コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

れっつ更新!

きっすみー、きけんなぁーほーどー、きっすみー、あまいくぅーちづけぇー!
ってことでちゃっす、コネクトにございますー。
曲のネタが切れてきたのでガラじゃない曲をひとつw


今回歌った曲:KissMe愛してる


さてさて今回は繋録にございます!
1章最後ってことなのでフンパツしてみたいのですが……どうだろう、長いかな?短いなw
まぁそんなバカ話は置いといて、一章最終話へとれっつらごぅ!!


*********


1章第4幕
 第19話 怒涛波乱の学園祭!文化の部 by9/26


「わぁお、不細工でもメイクすればいい感じになるじゃな〜い!」
「……ほっとけこのサド女、こちとらプライドがマッハで潰されとるわぃ」
「ふふふふ、そんな顔したらせっかくの美少女が台無しよぉ〜?」
ぶちぶちと文句を垂れるセツとコトハの応酬は続く。
とにかく嫌がる展開が予想されたセツVSコトハだったのだが、実際はセツが抵抗もなしにアッサリ弄られていることに
疑念を抱く人物は、現在コック姿でノリノリのユウ意外にもいた。
「ユウー、セツ君はどう?」
後方の厨房入り口から、ミスマッチなのれんを上げて顔を出したのはマナだ。
担当していた食材の仕込が終わったらしく、騒がしい客席のほうを覗きに来ている彼女の姿もまた、
ユウと同じようなデザインのシェフ服。
今回の文化祭、ユウたち総勢12名の大チーム(実質これほどの規模はそうそうない)は喫茶店モドキをやることにしたのだが、
普通の喫茶じゃ面白くないという(余計な)方針により、どういうわけか女装喫茶として機能してしまった。
女子勢と調理のできる男子数人が厨房を担当し、ウェートレスは全員ドレス姿の男子が担当する。
マニアックな人間達には人気が出るであろうこの施設の準備は、着々と進められていた。


女子にとっては大忙しの、男子にとっては地獄(屈辱ともいう)の文化祭の幕は、こうして切って落とされた。




「委員長」
セツをどう飾り立てようかと悩みつつ笑みを浮かべるコトハの後ろに、ソウとトウヤが立った。
人形遊びを邪魔されたかのような不服そうな表情を浮かべつつ、コトハは渋々顔を向ける。
「なによぉ、人がせっかく楽しんでるっていうのに水をさす気?」
「俺は楽しかねぇがな」というセツの小さな呟きは綺麗に無視され、三人は会話を始めた。
最初に話し始めたのはトウヤ。事務的な連絡事項を話す際には、彼が役に立っている。
「……隊長、どうやら鏡の連中が本格的に始動し始めたようです」
トウヤが言う鏡とは、つまり彼らが敵対する第三勢力「ミラーフェイス」のことだ。
新学期が始まると同時にこの学校へと赴任してきた新米教師「灯 瑛斗」もまたその一人である。
ここ数週間の間目立つ交戦などは行ってはいないものの、瑛斗本人からは異能者たちへの様々なイヤガラセが
行われている。
ここにいる異能者12人もまた、それぞれが被害にあっている……のだが、その程度が奇妙だった。
ソウの場合は、上履きの裏に画鋲。コトハの場合は、下駄箱にスプリング式のオモチャ。
トウヤの場合はメガネを隠されるなど、やり方がとにかく子供らしいのだ。
直接攻撃に打って出ないのは、公共の場で力を使うことへの恐れか、はたまたおちょくってるだけなのか。
おそらくは後者であろう思惑を動かす彼らが、ついに本格行動に動き出したらしいのだ。
「……ふ〜ん、ようやくってカンジかしら」
先ほどまで不満をいっぱいに溜め込んでいた双眸は、きらりと光る鋭い眼に変わっている。
彼女としても、瑛斗やミラーフェイスの行いが気に食わなかったのだろうか、などとソウは考えつつ、口を開く。
「これは単なる噂だが、連中はステージの行われる体育館でしでかすって情報もある」
あくまで噂の範疇から脱せない情報ではあるが、何も情報がないよりはマシだろう。
現に今の状態では、待ち伏せを狙う意外に有効打は見当たらない。相手が動いてから追いすがるという手もあるが、
リアクションを待つのは相応のデメリットが伴うだろう。
ともすれば先に動きたい状況ではあるものの、噂程度の情報意外何もない今奔走するのはあまりにも危険だ――という意見を
口に出した一言で伝えようとし、直後に失敗したなぁとソウが内心で頭を抱える。
が、意外にもその思惑はぴしゃりと伝わっているようだった。コトハが細い指を顎に当てて考える。
「……リアクションを待つのは無粋ね。動こうにも人を裂くことはできないからねぇ〜……」
人が裂けない、というのはもちろんこの喫茶店的な意味合いだ。彼女自身が一番楽しみにしていたのであろうこの行事を
邪魔する不遜な輩は、おそらくコトハに(物理的に)潰されることだろう。
そんなことを考えながら、(背中に少なからず走った怖気を打ち消すように)トウヤが提案を出した。
「人員が裂けないのならば、先行部隊として一人を体育館に向かわせるのはどうでしょうか」
彼の提案を要約すると、まずは噂のあった体育館に監視要員として人員を一人配置。
もしも襲撃があった場合可及的速やかにこちらへ連絡し、手の空いた人員を戦闘部隊としてそちらへとまわす。
残りの人員は喫茶店の運営に残し、少数だけで殲滅にかかる……というものだった。
横で話を聞くセツとソウは、今更ながらにこの人物達の知恵の回りように驚いていた。
いや、これはもしかしたら当たり前なのかもしれない。一つの隊を率いる隊長と、それを補佐する人間であるからこその、
的確な判断と思考に基づいた作戦だろう。二人もこれには何も言わず、沈黙で賛成を示した。
「となると、後は偵察員と戦闘員か……」
作戦が決まれば、次は実行に移すメンバーを決めなければいけない。
偵察員の役目は報告だけなので、そう強力な人選でなくともいい―――普通は。
「偵察のほうもなるべく強い子をチョイスしたいわね……」
しかし、コトハの言葉は全くの見当違いだった。
「なんでだよ?別に偵察だけなんだから、あわよくば能力無しででも……」
というソウの反論は、飛んで来たコトハの鋭い目と言葉で封じられる。
「いい?どっちにも人を裂けない状況下では、戦闘員の人数が勝敗を決するの。仮に偵察の子が弱かったとして、
戦闘員として出した連中がやられちゃったらどうするのよ?こっちからはそれ以上人員は裂けないわけだし、
そうなったら最後は偵察の子にも戦ってもらわなくっちゃ」
つまり偵察を強くする理由は、保険なのだ。万一にやられる可能性がないとしても、それはただの確率。
覆されるような事象は山ほどあるし、実際に覆された状況を4人は知っている。
「なら、偵察は自分が行きます」
と、名乗りを上げたのはトウヤだった。その実力は、誰も疑いようのないレベルだ。
「えぇ、お願いねゼキア。……さて、後は戦闘員だけど」
という言葉を遮ったのは、意外にも今まで沈黙を守っていたセツだった。
「なら、俺と星川が適任だと思う」
いきなり声が上がったのでびっくりしながら、コトハはその理由を問いかけた。
「……どうしてよ?アンタはともかくとして、ユウちゃんはまだまだヒヨっ子よ?」
「ヒヨっ子だからこそだ。これから先、修練だけでは実力を付けられなくなることもあるだろう。
そういうときのために、まだ相手の弾圧が弱い今のうちから実戦になれておくのがいいんだ」
少々ムチャクチャな気はしたが、それでも理にはかなっていた。
が、それだけで決定というわけにはいかない。今回はおそらく、強力な異能者が迎撃に来ると予測して
相手もそれ相応の力を持った人間を送り込んでくるはずだ。
今度の襲来は、ただの訓練では済まされない。コトハがそれでみすみす仲間を捨てるような人間ではないことを、
トウヤはもちろんセツたちも知っている。後一押しが必要だ。
そしてその一押しは、直後にセツの口から放たれた。
「それに、アイツと俺が行けばいざって時には合体異能も発動させられる。やぶさかだが、
もしものときはそういう真打に賭けることだって可能だぜ?」
言われるとおり、二人は合体異能を発動させるに足る異能と技量を持ち合わせているのだ。
普段の二倍ではなく、二乗の力を発揮する合体異能があるならば、戦力的には充分。
「…………わかったわ。トウヤ、アタシの大事なお友達たちを、絶対に護って差し上げなさい」
「承知の上です」
強く笑うコトハは、どこからか湧き上がる頼もしい感情に身を委ねていた。
全幅の信頼を置く上司からの命を受けたトウヤも、力強く頷く。


