コネクトの雑記スペース

創作小説、オリキャラ設定などの雑な記事を取り扱うところです。

δStory、久々に行ってみましょう!

#02 襲撃




三人だけの息遣いは、ただ町に向かって続いていた。
彼らの眼下の先では、親しき町が、友人が、知己が燃えている。


「なんで……なんでっ!」
先頭を行くデルタは、全力で走りながら怨嗟の声を漏らしていた。
無理もないだろう。これまでもこれからも続くと思われていた平和が、最悪の形で崩壊したのだから。
そんな思惑を抱きつつ、ブレイドは精一杯落ち着かせた声で彼を励ます。
「心配はいらないはずだ。もしもの時に備えて、みんな避難訓練なんかをやっていた。……だから、絶対大丈夫だ」
とは言いつつ、ブレイドも黙って走っているヤイバも、内心ではきつく歯噛みしている。
せめて無事でいてくれ。そう祈りつつ、三人は一心不乱に走る。




「………………ねえ、こんなのってないよ……ねぇ!ちょっと、何さこれ!!なんで…………なんでこんなぁっ!!」
デルタの叫びは、しかし灰色に染まった町に溶けて消えるだけだった。


すでに、そこは地獄のごとき様相と化していた。
胸や腹を貫かれた。腕を落とされた。足が消えている。顎から上がはじけ飛んでいた。
見渡す限りを埋め尽くす、濡れた赤色。
どこまでも赤、赤、赤。
殺戮の跡が色濃く残る、かつての彼らの町は、すでに静まり返っていた。
「……これは、あんまりだろう」
ブレイドもまた、途方に暮れたかのように声を絞り出すのが精いっぱいの状況だった。
「――――どこだよ、こんなことしたヤツ!!でてこい、ぶっ殺してやる!!!」
たまらず、ヤイバが激高した。
その瞬間、どさりという何かが地面に落ちる音が、すぐ近くから聞こえた。
真っ先に気づいたヤイバがその方角を向き、デルタが走り出し、ブレイドが静止しつつも後を追う。
だが、彼らを待ち受けたのは、やはり地獄に等しき光景だった
「―――え?」
ぽた、ぽた、というしずくの滴る音とともに、人影が立っているのが見えた。ただ、それを人と呼ぶには、あまりに異形すぎた。
たとえるならば、病院に入院していた人物が、無理やり外に出てきたかのような服装。
ふわふわとはためく、外出にはおおよそ不向きな黒い上下を赤色に濡らし、ただ静かに立っている人間は―――刃をまとっていた。
そこから、真新しい赤い液体が、水滴となって流れ落ちていた。落ちた水滴は、近くに「落ちていた」手にかかり、それを濡らす―――。
「――――――っっ!!!」
声にならない激昂とともに、青い髪の少年は駆け出す。
憤怒の形相を浮かべながら、いまだ手に持っていた木刀を、相手の胸に突き刺すような形で突き出しつつ、ただ駆けた。
が、木の剣はあっけなく防がれた。それも、左手の一つだけで。
「く……っ!」
デルタの目から、光るしずくがこぼれる。同時に、狂気に取りつかれたかのようなその顔が、悔しさにゆがむ。
「―――生体反応有」
無機質な、機械のような声で呟きつつ、目の前の人影はあえなく木刀を奪い取り、放り投げた。その勢いに押される形で、デルタが押し戻される。

