コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

【先行掲載】マシーン・マリオネット


#02 追憶


《……繰り返します。ゲームの強制終了プログラムを起動しました。プレイヤー各員は順次強制ログアウトとなります。繰り返します。ゲームの強制終了プログラムを――》
デウス・エクス・マキナの消滅を見届けた恵一は、ゲームの終焉を知らせるアナウンスを聞きながら、喜びと共にどっと押し寄せてした疲労感に負け、パイロット不在で墜落した鳴神の残骸と共に、焦土と化したスピレント草原に寝転んでいた。
「……終わったか」
死闘の爪痕が刻まれた世界とは裏腹に、雲一つない真っ青な空を見つめる。数十秒ほどそうした後、ふと思い立ってゲームメニューを開いた。フレンドリストの確認のためである。
リストを確認すると、すでに半数の文字が暗転――ログアウトの表示になっていた。目を通す間にも、次々と名前は暗転していく。
それを見て、今更ながら嬉しさを感じた。自分が頑張ったからこそ、こうして人々は地獄の世界から解放されて行くのだ。


体感にして5分ほどだろうか。しばらく残っていた白い文字は、いまや全て暗転していた。恐らく、この文字たちは二度と明転することはないだろう。
何せ、たくさんの命が消えてしまったのだ。そのままこのゲームが運営されるなどと言うことは、まずないだろう。
「……なんだかんだ、楽しかったな」
恵一が思い出すのは、デスゲームと化す前の平和な機械人形劇の世界。そして、たくさんの命を奪っていった、デスゲームとしての機械人形劇のことだった。
合計すれば、稼働していたのはおおよそ三年間といったところか。長く続いたこの世界が――すっかり馴染んだこの世界が消えてしまうのは、嬉しくもあり悲しくもあった。
「…………帰りたくねぇなー」
そうして恵一の口から漏れたのは、この世界にとどまりたいという願いだった。


もともと、恵一は現実の自分を取り巻く環境をひどく嫌っていた。酒とギャンブルに溺れる両親、関心のかけらも向けない友人、守ってくれやしない教育機関。兄と姉はそんな自分を長く守ってくれていたが、恵一を取り巻く環境を変えることはついぞできなかった。
人に認めてもらおうと努力もしたし、喜んでもらおうと良い行いをしたことも、何度かある。しかしその全ては、報われないまま終わることしかなかった。
中学生になる頃には現実を捨て、幼い頃から逃げ場所として使っていたVRゲームに、完全に逃げ込むことにした。
兄と姉から与えてもらっていた小遣いを貯め込み、専用のハードを買い、鬱屈した日常から抜け出すためだけにゲームをプレイする、そんな毎日。それでも、恵一は満足感を覚えていた。
これでいいんだと、こうしているほうがいいんだ、と自分に言い聞かせ、毎日から逃げるだけの日々。
そんな日常を変えた救世主こそが、デスゲームと化した機械人形劇だというのは、実に皮肉な話だった。
最初こそ、その現実を受け止めることができずに混乱していた。しかしだんだん真実味をおびてくると、続けて恵一の胸中に湧いてきたのは、歓喜の二文字だった。
それからは、機械人形劇の世界で生き抜くために、様々なことを行った。気がつけば彼に追いつけるプレイヤーはおらず、いつしか恵一は機械人形劇の世界で、最強の称号を手にしていたのである。
だが、そうして手に入れた地位から見た人々の顔には、恵一に対する期待がありありと映っていた。この世界を壊して自分たちを救ってくれる。現実の世界へと帰還させてくれるという、人任せな期待が。
ふざけるなと考えたことも、一度や二度ではなかった。だが、何故かその期待を裏切ることが、できなかったのだ。
その群衆の中に、まだ幼い少年を見てしまったからなのかは、今となっては分からない。だが、結果として恵一は、死に物狂いで世界を攻略し、最終決戦に挑み、勝利したのである。


嫌でも浮かんでは消える嫌いな人間の顔と、自分に感謝と賞賛の言葉をかけてきた人たちの顔を思い起こしながら、恵一は一人鳴神のコクピットで膝を抱えた。
――いっそこの世界が俺にとっての現実になってくれたら、どんなに嬉しいか。もう嫌な奴らと顔を合わせずに済むし、長く守ってくれた二人にも迷惑をかけなくて済むようになるのに。
虚空へと向けた口で、声には出さずにつぶやく。ため息と共に、自分をゆっくり包み込む光――ログアウトの演出として取り入れられていたエフェクトを見つめていた。


***


「…………俺、死んだ?」
一通り記憶を振り返り、数分ほど思案して、出した結論に、自分で笑った。
「ありえねーよな、そんな夢のない話。……しっかし」
ひとしきり笑った後、改めて草原を見回す。視界にはいるのは、どこまでも続く、懐かしい場所の光景だった。
遠くに見える山脈、崖で海岸を隠された広大な海、遠くに見える天へと伸びる塔。
「機械人形劇」の世界に入ったプレイヤーが初めて踏み出すことになる、様々な地形を内包した場所に――彼も序盤世話になった場所に、あまりにも似ていた。
「……どう見ても、スピレント草原だよな」
呟いたのは、デウス・エクス・マキナとの戦闘で焦土と化し、戦いを終えた恵一が鳴神とともにいた地の名前。その時と違うのは、焼け焦げた黒い土ではなく、青々とした草が一面に生い茂っていること。
恵一は、しばし考える。彼が考えているのは、ゲームから離脱した後の自分の行方だった。
普通ならば、収容されているであろう病院なりで目を覚まし、リハビリに励むはずだ。万一まだゲームの中に取り残されているというのなら、焼けた平原とともに鳴神の姿も見えたはず。だというのに、恵一の目の前に広がるのは、どこまでも平穏な草原だった。
まさか、と恵一は考える。色々と他にも説はありそうなのだが、今の恵一にはそれ以外の可能性は、微塵も思いつくことはできなかった。
もしその仮説が本当ならば――夢のようだ、と恵一は感じる。


「…………機械人形劇とよく似た、異世界なのか?ここは……」
低く呟かれた言葉に答えたのは、吹き抜ける穏やかな風だけだった。


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連続掲載でちわーっす、コネクトでっすー。


先ほど掲載したマシーン・マリオネット(以降マシマリ)第一話に続き、ストックしてあった第二話を掲載させていただきました。
今回は前回のような戦闘がないため、3000文字くらい少なくなっております。次話が短ければ統合も考えていますが、とりあえず二話はここまでになりました。


今回は前回終わりの続きを使い、恵一くんが後で「戻りたくない」と考えるようになる理由を描いてみました。
異世界トリップものは「帰りたいか否か」を書くことが一種の必須事項なため、忘れないうちに描いておいた次第にございますw
もともとコネクトとしては「帰れない」より「帰らない」ほうが好きなので、必然的にこういう設定が構築されます。門前払いみたいに心境の変化を描いてもよかったんですが、まどろっこしいのでカットいたしますw


それでは今回はここまで。
またあいませうー ノシ