―*―*―*―*―*―*―


「さぁて、いいわね愚かな男子諸君!!」
開店10分前、集合したメンバーの眼前にたつコトハが、心底楽しんでるかのような顔と声色で高々と喋るその姿は、
先ほど真剣味のある声と顔で作戦会議を開いていた人物とはまるで別人のように見えた。
彼女の残忍な一面を知るユウたちからしてみれば、この変容っぷりは逆に疑念を感じるものがある。
が、声高に話す彼女の一挙一動には何かを企んでいるかのようなそぶりは見受けられない……というのはセツの言葉。
確かに彼の言うとおり、コトハには敵意のような感情が全く見受けられないのが実情だ。
もっともそれは女子だけの話で、男子勢(一部除く)には重いプレッシャーを与えていることだろう。
その証拠に、女の子姿になった現在の男子勢は揃いも揃って沈痛な面持ちをしていた。
全員同じような表情なので、ユウは思わず噴出しそうになるのを必至でこらえる。
「貴方達には、普段からアタシたちがやっている仕事をやって貰うわ!失敗したら……わかってるわね?」
彼女の背中から何かのオーラが吹き出たような気がするが、錯覚だとユウはかぶりを振る。
「あと、ヘマの数が一番多かった人にはバツゲームよ。覚悟しておきなさい……?」
締めに飛び出たコトハの本気な声色には、男子勢が震え上がっていた。こういう状況下では、
男子の立場というものは果てしなく低くなる。それを改めて実感した男子は、何人いただろうか。
とにもかくにも、ユウたちにとって初めてとなる文化祭は幕を開けたのだった。


―*―*―*―*―*―*―


「カフェオレ一つはいりまーす」
「はーい」
1時間ほどすれば、敷地内の探索で疲れた客たちが憩いの場を求めるために来店してくれていた。
ウェイトレスの人数につりあうほど多い客足ではなかったものの、充分な成果といえよう。
対象的に、ユウたち女子が取り仕切る厨房のほうは中々に忙しかった。
調理をこなすのはもちろん、ドリンクやら仕込みの必要な食材を仕込んだりなど、数人の男手が
あるといえど忙しいのは事実だった。
「……ふぅー、思ってたよりも大変だなぁ」
料理関連の知識があったおかげで奇跡的に女装を免れたリクが、別の客から注文のあったホットケーキを焼きつつ
むかいのユウに向けて呟く。
「だね。向こうの人たちも結構忙しそうだけど、こっちよりは……ねぇ」
ちなみに、こちらはミックスジュースを作っている最中だった。ちょっぴりうるさいミキサーを押さえながら、
ユウはリクの言葉に返答した。続けて、注文をとりに入ってきたレン(青地に白いフリルのメイド服風ドレス。
どこから持ってきたのかは不明だがマナが用意した)のほうを見やる。
胸中に渦巻く思いを言葉にして現すならば、「何で女装喫茶にしたんだろう」の一言だろう。
もとより、ユウは男装を始めた後も可愛いものには目がなかった。今でこそ自室は片付いているものの、
数年前までは色々なところで入手した可愛らしいぬいぐるみやら何やらでいっぱいだったのだ。
(ちなみにその当時、リクにセンスを伺ってみると「俺には理解しがたい」と言われ肩を落としたこともあった)
その趣味は無論服にも適用されるわけで、今着用しているバーテンダーのようなコック服も気に入ってはいたものの、
本音を言えば向こうのドレスを着てみたかったのだ。
趣味からきた先刻のぼやきの内容を、幼馴染であるリクはきちんと理解している。
「まぁ、ユウたちにとってはあっちのほうが楽だろうけど…………俺は勘弁願いたいな」
そう言ってコトハの言葉を思い出したらしく、フライパンを持ちながら軽く震えている。
目では見ていないものの、その挙動が面白いぐらい判りやすく伝わってきたため、ユウもまた苦笑した。
「ふふ、まぁ確かにリクの女装姿はあんまり見たくないなぁ」
「おぉ……わかってくれるか」と返ってきた言葉があんまりにも切実そうだったので、思わず噴出す。
「ホットコーヒーとオレンジジュースひとつづつ頼むー」
そうこうしていると、ソウの声が響いてきた。それと同時に、注文を運ぶためにセツ(完全なメイド服。
うっかり口を滑らせたのが原因でセイバーの知己に用意されたらしい)が厨房に入ってくる。
「…………はぁぁぁー……」と、盛大なため息を吐くのが聞こえた。
「……えらく意気消沈してるな、ボサボサ」
こちらもまた調理ができるということで女装を免れたギンが、どこか面白そうにセツに話しかけた。
「……なんでまたあの人きてるんだよぉぉ、いやだよぅ、いっそ死にたいよぅ、帰りたいよぅ」
ブツブツと文句を垂れながら、セツは手に持つお盆の上に注文の品を載せる。
あれでいて厨房の外に出たらきちんと客に応対しているので、ある意味ではセツも楽しんでるようにみえた。
が、今回のセツは少々深刻な悩みを抱えているような気がする。先ほどの大きなため息が証拠だ。
「なーにでっかいため息ついてるのよ。美人が台無しよ?」
見かねたコトハがからかい半分に話しかけるが、セツの態度は変わらない。
「……お前さぁ、タダでさえ恥ずかしい姿を……お前の場合はインフェルノか。そいつに見られたら
どう思うよ?」と、反撃にも出てきたのはコトハも予想外だったらしい。
少し言葉に詰まった後、考えを整理した口で素直な感想を告げる。
「アタシは、どんな姿であろうとインフェルノ様の前でなら耐えられるわよ……って、ねぇ、もしかしてもしかするの?」
コトハが最後に呟いた言葉に、セツが力なく頷いた。
いまだにユウとリクは理解できてなかったので、ここはおとなしく聴いてみることにする。
「……あの、セツさん。だれか顔見知りの人でもきてるんですか?」
ユウの言葉を受けたセツが、さらに肩を落とし(ほとんど腰も折っている)ながら聞こえるくらいの声量で呟いた。
「知り合いも何もそんなんで済んだらどんだけ幸せかわからんだろお前らにはこの恥辱にまみれた姿を
ほとんど親代わりの人間に見られることがはずかしくないのかお前らそれでも人かあーもーちきしょう……」
と、呟くよりはマシンガンのごとき愚痴を漏らしただけだったのだが、彼の言葉から
ユウには誰が来ているのかわかってしまったらしい(しまった、というのはセツに同情しているからだ)。
尋常じゃないセツの落ち込みっぷりと言葉に圧倒されていたリクも、数瞬遅れて理解したようだ。
とても言い出す勇気がないユウに代わり、頬を引きつらせながらリクが問いかけてみる。
「…………つまり、総帥が来てるのか?」
「ぬああああぁぁぁぁぁいうなぁぁぁぁああぁ俺のプライドをミンチにする気かぁぁああぁぁ」
リクの言葉にほとんどかぶせるように(聞こえないふりをするように)、セツの口から呪詛のようなうめきが漏れた。
声色が変わっているせいか、ものすごくいいビブラートがかかっているのがまたなんとも切ない。
その落胆ぶりからすると、どうやら本当に総帥――セツの上司であり、よき親代わりのような人物である
World saver総帥「アストレア」が来ているらしい。
以前、セイバーの本部以外の場所(夏祭りの会場)で合った事がある二人が、セツと同じように
彼のアクティブさに恐怖を覚えた――かどうかは定かではない。


