
遠くで輝いている海を機嫌よく見つめている。
「……ゴーシュさん、本当にここで合ってるんですか?」
だが、こうも平和だと安心感よりも不安が押し寄せてくるものである。常日頃から緊張感を持つ冒険者なら、この感覚はなおさらだ。
そんなことを問われたゴーシュは、しかし豪快に笑う。
「ははは、大丈夫さ。依頼主がここっていうんだから間違いない。それに――」
もう気配はあるぞ、という一言で、俺の頭のスイッチが切り替わった。次いで、「今は」手元にない精霊の大剣の代わりに、腰に吊っておいた
愛用のバトルソードを二本、音高く抜き放つ。
その音につられてか、女性二人も臨戦態勢に入った。カノンは腰のホルスターから短杖を、サラは背負っていた長弓(ロングボウ)を、それぞれ
引き抜いて構える。二人とも初心者であることに変わりはない――いちおう俺も初心者だけど――のだが、それにしては随分と構が様になっている。
特にサラのほうは、これが初陣とは思えないほど――道中でゴーシュから聞いた話だが、彼女はギルド登録のクエスト以外ではこれが初めての
戦闘だという――似合っていた。どこかのファンタジー小説に登場してもおかしくないくらいには。
が、構えの優美さに反して、サラの顔は緊張からか、思いっきりこわばっていた。ひそめた眉がひくひくと痙攣(けいれん)し、動揺の色を映す瞳は
いつ襲われるかと怯えた小動物みたいな目をしている。これは戦えそうにない。
「ゴーシュさん、前は任せて」
「頼んだぞ。……あと」
ゴーシュに向けて、遠回しにサラの援護を要請して振り向いた直後、そのゴーシュが思い出したかのように言葉をつづけた。
「ゴーシュで構わないぞ、タクト。代わりに俺も、お前を呼び捨てにさせてもらう」
「……ん、わかった」
なんだろう、すこしくすぐったい感じがする。最近人とふれあってなかった――向こうの世界、つまり現実の話だが――からか、ゴーシュの言葉は
俺にとって遠いもののように聞こえていた。
そんなことを考えていると、不意に目の前の茂みががさりと揺れ、次いで影が飛び出てくる。一直線に俺へと向けて飛んできたのは――石だ。
それほどの速度でもなかったので、苦も無く剣で弾き飛ばすが、直後に石を投げてきたのであろう本体が飛び出てきた。
一言でいえば、ゴブリンが小人になったようなもの、とでもいえばいいのだろうか。全身が筋肉のような、脂肪のような妙な物質に覆われており、
顔に相当する部分から覗く瞳は血走っている。荒い息を吐いて振り回しているのは、簡単な作りの棍棒だ。
15歳男子にしてはすこし背の低い俺の腰あたりまでしかないのが、何よりの特徴だった。意味の分からない雄たけびをあげて、こちらに突進してくる。
「こいつが!」
「ああ、ベースインプだ!サクッとやっちまえ!」
ゴーシュの口ぶりからするに、そこまで脅威になる敵ではないのだろう。そもそも初心者用のモンスターなので当然だ、という感想を
頭の中で浮かべながら、俺は一歩を詰めると同時に右手の剣を袈裟懸けに振りぬいた。
同じく突進してきていたベースインプの胴体が真っ二つに切り裂かれて、そのまま地面におっこちる。これは確かに、サイズ通りの弱さだ。
念のため女性陣に、アイコンタクトでそこまでの相手じゃないと教えておく。二人は意味を理解してくれたらしく、両方とも武器を持ち直す。
それを確認したらしいゴーシュが、背中に吊っていたハルバードを取り出して叫んだ。
「一匹いたら三十匹がセオリーだ、まだまだ来るから気を引き締めてかかれ!」
「どこのゴキブリだよ……」
ゴーシュの注意喚起に若干げんなりしながら構えなおすと、彼の言葉通りにあちこちの茂みからベースインプが飛び出してくる。目測でも20匹は
くだるまい。どうやら、インプ系は物量作戦が得意らしい。
「らあぁぁぁっ!」
だが、いくら数が多くても紙耐久では元も子もない。気合とともに繰り出した衝撃波攻撃――名前つけるの忘れてたけど――が、目の前の4匹を
一度に葬り去る。先ほどの攻撃速度と今の衝撃波の二つによって、周囲のベースインプが若干たじろいでいる。
「グレイラ・バトク……『土の砲(アースバスター)』!」
直後、カノンの声が響くと同時に、俺の真横にいたインプめがけて無数の土くれが突き刺さった。ショットガンのように放たれた大量の土弾が、
8匹前後をまとめて吹き飛ばす。
そちらに目を引き付けられていたところに、別方向へ向けて矢が飛んだ。現在のメンバーで弓を持っているのはサラだけなので、彼女の攻撃だろう。
