コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

マビノギプレイ日記外伝 この世界に来た理由


「おい山都、お前なに無視してるんだよ」
昼下がり、やることもなく好きなライトノベルを読んでいた俺は、突如降りかかった声に顔を上げた。
見れば、俺が嫌いな人間ワースト3の三人が、そこに立っている。
こいつらか。そう思いながら本に視線を戻そうとしたとき、その本が手中から消えていた。
「山都、お前気づいてんのに無視するなんて友達なんだとおもってんの?なぁおい」
どうやら、俺が読んでいた本を取り上げたらしい。取り上げられたらやることがなくなるので、そのままふて寝の体勢に入る――が。
「おい!」という怒鳴り声とともに、俺の左わき腹に鈍痛。ついで浮遊感が襲い、俺は蹴飛ばされたことを知覚した。




昔、俺がエリンに導かれる前のころ、俺は学校で「いじめ」にあっていた。
いや、いじめと形容するには少々要素が足りない。


俺の理解者は少なくなく、教師をはじめとする大人の大部分は俺の見方をしてくれた。
クラスの中にも理解者はおり、決していじめというわけではなかったのだが、俺を救えない大きな理由があった。
PTAの連中が、俺をいじめている奴らの保護者だったのだ。奴らは「うちの子がそんなことをするわけがない」と信じて疑わず、
あまつさえ監視カメラの映像を見せても「これはねつ造だ」なんて言い、一向に信じようとはしない。
さらに、その生徒に注意をしようものなら「精神的体罰だ」などとのたまい、自身の子供を正当化しようとしていた。
その権力を盾に、奴らは俺をいじめている。最後まで屈服しようとしない、最後の砦でもある俺を。


「おい、こらぁ!」
「がっ……」
頬に鈍く走った打撃の衝撃で、俺は教室の床に伏した。助けようとしても無駄なため、助ける者はいない――助けなくていいと言った
俺の言葉から助けないだけだと思う――。
「テメェ、そのアホ面蹴っ飛ばすぞ、あぁ?」
「あーあー、リーダー怒っちまった」
「終わりだなぁこれ。お前らもそう思うだろう?」
三人組の一人が教室中に賛同を求め、全員が一斉にうなずく。もっとも、半強制なので本当に賛同している人間は少ないだろうが。
それでも、一人でPTAの権力を持つ人間と戦うのは多勢に無勢だ。そう考え、大人しく殴られておく。




≪今日も殴られた。そろそろ慣れてきたけどまぁ痛いものは痛い≫
SNSにそう呟きながら、俺は自室のベッドに横になった。
殴られた部分を氷のうで冷やしながら、はぁとため息をつく。
「……とっとと卒業できないかな」
そう愚痴りながら、最近はまっているゲームを起動して、しばらくその中で強者を演じていた。


ゲームの中でなら、俺はいくらでも強くなれた。
レアな武器を装備して自慢げに街を歩いたり、戦闘中ピンチになったプレイヤーを助けてみたり。
気ままな世界で気ままに生きていた俺は、もしかしたら壊れかけていたのかもしれない。






「……ん」
気が付くと、俺は白い世界にいた。空は透き通るように青く、風は心地いい。
明晰夢だと気づくのには、少し時間がかかった。同時に、いつ眠ってしまったのかを思い出すために思案する。
が、そうしようとした矢先、俺の目の前で異変が起こった。
先ほどまで何もなかった場所から、突如として人間が現れたのだ。
黒い装束を着て、白い髪をなびかせ、水晶玉のように蒼く透き通った瞳が俺を射抜く。
不思議な姿をした女性に――主にその体に――しばし見とれ、不意に起こった事態。
「……あなたは、今の世界で満足ですか?」
「え?」
目の前の女性が口を開き、俺に語り掛けてきたのだ。唐突な出来事に、俺は言葉を失う。
「もしあなたが今の世界に不満なら、その体を捨てて、新たな世界に転生することができますよ」
意味が分からなかった。お前は何を言ってるんだと言いそうになり、危うく口を閉じる。
だが、確かにこの世界には不満を持っていた。腐った人間が大きな面をして、それによってさらに腐る世界が。
どうにもできない歯がゆさが、正直つもりに積もっていた。
「ですが、その世界に転生したら、二度と世界から出ることはかないません。たとえ、死に至る事象があっても」
要約すると、女性が示す世界に行ったら最後、たとえその世界で死んでも二度と世界から出られないということだろう。
そうなると、少し考えさせられる。異世界モノファンタジーといえば、魔王を倒せば世界から帰還できるのが通例だ。
俺には、まだおいていけない家族や友達がいる。なにより読みかけの小説があるし、それを読破せずにこちらでの生を終えるのも
どうかとしばし迷った。
「すぐに決める必要はありません。一週間後、また改めて問わせていただきます」
それだけ言い残すと、女性の姿は掻き消えた。




だがその返事は、望まぬ形で返すことになる。



気が付くと、俺は歩道の手前で止まっていた。そして目の前には、激突寸前の大型トラック。
すべてが、止まったように見えた。
終わるのか、俺は。こんなところでむなしく命を散らし、何もできずに。
目線だけを上に向ける。男の顔は、赤かった。




「まさか、このような形でお招きすることになってしまうとは……申し訳ありません」
目の前の女性が、しおらしくこちらに頭を下げる。が、この事故は彼女のせいではない。
「いや、アンタのせいじゃないよ。……にしても、もう行くことになるのか」
眼前には、血まみれになった俺を抱きしめて泣きじゃくる母親と、悔し涙を流す父親、絶望に打ちひしがれる兄。
頭部裂傷による内出血により、俺は死んだらしい。横にいる女性から、そう聞いた。
「……こんな時にお訊ねするのもどうかと思いますが……転生の件、お決めになられましたか?」
彼女の問いかけに対する答えは、早かった。


「当り前さ。……俺は、まだまだ生きたいのに。いろいろやりたいことだってあったのに。こんなところで、終わりたくない」
ふと微笑み名がら、俺は遺恨を振り払うかのように空を見上げた。



まだテフラを手に入れる前の彼と出会ったのは、それから幾年かたった、ある日だった。