ちなみにこの後、セツと入れ替わりにやってきたソウも同じことを呟いていたりした。


―*―*―*―*―*―*―


ところ変わって体育館。トウヤは体育館の二階スペースで、客に紛れながら監視を続けていた。
無論服装は普通の男子制服。偵察を引き受けたのは、ほとんどこれが理由だったりする――かはわからない。
《チームストロベリーの皆様、お疲れ様でした!可愛いダンスでしたね〜》
現在、開演から4組目のチームが発表を終えたところで、特に目立った変化はない。
唯一起こった事と言えば、一組目の漫才組の片割れが緊張のあまり何もないところですっころび、爆笑を誘ったことか。
司会を務める男子生徒の心にもない称賛で、体育館は笑いに包まれる(理由は可愛いというより綺麗だったから)。
(……平和だな、ずいぶんと)
会場全体をすみまで見渡しながら、トウヤはそんなことを思った。
インフェルノの――コトハの元で様々な任務を遂行しているときは、少なくともこのように平和なことはなかった。
あった時間といえば、休眠と休みない監視、もしくは戦闘や偵察ぐらい。
そんな状況に慣れきってしまっていたトウヤには、この時間は正直退屈だった。
不意に、頭がかくんと揺らいだ。無意識のうちに眠気に苛まれていたらしく、頭を揺らした衝撃でズレ落ちた
度が入っていない銀縁のメガネを手で直しながら、改めて監視に集中する。


しかし、それから3組が発表を終えても動きはなかった。
《それでは、これより15分の小休憩といたします。次の発表を控えている方は準備をお願いします……》
司会者のアナウンスを耳に受け、反射的にトウヤは頭を起こす。
完璧に眠ってしまっていたらしい。適度に効いた空調(今日のために設置されていて、普段は動かない)と
気の緩みが、睡魔を誘ってしまったようだった。
コトハの側近として、この程度で眠ってしまったことが度し難いと歯噛みしつつ、ふるふると首を振って
眠気を頭から払い落とす。と、ふった首の端に何かが見えた。
(…………っ、灯瑛斗か!)
その視界に写ったのは、違わず新赴任の教師である「灯 瑛斗」だった。
ミラーフェイスの首領として、もっとも危惧すべき存在でもある。そしてその男は、小脇に
黒いカバンを抱えていた。発表の鑑賞にきただけならば、それは不自然極まりない。
注意深く監視するトウヤは、続けて更なる現象を目撃する。
瑛斗の周辺に、今まで観客として席に座っていた数人が集まってきたのだ。よく見ると瑛斗に敬礼もしている。
だが、まだ決定打にはならない。最後に一つでも、確証が必要だ。
―――そして瑛斗は、元観客達に小型の装置を手渡した。
「――させない!」
そのとき、無意識に口から漏れた言葉は本心か、それとも願いか。


   ***


「あら、お出ましね」
その頃、コトハのコック服に忍ばせてあった形態が鳴っていた。誰からかは見るまでもない。
「ユウちゃん、どうやら出番みたいよ」
前もって作戦を伝えられていたユウが、緊張した面持ちで頷く。
この反応は当然だろう。真正面から敵とぶつかり合うのは、これが初めてなのだから。
コック帽を脱いだユウは、隣にいたリクに断りを入れる。
「ごめん……頼める?」
旧知の幼馴染は、ユウの言葉の意味を違わず看破していた。
「ああ。思いっきりやってこい!」
左手の親指をぴんと直立させて、リクが答える。その笑みには含むものはなく、ただ純粋な送り出しの言葉だった。
「それ、本来は俺のセリフなんだがなぁー……」
と、不意に後方から声が上がった。振り向くと、注文を置くスペースにセツが腰掛けていた。
その服装は既にメイド服ではなく、いつか着ていたセイバーの制服に変わっている。
ライトブルーの下地に一本の白いラインを引き、襟を白く、袖を黒く染められた彼専用のジャケット型制服。
その右手には、普段から纏う蒼い炎ではなく、たたまれた金色の布がのっていた。
不審に思うユウに向けて、セツはそれを放り投げる。
「お前の制服だ。渡すのが遅れちった」
広げてみると、それはセツのものと同じデザインを施され、黄色に近い金色の下地を持つジャケットだった。
「あ……えっと、ありがとうございます」
「礼はいいからすぱっと着ろし。敵さんは待っちゃくれないぞ」
確かにそうだ。この状況下で、既にトウヤが単身戦っているかもしれないのだ。
そのことを悟ったユウはこくんと頷き、コック服のベスト状上着を脱ぐ。
「……トウヤを頼むわね。あの子、誰かの指令がないと弱いから」
その間、コトハはセツに苦笑を混ぜた言葉をかけた。冗談めかした声色の意味を、セツもまた理解する。
「へいへい、せーぜー頑張りまっさけ、おんどれはここでじっとしとけ。
乱入なんてヘマはせんとってほしいけんね、ワシらにまかしとけや」
色々な地方の方言を混ぜながら、セツもまた冗談交じりに返してきた。
「いきましょう、セツさん!」
ユウも着替え終わっていた。セツが首を鳴らして、それに答える。
「っしゃ、一発ブチ転がしにいきますかぁ!」
その言葉を皮切りに二人は身を翻し、体育館へと向かうべく廊下へと飛び出て行った。




午前11時という中途半端な時間帯は、お祭りを楽しみに来た人間にとって午前最後の遊び時となっている。
故に人影もまばらな校舎内廊下を、ユウとセツは疾駆していた。
「セツさんっ!」
「あんだ!」
既に息の切れかけているセツに向け、不意にユウが問いを投げかけた。
「最近よくミラーフェイスって聞きますけど、具体的にはどのくらい戦力があるんですか?」
聞かれ、セツはしばし唸る。
「……そうさな、率直に言ったら、インフェルノ勢よりも強いかもしれん。なんせ異能を限界まで行使できる、
連中曰く『選ばれた人間』だけで構成されているからな」
選ばれた人間という言葉が持つ意味は、そう多くない。
今回、その言葉が持つ意味はおそらく「強力な異能と実力を持った人間」であろう。
それほどの敵が襲来してきているかもしれないというのに、なぜセツは自分を連れ出したのだろうか……という疑問が走る。
いや、実際に言えば理由は既に伝えられている。「実戦になれるため」というのがセツの言葉だったが、
戦闘に耐えうる異能と実力を持たない自分が、経験を積んで何になるというのだろうか?
自分よりも、ギンやレンなど、もっと強い人間に経験を積ませればいいではないかという疑問が、先ほどから
ひっきりなしに頭の中を往来していた。
が、考え続けている余裕はなかった。目の前には、すでに体育館の扉がある。
ドアノブに手をつけ、開こうとしたまさにその時――――。
ズガァァァァン!と稲妻でも炸裂したかのような、耳をつんざく轟音がとどろいた。
耳をふさぎながら目線だけで横を見ると、同じくセツも耳をふさいでいる。流石の熟練者も、この奇襲は読めなかったようだ。
何より、この轟音で危惧するべきは周囲の人間の混乱だろう、とユウは冷静に分析する。
先にここをふさいでしまうのが吉だろうか?それとも手っ取り早く戦闘を終了させ、何事もなかったと安心させるのが
いいだろうか?
などと色々な考えが過ぎるが、結局その思案は無駄に終わった。
「こいつぁマズイか……。星川、一気にカタをつける。コイツを開いたら、お前が仕えるありったけをぶち込め!」
「わ、わかりました」
セツの提案した一撃必殺の攻勢に、ユウも便乗したのだ。
セツの手からは既に、闘志の表れとして蒼い炎が揺らめいている。それを見て、ユウも両の手に金色の炎を纏った。
いくぞ、というセツの声が、突入のカウントダウンに切り替わる。