が、その精度は恐ろしいもので、一発の矢でなんと3匹をまとめて打ち貫いている。俺がやったらとてもではないがまねできそうにない。
「チェストオォォォ!!」
直後、俺の横を暴風が駆け抜けたかと思うと、ゴーシュが降りぬいたハルバードにからめとられて残るベースインプがまとめて掻っ捌かれた。
その破壊力たるや地面をえぐり散らすほどであり、土くれと一緒に彼の実力を見せつけられる。
――つーか、ぶっちゃけた話俺いらないな、これ。最初のやつもゴーシュが俺の力量を見極めるためだったんだろうかと憶測が脳裏を走るが、
それ以上は続かなかった。
「タクトくん、前っ!」
「えっ」
カノンの声につられて前を向くと、目の前から飛んできていた何かが顔面――正確には額の部分に命中した。
「のっごっ」と間抜けな悲鳴を上げて、のけぞりながら地面に倒れこむ。直撃部分をさすりながら飛来物の方角を見ると同時に、
「……あーなるほどな。どうりで多かったわけだ」という、ゴーシュの溜息に似たつぶやきが聞こえる。
そこにいたのは、先ほどまで相手にしていたインプよりも3回りほど大きい、赤い頭のインプだった。その周囲にベースインプがわんさと
群がっていることから、どうやらあいつはリーダー格らしい。群がっているほうも、ざっと40匹は下るまい。ゴキブリよりもたちの悪い数だ。
駆除依頼の真相は、こいつにあるようだ。そうあたりをつけて、ゴーシュにアイコンタクトをとると、彼もうなずいてくれる。
「……だったら、仕返しついでにぶっ潰す!」
威勢よく啖呵を切り、二本の剣を振りかぶって突撃をかける。相手方はこちらの反応がご不満だったらしく、キーキーと怒ったような声で
地団太を踏んだかと思いきや、周囲のベースインプがわらわらと突撃をかけてきた。命令系統の鳴き声だったようだ。
が、先ほどの交戦でベースインプは対して強くないことはわかっている。ぶっちゃけた話、もしかしたら森イノシシのほうが強いかもしれない。
いや、実際のところは一般人にとって、そこまで変わらないのだろう。あくまで俺が剣という抗う術を持っていて、力をつけて自信を持った
冒険者」であるから、怖くもなんともないだけなのかもしれないな。そう考えると、少し笑える。
この世界に来る前は何の変哲もない、高校受験がじりじりと迫る中学三年生。
この世界に来た後は何の変哲もない、世界中で当たり前に存在する冒険者……あれ、結局一般人なのは変わりないのか。
ともかく、ここに――カイ・ドレクスに来てから、俺の中で何かが変わったのは事実だ。少しだけ嬉しく思いながら、両の手に握った剣を
振りかぶる。広範囲を薙ぎ払うには、衝撃波攻撃が一番だ。大多数戦は経験したことがないので、ちょうどいい腕試しになる。
「『フラッシュレイザー』!!」
叫びながら頭の中で形をイメージする。それを起点として魔力素子が収束し、剣の軌跡から撃ち出されたのは、白い燐光――光属性の魔力素子で
形作られた衝撃波だった。うなりをあげて殺到する魔力素子の奔流に、ベースインプたちも命の危機を悟ったらしい。じたばたと暴れ、
逃げ出そうとした頃にはすでに衝撃波によって大半が切り裂かれ、真っ二つになったあとだった。成功の喜びで、自然とガッツポーズが作られる。
「やるなタクト……なら俺もぉ!」
その光景に触発されたのかは知らないが、ゴーシュもまたハルバードを振りかぶって突撃してきた。彼の進路から飛び退くと同時に、その手に
握られていたハルバードが――ブン投げられた。
何をしたのかとそちらを見やると、投擲されたハルバードが弧を描き、さらにその外周で魔力素子が輝いている。つまりゴーシュの攻撃は、
魔力素子を刃――ロボットものでよく見るビームソードとかあんな感じのものが近いか――にして相手を切り裂くという代物らしい。
俺の読み通り、ゴーシュのハルバードは輝く緑の――風の魔力素子によって切れ味を強化され、射線上のベースインプを薙ぎ払った。
その威力たるや、攻撃を終えたハルバードの刃先が根元まで地面に食い込むほどだ。いや、これはゴーシュ本人の腕力のなせる技か。
彼の実力の高さを改めて実感しながら、次に飛来するであろう女性陣からの射撃援護のために、再度射線から飛び退く。
「グレイラ・ワズル=メイワルクー、『広き大地の波動(メガワイド・ガイアエミッション)』!」
はたして、その予感は的中した。つい先ほどまで俺がいた場所を、カノンが放った土魔法が駆け抜けて、迫っていたベースインプに突き刺さる。
