「「「かんぱーい!」」」
数時間後、ようやく閉店となったユウたちの店の中で、ひとつの唱和が響いた。
中では、店の運営に尽力した全員が車座になり、各々が残り物で作った料理を食べている。
「いやー、なんとか上手くいったなぁ」
心のそこからやり切ったような快活な笑みを浮かべつつ、リクはジュースで喉を潤す。
が、そんな爽快な顔をする少年に向けられる憤怒の目が合計6つ。つまり女装陣。
「……お前はいいかもしれないけどなぁ、こっちはかなり堪えたんだぞ……」
と肩を落とすのはリュウジ。営業が終了するや否やドレス(黒いゴスロリ)を脱ぎ捨て、現在は
早々と体操服に着替えて座り込んでいた。頭を抱えるような格好のままで。
「…………ははっ」とだけ呟き、怖い目でリク(とついでに女装を免れたギンとトウヤ)をにらむのはソウ。
こちらもまたドレス(赤地に白いフリルいっぱい。セツと同じく口を滑らせた)を早々に脱ぎ、
人生に疲れきったと見紛うような表情でぐいと缶ジュースを嚥下(えんか)していた。
そして、何も言わずに「かわいぃー!」とマナに遊ばれているのはレンだった。
まだまだ童顔だったということが災いし、ちらっとだけ見るとただの女の子にしか見えなかったのだ。
そこがさらに災いを呼び、営業の終了した現在も、コトハとマナに遊ばれている。
隙間隙間から表情を伺ってみると、「もういやだ」という文字が顔面にでかでかと書かれている(表現)。
そんないまだに喧騒覚めやらぬ輪の中で、ユウは一人思案する。
(…………いつもよりも、すごく使いこなせたのに……なんか嬉しくない)
セツたちの力になるべき力である異能の制御が上手くいったことは紛れもない事実だ。しかしユウは、
なぜかそれを心の底から受け入れることができない。理由は既にわかっている。
(……でも、それは本当に正しいのかな?もしかしたら……)
人を殺すためのものなのかも、という言葉を反芻できず、たまらずかぶりを振った、直後。
「よ、お疲れさん」
と、横から声がかけられた。やはりセツだった。
遠慮気味に微妙な距離を置いて隣に座ると、セツは唐突に一言を告げる。
「怖かったんだろ」
「……え?」
「怖かったろ、って聞いた」
敵陣に真っ先に切り込み、敵をなぎ倒しているセツの口からそんな言葉が出たのは以外だった。
「……まぁ、最初はそんなもんだ」
ほとんど独り言のように遠い目で呟きながら、きちんと肩はすくめられている。
人間性をますます感じないその高等なしぐさを脳内でリプレイしていると、「でもな」という声が聞こえた。
「……でも、それでいいんだぞ。こんな力に慣れちまったら……絶対後悔する」
呟くその目は、どこか縋るような色をしていた。ユウの胸中に、ちくりと何かが刺さる。
「俺たちはいい。……でもお前らは、まだただの人間だ。後戻りはできるうちにしとけ」
それだけ一通り呟くと、セツはジュースの入った紙コップを置いてひとり教室から出て行ってしまった。
セツの呟きの意図を汲み取れず、ユウはなんとなくむしゃくしゃする。
* * * * * *
「さて、まずは悲しいお知らせがある」
同刻、とある場所。円卓に誂えられた椅子に座る面々の中、瑛斗は静かに、厳かな口調で話し始めた。
彼の目が見据える先の席に、人の姿はない。
「本日正午ごろ、私たちは桜流学園にて『魔剣』たちと戦闘を行った。戦闘は熾烈を極め……結果、
残念なことに連れ添っていたクロム・ボルトレイド、およびコーラル・ロバーシアの両名が、
帰れぬ人となってしまった」
帰れぬ人という言葉の意味を察したはずの面々は、しかし物音ひとつ立てずに鎮座していた。
その反応を見越したように、瑛斗はさらに口を開く。
「……さらに同刻、同地にて、私はついに発見した」
その一言は、絶大な衝撃を持って面々へと響き渡った。仲間の喪失などどうでもいいことのように、
口々にささやき始める。