    ***   


「…………ふふ、驚いた。まさかおれっちの電撃を耐えるたぁなぁ……」
同じ頃、周囲にパリパリと音を鳴らす電撃が撃ち出された体育館内は、幸い休憩時間だったということもあり
無人だった。
その只中、3人の男が一人の少年と向かい合い、話をしている―――否、せせら笑っていると言った表現が適切だろう。
男の冷笑を、しかしトウヤは冷静に受け流す。
「現在、World saver側から不正な異能利用は禁じられているはずだ。なぜ使用した?」
さらに、敵であるはずのセイバーの条約を逆手に取るという行動にも出た。頭が切れる故の策だろうか。
が、男が再度口を開こうとする前に、それを制した人物が進み出た。
「君は確か、1年B組の枢木(くるるぎ)くんだったかな……いや、この状況では、インフェルノ教の使徒
ゼキア・ド・ゼノくんと呼んだほうがいいか」
クククと低く笑うのは、黒いカバンを小脇に抱えた首謀者と思しき青年「灯瑛斗」本人。
ゼキアと呼ばれたトウヤは眉一つ動かすこともなく、彼の全身に注意を向ける。
全身から言われようのない殺気を立たせているのを、彼は警戒しているのだ。
そしてその直後、グワシャン!!という轟音がひとつ響いた。アルミ扉がひしゃげる音に似たその効果音は、
瑛斗にとっては敵襲を、トウヤにとっては味方の来訪を知らせる警鐘に聞こえる。
「いけ、星川ぁぁぁっ!」
「やあああああっ!!」
次いで、少年の怒号と少女の裂帛の咆哮が耳に届く。声の主は、もちろん予想されていた二人だった。
つまり―――ユウとセツ。
咆哮が体育館に響くと同時に、ひしゃげたアルミ扉の向こう側から輝く息吹が飛来する。
「っ」
反射的に、双方が回避行動をとった。金色の「炎」は無人の空間を薙ぎ払い、壁に着弾して燃え尽きた。
「つぎぃ!!」
そしてその直後、別の咆哮がとどろく。次いで飛来した蒼い炎は、寸分の狂いもなく瑛斗たちの方角へと
向けられていた。
「むっ!?」
しかし、その行動に追いつく――あるいは追い越すかのような反応速度を発揮した瑛斗が、異能の力を応用した
漆黒の障壁を展開。襲い来る青い炎龍を、衝撃と共に弾き返す。
が、さらにその直後、全く予想だにしない方向から4つの「ブーメラン」が飛んで来た。
「うおっ、リーダー!」
「くっ……散開!」
その奇襲攻撃にも、瑛斗はすばやく対応する。指示を飛ばされた残りの二人も即時対応し、飛来したブーメランを
ギリギリまでひきつけてかわしてのけるあたり、その実力は相当のものだと伺える。
そこまで観察し、自身たちのほうに回避してきた人物を見たセツは衝撃を受けた。
「なっ…………こっ、「コーラル・ロバーシア」!!」
そう、その人物は先日体育祭の中でメグミに奇襲を仕掛け、あまつさえ彼女のプライドを傷つけた……そして
春半ばにユウたちを襲い、彼らに異能という存在を教えた張本人、コーラルだったのだ。
悪行に手を染めているコイツを、アストレアやセイバーの幹部が赦すはずもない。よって彼は、いまだ
拘置所の中で反省させられていたはず。しかし現在、実体としてセツたちの前に立ちふさがっている。
そして相手のほうもまた、思考をめぐらせるユウたちに気づいたようだった。
「おや」と気のない呟きを漏らし、次いで顔を明るく歪める。
「ほぅほぅ、君たちは一昨日の……。そちらの少年の容姿とその異能。間違いないね」
コーラルが指すのはセツのことだ。三年前の異能事件に参加し、戦果を挙げたセツのことを異能関係者が
知らないはずもない。
このままセツに興味を持つかに思えた中年の男だったが、しかしその直後にその目がユウの方向に移動した。
さらにその後、何か眩しいものを見るかのように男が目を細める。
「……ふぅむ、そちらのお嬢さんはまた可憐だなぁ。一昨日の茶髪の彼女にも負けず劣らず、か」
まるで品物を吟味するかのような無機質な、しかし粘つくような視線がユウを真っ向から射抜く。
その圧力は、受けたことのないものにとっては怯むに足る重量を兼ねていた。
「っ……!」
「おい」
ユウが目をそらそうとした刹那、彼女とコーラルの間にセツが割り込んでくる。
それに併せて男も粘る目の色を変え、彼に問いかけた。
「なんだね、キミは。人が楽しんでいるところに闖入者とは、いただけないねぇ」
と、コーラルが冗談めかして笑う。だが、その目は一つも笑っていなかった。
自身の楽しみを邪魔されて、憤慨しないほうが珍しいだろう。しかし彼のやることは、ほぼセクハラに
近い行為でもあるのだ。故に、セツは立ちふさがっている。
「黙れセクハラジジィ。俺ぁダチが嫌がってる様を見たかねーんだよ……やるんなら自分ちのテレビの前で
一人ニヤニヤしてやがれ」
仲間が傷つけられる姿を見たセツが、これまで見たこともないほどに怒りを宿していた。
その憤怒の形相は、ここにいる全員が見たこともないもので。
「っ…………ふふ、面白いじゃないかコネクト君!お前がそこまで感情をあらわにするなんてなぁ……?
あの裏切り者に聞かせてやったらさぞ面白がるだろう!!」
セツの過去を知る瑛斗の口から、嘲笑にも挑発にも、あるいは感嘆ともとれる言葉が漏れたのだ。
ぎらぎらと光る鋭い目は、まるでそれ自体に刃があるかのように感じ取れる。
「うるせぇっ!!」と、それを制したのはセツだった。
近くで聞いていたので、思わずユウが身をすくませる。
「……テメェが、テメェがあいつ等を狂わせた!!どれだけ謝ろうと謝辞を述べようと反省しようと
後悔しようと開き直ろうと嘲笑おうともっ!お前が、お前みたいなクズが赦されるはずがないんだよ!!!」
次いで、喉を痛めんばかりのありったけの咆哮をあげる。その声は、怒りと共にどこか物悲しさを溶かし込み、
まるで自分に言い聞かせるかのような悲痛な叫びとなって、体育館中に反響した。
喉が壊れてもいいとでも言うかのような憤怒の叫びは、衝動に突き動かされるセツの口から続けて漏れる。
「テメェらは楽しいからいいだと?自分達がよければそれでいいのかよ……!
それが人間だなんて、クソったれた、バカみてぇな心理論理ウダウダは聞き飽きた!!
自分達のエゴのために、関係もクソもヘッタクレもねぇ一般人を巻き込むなぁぁぁっ!!!」
はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、セツは沈黙する。心配げに顔を覗き込むユウに、セツは「気にするな」と
かろうじてわかるゼスチャーを送った。
おとなしく身を引きながら、ユウは彼について改めて考える。