「形状、人型と断定。……許可信号受信」
白と黒に塗り分けられた、陶器のような面の奥から発される機械的な声に、情けというものはなかった。
「―――駆逐開始」
「「――っ!」」
瞬間、デルタをかばう形でブレイドとヤイバが進み出た。互いに得物を引き抜き、自信を守る形で目の前に掲げる。
直後に、衝撃が二人を襲った。細身の刃から伝わった途方もない斬撃の重さに、二人は跳ね飛ばされてしまう。
そこへ、人影の斬撃が迸る。振りぬかれた刃は、しかしすんでのところでブレイドの剣にたたきつけられ、威力を相殺された。
半ば自動的に受け流したブレイドが、着地と同時にその口から言葉を放つ。それに習い、ヤイバも同じように言葉を紡ぐ。
「属性付与(ウェポン・エンチャント)〈炎(ファイア)〉!!」
「属性付与(ウェポン・エンチャント)〈風(ストーム)〉!!」
起句を唱えた二人の武器を、炎と風が取り巻いた。「魔法」の力で武装に魔力を付与し、一時的に威力を上昇させる「エンチャント」と
呼ばれる、初級の魔法を行使した二人が、再度人影へととびかかる
左からブレイドの、右からヤイバの武装が、色鮮やかなエフェクトを伴って殺到する。しかしぶつかる瞬間、その人型は
高く跳躍し、二人の攻撃を回避する。ガィン!とかち合った武器とそのエフェクトが衝突し、さらに属性の相性の影響でヤイバ側の
武装から、取り巻く風が消失してしまう。
「ちっ」と毒づくヤイバをよそに、ブレイドは人型を追って跳躍。同時に剣を振りかぶり、すれ違いざまに切ろうと試みる。
が、その一撃もむなしくはじかれてしまった。神速に等しき人型の剣戟が、重い衝撃を連れてブレイドの剣とかちあったのだ。
襲いくる衝撃がブレイドを地へと押し戻し、それに続いて人型も地面へと着地する。
「魔法弾生成(ジェネレート・マナバスター)〈氷(アイス)〉!」
その時、人型の足を氷の塊が貫いた。つづけて飛来する大量の氷塊が人型を襲い、そのたびに人型が剣で切り崩す。
人型が視線を向けた先には、デルタがいた。ぎりと歯噛みしているデルタの口が動き、その言葉を発する。
「魔法弾生成(ジェネレート・マナバスター)〈精(フラッシュ)〉!!」
瞬間、デルタの掌中に光が凝固する。凝縮された光は水滴に似た、淡く銀色に光る光弾へと姿を変え、デルタの手から撃ち出された。
ボゥッ!という射出音とともに、「精」属性のマナで生成された魔法弾が高速で飛来する。
しかし、人型はたやすく切り払って見せた。そのまま接近を許すデルタの口元が、不意に少しゆがむ。
直後、人型の肩口を赤いエフェクトが袈裟懸けに切り裂いた。残光の先に立つのは、得物を振りぬいた体制で静止するヤイバ。
「炎」属性のエンチャントで威力を増した渾身の一撃を、人型の肩口に全力でたたきつけていたのだ。
が―――不意に、ヤイバの体が揺らぐ。次いで、相手にダメージを与えた個所でもある右の肩口から、じわりと赤色がにじむ。
「……っ、しくじったか」
そのまま膝をつくヤイバに、人型は振り向き、向かう。間に割って入ったのは、ブレイドだった。
「―――炎剣波動」
危険を察知したらしい人型が、とっさに身を引く。が、すでにそれは遅すぎる行動だった。
「コロナ・ウェーブ!!!」
ブレイドの咆哮が具現化したかのごとき紅蓮の奔流が、人型を高熱とともに押し流す。衝撃の余波が離れたデルタのところまで届くのだから、
その威力は計り知れない。
「……これを、耐えるのか?」
が、ブレイドの目の前には、多少すすけた程度にしかダメージを負っていない人型がいた。
仮面の奥からのぞく血の色の双眸が、ブレイド、ひいてはその後ろで光景をみやるヤイバを射抜く。
しかし、その剣がふられることはなかった。その直前に突風が渦巻き、人型を吹き飛ばしたのだ。
瞬間に起こった出来事に硬直する二人に、声をかける者。
「二人とも、大丈夫?!」
「…………あぁ、大丈夫だ。すまないなデルタ」
「ボクの力じゃないさ。ね、ウィン?」
ブレイドのそばに駆け寄り、淡く微笑むデルタの肩には、発光する蝶のような生物が乗っていた。
この世界では一般的に、マナの具現化したものとされる生き物「スプライト」と呼称されている。デルタは彼らと心を通わせ、
その力を自由に使役することが可能なのだ。
先ほどの突風は、デルタの肩に乗っている新緑色の「風のスプライト(デルタはウィンと呼んでいる)」の力だろう。
そう踏んだブレイドは、しかしすぐに顔をしかめる。
「……話す暇も与えてくれないか」
「みたいだね。……戦いなんてしたくないけど―――あいつだけは許せない」
普段は穏便なデルタから人型に向けて、剣呑な視線が降り注ぐ。それを真に受けて、人型はひるむこともなく進んでくる。
「……魔法剣生成(ジェネレート・マナソード)〈精(フラッシュ)〉!」
デルタが魔法を唱えると同時に、彼の手に光の剣が生み出された。マナで形成された剣を帯びる「マナソード」という魔法だ。
ブレイドは剣を、デルタは光るマナソードを構え、襲撃に備える。
瞬間、人型は認識を改めたのか、疾風のごとき速度で飛び込んできた。その矛先は、ブレイドに向いている。
鋼鉄の刃と鋼鉄の刃がぶつかり合う、硬質な音が周囲に響き渡る。そこから強い力により発生した火花が飛び散り、
一瞬だけ周囲をオレンジ色に染める。
「せああああぁぁっ!!」
そこから、デルタが飛び込む。斜め上に切り上げる構えをとりつつ、人型へと一気に肉薄するが―――その腕を受け止められる。
マナソードは純粋な魔力でできた物質である故、持ち主の手を離れることもつかむこともままならない。
その弱点を突き、魔法剣自体の動きを止める策に打って出たのだ。歯噛みしつつ、人型の腕を蹴り飛ばしてどうにか拘束をほどく。
「おぉぉぉっ!!」
一瞬のスキを見逃さず、ブレイドが体重をかけた。じわりと押し返された人型は、足の位置を変えて押し戻す体制に変える。
そこを狙ったのはデルタではなく、動けないヤイバだった。
「だありゃああああっ!!」
咆哮一発、ヤイバの投げた両刃鎌が弧を描き、人型に肉薄する。その後ろからデルタの放った「雷」属性の魔法弾も飛来する。
察知した人型がブレイドを弾き飛ばし、その場から飛び退く。ヤイバの鎌が勢い余って地面に突き刺さり、デルタの魔法弾がそれにあたって
スパークする。
滑って着地したブレイドの横にデルタとヤイバが立ち、三人の眼前に人型が降り立つ。
さらに人型が追撃をかけてくる―――その寸前、ぴたりとその人型の動きが止まった。そこから、ガガガというかすれた音声が聞こえる。
≪―――作戦は終了だ。サイ、そこの生き残りは放置してかまわない。撤退しろ≫
という音声を、耳のいいデルタがかすかに聞きとった。
その音を皮切りに、人型―――サイがくると背を向ける。そのまま近くの家屋の屋根へと飛び乗り、そこから機敏に跳躍を繰り返し、
最後にはデルタたちの視界から消えてしまった。
「……なんだ、あいつ?えらく好戦的だったのに」
「今、無線か何かの音が聞こえた。……撤退しろ、作戦は終了したって聞こえたよ」
怪訝なヤイバに反し、デルタが警戒を解かないまま口を開く。
「…………つまり、俺たちは作戦の目的から除外された、ということか」
苦いものを含んだブレイドのつぶやきが、無人の町に溶けて消える。