「静かに。……まだ確証はないものの、あの所在とあの容姿、加えて力量から見れば、おそらく間違いはない。
……そこで、今後は桜流への監視、および圧縮体制を強化。新たな監視人員として……セルカ」
「はっ」と、名を呼ばれて立ち上がる少女。
「君には、転校生として彼女『アマテラス』のそばに赴き、常時の監視を怠るな。異変、もしくは
他の敵対勢力による武力介入が行われた場合、即刻排除せよ」
静かな瑛斗の命に、少女は腰を折って深く礼をすることで答えた。満足げな笑みを浮かべた後、
瑛斗は演説にも似た報告を終了すべく言葉を続ける。
「では、今回の会談は以上とする。――最後に、散った仲間たちに黙祷」
瑛斗が目を閉じるのと同じくして、他の面々もいっせいに目を閉じ、この場にはいない者達を静かに送る。
数秒が過ぎた後「解散」の声が響くと、彼らは一様に無表情でその場を去っていった。
人の消えた室内で、瑛斗は自分の椅子にどっかと腰を下ろした。疲れを癒すように足を卓上に投げ出し、
腹の上でゆるく手を組む。
「失礼します」
と、不意に隣から声がかかった。瑛斗は臆することもなく、その声を受け止める。
まるで無視を決め込むような体制だったが、かまわず隣に「現れた」女性は報告を始めた。
「写真解析、及び声紋と異能性面より解析をかけた結果、アマテラスである確立は72,89%でした」
事務的、かつ冷ややかな報告を受けて、瑛斗はさらに苦笑を見せる
「心もとない数字だね……。まぁいい。いずれ真実はわかる。さがっていいよ」
「はい」
瑛斗がひらひら手を振ると、女性はすぐに闇へと紛れ込んで消えた。
「……さて、天を照らす者よ。僕は君に鏡を向けて、君の力で君を焼いてあげようじゃないか」
クククという刃物のような微笑は、むなしく宙に解け、消えてゆく。
*********
やっと、書けまし……ごふっ(吐血
はぁ、だ、大丈夫ですw
さて、よーぅやっと第1章が終了の運びとなりましたぁぁぁぁっ!
いやぁ、長かったなぁ……(遠い目
だって、1章を完結させるのにまさか一年半もかかるとはだーれも思ってなかったでしょうw
書き始めたのは中3の冬だからー…うん、一年半☆
とりま、恒例のお礼タイム。
ここまでの読破に、感謝の言葉とお疲れ様をお送りさせていただきます!
この小説はまだまだ続き、いつ完結するかはコネクト本人にもわかりません。
ですが絶対に打ち切るなんてことはいたしません。絶対に、何が何でも完結させてみせます!
もしこれからもお付き合い頂けるようであれば、そのときはどうかよろしくお願いいたします。
それではこちらも恒例の解説コーナー。
「専用異能」という単語を、今回の敵だった「クロム」氏と「コーラル」氏の
異能についてを交えながら解説いたします。
まず専用異能というのは「イレギュラー異能の性質が後天的に発生したもの」のことです。
イレギュラーの性質というのは「強力な戦力」「既存6色とは違うパーソナルカラー」「他人の異能との
自在調和」などのことで、それらの性質が異能を開花させて修練を重ねた後(イレギュラーは
開花の直後にこれらの性質が付与される)に発現したものを「専用異能」と呼びます。
専用異能は大概、行使する人間がもっとも使いやすい形に特化した能力となります。
具体的に言えば、今回の敵だったクロム氏は「電撃の糸で相手に攻撃する」、コーラル氏なら
「風圧で相手を拘束する」形に特化して、専用異能となっています。
セツやソウ、リュウジにメグミやコトハ達も皆専用異能もちですが、それぞれ特化する方向は違います。
専用異能というのはまさしく「その人用の異能」と覚えていただければ結構です。
ちなみに「専用異能」の単語ですが、次の回あたりから正式に登場させる方針です。
余談ですが、19話ラストのセツの叫び、どっかで聞いたことありませんか?
知ってる方は知ってる名言だと個人的には思いますーd(・ω・)
さて、それでは長話も癪なので今回はここまで!
まったあーいませぅっ、ノシっ!