以前ソウがぽつりと言った「セツが本気で笑わなくなった」というのは、もしかすると彼らミラーフェイスに
起因するものなのだろうか?
普段は飄々としてつかみどころのない性格で、どこか人らしくない雰囲気を醸し出す彼は、
今だけは笑い、泣く人間だった。
「……いいか」
思案を続ける最中、セツが再度口を開いた。
「お前らが償う方法はただ一つ…………死んで、詫びることだぁぁっ!!」
三度激昂するセツの手から、あふれんばかりの蒼炎が吹き出る。
燃え盛る両の手がバチンと張り合わされると同時に、その隙間からさらに炎が躍り出て、
あっという間にセツの全身を包み込む火炎の塊と化したのだ。
いまだその瞳に燃え滾る闘志と憎悪をたぎらせながら、セツが踏み込みの体制をとる。
「『蒼炎光波(そうえんこうは)』、プロミネンス・チャァァアァァァァァジ!!!!」
不意に右手を突き出したかと思うと、彼の体とそれを包む炎が前方へと弾き飛ばされた。
身の丈ほどもある蒼い火の玉へと姿を変え、敵方めがけて突き進む。
「……やれやれ、頭に血を上らせちゃいけないのだよ、コネクト君」
しかしそれより早く、瑛斗が―――否、瑛斗のすぐそばにいた少年のような人物が動いた。
瑛斗の言葉を受けた直後、まさしく稲光のような速度で瑛斗の前に躍り出たのだ。
「甘いよ、ボクちゃん」
少年のようなキーの高い声で呟いた細身の男性が、セツに向けて無造作に手をかざす。
ただそれだけの動作は、直後にユウたちを驚愕させる事態を引き起こすこととなる。
「ごっ…………ぅ」
ドシャア、と墜落したような音を立てて、炎を纏っていたはずのセツがあえなく地に伏していたのだ。
「なっ……!?」
「せ、セツさん!」
あまりにも唐突な展開にユウはもちろん、トウヤさえも一瞬硬直してしまった。慌てて起こった現象を確かめるべく、
ユウとともにセツの元へ駆け寄ろうするが、
「おっと、きてくれると困るんだわ」
直後、細身の男性の声とともに、ユウたちが踏み出そうとしたまさにその場所へ、バチィ!と稲妻が炸裂した。
牽制攻撃だと頭で理解しても、体はどうしても反応してしまう。ユウはたたらを踏んでしまい、
トウヤは反射的に回避行動をとる。
そして、相手がその隙を見逃してくれるはずもなかった。ヒュ、と風切り音が耳に届いたかと思うと、
その一瞬で首元にはナイフが突きつけられていたのだ。
「っ……!」
「く…………」
してやられた、という様な表情で、トウヤは自分の喉元にナイフをあてがっている人物をにらみつける。
「くく、そう怖い顔をしてくれるな。……少しの間動かなければいいだけさ」
つい数瞬前に遠距離で傍観を決め込んでいて、今は二人の首にナイフを突きつけている瑛斗が、
背筋を冷たくするような声色でささやきかけた。
ナイフを突きつけたまま器用に二人の後方へと回り込み、今度は部下へと指令を飛ばす。
「さて、まずは余興といこうじゃないか!クロム君、彼女をこのフィールドにお招きしてやりなさい。
コーラルは事をしでかしそうだから却下だ」
「なぁ、そりゃないですよ頭領!」とコーラルが残念そうに口を挟むが、その彼もすばやく口をつぐんだ。
しんと静まり返った体育館の中で、クロムと呼ばれた男性の足音だけが硬質に響く。
やがてクロムは、体育館前方にあるステージの袖、その下で停止した。体の向きを変え、何かの発表でも
するかのように大仰に手を広げる。
「さぁーて、本日のメインイベントが開幕でござぁーい!」
イヤミを含んだ声が響き渡ると同時に、新たな足音がステージ上から鳴り響いた。
「ただいまより、異能者対異能者の変則デスマッチを開催いたしまーす!
ルールはいたってかーんたん、相手を叩き潰せば勝ち!」
まるで格闘技番組の司会のような口ぶりでクロムが説明する間にステージ袖から身をさらした人物は、
ユウたちに衝撃をもたらした。
「では参りましょう!あぁかコーナー、ユーーーゥリィ!」
「…………いざ」
かぼそい声をチョーカーの巻かれた首でつぶやき、武道家が戦闘体制をとるかのようなポーズで
じりと身構えるのは、つい先日知り合った少女だった。
「……ユリカ、ちゃん?」
そこに立っていたのは、ハイライトの消えた目で倒れているセツを見下ろす、ユリカ本人だった。
ただひとつ見慣れた容姿と違うところといえば、瞳が深い青色に変化していることか。
無論、その人物の登場に驚いたのはユウばかりではない。
「けほっ……、あんでアイツがここにっ」
ふらふらと立ち上がるセツもまた、彼女に対してはノーマークだったらしい。
疑惑と懸念の混じった目で、ファイティングポーズを崩さないユリカを凝視している。
「続いて青コーナー、コォォーネクトォォー!」
再び響いたクロムの声は、伸ばし気味ながらもセツのことを呼んでいた。
「……タイマンをさせる気か」
彼らの目論見に気づいたらしいトウヤが、再び瑛斗に鋭く問いかける。ドスの聞いた低い声で聞かれて、
しかし瑛斗は涼しい顔をする。それどころか、今はユウたちの反応を面白がっているようにも見えた。
「ご名答。本気でつぶそうとする仲間と、傷つける気のない仲間のつぶしあい。……もっとも、勝敗は既に
確定しているようなものだがね。ちなみに、これを発案したのは私だ」
その証拠として、自らの口から自分が発案したとも言ってのける。怒りを買って反撃を食らうやもしれぬ場面で
何食わぬ顔をして嬉々と告げるということは、この作戦には絶対の自信を持っているということか。
考えるうち、クロムが前に進み出てきた。
「さぁ両者、準備が整ったようです!審判は私クロム、解説はコーラル氏、スペシャルゲストにアハト氏と
その知己二名を交えてぇぇー……」
言葉をためながら、クロムが両手を滑らかに持ち上げる。
「ファイトォォーーーッ!!」
ヒュンと風切りがなり、「試合」という名の「仲間同士の潰しあい」が始まってしまった。
合図とともに、ユリカが踊るようなステップでステージを飛び降り、客席として設置されていたパイプ椅子を
蹴り飛ばしながらセツに向かって突き進む。
「なろっ……、なめんじゃねぇ!」
対するセツは苦いものをはき捨てるかのように叫びながら、両手の中で巨大な炎の球体を作り出す。
それを視認したユリカが手刀に異能をまとわせるよりも早く、セツの咆哮がこだました。
「蒼炎光波、シグマシス・カノンっ!」
手のひらからエネルギー波を打ち出すようなモーションを作ると、両手の間に収まっていた巨大な炎球が
それに追従して、ビシィとユリカのほうに向けられる。
直後、炎球が一瞬で凝縮され、一条のレーザーのように形を変えて撃ち出された。
「シッ!!」