その動きは、さながら地面が意思をもって隆起してベースインプたちを葬っているかのようだった。実際カノンが操ってるのだろうけど。
その攻撃に合わせて、サラが引き絞った弓から光る矢を放った。魔力素子で生成されたらしい黄色のそれは、目標めがけて飛翔する途中で
幾本もの光の矢へと別れ、カノンが仕留めそこなったベースインプたちを次々と貫いていく。
なるほど、魔力素子には衝撃波以外の使い道もたくさんあるようだ。練習を重ねればできるかな、という期待を込めながら、眷属をつぶされて
フリーとなった親玉へと詰め寄る。ゴーシュはハルバードの回収、カノンは魔力の再充填、サラは新たな矢をつがえる準備で、それぞれ動けない。
「――ブルセイ・バトク・ワルクー、『広き光の砲弾(ワイド・フラッシュバスター)』!!」
剣を振りかぶると同時に詠唱を行うと、白い燐光でできた光の玉が剣先にとどまる。これは、ゼックの護衛を行っているときに偶然発見した技だ。
もともとカノンをはじめとした魔法使いたちは、魔法を詠唱しても即時使用で無駄にしないため、携帯している短杖(ワンド)や長杖(スタッフ)に
とどめることができると聞いていた。カノンに関しては状況に応じて即詠唱、即使用というスタンスだったのであまり見ることはなかったが、
本来は杖にとどめて標的をロックオンしてから使うものだそうだ。
それを聞いた俺は、自身が持っている剣でも同じことができないかと考えたのだ。聞いた話では、魔法使いの杖には「魔力を吸収する効果」を持つ
石のみが使われているらしく、魔法をとどめるための特別な道具がつかわれている、というわけではないらしい。
ならばとやってみた結果――現在こうして、剣先に魔法をとどめておくことが可能となった。さすがのゴーシュもそれは知らなかったらしく、
目を点にしながら俺の剣の先を見つめている。
こうして魔法を留めておくのには、特に理由はなかった。しいて言えば、いちいち剣をしまって魔法を使うのが面倒だということか。
そんなことを考えていると、親玉インプが石を投げつけてきた。今度は食らうまいと横に跳び、石を回避したのちに、留めていた魔法を発動させる。
「いけぇっ!」
ビシッと剣を突きつけると、その先端にあった魔法が収束し、一条のレーザーとなって撃ち出された。どのバトク(バスター)系魔法よりも
早く、鋭く形作られた光の槍が、親玉の左目を貫いた。光と熱で焼かれた左目を抑えながら、親玉が暴れる。
「カノン、サラ、頼む!」
それだけ言うと、俺は踵を返して彼女らの射線からダッシュで退いた。巻き込まれたらたまったものではない。
「グレイラ・ボシタ=ギルパルマス、『超力の土爆弾(ギガパワー・ガイアイクスプロード)』!!」
「……『レイニー・アロー』!」
カノンとサラの声が、二重に重なって響き渡る。
直後、大爆発を起こした地面と降り注ぐ矢の雨にさらされた親玉は、あえなく撃破されたのだった。
うん、ちょっとこれはオーバーキルだったと思う。ひいき目に見ても。


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ちょこっと長めの18話をお送りしてちわーっす、コネクトにございますー。
いやはや、久方ぶりにドラクエ10にはまってしまいまして、更新が遅れてしまいました。二週間に一度の更新は守れましたが、この調子だと
次の更新が半月後になってしまわないかと懸念しております…頑張ってか書かないとなぁ。


今回はゴーシュとサラの実力をお送りしたかったのですが、最終的に集団戦をお送りする結果となってしまいました。
一応この後も彼らには頑張ってもらう予定ですが、当初の告知と違ってしまったことをお詫びします。
補足で説明をしますと、二人の実力は軽くタクトを上回ってますw
というのも、二人とも魔力素子による特殊攻撃(ありていに言えば「スキル技」)を体得しており、それを自在に使いこなせる腕を持っているから
というのが理由となっています。タクトも衝撃波攻撃を持っているのですが、そこは練習の量とセンス、運動神経と体力による、ということでw
そもそもタクトの仲間である三人は全員そろってチートなので何も問題ありません(暴論


次回は、タクトが幻の中で風の大精霊ウィンに示された「ヴォルケス火山」へと行くきっかけができる予定です。
数話前で火山に差し向けられていた刺客と対峙する…のは次々回かな?w
ではではまた次回ー ノシ