  ***


「ダンナ、無事か!?」
数十分後、破壊の跡が生々しく残る街で、デルタたちは生存者を探していた。
数十人は見るも無残な姿に変わっていたが、瓦礫や残骸に潜んで、あるいは死体に紛れて血濡れになっていた生存者も、また多かった。
「は……あぁぁっ!」
ブレイドとヤイバが協力してがれきを持ち上げ、デルタの風のスプライトが突風を使って人を掬い出す。
「っととと……いやぁありがとう三人とも。君たちも無事だったのかい」
救出されたのは、町長邸に住んでいた町の長だった。町のリーダーが無事だったことに、三人はとりあえず安堵する。
「町長こそ、無事でよかった!……でも、町はこの状態です」
うつむき気味にデルタが告げるが、帰ってきたのは豪快な笑いだった。
「わはは、気にすることはない。犠牲こそ出てしまったが、こうして生きている命があるだけまだまだ捨てたものじゃないさ!
人さえいれば、町は何度でも造れる。それで充分じゃないか」
励ますための詭弁だということは、三人もうっすら感づいていた。その言葉にあやかり、それぞれの笑顔を作る。


そのまま動ける人間で救助活動を行い、最終的には住民の半数以上を救出できたのは、唯一の救いだったか。
小休止を挟んでいる間、町長が不意に口を開いた。
「君たちは、これから長旅に行く元気はあるかね?」
その問いかけに、三人には真意を測りかねた。長旅、というものが、アバウトな問いかけだった故にわからないのである。
三人の心の訴えを察したように、町長は再度言葉を紡ぐ。
「もし元気があるなら、中央都市に行ってこの事態を伝えてほしいんだ。町の再興に必要な人手を手配してくれるかもしれないからな」
町長の指す中央都市というのは、アレルタウンの存在する「オルフェスト島」の中央に位置する、島の中で最大の規模を誇る都市のことだ。
ほかの島々や大陸とを結ぶ港こそ遠いものの、島一の大都市としていつもにぎわっている場所だ。
つまるところ、町長が欲しているのは救援なのだ。それをいちはやく悟ったブレイドが、かくりとうなずく。
「わかりました。俺たちで人手を探してみます」
ブレイドに合わせ、デルタもヤイバもうなずく。それを見て、町長は安心したように目を細めた。
「うむ、頼んだよ」
町長の言葉を背に、三人は町を出発するべく、街道へと歩き始めた。


始まりの旅の行方は、ただ風のみぞ知る。


*********


どもどもー、ようやく更新できましたw
あいまあいまにちまちまと書いてたんですが、いざプロットを文章にしようとするとなかなか難しいものです。


次回からはデルタたちがカレストシティにむかい、そこでサブレギュラーが4人登場となります。
メインレギュラーはその次の次に一人増える予定ですw
ともあれ、あまり期待していただくのもアレなので期待はなさらぬようお願いします。
それではまた次回 ノシ