しかし、ほとんど視認できないレベルに達しているライトブルーのレーザー光線を、ユリカは青い風を纏った
手刀でいともたやすく打ち落とす。太刀筋の速さでほとんど湾曲しただけにしか見えないレーザーが
勢いよくパイプ椅子に突き刺さり、そのまま数十脚に拳大の大穴を穿つ。
さらに、ユリカの攻撃は終わらない。手刀をセツに向けて突き出したかと思うと、そこに纏っていた風が
一気に拡散。幾重にも折り重なる青い光の糸となり、相手めがけて飛び込んできたのだ。
「ちっ」とだけつぶやいたセツがすばやく火炎防壁を展開。直撃するものをすべて焼き焦がし、
残りは後方、誰もいない場所へと受け流した。
それを確認したユリカが再度手刀に風を纏わせ、今度は勢いを殺さずにセツめがけて振り下ろす。
対してセツは、その攻撃に火炎を纏った足を突き出した。炎と風がぶつかり合い、周囲に派手な青い火花を
吹きちらす。かと思うと、ユリカがあいていたもう一方の手をセツにかざす。
「やばっ!?」とつぶやく暇もなく、ユリカの左手からセツの腹部に、青い風が叩き込まれた。
勢いそのまま後方へと吹っ飛んで、しかしズドンと壁に足の裏をたたきつけ、全身の角度を一瞬で調整して
壁を踏みぬき、前方へと跳躍する。
地面に足をつけると同時に再度床を踏み抜いて速度をブーストし、一瞬で吹き飛ばされた距離を縮めたのだ。
「そぉらよっ!」
肉薄すると同時に蒼い炎を拳に巻きつけ、ユリカの体に直接叩き込むべく鉄拳を突き出す。
それにいまさら動揺する相手ではないことはセツ自身がわかっているが、あえて技を繰り出したようだった。
周囲の予想通りに火炎の鉄拳はひらりとかわされ、お返しといわんばかりにがら空きの背中に
手刀が叩きこまれる。常人には反応できない速度で打ちこまれた手刀を、しかしセツは
背中から吹き出させた「蒼い炎の翼」でギリギリしのいでいたのだ。
そのまま勢いに任せてその場を離脱し、グワシャンとパイプ椅子をひん曲げながら音高く着地する。
一度はばたいてから翼は消滅したが、その代わりにセツの右手が火炎に燃え盛っていた。
「いくぜ……久々にぃ!」
意気込むセツをとめるべくユリカが走り出すものの、それが既に手遅れだということを周囲が悟っている。
その細い手が届く直前に、セツは手の届く圏内から飛びのいていた。「蒼炎光波ぁ!」というセツの声が響く辺りを
見回しても、どこにもセツの姿は見当たらない、つまり。
「クエイクゥ・ウエェェーーーーーーィブ!!!」
セツの体は上空で音もなく踊り、その右腕から体育館の床に向けて、思い切り突き出される。
その直後に猛烈な勢いで右手から火炎が伸び、あっという間に床へと着弾し、さらにそこから
周囲360度へと蒼炎の烈風が巻き起こった。
コーラルやクロム、瑛斗とユウたちは各々飛びのいたり防御などでやり過ごしたが、唯一一番近くにいた
ユリカだけはまともに熱波を受けてしまったようだった。蒼い本流の中で両腕をクロスし、
防御の体制をとっているのがユウのところから小さく見える。
そしてそんな中、ガツッ、と硬質な音が耳に届いた。ついで床の上で上履きを鳴らし、床を踏み抜く音。
「むぉっ?!」
次の瞬間、青い本流が途切れた場所からセツが浮き出てきた。その手は瑛斗の腕をがっちりと掴んでいながら、
しかし体はまだ宙を舞っている。
それもすぐに終わり、減速した勢いでセツが着地。同時に足へと力をこめ、背負い投げに近い独自のモーションで
瑛斗の体を投げ飛ばしたのだ。
「うおぉぉぉっ!?」
「リーダー?!」
突然の、一瞬の出来事に瑛斗はもちろん、クロムも反応できなかったらしい。あわや壁に激突かと思われたが、
その直前で瑛斗が急減速。体勢を立て直して着地する。コーラルの風の異能が発動し、瑛斗の体を包み込んだのだ。
「ち、さすがにこんくらいじゃやられはしねぇか」
憎憎しげにはき捨てつつ、セツが体制を直す。
「せ、セツさん、ユリカちゃんは……?」とユウが問うと、セツが火炎の途切れた中央を指差した。
周囲のパイプ椅子が放射状になぎ倒されているという、爆発が起きたかの如く凄惨なな光景の中心で、
しかしユリカは傷ひとつなかった。目を閉じて倒れており、その近くには、強引に断ち切られた痕跡のあるチョーカーが
転がっている。つられてその光景を見ていたクロムが、ひゅうと口笛を鳴らした。
「ほっほー、まさかあの戦局でチョーカーだけ切り落とすかぁ……。リーダー、こいつは合格なんじゃないすか?」
けらけらと笑いながら、軽口で瑛斗にしゃべりかける。まだまだ余裕らしい。
「いや、アイツは我々の仇敵でもある。いまさら手のひらを返すと、仲間に申し訳がたたん」
「それもそうっすね」
瑛斗のほうもまた、微苦笑を片頬に浮かべていた。ユウたちが臨戦態勢をとった直後、パシンと手を打ち合わせる。
「さて、余興はここまでだ。……コーラル、クロム君。君たちも存分に暴れるといい。なんならここを
倒壊させてしまってもかまわんよ」
さらりと怖いことを言う瑛斗に対し、戦えと命じられた二人はどこか愉快そうにしていた。
「マジすかぁ!だったらぁ……ミラーフェイス八幹部の2、『クロム・ボルトレイド』ちゃんが、
君たちをすぱっと料理してさしあげちゃいましょうかねぇ!」
「ならば私も、八幹部の5、『コーラル・ロバーシア』として威厳を示さねばな」
瑛斗が一歩下がると、クロムとコーラルが前に進み出て戦闘体制をとった。戦闘は避けられない。
体育館の右と左に、明確な敵意を持った二つの空間が出来上がる。
「……だったら」
そのとき、ぽつりとセツが口を開いた。
「だったら、俺らが勝っちまってもかまわねぇってことだよな?」
強い声色で発された声を耳で受け止めたユウが、再度心配げにセツを見やる。
その顔は、先ほど激昂して怒りをあらわにした人物とは似ても似つかない、不敵で自信に満ちたものだった。
(…………大丈夫みたい)と内心で思いつつ、そっとかぶりをふる。
まだ彼は不安定だろうと推測し、ユウはトウヤに向けて話しかけた。
「トウヤさん……トウヤ君。私たちだけでいきましょう」
その言葉の意味を、呼びなおされたトウヤも察していた。こくりと頷くと、連れたってセツの前に、
攻撃から彼を守るかのように立ちふさがる。
その行動の意味をセツも悟り、今回ばかりはおとなしく身を引いていた。やはり、少なからず疲労していたのだろう。
気配だけで確認すると、ユウは右のこぶしに黄金色の炎を、トウヤは篭手に肉厚のブレードをつけた武装――いわゆる
ジャマダハルを両手に取り付け、臨戦態勢をよりいっそう深める。



数刻の後、先手を打ったのはトウヤだった。
幾重もの戦闘経験に裏打ちされた抜群の反射神経と脚力ですばやく距離を詰め、右の手に取り付いたブレードを
振りかぶり、眼前にいたコーラルに向けて勢いよく突き出す。
それを上回るかのような反射速度でコーラルは身を引き、突き出されたトウヤの右手を掴んで、受け流すように
後方へと投げ飛ばした。追い討ちをかけるべく投げ飛ばした手で暴風を凝縮させた弾を放つ。
投げ飛ばされながら受身を取ってすばやく立て直したトウヤがそれに気づき、左の刃を突き立てて
風の弾丸を真っ二つに叩き切ったのち、空いた右手のジャマダハルを取り外し、相手へ向かって投擲した。
「っとぉ!?」
標的にされていたのは、横でのんびり観戦を決め込んでいたクロムだった。
あわてて回避しながら指先で紫電を繰り、即座にトウヤへ向けて電撃の蜘蛛糸を吹き散らす。
が、その電撃はトウヤはおろか、その手前にいたコーラルの肩先すら掠めずに打ち落とされた。
紫のライトエフェクトが大きな金のエフェクトに巻き込まれ、あえなく引きちぎられて消滅する。
その現象を目の当たりにした直後、クロムの後頭部にがつん!と重い衝撃が走った。
「はごっ!?」と奇妙な悲鳴を上げながら吹っ飛ばされ、ずがしゃんとパイプ椅子を巻き込んで倒れこむ。
「……っつつぅ〜、そうかぁ、キミがいたなぁ」
「油断大敵ですよ」
賞賛がこもったように見える目線の先には、煌く黄金の炎を纏ったユウがいた。
その手にまとう炎のように強い輝きを持つ笑みを浮かべながらも、ユウは少し思案する。
もしかして、自分はもうこのイレギュラーな事態に順応してしまったのだろうか?
いや、元からこの環境には慣れ始めていた。近くにその力を振り回す友人がいれば、嫌が応にも慣れてしまうというものだ。
しかし現在のこの状況は、なんとなく身に覚えがある。まるで以前からこの力を振るい、今のように
相手を叩きのめすという行為を行っていたかのように、今行使している異能が身に親しんでいるのだ。
だが、そんな感覚はありえないはずなのだ。
ユウはこれまで、異能に関する知識など―――まして異能を操るべき知識すら持ち合わせていなかった。
仮に「似た」感覚だっただけの話なら説明はつきそうだが、それではこの異常なほどに慣れ親しんだ感覚について
説明がつかないのではないか――――などと考えているうちに、相手が反撃に出ていることに気づくのが遅れてしまった。
唸りを上げて飛来する数百本の電撃の糸を視認し、あわてて回避行動をとる。
本来ならその状況から異能を発動することは通常の新米異能者にはかなわない芸当のはずだったが、そこで
ユウはまたしても常識(この場合は異能者間での常識を言う)を超えて見せた。
回避行動で避け切れなかった数十本が、全身から発された不可視の波動―――つまり熱波によって
雷糸がかき消される。同時にその奥から、クラスター爆弾状に拡散発射された大量の火炎が、
予想を裏切られて硬直するクロムの全身に浴びせかけられた。
「ぐはぁぁぁぁぁぁっ、あっち、あっちぃぃ!?」
が、リアクションこそ大仰だったものの、さしたる大きなダメージを受けたようではなかった。
大げさにぴょんぴょん飛び跳ねてから、余裕綽々と言ったように再度雷糸を撒き散らす。
それを弾いたのはユウではなく、コーラルに追撃を撃たれながら後退していたトウヤだった。
刃の部分にどこからか調達した砂鉄を練りこまれ、投げつけられて飛来したダガーへと無数の雷糸が引き寄せられ、
無人の空間で電撃が炸裂する。
「なにっ!?」と驚きを隠さないクロムへ向けて投擲されたダガーがドカッ!と激突し、衝撃によりクロムの体が揺らぐ。
「っととと…………っとぉ。っへへ、なかなかやるじゃんか?なぁおっちゃん」
ダメージと衝撃でよろめきながらどうにか踏みとどまったクロムがコーラルに笑いかけると、話しかけられた当人も苦笑を漏らす。
「うむ……。この実力と反射神経、そしてずば抜けた洞察力と戦闘力。実に面白いじゃないか、頭領」
傍観に徹している瑛斗も話を振られるが、さして問題なさそうにニヒルな笑みを浮かべる。
その笑みに大事なものを見つけたときのような喜びが混じっているように見えたのは、ユウの目の錯覚だろうか?
「そうだな、私も今回の戦いで、ひとつだけ目的を達することができた」
殊勝な笑みを強く浮かべ、ついで放たれた一言はユウたちだけではなく、瑛斗の仲間たちさえ驚愕させた。


「では、私はこれでお暇するよ。後は……せいぜいがんばって足掻きたまえ、コーラル、クロム君」
「「……えっ?」」
足掻け、という言葉はつまり、彼が仲間を見捨てることを意味していた。
このまま傍観を続け、いざというときには援護に出るであろうはずだった男は、あっさりと身を引くというのだ。
まさしく彼の部下にも予想外すぎた行動だったらしく、彼らの動きも一瞬停止する。
無論、その隙をトウヤが見逃すはずもない。
「シッ!」
瞬時に生成された二振りの投剣(スローインダガー)がすばやく投擲され、ドカカッ!と鋭い音を立てて
コーラルの腹部に、クロムの太ももに刃が突き刺さる。
「ぐあっ!?」
「ごうっ…………っ、頭領……なぜ見捨てるようなことを……」
ダメージを負いながらも、コーラルが瑛斗に向けて問いかけた。しかしそれに返ってきたのは、やはり無慈悲な答え。
「私はこれから対策会議を練らなければならない。できることなら君たちにも列席してもらいたかったものだが、
悲しいかなそれは適いそうにない」
「な……っ、なんでだよリーダー!こいつらをブチのめして帰ったら、俺らも列席できるんだぜ?!」
それはもっともな意見だった。ここでユウたちを打ち負かすことができたならば、その暁には
クロムとコーラルも「会議」とやらに参列することが可能なはずだ。それなのに、瑛斗はその方法をとらない。
戸惑うクロムと唖然とするコーラルに向けて、瑛斗は冷たい声で吐き捨てるように話した。
「はっきり言おう。お前たちは生贄だ」
「なっ……………………」
生贄。二人を犠牲にして、瑛斗一人がのうのうと巣へ身を引くというのだ。
なぜ、と二人が問いただす前に、その理由は瑛斗本人から告げられることとなる。
「彼らは強い。おそらく……いや、確定的に君たちでは勝てない。そしてもし君たちがセイバーの不届き者たちに
拘束でもされようものならば、それは我が同胞たちへの侮辱と同義だ」
要約すれば、勝てない戦いにむざむざ挑ませ、命を散らせという「命令」に他ならなかった。
攻撃の手を緩めたトウヤと、あくまで手を出さずに彼らのやり取りを見守るユウ、さらに後方から前衛へと
ようやく舞い戻ったセツもその意図に気づいたらしい。三者三様、そのやり口に絶句する。
そんな彼らを視界に留め、なお瑛斗は低く嗤(わら)う。
「……君たちは強い。そしてそれ故に、その力に滅ぼされる。せいぜい覚悟するんだな、若人(わこうど)」
それだけ言い残し、そのまま身を翻して去っていくかと思われたものの、その直前に彼は、ユウを見やった。
「また会おう、天を照らす者よ」
ユウに向けて呟いた直後、その身は砲弾の如き速度で開いた窓から離脱した。直前まで彼が立っていた場所からは
漆黒の塊が残されており、そこから伸びた人の肩幅ほどはある太い柱が離脱した窓へと続いている。
その速度に唖然とするユウ。その一方で、クロムたちは絶望に似た表情を顔に貼り付けていた。
「……ま、マジかよ…………リーダーに……見捨てられた…………?」
「………………」
クロムが絶句し、コーラルは悔しげに俯いていた。―――がやがて、二人がすとユウたちの方向に顔を向ける。
その瞳には、ある種悲壮な決意がありありと写りこんでいた。
「腹ぁ括ったみてぇだな」
一歩前に踏み出したセツが、ふてぶてしい態度と口調で彼らを賞賛する。
それに対する返答はなく、代わりに飛来したのは電撃と暴風だった。すばやく察知したトウヤの行動開始とともに、
セツの口から号令が走る。
「散開!」の一言で、固まっていたユウたちがいっせいに三方向へと飛ぶ。正面に跳躍したセツが火炎の渦で
攻撃を断ち切り、左からトウヤの投剣が、右からはユウの黄金の炎が三々五々に飛んでゆく。
相手のほうもまた臆することはなかった。投剣は弾き飛ばされ、炎は紫糸に絡めとられてかき消される。
「そうらぁぁぁぁっ!!」
直後、クロムたちの真正面から蒼炎が飛来。回避すべく左右へと展開した二人に、トウヤとユウが追撃した。
クロムを相手どる形になったユウの掌中から大量の火の玉が撃ちだされるが、生成されたショットシェル(拡散弾)は
雷糸が蜘蛛の巣のように張り巡らされて造られた防壁にがっちりと防御された。ついでその中央から、放射状に
電撃が振りまかれる。
高速で飛来する電撃をよけきれず、数発足に食らってしまう。「うぐっ……!」とダメージで苦悶に顔を歪めるも、
何とか耐え忍んで床に突っ伏すのだけは回避した。しかしそのせいで大きな隙ができたことは、本人にも自覚できる。
ついで飛来したのは先ほどまでの糸状の電撃とは打って変わった、まるで矢のように細く鋭い針。
動けないユウに向けて突き刺さると思われたが、その凶弾は危ういところでかき消された。
ノーマークのセツが放った援護砲撃の火炎により、一瞬で弾丸が相殺された空間を、ユウは走り抜ける。
「たあああああああっ!!」
そのままの勢いで、電撃の障壁へと右の手を突き立てる。とたんに静電気じみた痛みが襲い掛かり、瞬発的に
腕を引いてしまうものの、それよりも早く打ち込まれていた金炎(ごんえん)により、電撃の障壁は
瞬時にはじけとんだ。予想を裏切られた証に、クロムが今日何度目とも知れぬ驚愕の表情を浮かべる。
が、直後に飛来したのは彼の闘志から生み出された電撃の雨だった。回避行動は間に合わないと悟った直後、
ほとんど自動で体と思考は動かされる。
両の手と、思念によって首元あたりから同時に金炎が沸き立つ。生み出された炎はさらに大きさを増し、前面を覆い隠した後、
そこからさらにドーム状に展開されて防壁と化した。頭の中でほぼ無意識に思い描いた形と、寸分の狂いもない。
電撃の雨は防壁に突き刺さったそばから燃え上がり、その一切が通ることを許されなかった。
すべて飛来し終えたのを確認するや否や、再度体は自動で動く。障壁は瞬時に溶け消え、代わりに右腕が前に突き出される。
すでに手のひらにはちらちらと炎が揺らめいていたが、それを撃ちだすよりも早く、ユウの脳裏には
ひとつの単語が浮かび上がった。反射的に、声がつむがれる。
パルマァ……」
同時に、火炎はさらに凝縮され、周囲からも光を奪いながら(あくまでも表現だ)収束していく。
「フィオキーナアァァァァァァッ!!!」
次の掛け声とともに、光は掌中で爆発を引き起こしながら撃ち出された。限界まで凝縮された金炎は一条の眩いレーザーとなり、
その光の矢は電磁障壁をいとも簡単に撃ち貫く。
直後、ドシュッという貫通音が響いた。集中を切らすことによって電磁障壁は消え、「うがぁぁっ!」と痛みに悲鳴を上げる
クロムの体が床に突っ伏す。
しかし、攻撃はそこでは終わらなかった。再度跳躍したユウが空中で体を踊らせ、天空から無数の火炎を撃ち込んだのだ。
その光芒は、まさしく光の雨と形容するにふさわしい。
体勢を立て直すために起き上がったクロムの背に、ドカドカと大量の炎が叩き込まれ、再度腹を床に強打する。
「ほぐっ」とつぶれたカエルのような悲鳴を漏らし、それきりクロムが動かなくなった。その光景を見て、
着地し終わったユウは初めて、自分が行ったことの重大さに気づいた。
「あっ……ちょ、大丈夫ですか!?」と駆け寄ろうとする寸前に、後ろから伸びてきた手が肩をつかんで静止させる。
手の主はセツだった。終始ノーマーク状態だったことに不満そうな顔を見せつつも、ユウに首を振ってみせる。
「相手が命を持った人間であれ、今は俺たちの命を狙う敵だ。不用意に近づくもんじゃない」
という正論をおまけに浴びせられれば、ユウは黙るしかなかった。
直後、今更ながらに思いだしつつトウヤのほうを見やる。が、一瞬脳裏によぎった懸念は杞憂に終わった。
そもそもトウヤが劣勢だった場合、セツが援護に入っているためにこうしてユウのそばにいることはないのだ。
つまり現状、トウヤは圧倒的優勢に立っている。風による束縛攻撃を持つコーラルならば、通常は有利になるはずの
異能相性の中で、それでもトウヤが勝っているというのは、奇妙な逆転現象だとセツは感じていた。
だが、それは紛れもない事実なのだ。シミターを両手に持つトウヤの剣捌(けんさば)きは、強烈なまでに
コーラルを追い詰めている。「相手の動きを止める」ことだけに特化してしまうということは、同時に
防御や攻撃などを疎かにするということとなる。今回は、束縛する前に動かれるという計算外の事態が起きているために、
コーラルは終始劣勢に追い込まれているのだ。
それを確認したセツがユウの隣に立ち、アイコンタクトで攻撃を示す。ユウも承諾し、掌中に火炎を凝縮させてゆく。
「ゼキア、こっちだ!」
セツの口から鋭く発された号令が、トウヤを反射的に動かせる。どことなくコトハ/ウィードを髣髴とさせるような声の切れに、
トウヤは無意識に苦笑をもらしていた。
バックステップでトウヤが飛びのいた後、ほとんど引きずる体制でコーラルが追いすがってくる。
「くっ……なぜだ、何故貴様らのような『居場所なしのはぐれ異能者』程度に、何故私が後れを取るんだあぁっ!」
自分への戒めのように聞こえる雄叫びは、「違う」というセツの言葉があっけなく打ち砕いた。
「俺たちははぐれ異能者なんかじゃねぇ!」と毅然と語るセツの手には、いつの間にか取り出されていたガンブレード
展開された銃身は既に蒼い閃光を収束させながら、徐々に明度を上げてゆく。
それを確認したユウも、手のひらをコーラルに向ける。収束寸前でキープされていた金炎が、待っていたとでも言うかのように
いっそう強く凝縮されていく。
直後、再びセツの声。
「俺たちは仲間だ。……俺たち異能者をわかってくれる仲間が!」



「みんなが限り、俺は……俺たちは、ここにいるんだあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
咆哮と時を同じくして、青と金に収束した眩い光は撃ちだされる。
幾許の暇もなくそれは標的へと到達し、その体に傷をつけることなく―――しかし猛烈に貫いた。


*********


エピローグに続きます〜。